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少年冒険記譚  作者: kakeru
7/62

date18:クロウ



冒険者互助協会―――



そのカウンターにて。


僕はさっそくメイさんを捕まえて魔法について尋ねていた。



メイさんはカウンターから初心者の魔法指南書なる冊子を取り出し、僕に手渡した。



「それ、貸してあげる。まず目を通して、この間試験を受けた広場で練習してみなさい」



「ありがとうございますっ」



「いいえ、がんばってね」




メイさんに見送られ、指南書片手に広場を目指す。



広場につくまで待てなくて、読みながらフラフラと廊下を歩く。



――魔法とは、体内の魔力を引き金に、呪言を唱えることで空気中に満ちている聖霊力から力を具現させ、あらゆる現象を起こす事象のことである。





ごんっ




僕は壁にぶつかった。



しかも、思いっきり。


イタイ。




涙目になって、ここがどこかを確認し、再び指南書に目を通しながら歩く。





――たとえば、火の魔法を使うのならば、体内の魔力を感じ取りながら、それを言葉に乗せるような感覚で呪言を唱える。呪言は魔力を載せるための媒介であるため、なんでもよい。しかし、イメージはしっかりもたなければ聖霊力に働きかけることができず魔法は失敗してしまう。

  つまり、イメージをしっかりもち、声を媒介に魔力を使用し、聖霊力に働きかけ事象を起こすことを、魔法というのだ。




「え?」



急に足元の感覚がなくなり、浮遊感に見舞われる。


次いで身体が投げ出され、階段下に転げ落ちた。




「っつ…」




5段くらいしか段差がなくてよかったと言うべきか…


顔面、身体、とりあえず全身を強打した。



さっきよりもイタイ…




「…クロウ。痛いよ」




クロウを見ると、呆れた様子で僕を見捨ててスタスタと歩いて行ってしまった。


そして、そのまま角を曲がって姿すら見えなくなる。




「うぅ、待ってぇ~…」



痛む身体を我慢して必死に立ってよろよろと後を追いかけた。








広場。


数日前に来たときと変わらず、広い場所だった。



広場の端にいくつか置かれている案山子の1体を選び、その近くの壁にもたれかかり指南書を読む。


クロウは隣に伏せ、欠伸をしていた。





――まず、体内の魔力を感じるようになることが、魔法を使うための第一歩である。

  自分の身体の中に、血液の巡りとは違う流れを感じ取れ。それが己の魔力の流れである。




うーん…

とりあえず、目を閉じてみる。



よくわからないけれど、何かを感じ取れるようにと感覚を研ぎ澄ませていく。


やがて、とくん、とくんと自分の心臓の規則正しい音が感じ取れるようになって。


でも、これって血液の流れだよね?



なおも、それを感じながら違う流れが感じ取れないかと、さらに感覚を研ぎ澄ませていく。


なにか、暖かいモノが身体の中を巡っているような感覚に襲われる。



それは、心臓、脳、内臓から、指先、足先までぐるぐる渦巻いていて、よくわからない感覚に息苦しさと圧迫感を感じる。




目を開けると、きらきらと輝いていて。




「え…?」



クロウを見ると、黒かったはずの毛並は黄金に染まり、大きさすら普段の1.5倍ほどに見えて。



広場を囲む壁は、白かったはずなのに幾何学様の緑のよくわからない文字のようなモノがぐるぐると幾重にも重なり円を描いていた。

まるで、下水道の結界核の中にいるような…


案山子にいたっては、周りを白い膜でコーティングされているように淡く光っていて。




「ク、クロウ…」



僕の情けない声に、耳をぴくっと動かして、視線を合わせてきた。



「僕、おかしくなっちゃったのかな…。クロウが金色になってて、いつもより大きくみえるよ…」



『…魔力で身体を強化している為だろう』




低く、聴いていて心地よい声が頭に響いた。



「…え?」



『我の声だ。やっと聞き取れるようになったのか…』



「ク、クロウ…?」



『そうだが?』



「しゃべれたの?」



クロウは器用に眉間に皺を寄せ、面倒くさそうに



『心話だ。脳に直接響いているはずだ。肉声ではない』



その証拠に、クロウの口は一切動いていなかった。



『全身に魔力を纏っているからな。視ている世界も聖霊力を通しているから違って見えるんだ』



先程の答えのようだ。


僕自身を見てみると、眩い白い膜に覆われているように光っていて。



「この状態、ずっと続くの…?」



『お前の魔力量では、もう少ししたら足りなくなるな。巧くコントロールしろ。全身に纏うのではなく、基本は呼気と眼、脳だ』



僕は、言われた通り、魔力を循環させるイメージで呼吸を繰り返し、その流れに眼と脳を加えて巡らせる。




そのうち、僕を覆っていた光は消え去るけれど、視ている世界は先程と変わらないどころか、さらに視えるようになる。



『それが常に維持できるようになればいい。突然のことにも、咄嗟に反応もできるだろう』



クロウの声もちゃんと聞こえる。




「でもこれ、疲れるね…」



『すぐにできるものではない。慣れていけばいいだけだ』



「うん…」




僕の呼吸は荒くなってきて、徐々に視界が歪み始める。


光っている世界は、前の色彩に戻りかけ、クロウも金と黒が入り混じり始める。




『――か。――――い―――――』




クロウが何か言っているけれど、全然ききとることもできなくて。


そのまま、今まで見ていた世界へと変貌を遂げた。






「はっ、はっ……」



僕は荒い呼吸を繰り返し、壁にもたれて身体を休める。



クロウは、そんな僕をじっと見つめ、興味がなくなったように眼を瞑って伏せた。




クロウ様ラブーーーーーーー


…失礼しました。

やっとクロウの言葉が聞けました。

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