第一話:最強の改造人間、誕生!!
フフフ……これはひどい作品になりそうだ……!!
--暗い部屋に一人の男が横たわっていた。
その傍らで笑みを浮かべる一人の老人。見る人が見れば、その笑みはとても不気味だったと評することだろう。
「フフフフ……あとはこの因子を加えれば……」
その老人は自らのことをドクター・ネロと名乗っていた。だが彼を知る者は、彼のことを「ドクター・ミロ」と呼んだ。
それもそのはず、老人は暴君の名を冠するネロという名前を気に入り、自分で作った名刺に英語でドクター・ネロと書いたつもりだったが、実際に書かれていた文字は『Dr.MIRO』
そう、老人はローマ字の『M』と『N』、『E』と『I』をいつも間違えていたのだ。
当人はそのことを知らない。何故ならせっかく作った名刺も、ほとんど渡す相手もおらず、何かの機会に渡したとしても、特に連絡が来るわけでもなかったからだ。
彼はただ、この研究室で研修を続けていた。だから誰も教えてくれなかった。
「出来た……ついに出来たぞ……!!」
ドクター・ネロは自分がそう呼ばれていることも知らず、歓喜の声を挙げる。
彼の目の前には横たわる一人の男。恐らく年齢は二十代後半から三十代くらいだろう。彼は事故で死にかけていたところをドクター・ネロに拾われ、現在この研究室で治療という名目の改造手術を受けていた。
そしてついに悲願の改造手術は成功。あとは彼に新たな名前を付け、世に送り出すのを待つばかりである。
『ソレデハナマエヲニュウリョクシテクダサイ』
モニターに文字が映し出される。彼が一生をかけて作り出した、改造人間製造マシーンのメインユニットだ。
ドクター・ネロはしばし考え、そして誰ともなく呟く。
「そうだな……やはりここは注入した因子に倣うべきだろう」
そう言って新たに生まれた改造人間の名前を入力する。
『ニュウリョクヲカクニンシマシタ』
そしてモニターに彼の名前が映し出される。彼の新たな名前ーー
『ODEN』
ドクター・ネロは頑張った。何故なら一文字は間違えなかったのだから。
「おお、そうだ。せっかくだからこやつに乗り物を与えなければな。これも彼の神話に倣うとしよう」
『ナマエヲニュウリョクシテクダサイ』
またしてもモニターに表示される文字。最強の改造人間に、最速の乗り物。形態も変化出来るという、正に一世一代の発明だった。
ドクター・ネロは最強の改造人間に相応しいだけの名前を入力する。
『ニュウリョクヲカクニンシマシタ』
そしてまた、モニターに名前が表示される。
『Sleipmer』
またしても彼は頑張った。何故なら一文字は間違えなかったのだから。
「フフフフフ……これで世界は私の物。さあ我が子よ、目を覚ませ。そして早速世界征服のために彼の国を支配してくるのだ」
呼び掛けに応え、横たわっていた男が目を覚ます。どうやら先程の独り言は全て聞こえていたようだ。彼は自分の名を確認するため、モニターに目をやった。
『ODEN』
そして表示された文字を見て愕然とする。
「ちょっ……これ」
「目覚めたか。ならこれを受けとるがいい」
ドクター・ネロは男の言葉を遮り、時計のような物を投げて渡した。
「これなんだ? じゃなくて名前……」
「それは貴様の相棒を呼ぶための装置だ。貴様がどこにいてもそのボタンを押すだけで、最強の相棒が駆けつけるだろう」
男の言葉を無視して、ドクター・ネロは話続ける。
「さあ、行くがいい我が子よ。既に転送装置は作動してある。貴様の脳にも能力の使い方はインプットしておいた。既に貴様は最強の存在だ」
『テンソウソウチカウントダウン。5、4、3、2』
「だからちょっと待てってえええええ!! 名前えええええ!!」
『1、0。テンソウシマス』
モニターは無情にもカウントゼロを宣言する。せめて目的地がどこか確認しようと、男はモニターを凝視した。
『ANERECA』
誰がドクター・ネロのことを責められるだろうか。彼は今まで以上にないほど頑張った。何故なら今度は二文字も間違えなかったのだから。
「アネレカってどこだよおおおおおお!!」
男の絶叫を無視し、転送装置が作動する。
--そして再び研究室に静寂が訪れた。
「これで……私の人生に悔いはない……」
ドクター・ネロはその場に崩れ落ちる。
--後日、彼の遺体を発見した警察官はこう言った。孤独死とは思えない。とても安らかな死に顔だった。と。
前回までは王道、今回からはちょっとギャグ要素多めでやっていきたいと思います。少なくとも最初の内は……




