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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ある少女勇者のその後

作者:

一年近く何も小説を書いていなかったのでリハビリ作です。

桎梏~、転生先の~はまた追々書いていくつもりです。執筆は相変わらず遅いと思いますがまたよろしくお願いします!


※他作品呼んでいてくださった皆様、無事終わりましたありがとうございました!

帰りたかった。

帰れると思っていた。


「勇者様は本日王子殿下と婚儀を挙げられました。」



それなのに。



「あなたには感謝しています。我々王国民を救っていただき真にありがとうございました。」


まったくありがたいとは思っていなさそうな棒読みの言葉に、あたしは言葉を発した男と、その周りに同じように立っている男たちを見た。

体には繊細な装飾を施した、けれども丈夫で実用性に優れていそうな鎧を纏っている。手にあるのは剣。鎧とは違い装飾が少なく鈍色に光るそれは、多くの人で無いものの血を吸っているということを知っている。


男たちはみな剣を持っている。

けれどもあたしの手には何も無い。あたしの剣はあの場所に、魔王の玉座に置いてきてしまった。



「ですがもはやあなたは必要ない。」


先ほど口を開いたのとは違う男がそう口にする。ゆっくりと剣先が持ち上げられるのを見て、あたしは一歩後ずさった。からり、と小石が落ちる音がして、バランスを崩しそうになる。あたしは慌てて背後を見た。

足元は崖、後ろは海。ずっと下のほうにはいくつもの岩が海面から突き出していて、そこに波が当たって複雑な海流を描いている。もし落ちたら助かる可能性は低いだろうと血の気が下がった。


「聖剣のないあなたなら、我々でも殺せます。・・・・どうかご容赦を。これも命令です。」


冷たい声に、はっとして振り返ったときにはもう遅かった。鈍く光る剣が振り下ろされる。とっさに身を引こうとしたが、今のあたしはただの人間と同じか、それ以下だ。

体を斜めに走る激しい熱と浮遊感を感じる。目の前に飛び散った赤いものは、この一年何度も見続けてきたものだった。



うそつきめ。



剣を振り下ろした男の特に感情のこもっていない目を見て、あるいはその先にいるだろう王子を見て、そう叫んでやろうとしたが全身を叩きつけられる感覚に意識が落ちた。





○ ○ ○ ○ ○




あたしがこの国に、もといた場所から考えると異世界と呼ばれるこの場所に呼ばれたのは一年ほど前のことだ。いつもどおり高校の授業を終えたあたしは、いつも一緒に帰っている友人が委員会に出ていたために、先に帰ろうと珍しく一人で校門をくぐった。

一歩校門の外に足を踏み出した瞬間、急に足元が光った。あれ、と思う間もなく、顔を上げるともうそこは見知った世界ではなかった。一瞬コスプレ?と思うような、軍服らしきものや、ずるずるとした長いローブを着たきらきらしい人たちが、あたしの周りを少し離れた位置から取り囲んでいた。


わけが分からなくてきょろきょろと辺りを見回していると、中でもとりわけきらびやかな格好をした、端正な顔の男が歩み出てきた。

自らをこの国の第一王子だと名乗った男は、あたしにこう言った。


勇者として魔王を殺せ。もしくは封印しろ。そうすれば家に帰してやる、と。


もちろん実際はもっと回りくどく長ったらしく、大量の装飾をつけた言葉だったが要約するとこういうことだ。


あたしは抵抗した。魔王の配下である魔族のせいでたくさんの被害が出ていると言われ、どれだけ魔族がひどいことをしてきたかたくさん教えられたけど、そんなことはどうでも良かった。あたしとはまったく関係の無い世界のことだ。あたしのいた世界には、両親がいてまだ小さい妹がいて、ペットとして飼っている犬もいる。元の世界には平凡だけど幸せな家族が合った。あたしは王子たちに、ふざけるな、今すぐ帰せと暴れ、叫んだ。


けれども魔王がいなくならなければ帰還の魔法は使えない、と言われてしまえばどうしようもない。どうにもこうにも、魔王とやらを何とかしなければ帰れないのだというのだから。


