ヒッキー魔王
その日、世界中の人々が恐れ慄き驚いた。
闇夜に浮かぶ二つの満月、天空に輝く太陽に映る得体の知れない人物からの宣言。
それは魔王による全世界へ向けた世界同時演説であった。
「初めまして諸君。我は魔界を統べる王、魔王である」
その一言を月に幻影をかけて喋る存在が発した。一体どれほどの魔力をもってしてどの様な魔法を使えば成し遂げられるのか、魔法に詳しい者ならばそれだけで恐怖するに値する。この世界では太陽や月と言えば神の齎した物であり、少なくとも太陽においては世界中のどの宗教でも主神格として崇められていたりするのだ、それが魔王を称する者によって遮られているように見えるのだから宗教関係者や信心深い者程恐怖した。
そして更に異変は続いた。
「知っての通り、魔族と呼ばれる我らと人族の間には長きに渡っての戦争が続いている。その終結を今ここに宣言する。と言っても一方的に我々は北の領土に暮らし其処を不可侵領土とするだけであるのだが、その前に一つ贈り物をしよう。これだ」
魔王の言葉と共に都市の外、平原、森、砂漠、山岳などあらゆる場所に魔法陣が展開され、そこから細長い尖塔が現れて地面へと突き刺さっていく。そして地面に固定されると同時に世界から魔物が一斉に消えた。見世物として捕まえられていた魔族や魔物全てがその瞬間に都市からも消え失せてしまったのである。
「その魔術塔によって地上にいる全ての魔物は迷宮に囚われる事となった。奴隷とされていた同胞についてはこちらに引き取った。そして我が国と諸君らの国を隔てる為に長城を築かせてもらった。では永遠にさらばだ諸君」
こうして魔王を名乗る人物からの一方的な宣言は終えられた。その存在への畏怖と疑念と怒り、そして世界中の魔物をダンジョンに閉じ込めた偉業への驚きと共に。
ふう……き、緊張したぁ!
どうも、魔王に転生した日本人です。俺にしてはよく頑張ったと思うんだ、大体魔王になったから戦争とか若しくは仲良くとかどこぞのラノベでもあるまいし無理だっつーの。
「お疲れさまですアナタ」
秘書のようなスーツ姿の悪魔、淫魔族のレスレリア・ルルルル・ノルア、長いのでレリアと呼んでいる美女が称賛の眼差しで見つめてくれている。最初は一族の長として俺と戦闘すらしたというのに変われば変わるものだと思う。まあ今は奥さんの一人なのだが。
「もう、引き篭もってもいいよね? 少なくとも100年分は働いたと思うんだがどうだろう?」
「無理です」
「無理じゃな」
「無理にきまってありんす」
「無理で御座いましょう」
レリアの発言に当然の如く重ねてくるのは他の嫁であり魔族の主要な種族の長達である。
二人目が吸血鬼の長であるカミラ・エルジェリ・ノスフェラトゥ。大きな声では言えないが真祖である。
三人目は妖狐族の長でクズノハ、妖艶なお姉さんである。九尾の狐でありモフモフ要員としても優秀だ。
四人目は鬼人族の長であるクリスティナ・ソーディア、ハイオーガなのだが武者修行にでた先で武士道に目覚めた武士娘である。
まあお分かりかと思うが他にも各種族から嫁を寄越そうとしたわけだが、この強力な嫁さん達が全て阻んでくれている。ええ、正直に言いましょ言う4人でももう精魂尽き果てる――絶倫スキルがあるんだが――ので助かってます。
まあ夫である俺を立ててはくれるが口から放たれる意見は厳しく現実を突き付けている。