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ODEN戦う

果たしてこのノリでいいのかすっごい迷う。

アテのない草原を一人の男が歩いていた。


彼の名はODEN。そう、オデンだ。


彼の名の由来を辿れば、それはもう偉大なる存在であることを知ることが出来ようが、彼の産みの親(勝手に改造した人)は既にこの世にはいない。


つまり彼のことを知る人間は一人もいないのだ。


唯一彼のことを知るのはたった一人(?)の相棒だけだった。


そんな相棒である彼女(?)は現在彼に引かれている。


手を引いて歩く、そんなロマンチックなものではない。物理的に引かれていた。


何故ならそう、彼の相棒であるメル。彼女の今の姿は屋台そのものだったからだ。


「なあ、ひとつ聞いていいか?」

『私のことはメル、とお呼びください』


しかも屋台の癖に結構生意気であった。


(話しかけるのにいちいち名前を呼ばなきゃいけないのかよ……)


オデンは内心ツッコミながらも、相棒の名を呼ぶ。


「なあメル、ちょっと聞いていいか?」

『なんでしょうか、マスター♪』


しかも少し嬉しそうである。


「お前って確か乗り物……なんだよな?」

『はい、私はマスターの騎馬となるべく生まれた存在です。従って乗り物と呼ぶのは些か無粋かと考えますが、その認識に相違はありません』


どうやらメルは気分を害してしまったようだ。彼はまず女性の扱い方から学ぶべきだったと、後の彼女は語る。


「でも今って俺乗ってないよな?」

『乗ってませんね』

「お前乗り物だよな?」

『乗り物ですね』


しばしの沈黙が二人の間を支配する。


「いやいや乗れてないよね? というか乗れないよねこれ? っていうか引かないと動けなくね? なんか色々おかしいだろもおおおお!!」

『落ち着いてくださいマスター。そんなに私に乗りたいのですか? 私のようなか弱い女性に乗りたいと、跨がりたいと。そう仰るのですか?』

「その表現絶対おかしいからな!? つかなにやっぱお前女なの!? どこで性別判断すりゃいいんだよ!!」

『マスター』

「なんだよ!?」

『卑猥です』

「屋台に言われたかねえよおおおおおおお!!」


彼は荒ぶっていた。


無理もない。生まれてすぐに知らない場所に放り込まれ、更にはもう何時間も人の気配はない。何を目指すでもなく、ただ歩いているのだから、精神的に参ってしまったとしてもおかしくはないだろう。