他にも神官長だとか巫女姫だとか、いろんな人にたくさん説得されてしかたなくあたしは勇者を引き受けた。けれどもそれは、この国を救うとか、魔族に虐げられる人々のためとかそういうことではなくて、ただ家に帰りたい、それだけのためだった。



あたしが勇者になると決めた後、王子たちの動きは早かった。さっさと装備を整えられて、聖域だとかいう場所で聖剣とやらを引っこ抜かされた。

そしてそのあとすぐに、何人かの騎士と一緒に召喚された場所である王城、もとい王都から放り出されたのだ。



そのあとすぐに、初めて魔族を殺した。



聖剣というのは便利なもので、魔族を見つけるとあたしの体を勝手に動かして、勝手に魔族を殺してくれる。魔法も使えたし、神の加護とやらで体に負担がかかることも無かった。まあ神の加護のほうは後に、国の神官長がかけた身体強化の魔法に過ぎないと気づいたのだけど。


それで、実際に魔族を殺してどう思ったかって?平凡に平穏な日本で十七年間過ごしてきたあたしが、羽があったり尻尾があったりするものもたまにいるが、魔力が少し強くて耳がとがっていることを除けば見た目は人間とあまり変わらないイキモノの血を浴びてどう思ったかって?


そんなことは言いたくもないし、言うつもりも無い。ただ、最悪の気分だったということだけは確かだ。



でもそれでも、あたしは帰りたかった。家族のもとに、たとえ自分以外の誰かを犠牲にしたとしても、どうしても帰りたかったのだ。


そんな醜い心根でいたから、同じような醜い心を持ったあいつらに、騙され利用されたのかもしれない。

だからあたしの自業自得で、こんな風に思うのはおかしいのかもしれない。でもあたしは許さない。あたしを騙した王子を、国を、この世界を。

恨んで、憎む。



そして、そんな自分が嫌いになった。





○ ○ ○ ○




魔王の住む城は海の向こう、王国がある大陸からは少しかすんで見えるくらいの距離にぽっかりと浮かんでいる、魔大陸と呼ばれる場所にある。そこに向かう道中、騎士たち曰く人々を苦しめているらしい魔族を適当に殺して回り、ようやく魔王の城に着いたのは王城を出て一年ほど過ぎたころだった。


城の中ではあたしたちの姿に逃げ惑う魔族も襲ってくる魔族もいて、適当に勝手に動く体であたしはそういった輩を切り伏せていった。この頃にはあたしも剣の扱い、というか操られ方に慣れていて、血を浴びることも無かった。

周りを見ると、騎士たちが同じように剣を振るっていた。さすがは王国に選ばれた騎士で、皆精鋭ぞろいだ。


ほどなく、広間の入り口になっている、巨大で複雑な意匠の施された両開きの扉の前に着いた。その扉は王城にあったものと同じぐらい豪華だったけど、王城のごてごてした装飾だらけのものとは違い、繊細で美しいものだった。これから魔王と戦うというのに、あたしは王城のものよりこちらのほうが好きだな、とそんなどうでもいいことを考えてしまったのを覚えている。


そんな風にしてじっと扉を凝視していたあたしに業を煮やした騎士にせかされて、あたしの手が扉に触れると自然と扉は開いていった。



足を踏み入れた王の間も玉座も、扉とよく似た繊細な装飾がほどこされていた。とても美しくて、常なら見とれてしまっていたかもしれない。

けれどもそこであたしが何より目を奪われたのは、広間でも、玉座そのものでもなく、その美しい玉座に肘をついて座る男の姿だった。


端正な顔立ちを縁取る真っ直ぐな長い髪の色は黒で、その合間からは魔族に特徴的な、先がほんの少しとがった耳が覗いていた。この一年ですっかり日に焼けてがさがさになったあたしの肌とは比べ物にならないくらい、白くて滑らかさそうな肌。瞳は髪と同色の黒で、一般的な日本人とほとんど変わらない組み合わせだというのに、それがこの男を彩るだけでまったく違うものに見えた。体つきは複雑な金の装飾が施された見るからに質のいい黒いローブのせいでよく分からなかったが、きっと引き締まって均整が取れたものなのだろうと容易に想像された。


