プロローグ:親父の日常
前作がまだ完結していないので、とりあえず序章のみ公開。
面白くなればいいなぁ。しないとなぁ。
--とある町の一角にて。
「なあ、最近妙に魔物が多いとおもわねえか?」
「全くだ。まあ俺達にとっちゃ稼ぎ時だけどよ。こうも毎日依頼が舞い込んで来るのも珍しいな。っと親父、もう一杯」
二人の男が酒を飲みながら愚痴をこぼす。
「ほー、最近そんなに多いんかね」
「なんだ親父、この辺に住んでるんじゃねえのか?」
親父、と呼ばれた男が質問を質問で返される。
「ああいや、この町に住んじゃいるが、来たのは最近なもんでね」
「そうか、まあギルドの依頼でも魔物の討伐はワリがいいからな。なんだかんだで冒険者が依頼を受けて数は減らしちゃいるが、下手すりゃ追いついてないんじゃないか」
決してこの町は小さくはない。ギルドの規模も大中小でランク分けすれば中から大の規模だ。
にもかかわらず、依頼の消化が追いついていないというのは、それだけ今の状況が異常ということなのだろう。
「稼ぎ時ってからにはアンタ等も冒険者なんだろう?」
「ああそうさ、依頼が増えたおかげでこうやって酒も飲んでられるってわけだが、流石に毎日毎日魔物と戦い続けるのはな……それこそ酒でも飲まなきゃやってらんねえ」
依頼が増えて酒が飲めて嬉しいのか、それとも嬉しくないのかどっちなんだと親父が苦笑する。
「まー酒ばっかじゃなんだし、なんかつまんだらどうだい? ほら、目の前に色々あるだろう? 指さして数言ってくれりゃ盛ってやるから」
「ん? これ食い物だったのか」
初めて見たという風に、二人の冒険者が覗き込む。
「ああ、おでんっていうんだがな。こっちは玉子、見りゃ分かるか。これは大根、出汁が染みて美味いぞ。んで兄さんの前にあるのがじゃが芋だ。他にもあるが、とりあえず最初はこの辺がオススメかな。値段はどれも百リアだ」
「お、じゃあそれひとつずつくれ」
「俺も貰おうか」
親父は箸で器用に玉子、大根、じゃが芋を取り、最後におたまで出汁をかける。
「あいよ、熱いから気をつけてな」
「おう、いい匂いだな」
二人は親父の忠告を無視して大根にかぶりつく。
「あっつ!!」
「だから言っただろーが、熱いから気をつけろって」
親父はまた苦笑する。
「でもこれうめえな。親父、これなんて料理なんだ?」
「ん? あー、これおでんって名前だよ。誰が名前つけたのかは知らんけどな」
二人が舌鼓を打ちながらおでんを食べていた時だった。
--カンカンカンッ!!
町中に鐘の音が鳴り響く。魔物が町の近くに確認された合図だ。
「おやまたか。最近多いなー」
「やっぱり最近は何かおかしいな。おい、ちょっとギルドに行ってみようぜ」
「ったく、ゆっくりしてる暇もありゃしねえ」
誰に強制されたわけでもないだろうに、二人の冒険者は席を立つ。こういう人材がいてこそ、町の平和も守られているんだろう。
「ごちそうさん。またこの辺で店出すのか?」
「んー、しばらくは多分この辺をうろうろしてるだろうな。良かったらまた来てくれ。あ、今日の代金は一人五百リアでいい」
「本当か?」
食べて飲んで五百リアは安い。男が驚くのも無理はない。
「なに、今から行くんだろう? 町の平和を守ってもらってるお礼だとでも思ってくれ」
「そうか、ならちょっくら頑張って来るか。親父、今度は違うのも食わせてもらうぜ」
「あいよ、ご贔屓に」
二人合わせて千リア--リアラ紙幣を親父に手渡し、冒険者は走っていく。
「酒も入ってんだから無理すんなよー」
「おう! 親父もとっとと帰ってろよ!!」
走っていく冒険者を見送り、親父は店じまいとばかりに火を落とす。
「あーゆー冒険者がいるから平和は成り立つ、ねえ。世の中何が正しいのか分からんね」
片付けをしつつ、親父は独りごちる。
「さってそろそろ行くか。相棒」
親父は屋台に声をかける。心なしか屋台が光ったようにも見えた。
--そしてその翌日。
「おう! 今日もやってんな親父!!」
「お、早速来てくれたのか。昨日は大丈夫だったかね」
二人の冒険者が今日もやってきた。
「いやそれがよ、かなりの大群だったようなんだが、俺達が町の近くで戦ってる間に、誰かが大群を蹴散らしちまったみたいなんだよ」
「ほー、そりゃ凄いな」
酒を注ぎながら、親父は冒険者から話を聞く。
「にしてもおかしいんだよな。なんか変な格好した奴が、これまた変な乗り物に乗ってたって言う奴もいるし。俺も何があったかサッパリだ」
「……変って言わんでも」
「あん? どうした親父?」
ポツリとこぼした言葉に反応され、親父は少し戸惑う。
「ああいやなんでもない。それより今日は何を食うかね。時間があったからスジ肉も仕込んどいたし、はんぺんも染みてるだろうから美味いぞ。値段はどれも百リアだ。だけど今日は負けないからそのつもりでな」
「お、じゃあその二つ貰おうか。なに、ただでさえ安いし、何よりうめえ。金の心配なんざいらんぞ」
「ほー、随分景気がいいじゃないか。毎度あり!」
--こうして冒険者達を相手に、屋台の親父の一日は過ぎていく。
活動はまだまだ続けていきますので、他作品含めてよろしくおなしゃす!!