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死にかけネクロマンス  作者: 絹のタオル
第ーーー章
6/12

象耳のお姉ちゃん

 お昼ご飯のいい香りのするリビングに着くと誰もいなかった。


 「あれ?母さん?]


 お昼ご飯の準備はできているようなのに母さんの姿が見えない。


 どうしたのだろうと疑問に思いながら、背の高いベビーチェアをよじ上り、机の上を見てみると書置きがしてあった。


『手間のかかる人が来ちゃったから、お昼ご飯はそこにいるお姉ちゃんと一緒に仲良く食べてね』


 ふむ、お姉ちゃんか。O・NE・E・CHA・Nか。


 お姉ちゃんか。いい響きですな。

 前世の僕には妹はいたけれど、上の兄弟はいなかった。いとこも年下が多く、どうしても家族付き合いの場では僕がみんなの面倒を見ていた記憶がある。

 そして、そこで磨かれた世話焼きスキルは学校でも十分に発揮され、僕は学校でみんなの頼れるお母さんポジションになってしまい、さらに世話焼きスキルに磨きをかける生活を送っていた。


 みんなに頼りにされるのは嬉しくおもうし、こちらが心配されることはほとんどなかったのは誇らしいことでもあったが、いいことばかりでもなかった。

 そうやって世話を焼いているうちに同学年や後輩の面倒を見ていくと、どんどん無茶振りをされていくようになり、一度精神的にも肉体的にもパンクして寝込んだことがあったのだ。あれは自分の身の丈に合うだけの仕事を見極められなかった苦い思い出だった。


 そうしたことがあったせいか、どんな人であれ自分を気にかけてくれる年上のお姉さんというのに憧れがあった。

 こちらの世話なんて焼かなくてもいいから、「大丈夫?無理してない?」とかたまに心配してくれるお姉さんが欲しかった。

 不愛想だけれどきちんと弟の様子を見守っているお姉さんなんてドストライクもいいところだった。

 「ねーちゃんなんて鬱陶しくていやだ。」なんて、弟を心配する姉への敬意のなっていない奴もいたが、とんでもないことだった。そいつには嫉妬と溢れるパトスをもって、小一時間説教したこともあった。

 説教が終わった後、そいつは僕の説教に感銘を受けて「お姉さまは神様です。」と言い、僕と同じ理想を掲げる信徒としてともに切磋琢磨することになったのは懐かしい。


 つまり、ここまでで何が言いたいかっていうと、僕は年上お姉さん属性だということだ。


 そして、そんな僕の前にあるのがこの書置きであったのだから、たまらず僕は叫んでしまった。


「よおっしゃーーーー!!!」


「ひぅ!」


 ん?なにやら台所の方から可愛らしい声がした。

 そちらの方をみてみると、灰色の幅広の耳のついた七,八歳くらいの女の子が料理をもってちょうど台所から出てくるところだった。

 あれは...象の耳か?


「...君がダイノス君?です?」


 女の子はオドオドしながら、そろりと持ってきた料理をテーブルに置いて、そう聞いてきた。

 どうして怖がるんだろうと思っていたら、ローブのフードを降ろすのを忘れてかぶったままだった。

 赤ん坊の背丈で、あの奇抜な模様のかかったもの着てるのがいたらそりゃビビるか。

 僕はフードをおろして怖がっている少女の方を向き、挨拶をすることにした。


「はい、僕がクシナ母さんの息子のダイノスです。よろしくお願いします。お姉ちゃん。」

「...え、えと、私はヒルダ、よろしく、...です。」


 フードをとって顔を見せたことで一応警戒は解いてもらえたみたいだが、痴態を見せてしまったせいでまだ態度に固さが残ったままだった。

 挨拶をしあった僕らは食事をするために椅子に座ったが、向かいのヒルダは椅子に座るもどこか落ち着かないようで、食事を食べながらも視線が右に行ったり左に行ったりしている。


 それにしても、妙な話し方をする子だな。

 背の高さから察するに三つか四つ年上なんだろう。

 それが三歳児相手に何をそんなに畏まる必要があるんだろうか?