それほどに、美しい男だった。



どれほど時間がたっていたのだろう。気がつくと体が勝手に動いていて、男と剣を交えていた。もちろん聖剣のせいであり、間近で男を見て、あたしは初めてそれが魔王だと気がついた。


近くで見るその男はやはり美しくて、まるで神様か何かのようで、そんな美しい男とすっかり女らしさの減った心根の醜い自分が殺しあっていることに、意味も無く泣きたくなった。剣を振るうたび、魔法を放つたび、男にも自分にもいくつも血が散っていく。

傷つけたくない、一筋たりとも。なぜかそんな風に思いながら、けれども思うだけのあたしは、帰るために男を殺すために聖剣を振り続けた。



どれだけ時間がたったのかは分からない。ふいに男の攻撃の手が緩まった。あたしはその隙を見逃さず、剣を脇に垂直に構え、男に向かって踏み込んだ。男の懐に入るとき男はあたしに向けて両腕を広げた。まるでその動きがあたしを迎え入れるかのようで、抱きしめようとしてくれているのではないかと不意に錯覚した。


そんなはずがあるわけも無いのに。



ざくり、と音がして、剣が男の心臓につきたてられた。



ともに魔王城に来た騎士たちが、そんな彼らと戦っていた魔王の側近の魔族たちが、重なるあたしと男の姿を見ているのをどこかで感じていた。

このまま聖剣の力を解放すれば男は死ぬ。それでいいはずだ。魔王を殺してあたしは元の世界に帰る。家族のもとに。


でも。


あたしにはどうしても、男を殺すことはできなかった。今まで散々殺してきたというのに何をいまさらと自嘲の気持ちも湧きあがってきたけれど、ここでこの男を殺したら、あたしの中に残った最後の何か大切なものものが粉々に砕けてしまうと思った。


王子は殺すか封印しろといったのだ。ならもうひとつの選択肢を選んでもいいはずだった。必ずしも、殺さなくても。


あたしは聖剣を媒体として、魔法を展開した。無力化と、永遠の眠りを与える封印の魔法だ。この世界に住むどんな生物よりも大きな魔力を持つ魔王を封じるため、あたしはもてる魔力のすべてを注ぎ込んだ。聖剣の力であたしの魔力が増幅されていく。これから先、この魔法が解けることは永遠に無いだろう。いつか、聖剣に適性を持つ勇者が再び現れたとすれば別かもしれないが。



ごめんなさい。


そう呟いたあたしを魔王が見たような気がした。ぱきり、と小さな音が聞こえてきて魔法が紡がれていく。魔王の黒く深く光る瞳が、ゆっくりとまぶたの下に見えなくなっていった。



そしてセカイは救われた。





○ ○ ○




「うう………。」


ざざっという潮の音に、あたしは重いまぶたを上げた。口の中がやけに塩辛く、からからに乾いている。

ここはいったいどこだろう。

周囲の様子を知るために、あたしは砂浜に手を突いて起き上がろうとした。


「ぐっ………!」


とたんに体に走る痛みに、思わず胸元を押さえる。よく見ると着ている服がざっくりと切り裂かれ、体を斜めに走るまだ生々しい傷跡があった。じくじくと痛み出し、あたしはそれをやり過ごそうと砂浜の上に体を丸めて横たわった。


騙されていて、裏切られて、斬られた。ようやくその事実を思い出して、けれどもそれに対して湧いてきたのは虚無感だけだった。

もう帰れない。帰る方法が無い。それに、あたしにはその方法を探すこともできない。もうその時間も無いみたいだから。


あたしはゆっくりと起き上がった。傷口から、血液以外の何かが零れ落ちていく気がする。

もうきっと、長くはもたない。


家族や友達の顔が次々に頭に浮かんできた。口うるさいけど、いつもあたしや妹のことを考えてくれていたお母さん。寡黙だけど、優しく笑うお父さん。すぐにすねて泣くけど、お姉ちゃんお姉ちゃんといつでもあたしを求めてくれる小さな妹。それから尻尾をぶんぶん振ってつぶらな目でこちらを見つめるかわいいペット。そして、委員会に入っている小学校のころからの友人に、同じクラスの仲のいい人たち。


