表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/22

乾いた金属音を奏でる鉄器


前話から全く続きません。大変恐縮です。こういう進行でやらせていただきます。

銃や剣を手に取った興奮は人類共通なのか。復讐者の得る怒りの刃は本当に狂気に振り回されるしかないのか。しかし、手に取るものなく地を掴むより、仮想の

武器を手に自らを奮い立たせるのは、この無害社会で戦う自分をキープするためのささやかな儀式である限り、尊重されても良いのではないか。自分の弱さを打つために、自分の未来へ飛び込むために。

※誤字脱字レベルの修正を行いました。11/29

相変わらずの日本社会は嫌になる行き詰まりで、酷く極端な監視社会だ。

職場では学校教育から受け継がれた丸見えデスクレイアウト。

朝昼ぶっ通しで実験をやり切っても、次の日の昼にちょっとうとうとしただけで勤務態度を委員長タイプOLさんにどやされる。おっさにんにもどやされる。奥さんにも名主さんにもお奉行様にも将軍様にも、天狗にもどやされる。ん。それは落語か。最近落語行ってないな。

そんなことを思いながら相棒のワルサーP99に弾込めを行う。

この手に吸い付くようにフィットする素敵なハンドガンは、なぜか大手に量産されず、あまり出回っていない。

手元のこのモデルにしたって、かなりのギャグウェポンだ。


5年前、最初に手に取った瞬間は感激した。とにかく手になじむ。スライドの斜めにカットされている部分がたまらない。コッキングした瞬間の金属音は間違いなく少年心に火をつけて、くたびれたエンジニアだったはずの僕をスーツで理想と闘志を抱くみたいなエージェントに仕立てあげてしまう。当時就職3年目のやる気ダウンに片足をかけていたはずなのに、社会人になってよかったと久しぶりに心臓が早鐘を打った。肩から頭にかけて戦闘電撃がコネクションした。うひゃあっほう俺テンションやべぇ。コッキングした時に浮き出てくるヘッドの赤いところとか超イカスぜあひゃひゃひゃは。

部屋を閉め切って挙動を確認するだけでも仕事のうっぷんが晴らされていく。勿論、ゴーグルをつけるのは忘れない。自宅で跳弾失明なんかしたら目も当てられないから。


次にフィールドでお披露目した。

いや、それ以前に打ちたかったんだけど近すぎて練習にもならない。狭いよ東京。レンジはストレートで20mはないと楽しめない。

少なくとも、その頃はそう思っていた。それでフィールドに突撃した。


フィールドの試射スペース(シューティングレンジ)で軽く試射すると、電動ガンには全く比べるべくもないけど軽快な動きとリコイルショックの虜になった。

そして午前の3ゲーム目。そのころレミントンM300もどきをメインウェポンにしていた自分の中で流行っていた、もとい人類の最も堅実な入門動作の一つであるお芋さんスナイパースタイルを訓練していた僕は、最後の一人になってしまいながらも二人を狙撃で沈めたものの、二人目を倒した隙に接近しつつあった三人目が20m圏内に入り込もうとしていた。刹那の思考を加速させ、バリケードの裏でライフルをリロードする選択肢を拒否した瞬間、当時まだぬのぬのしたかんじだった米軍式マルチカムなホルスターからP99を引き抜いた。

20mさんは反射的に、手近な身一つ隠せるかどうかのドカン状の障害物に身を隠す。お芋さんからスナイルから解き放たれた足は自分を縛り付けていた繁みからはじき出し、相手が身を隠したのと反対側の角に疾走させる。頭は腰の高さまで下げた状態で走り込むことで遠距離からの発見と射撃を少しでも抑制しつつ、スナイパーが潜っていると思い込んで接近者にまだ気づかないでいるままに、数メーターの距離まで肉薄して片手撃ちで彼を終わらせた。P99の優しい貫通力は、打ち取られた彼をもって安らかに休息所へと帰還せしめた。



そして次の獲物を探しに愚かにも頭をあげようとしたとき、頭を上げるまでもなく自らを包囲する戦士たちの銃口が僕を包囲しきっていたことは言うまでもないだろう。せっかく頭下げて走ったのにね。P99を打った気持ちよさでのぼせていたんだな。おばかさんめ


しかし、P99の与えた最高の衝撃はその中二的ささやかな武勇伝ではない。

事は昼休みのあとの少数有志によるハンドガンオンリー戦で起きた。

サイレンサーを装備したP99でまさにエージェントな立ち回りで背中を取り、1連射叩き込んだとき、それは起きた。

必中距離で叩き込んだにも拘らず目の前のソルジャーがヒットしない。マッドシティーより東では出るという妖怪変化の類かと一瞬頭を過るが、明らかに顔見知りの相手が、フェイスガードのやや向こうで途方に暮れた顔で打ち返して来て

刈り取られる側になってしまった。


むろんそこからは検証タイムが始まる。私ももう素人のエアガン大好き小僧ではないのだ。箱から出した次の日になにかしらトラブルが起きることは想定の範囲内だ。

シューティングレンジにもどり、検証を始める。

相変わらずP99の射撃音は気持ちい。この金属音がたまらない。サイレンサーのもこっとしたところにガギンと続く音がそこに続くのが更にそそる。

そう、もこっとした後にガギン。ガギン!?

もう2度3度と目を凝らして射撃すると、恐ろしい事象を検出した。なんと空中でBB弾が弾けている。

空中で。BB弾が。

そして慎重にサイレンサーを検分すると、口に粉上のBB弾の破砕痕が刻まれているではないか…。


結局、P99はサイレンサーを付けず運用することになった。

チームにカイデックス職人も、配線職人も、発射機構の修理士も居たが、パーツ自体の加工を行う者はいなかったのだ。


こうしてP99は僕のポケットを定位置として落ち着くことになる。射撃精度はそれほどでもない。飛距離はお世辞にも褒められたものではない。けれど、この存在感は、迫る相手を前に戸惑う僕にわずかな闘志をいつも留めてくれているのだ。

感謝や愛は、人以外に向けても良いと信じています。しかし、それは自分の世界をキープすることで、周囲に迷惑をかけないためであり、引いては社会を上手く回すためなのです。そして、少しでも物への愛や感謝が人への愛や感謝を上回ると重大な脅威として認識されてしまう。よって、心に留め置かなくてはいけない。人への感謝や愛が前面にあって、それを支える要素の一つとして位置付けないと続けられないわけです。

それにしても、桃色が全然ありませんね。P99を手に取った瞬間は世界がキラキラするはずですが、よく考えたら桃色じゃありませんでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