チョコフォンデュダイバー
メインストーリーです。時系列は見ての通り1話の直後です。
なお、作者もドイツ語はできません。
作者もドイツ語はできませんからね?(大切なことなのでry)
今、この子、英語じゃなかったよな?
"Kann ich habe dieser Kuchen?"だったか。ケーキ食べていいの、っていうところだろうか。
さあ、今回の出張で一番大切なのはこの瞬間だ。もはや国益を左右すると言っていい。
しかし天使に人間の言葉は通じない。否、日本語は通じない。英語も通じない。
というかいい加減このテンションなんとかしろ。
あまりの可愛さに見てるだけで手がわなわなするのを抑えるだけで精一杯とかしゃれにならん。
"Oh, Ja. Natuerlich. Mann kann essen der alles."
絶対に単語も文法もむちゃくちゃなまま発せられた一言に、突然天使の周りが光に包まれる。
神に感謝するように両手を組んだその子は、輝かんばかりの笑顔を浮かべた。
"Sie koennen mit die Nabel auf den Tisch das Kuechen haben."
"Fielen Dank! Es fleut mich!"
はっきり言って、本当に何を言っていたかは聞き取れていなかった。
そして僕のドイツ語は冠詞も文法も絶対ちゃんと言えてなかった。
でもそんなことは構わない。
その子は蕩けそうなくらい口元を緩めて、夢見心地でケーキへと向かっていった。
ケーキ一つ一つの前で一瞬だけ不自然に固い角度でケーキを見つめて固まり、ケーキ達をお盆から解き放つ。
そして一つの皿をケーキで飾り立てると、チョコフォンデュ装置を通り過ぎようとして、ロボティックにピタっと立ち止まった。
首を90度回転させ、その呪われたカロリーの湧き出る泉を凝視している。
いや、凝視していないな。目の焦点が合っていないから。
もしかすると、この子は網膜投影型ビルトインモニターを装備しているのかもしれないとふと思った。
それなら不自然な角度や焦点の合わない目は納得いく。
一見しても各種電子端末を付けているようには見えないが、若干ゆったりした服の裾なりにでも仕込んでいると考えれば、
不可能な話ではない。
しかし魂の抜けた天使というのも怪しい魅力がある。僕の方こそうっかり凝視してしまいそうだ。
気づいたら完全に視線を奪われている。
そう思った矢先ついにチョコフォンデュマニュアルを読破したのであろう、その手が動き出す。
チョコフォンデュの隣のお菓子タワーに乗っているバナナと苺を狙って手を伸ばす。
伸ばすけど届かない。
届かないので背伸びする。
背伸びするけど届かない。
残り少ないバナナと苺…これは相当に困難なミッションのようだ。
何度かフォークにかするものの、最終的には完全に射程外に行ってしまい、でも諦めがつかずリトライしてる。
"A, n. Ah, n! N-."
あれ。なんか声がセクシーだな。困る困る。ちょっと助けてあげないと。こっちも落ち着かなくなっちゃう。
仕方がないので僕も一枚皿をとって、一通り果物を取る。
そしてすっごく恨めしそうな目でこっちを見られる。
勿論、それを確認してから、皿を差し出す。
目がおもいっきりキラキラして満面の笑顔で受け取ってくれる。
よかった。本当に良かった。
放っておいたらチョコフォンデュタワーごとフルーツをなぎ倒す大惨事になっていたかもしれない。
僕は天使の笑顔を守ることに成功したのだ。
改めて見てみると、皿が3枚ある。
しかし天使の手は二つしかない。
こうなってしまうと、紳士の行動は一つだ。
天使がチョコのデコレーションを行ったフルーツやドーナツやクッキーの皿を一つ持ち、席まで手伝う事にする。
お茶&ケーキスペースの隅にあるソファーとテーブルまで連れ立って行き、
テーブルに全ての皿が着地する。
間髪入れず菓子の山に突撃をかける天使。
凄い、お菓子が解けていく。あの細身のどこに収納スペースがあったんだ。
女の子がおいしそうにケーキ食べてるのは和むな。
今回の様にちっちゃい子供じゃなくても幸せそうに食べてる笑顔って素晴らしい。
まあ、ついにミッションコンプリートだ。
あとはお茶くらい取ってくるかな。せっかくだし。
そう思って視線を反らした時だった。
「ありかどう!」
へ?
今なんて言った?
"Nicht richitige Japanisch? Kommst du aus Japan nicht? Ich muss danke sagen."
凄いな。この短時間で。最初の数分、明らかに面識がないっぽい動きだったから、
皿を運んでいる間に僕の正体を突き止めたことになる。大したもんだ。
"「ありがとう」 ist richtig. Mann muss die Freulein hilfen. Ich danke Ihr also. Ich habe gut gemacht."
"So, then we can speak Engilsh. I owe to you this choco coated fruits."
えー。英語も流暢じゃないですかー。
最初から英語でもよかったのにー。
そう思って無駄にかいた恥を思い返して放心した隙に、竹串っぽいのに刺さったチョココーティング済みの何かを口に突っ込まれる。
甘い。物凄く甘い。
そして座高の高い僕の口に届かせるため膝の上で暇そうにしていた僕の手に乗せられた手が超やわらかい。
これは、最高の海外出張として僕の自分史に残るだろう。
そしてついでに、僕のシャツの上に盛大にぶちまけれられたチョコレートも、シャツにとっては拭えぬ過去になるに違いない。
桃色怠惰的な成分が足りないので、一気に補給しようと思ったのです。
チョコフォンデュは甘党少年少女の夢なんです。
現実には色々悩ましい存在で、味もイマイチですが、一度は試してみたくなるのが少年少女なのです。
この後天使ちゃんと仲良くなったり、天使ちゃんの保護者と仲良くなったりっていう下りがあると思われますが、そっち方向に時系列通り続くかどうかは不明です。
あれれ?神が紙に。放心が方針に、酷い誤字だったのですぐ訂正。