けれど、そんな彼らの姿を思い出してみても、のどと同じで乾いた目から涙はこぼれてこなかった。


しばらくそうしてじっとしていたけれど、ふいに気付いたことがあって、あたしは重たい体をどうにか支えながらゆっくりと立ち上がった。あたりに広がるのはやはりつい最近見たことのある風景で。

あたしは、とてもとても良いことを思いついた。きっと今のあたしの顔は、醜くゆがんでいるはずだ。


周囲がわずかに光り、あたしの手によって魔法が展開されていく。

聖剣を失い、神官長のかけた身体強化の魔法も消えてしまっているけれど、こちらの世界に来て手に入れた魔力はまだあたしの体にあるのを感じる。騎士に斬られる前は十分にあったそれも、今は傷口から一緒にこぼれ出てしまったかのように、あまり多くは残っていなかったけれど。


「転移。」


発動したのは転移魔法。ある程度の距離で、一度行ったことのある場所ならば一瞬でそこに移動できるというもの。せっかくここに流されてきたのも、何かの運命なのかもしれない。神様の思し召し、とは言わないけれど。


「魔王の玉座がある広間へ。」


つい先日上陸した場所。あたしが流れ着いたのは、幸か不幸か魔大陸だった。





○ ○




本当は気づいていた。王子や大臣たちがあたしに何か隠しているらしいことを。

本当は気づいていた。王子が神殿に住む黒髪の巫女姫と隠れるように何度も会っていることを。

本当は気づいていた。騎士たちがあたしを見る目は、いつもどこか鋭いものだったことを。


本当は気づいていた。帰る方法なんて、無いのかもしれないということを。



「あたしって、ばかだね。」


ぼんやりと、目の前で眠る男の姿を見ながらそう言った。誰にも傷つけることができないように、美しい姿をそのまま留めていられるように、あたしが作り出した巨大で透明な結晶の中で目を閉じる男は、そうしていてもやはり美しかった。


「あたしにあなたを殺せって言った、あの国の王子は黒髪の勇者と結婚したんだって。」


あたしと同じ黒い髪で、けれども目は澄んだ湖畔のように青いあの美しい娘は、王子と愛し合っていた。けれども巫女姫は、民からの信仰はあっても王子の妻となれるほどに身分は高くない。

だからこそ、おそらくあの計算高い王子は勇者を利用したのだ。そのためにあたしを必要以上の人間とは会わさず、国民にも勇者は異界より来た黒髪の娘としか公表しなかったのだろう。

異界から来たということなら身分などどうにでもなる。ましてや魔王を封印し世界を救った勇者が時期国王である王子の相手だ。国は安泰。国民や議会の支持も得られるだろう。


そして適当に見繕ってきた娘を新しく巫女姫に立て、青い目の娘はこれから先、元勇者である妃として、王子が王になった後は王妃として生きていくことになるのだろう。



「あたしはね、本当は知ってたんだよ。魔族は別に悪者じゃないって。」


そこで言葉を一度切って、あたしは眠る男から目をそらした。


「”人間”って言う種族があるように、あなたたちは”魔族”って言う種族なんだよね。魔族が人を襲うっていうのもそう。人間だって人を襲う。人間にも魔族にも、悪い者とそうでない者がいるんだ。……ううん、違うね。どこまでも利己的で支配欲が強い分、人間のほうが醜いか。」


そんなことはとっくの昔に分かっていた。けれども分かっていながらその真実を無いものとして、あたしは帰るために言われるままに、罪のあるものも無いものも関係なく殺してきた。

ほら、なんて利己的で醜い。

それに比べ一部のものが海を渡って来ることはあったとはいえ、魔族は過去一度も国として他国に戦争を仕掛けたことは無い。都合のいいように魔族を悪者として書いたものがほとんどだったが、旅の途中でさまざまな国に寄り、文献を読み比べてみるとほどなくしてそう分かった。