 丁寧語を無理やり話そうとしているのはさておき、ヒルダはとても可愛らしい女の子だった。

 幅広の象耳がふわりと揺れるその頭にはこれまた梳き心地のよさそうな灰色の髪が肩にかかっている。

 目はくりくりと愛らしく、料理をするために髪をヘアバンドであげることで露わになった広めのおでこにはよこじわが刻まれており、日頃から温和な表情を浮かべていることが伺えた。


 今は僕の雄叫びのせいでちょっと眉が顰められているけれども。

 誰もいないと思ってやったこととはいえ、思い出すとかなり恥ずかしい行動だった。


 さて、痴態を見せつけるという第一印象としては最悪の出会いを美少女としてしまったのだが、これからどうしたものかな。

 僕の願望交じりの想像では、一五,六歳のそれなりに母性が感じられるようになってきたお姉ちゃんが来ることを想定していた。

 現在進行形でショタ(を通り越して幼すぎる気もするが)である僕は、世話好きなお姉ちゃんに「あーん」とかしてもらおうと思っていたのだ。

 しかし、目の前にいるのはどう見ても小学生くらいの幼女である。母性は感じられないし、あーんしてもらうにはテーブルの幅が広く、どうやってもこちらに手を届かせることはできそうにない。


 だが、ここであきらめてしまっては姉属性持ちとしての沽券にかかわる。

 ここはこの少女が素晴らしいお姉さんになる将来性にかけて、好感度を稼ぐ方針でこちらから気さくに話しかけるとしようか。


「お姉ちゃんは僕と会うのは初めてですよね?僕のことはダイって気軽に呼んでください。」

「ええ、と。うん。今日がはじめましてだよ、です。私のことはヒルダでいいよ、ダイ君。」


 おお、あんなファーストコンタクトだったにも関わらず、普通に会話が続いた。

 この子は心が広い子なのだろう、将来が楽しみになってくる逸材かもしれない。


「ありがとう、じゃあ、ヒルダお姉さんとか、ヒルダさんって呼びますね。」

「うん、わかったよ、ダイ君...あ。」


 どうやら今の話し方が素のようだ。


「無理に丁寧に話すことないと思いますよ。その方が話しやすいですし。」

「う~ん、でもね...。」

「お姉ちゃんだからって丁寧に話さなくちゃいけないわけじゃないと思いますけど?」

「そうなの?」

「そうですよ。」


 ヒルダはう~んと首を傾げて、まだ納得がいっていない様子をしつつも話し始めた。


「おばあちゃんがね、三歳の子が丁寧に物を話すことができるのにあんたはそのままでいいのかっていうの、それで折角一緒に留守番するんだから教えてもらって来いっていうのよ。

 この村にえらい人なんて来たことなんてないから、そんなのできたって意味ないのに。

 そんなことしてるくらいだったら、いつもみたいに狩りについていってもらう方が楽しいのに。」


 オドオドした態度が嘘であったかのようにペラペラと話していた。

 この様子だと、先ほどまでの変な話し方は、『敬語なんて学ぶ必要はない』と僕にアピールしようとして失敗していたってことか。。

 そんな風に話し方にばかり意識が向っていたら話したいことも話せなかっただろう。


 というか、僕が丁寧語を話せることは村の人なら知ってるのか。

 この調子だと母さんの魔法店の収支の計算やってたり、本の虫になってることも知られてそうだな。

 村って言うくらいだから、情報なんてすぐに広まっているだろうし、これは村中の人に知れ渡ってるって考えた方がいいかな。


 そして、三歳児にものを教えさせようとするのはさすがに無理があると思う。もっといえば、敬語やら丁寧語だってしっかり話せている自信は僕にないので、教えるほどの技量はないと思う。

