10人の王子様
アンジール王国の大広間に、集められた王子様達は、表面上は平静を取り繕っていたが、心の中では、様々な思いが交錯していた。
グランド王国、次男、ブザービート王子
”けっ、なんだよ。だり~な~。花婿選びとかふざけたこと抜かしやがって、無理やり、こんなところに来る羽目になって、やってらんないぜ!だけど、めったにお目にかかれないくらいのいい女がいるらしいからな、まあ、我慢するか。”
グランド王国、三男、キックオフ王子
”やっぱ、この中で一番かっこいいのは、誰がどう見たって、俺じゃん? もう、勝負あったもんだね。さて、四人のお姫様の中で、俺に気に入られる幸運なお姫様は誰かな?”
グランド王国、四男、ホームラン王子
”花嫁選びに際して、この国で、一年間、それぞれ、希望する事をしながら、過ごしていいと、言うことだったな。アンジール王国の野球は強いから、アンジール王国のプロ野球チームの見学がしたいな。毎日、素振りも1000回するぞ~! よ~し、根性、根性、ど根性!”
ノーベル王国、次男、メディカル王子
”4人の女性と10人の男性か。しかも、一年間。この変則的なお見合いは、果たして、人間にとって、生物学的にどのような影響があるだろうか?
う~ん、興味深い! 人間の苦悩する姿は美しい!”
ノーベル王国、三男、ルール王子
”どいつもこいつも腑抜けばかりそろいやがって。ここでは俺が法律だ!
ふっ、ふっ、ふっ! いたぶりがいがありそうだぜw”
ノーベル王国、四男、ウラン王子
”自由に好きな事していいなんて、アンジール王国はこの僕になんて危険な発言をしたんでしょうね。色々な科学実験をして、皆さんをびびらせてやりますよ。楽しみです”
ミニ王国、次男、エル王子
”晴れた空、白い雲、こんな気持ちのいい日には、一曲歌いたくなるな。デュ、デュ、デュ、デュ~ン♪”
ファット王国、次男、サレ王子
”案じるな、アンジール王国! なんちゃって、つまらね~。よ~し、何か面白いこと探して、みんなを腹が痛くなるほど笑かしてやるぜ!”
ピカ王国、次男、ムー王子
”この国は高層ビルが林立している割には緑も適度に残されていて、芸術的に私の油絵創作に対する意欲が掻き立てられますね~。いや~、ワンダホウ!
しかし、あと1人まだ見えていない王子がおられるようようだが、どうされたかな?”
そこへ最後の1人、マスタードシード王国の四男ドンキ王子がやってきた。
「ごめんなさい。遅れました。皆さん、もうおそろいのようですね」
その姿に王子達全員が心の中でこう叫んだ。
”カ~~ワ~~ユ~~イ~~!!!!”
グランド王国、ブザービート王子
”うっわっ、なにこいつ? 本当に男かよ? ふざけんなっ!やべえよ!”
グランド王国、キックオフ王子
”確かに、かわいさではこいつに完全に負けたな。
でも俺は、かっこよさでは、負けてねえぜ!”
グランド王国、ホームラン王子
”こんなかわいい男の子初めて見たな”
ノーベル王国、メディカル王子
”このような美しくも愛らしい人間がはたして本当に男性なのか?
生物学的に非常に興味深い”
ノーベル王国、ルール王子
”これは……こんなにかわいい男性がいるなんて!
ある意味これは法律違反だ!”
ノーベル王国、ウラン王子
”おお~っと! 何か彼はやってくれそうな予感が……
何かの化学反応を起こしそうですよ”
ミニ王国、エル王子
”彼の愛らしい顔を見ていると、新しい曲が一曲浮かんできそうだ!”
ファット王国、サレ王子
”面白そうなやつだな。気に入った!”
ピカ王国、ムー王子
”彼をモデルに絵を描いたら、芸術的に歴史に残る名作が描けるかもしれない……創作意欲が湧いてきた~!”
王子達の興味は一気にドンキ王子に向かった。
グランド王国、ブザービート王子がドンキ王子に質問した。
「ちょっと、そこの君。その格好いったいどうしたんだよ?
なんで王子用の上着じゃなくて、平民のしかも女物の上着なんか着てるんだ?」
「ええっと、これはここへ来る途中にお金が無くてひもじくて困っている方々がいたので、宝石がついている僕の上着を差し上げたんです。その時、代わりにこの上着を頂きました」とドンキ王子。
「かわってるね~、君」とグランド王国、キックオフ王子。
「君、悪い奴らにだまされたんじゃないのかい?」とグランド王国、ホームラン王子。
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ。本当に困っている人たちだったんだ。困っているところをこの目で確かに見たからね」とドンキ王子。
ノーベル王国、メディカル王子がドンキ王子に次に質問をした。
「あと、その君の乗っている動物はもしかして子ロバかい?」
「そうだよ。かわいいだろ。この子の名前は ’ドンドン’ っていうんだ」
とドンキ王子。
「ぶっ! ’ドンドン’ ってなんだよ。その名前、確かにかわいいな……」
とノーベル王国、ルール王子が何故か照れ笑いして言う。
「やっぱり、君は何かやってくれそうな人物ですね」
とノーベル王国、ウラン王子。
「そうかなぁ。よくわからないけど、ありがとう」
とドンキ王子もつられて、少し照れ笑いした。
次にミニ王国、エル王子が、ドンキ王子に挨拶した。
「はじめまして。君の顔を見たときに、新曲が浮かんだんだ。
今度、聞いてくれる?」
「えっ? 新曲? すごいですね!
はい、喜んで、今度、聴かせていただきたいです」とドンキ王子。
次にファット王国、サレ王子が、ドンキ王子に挨拶した。
「君みたいに面白そうな王子様には、初めて会ったよ」
「ありがとう。僕、面白そうなんて初めて言われたよ。嬉しいな」
とドンキ王子。
最後にピカ王国、ムー王子が、ドンキ王子に挨拶した。
「是非、僕の油絵のモデルになって頂きたい。
いきなりこんなお願いして、無理だろうか?」
「僕が? モデル? いいですけど、やったことないのでちゃんとできるかわかりませんが、僕なんかでよければいいですよ」とドンキ王子。
「ありがとう! きっと、歴史に残る名作が描ける気がするよ!
題名は ’天使現る’ ってカンジかな!」とムー王子は上機嫌だ。
ドンキ王子の登場で、王子達はすっかりリラックスして、少し打ち解けたムードになったのだった。
当のドンキ王子は、母国には絶対にいないタイプのこの9人の王子様達と、一年間も一緒に過ごすことができるか不安になっていた。正直な所、
”みんなキャラが濃すぎるよ。少し疲れた……なぜかみんな僕の事を気に入ってくれたようだけど……”
と思っていた。
その時、主イエス・キリストから渡されたメガネをはめていたドンキの目の前に、大きく文字が浮かんで現れた。
『明日のことを心配するのはやめなさい。神は明日の事も心にかけてくださるのですから、一日一日を力いっぱい生き抜きなさい』
”そうでした! 主よ、感謝します。明日どころか、一年先まで心配していました。その日その日、一日一日を主に頼って歩んでまいりたいと思います。ここにおられる王子様達も親切にしてくださっているのに、不安や疲れを感じたりして。不信仰でした……”
とドンキ王子は人知れず悔い改めの涙を流したのだった。
それと、主の下さったメガネはこんな事も起きるのかと、驚いたドンキ王子だった。
※本文中の『』内の言葉は、下記の聖書箇所から引用しています。
リビングバイブルのマタイによる福音書6章34節