そうだ。そんな国の王だ。

この男は、姿だけではなくきっとその心も美しい。


あたしは何か言葉が帰ってくるのを少しの間待っていたけれど、自分と意識などなくただ永遠の眠りについている男だけしかいないこの空間で、返事などが帰ってくるはずも無かった。



「……帰りたかったの。」


誰も聞いていないから、あたしは今まで言いたくてもずっと我慢してきたことを口にした。


「誰を何を犠牲にしても良いから帰りたかった。家族にまた会って、何事も無かったみたいにお帰りって行ってもらいたかった。それで、お母さんの作った料理を食べて、お父さんと一緒にテレビを見て、妹と、ペットと一緒に遊びたかった。」


傷のせいか、目の前がかすんでくる。魔法を使ったために開いてしまった傷口からは、今も浜辺に打ち上げられたときとは比べ物にならないほどの量の血液が滴っている。体が熱いような、冷たいような変な感覚。まだ魔族を殺すのに慣れていなかったころ、討伐に行った魔族の盗賊から深い傷を負って死にかけたときと同じ感覚だ。

あのときは治癒魔法の使える騎士が共にきていて助かったが、今回はどうにもならないだろう。治癒魔法には特別な才能が要って、あたしには使えない。


「寂しくて、怖くて、辛かった。暖かいところに帰りたかった。だって、家族も、友達も、皆あっちにいるんだよ。」


つぅ、と頬を枯れていたはずの涙が伝った。目がかすんでいたのはどうやら涙のせいだったらしい。

一度涙がこぼれると、それは後から後からとめどなくあふれ落ちてきた。あたしはそれを拭うこともせず、再び男を見た。


「ねぇ、何で帰れないの?あたし頑張ったよね?たくさんたくさん、嫌なことがあっても頑張ったんだよ!!

……それなのに、何で?どうして、帰れないのかなぁ……?」


あたしの声だけが広間に響き渡る。答えは無い。望んでも、いない。

あたしはそっと男を覆う結晶に手をついた。そして、結晶にさえぎられる手前のぎりぎりまで男に顔を近づけた。


「……ごめんなさい。」


そう呟く。美しい人はその言葉に返事を返すことも無く、ただ美しいまま眠っていた。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……!」


ごめんなさい。


すがりついたまま、何度も叫んだ。涙はあふれ続ける。

あなたの民を殺してごめんなさい。あなたをこんな風にしてごめんなさい。自分勝手でごめんなさい。


それから自分のために、復讐のために、これからあなたを利用することにごめんなさい。


「…ごめんなさい。」


あたしは封印の媒体となっている聖剣に手をかける。

この魔法が解けることは永遠に無い。聖剣に適性を持つ勇者が再び現れない限りは。



勇者は、あたし。



魔法の詠唱を始める。永久の眠りの封印を解くために。最後に残った魔力が失われていき、体に力が入らなくなっていく。


あたしはあなたを利用する。魔王の封印が解けたとしたら、どうなるか。その真相がどうであれ、民は勇者に望むだろう。再びの封印か、今度こそ魔王の命を絶つことを。そうなったらあなたたちはどうするのかな。ねぇ、王子様とそのお妃の勇者様?


あたしはそのときのことを考えて、うっすらと微笑んだ。もう感覚も無い。足元にはあたしの体から流れ出たとは思えないほどの大きな血溜まりができている。

詠唱が終わる。魔法は解かれた。


体が傾いでいくのを感じながら、あたしはゆっくりと目を閉じた。








どうか願わくば、美しい人。




叶うなら、あたしのことを許してください。




時間があればまた続きを書きたいと思っています。そちらは主人公にとってハッピーエンドになるかと。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何年かぶりにブッグークを読み返して、 久しぶりにこの作品を読みましたが、やはり何度読んでも面白い作品だなぁ…と思いました。 何年たってもやっぱり続きが読みたいですね。
[良い点] 魔王様と主人公の今後が気になります 続編を楽しみにしております(*^^*)
[一言] 悲しいけれど引き込まれてしまうお話でした。 主人公が少しでも救われるような続きを読んでみたいと強く思いました。 続編が書かれるのを期待しています!(>_<)
2015/03/04 21:49 退会済み
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