 いったいどうして僕の株はそこまで上がってしまったのか。


 しかし、さすがに教師面して教えようという気にはならないとは言え、敬語を勧めるだけ勧めてはみよう。

 敬語がこのヒルダっていう子の役に立つときが来るかもしれないしね。


「この村の外に出る時だってあるんじゃないですか?そういうときに立派な淑女として扱ってもらえるように敬語を身に着けておけってことなんだと僕は思いますよ。」

「だったら、この村から出ないもん。私はおばあちゃんと狩りをして暮らすの。そもそも、なんで年下の君にそんなこと言われなくちゃいけないのよ。」


 いけない。少し説教臭くなってしまった。

 やっぱり年下に物を教わるのはこのくらいの歳の子でも癪にさわっちゃうよな。

 目の前のヒルダは少し不服そうに頬を膨らませて「ぶぅ」とか言っていてかわいらしいが、それなりに不機嫌になってしまったようだ。

 このままだとむくれた様子を眺めたい気もするが、好感度が下がってしまいそうだから話を変えるか。


「そうですね、えらそうなこと言ってごめんなさい。じゃあ、僕は食器片づけますね。」

「え?...あ、えと、こっちこそごめんなさい。一応頼まれてるから私が全部片付けするからダイ君はそこで待っててくれればいいよ。」


 謝られたのが意外だったのか、毒気を抜かれたようですぐに機嫌を直してくれた。

 これなら、片付けが終わった後に話題の切り替えもうまくできそうだ。


 そして、ヒルダが食器をしまい終えるとまた話を再開した。


「そういえばお姉ちゃんは何歳なんですか?見たところ七歳くらいに見えますけど。」

「よくわかったね。大当たりよ。今年で七歳。あなたよりも四歳年上なんだからね」

「へぇ、お姉ちゃんはさっき狩りに連れて行ってもらうって言ってたけど、誰に連れて行ってもらうの?」

「いつもはおばあちゃんよ。たまに、お母さんとお父さんが連れて行ってくれる時もあるのよ。私のおばあちゃんはとっても強いんだから!」

「そ、そっか、狩りが好きなんだね。ヒルダお姉ちゃんは何を狩ったことがあるの?」

「わたしはまだ直接獲物をしとめたことはないよ。狩りの時はおばあちゃんが獲ってきた獲物の血抜きをしたりして手伝ってるの。でも、ゴブリンくらいなら一人で倒したことあるよ。あのくらいの弱い魔物は一人で倒せないとね!」

「お姉ちゃんはそんなに強いんですね。えーと、さ、さすがです。」


 先ほどとは打って変わって、前のめりになりながら勢いよく話し始めたヒルダに押されて、返事が適当になってしまった。

 何が流石なのか、言ってる自分でもよくわからなかったが、こんな返事でも褒められたのはわかったらしく、ヒルダは破顔してくれた。


「それにしても、さっきからあなたが私のこと聞いてるだけじゃない。今度はこっちからいろいろ聞かせてよ。」

「ああ、ごめんなさい。それじゃ、なんでも聞いてくれていいですよ。」


 人のことを聞くだけ聞いてこっちのことを何も教えないんじゃ会話する意味も半減しちゃうしね。

 お互いのことを知って、影響を受けていくのが会話の醍醐味なのは異世界でも変わらない。

 このお姉ちゃんに僕の理想の姉になってもらうためにも、質問に答えることでいい影響を与えたい。


「そうね、まずはフード降ろしてた時から気になってたんだけど、どうしてあなたには耳がついてないの?」

「え?耳ならちゃんとあるじゃないですか?」


 そんなこと見ればわかるだろうに。聞かれたのは意外な質問だった。

 僕は頭の横の髪の毛をかき分けて丸い耳を見せて、ちゃんとついていることをアピールする。

 だが、それでも彼女は不思議なようだ。


「そうじゃなくて。どうして獣人じゃない人の耳がついてるの?」


 ああ、なるほど。だから疑問に思ったのか。僕は父さんも母さんも犬耳に猫耳だもんな。


 彼女の言う通り、転生した僕には両親のような猫耳や犬耳はついてなく、頭の横には普通の耳が付いていた。

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