そう、けして相棒がどうとかそういう問題ではないのである。


彼は叫ぶだけ叫んだにもかかわらず、まだ興奮が冷めないのか、肩で息をしていた。メルはそんな彼を見てそっと声をかける。


『マスター』

「なんだよ……まだ何かあるのか?」

『私に乗りたいからって、そんなに興奮しなくても』

「うるせえよちくしょおおおおおおおお!!」


賑やかな二人である。初対面にもかかわらず、既に息の合ったコンビネーションを展開する二人にはきっと互いの因子がああなってこうなっているに違いない。


--ガサッ


その時二人の耳に草を揺らす音が聞こえてきた。


辺りに風はない。とすると何か草を揺らす何かがある、あるいはいる。ということになるだろう。


オデンは耳を澄まして音がした場所を特定しようとする。彼の聴力は並の人間のそれではない。何キロも先の十円玉が落ちる音も聞き分けられるほどの聴力なのだ。


「……けて……」


微かに聞こえたのは人の声。更に集中して耳を済ます。


「誰……すけ……」


恐らく声の主は少女。声色には怯えが混ざっている。となると欠けた言葉も容易に推測出来るだろう。


--誰か助けて


「誰か襲われてるのか!? おいメル、遊んでる場合じゃない!! 行くぞ!!」


オデンは改造人間だ。距離ははっきり分からないが、彼のその脚力を持ってすれば即座に駆けつけることが出来るだろう。


彼は相棒に声をかけ、走りだそうとする。


『マスター、お待ちください』

「どうした!? なにかあったのか!?」


一刻を争う事態にもかかわらず、メルは待てと声をかけた。一体何があったのだろうか。


『動けません』


彼女は自分で動くことが出来なかった。何故なら屋台だから。


「アホかあああああ!!」


彼は叫びながら、それでも放ってはおけないと彼女を全力で引いた。


猛スピードで屋台を引いてしまっては客を取る気などないだろうと、見る人がいればそう評したであろう。


『マスター、気を付けてください』

「今度はなんだよ!?」


全速力で走りながら、彼は相棒の警告の意味を確認する。


『あまり揺らすとダシがこぼれます』

「知るかああああああああ!!」


一体彼は何と戦っているのだろうか。既に表情は憤怒にまみれている。


「誰か、誰か助けて!!」

「こんなところに人間の子供がいるとはなァ。食っちまってもいいんだが、コイツを人質にして食料を要求するってのもわるかねェ」


先程聞こえた少女の声は近い。それにやはり何者かに襲われているのか、他にも声が聞こえた。およそ人の声には聞こえない。粘りつくような嫌な声だ。


「待てコラァ!!」


到着するまでに少女が殺されてしまったは意味がない。オデンは大声で威嚇し、少しでも注意をこちらに向けることにした。


「ア? なんだァ? 他にも人間がいやがるのかァ?」


どうやらそれは成功したらしい。こちらを気にしている様子が伺えた。


そしてようやくオデンは現場に到着する。


そこで彼はとんでもないモノを目にした。


「トカゲの化け物……?」


彼が目にしたのは、この世界でリザードマンと呼ばれる、人の形をしたトカゲであった。手には鉈を持ち、身体には薄い鉄板が前後に張られた簡易鎧の様なものを身に纏っている。


彼が飛ばされたこのアネレカは、端的に言ってしまえば彼のいた地球とは異なる世界。惑星が違う、という意味ではなく、宇宙や惑星という概念すらも異なる、異世界である。


だから彼はすぐには認識出来ない。ここが異世界であると。


だけど彼はすぐに認識した。目の前の化け物は倒さなければいけないと。


彼の身体能力を持ってすればリザードマン程度は容易く駆逐出来るであろう。だが近くには少女がいる。巻き込むわけにはいかないと。


だから彼は相棒に尋ねた。


「メル、何か武器は」

『三段目の引き出しに入っています。それをあの化け物に思いっきり投げつけてやってください』


いちいち緊張感に欠けるやりとりである。彼はリザードマンから目を離さず、手だけで引き出しを探った。


『んっ……マスター、そこは四段目です……いやらしい……』


どうやら彼は一段下の引き出しを開けてしまったらしい。だが流石に場面が場面だけに、今度はツッコミを入れず、一段上の引き出しを開け、中にある武器を手に取った。


「これは……」

『それがマスターの武器です。さあ、思いっきり奴を串刺しに』

「ってそのまんま串じゃねえか!!」


彼の手に握られたのは、人の背丈ほどもあろうかという竹串だった。


『形は問題ではありません。マスターに必要な物は因子に刻まれた記憶を事象として呼び起こす概念です。さあ、イメージしてください。その手に持った串……プッ……串は何者をも貫く神槍。世の理をも、幻想をも貫く最強の武器』

「今絶対お前笑っただろ……」


とは言え最悪注意を逸らすくらいは出来るだろうと、ならばせめてイメージするくらいは安いもの。そう考えて彼は記憶を呼び起こす。


それは自分の知らない記憶。巨大な騎馬に跨がる騎士、そしてその手には巨大な槍。


そして彼は呼び起こす。自分の知らない、識っている記憶を。


「さっきから何をごちゃごちゃ言ってんだァ? こねえならこっちから行くぞぉ?」


粘りつくような不快な声も、既に彼の耳には届かない。


「……貫くは理、穿つは幻想。我が名において全てを刺し、貫き、穿ち、そして無に帰そう。食らうが良い。神槍--」


彼の手から串--槍が放たれる。


「gungnir」


神槍グングニール。それが彼に刻まれた因子が呼び起こす記憶にある、彼の愛槍。


それはなんの装飾もなく、なんの衝撃もなく、ただ目の前の全てを刺し貫き、無に帰す。だから--


既にリザードマンの影も形も、この世から消え去っていた。


あと天の声がうざいのは仕様です。気にしないでください。

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