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死にかけネクロマンス  作者: 絹のタオル
第ーーー章
7/12

種族のお勉強

「ねえ、なんで獣の耳がついてないの?」


 目の前の象耳少女は円らな瞳に興味の色を浮かべてそう尋ねてくる。

 その瞳に耳が付いていないことへ対する軽蔑の色は感じられない、と思った僕はその質問に素直に答えることにした。


「お父さんとお母さんが獣人でもその子供が獣人じゃないことや、親が他の人族でもその子供に獣の耳やしっぽがついてることはたまにあることらしいですよ。」


 そう、僕の耳はケモ耳ではないどころか、しっぽすら持っていなかったが、この世界ではこのことが血縁がない証明にはならないようだった。


 この世界には獣人族だけでなく、長い耳をもったエルフ族、青い肌を持った魔族と呼ばれる種族や、竜の鱗をもった竜人族など様々な人族がいる。

 また、とくに変化のない一般的な人はそれらの種族の派生元ということで元人族と呼ばれている。


 さて、物語だと多種族が登場する場合、それぞれの種族で固まったコミュニティを築き、その種族間での対立が起きていたりすることが多いと思う。

 僕は前世で体型が人より横に大きかっただけでいじられた経験があるので、体型よりも大きな差があればそれぞれの種族の間で諍いが起きてしまうのは当然のことだと思うし、種族間で固まっていくのは仕方のないことだと思いながら、そうした物語を読んだ記憶がある。


 ところが、この世界ではそうした種族間の差別が起きることがあっても、その種族だけで作られた村や町といった共同体はほとんどないらしい。

 その理由の一つが、どの種族からでも他の種族の子供が生まれるというものだ。

 一般的に子供は両親のどちらかの種族として生まれてくるのだが、そのどちらでもない種族が生まれてくることがあるらしい。

 僕の場合は獣人の両親から元人族が生まれたわけだが、中にはドワーフの両親にエルフの子供が生まれたという例もあるようだ。

 この現象がごくまれに起こるものなら、さっき言ったようなファンタジーに出てくるドワーフの村とかがありそうなものだが、これがしばしば起こる現象であるためにたとえ作ったとしてもそのうちほかの種族が混ざっていくことになるらしい。

 統計学的に調べられていないのか、このことが書いてあった本にも本当に『小さな村の中でも見かけることがあることである』としか書いていないが、少なくとも単一種族のコミュニティが作れないほどであるのだから結構な頻度で起きていることが想像できた。


 ちなみに、この話を知ったとき、どういった形で種族の形質が遺伝されていくのが調べるために遺伝的に世代を観察して考察をしてみようかと思ったことがあった。

 しかし、あいにくと僕の寿命は残り十年を切っている。そんな奴がただでさえ年数のかかりそうなこの考察を始めたところで十分な結果を出せる訳がないので、結局する気は起きなかった。


「そんなわけで、僕の父さんも母さんも僕の耳を見たときには不思議に思わなかったそうですよ。」


 そう言って、先ほどの内容を掻い摘んだ説明を終えたが、ヒルダはまだ納得がいってないようだ。


「でも、私のおばあちゃんも象の耳だし、お母さんも象の耳を持ってるよ?」


「もちろん基本的には両親のどちらかの種族として生まれてくることがほとんどらしいですよ。でも、僕みたいにどっちの種族でもなく生まれてくる子もいるんです。」


「う~ん、でも他の家の子もみんなお母さんやお父さんによく似てたよ?」

「それは僕に言われても困りますね。僕は家の外に出たことがないので、本に書いてあったことしかしらないですから。」


 家の外の様子をだされてもこっちが困ってしまう。こっちは本と両親との会話で集めた情報をしかないのだから、実際のところどうなのかは確かめられないのだ。


「そっかー、確かにダイ君を村で見たことないね。でも、家の外にも出たことないのにどうやってそんなこと知ってるの?やっぱり本を読むと頭が良くなるの?」

「お母さんや、お父さんにもいろいろ教わってますけど、今ヒルダお姉さんに言ったことは本で勉強したことですよ。」

「じゃあ、本をいっぱい読めば、敬語もできるようになるの?」


 一体どういう思考回路で本と敬語が結びついたのかはわからないが、確かに本に使われている文章は敬語が多いので、それを読めばできるようになるだろう。

 実際僕もそうやってこの世界の言葉を学んでいたわけだし。

 どうもヒルダは敬語を学んで来いと言われてるだけとはいえ、一応学ぶ気はあるみたいだし、敬語の勉強に少し付き合ってみようか。

 僕も復習したいところがないわけじゃないしね。


「そうですね。お姫様とか出てくる本を読めば、いっぱい敬語も出てくると思いますし、そういう本を読んてみたらどうです?」

「え~、そういうカチカチした生活をしてる人の話はやだー。何かほかに面白い本ない?」


 こういう年頃の女の子にはお姫様とかへの憧れがあるって聞いたことがあるから勧めたのに。

 この狩猟大好き少女にとってはつまらないお話のようだ。


「それなら、歴史とか他の教科書になりますけど、それでも読みます?」

「やだ。」


 ですよねー。

 しかし、困ったな。せっかく楽に敬語を教えることができると思ったのに。

 教科書を選ぶという最初の段階で躓いてしまった。

 ほかに何か勧められそうな敬語の書いてある本って何があるだろうか。


 あ、そうだ。


「じゃあ、魔法書なんてどうです?」

「魔法書?」

「はい、魔法の教科書です。ちゃんと敬語も書いてありますし、そのついでに魔法も勉強できますよ。」

「えー、別に魔法なんて使えなくたってっ」

「よくないですよ。いいですか?もしヒルダお姉さんが狩りをするためにいった森の中で遭難してしまったとします。

 そうなると、まず一番最初にのどが渇いて困ってしまいます。たとえ水をもってきていたとしても、人の持ち運べる水の量には限りがあるので結局は苦しい思いを煤ことになります。


 そんなとき使えると便利なのが魔法なんです。

 自分から飲むための水を作り、少なくとも乾きは癒せます。

 さらに、着火の魔法が使えれば、夜になっても簡単にたき火ができて明かりに困りません。

 もっと勉強して強力な土魔法を使えれば簡単な小屋を建てて雨をしのぐことだってできます。


 そのほかにも狩りに使えそうな攻撃魔法だってありますし、覚えておいて損はないと思いますよ。」


 っと、少し子供らしくない言葉遣いになってしまった。

 とはいえ、勢いよく話したかいあって、ヒルダは気圧された様子で聞くのに徹してくれていた。

 この様子ならあと一押しかな?


「それに強いおばあさんと一緒に狩りに行ってるって話してましたけど、おばあさんが狩りの時に基礎魔法を使っていることがあるんじゃないですか?」


 そう尋ねると、ヒルダは視線を右上の方に向けて思案顔になり、狩りの様子を思い出して納得した表情になった。


「魔法を使えれば、おばあちゃんに褒めてもらえるかな?」


 この子はやっぱり結構なおばあちゃんっ子のようで、おばあちゃんに褒められることには積極的になれるようだ。


「ええ、きっと喜ぶと思いますよ。そのついでに敬語までできるようになれば、もっと喜んでくれるはずです。それじゃ、魔法書を読むってことでいいですか?」

「うん、そうしましょ。さぁ早く、早く」


 そして僕は初対面の象耳お姉さんと魔法の練習をするべく、中庭へと向かって行くのだった。

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