date05:初依頼と負けず嫌い
11-13まとめました。加筆修正はしておりません。
日の出とともに起き出して、早朝目的の場所まで辿り着いた。
朝露にぬれた草達は、日の光を反射して、キラキラと輝いていた。
ここは、道から少しそれた草原の中。
草達に混じって、日陽草が所々に生えている。
それを、丁寧に採取していく。
この薬草は、煎じれば体力を少し回復してくれる。
そのまま食べても回復してくれるが、苦いうえに飲み込みにくいので、加工せずに使う人はいないといっても過言ではない。
お金もないので、自分用としても摘んでおこうと、依頼の20個をとり終えた後も、見つけては採取を繰り返していた。
そうして、50個を数えたところで、ガササっと遠くで音がしたと思うと、すごい勢いでこちらに近づいてくる。
しかも、1つじゃなく3つ。
「え?」
ユエは、動けずそこで突っ立っていると、草の中から小さな白い塊が僕に向かって飛び掛ってきた。
「う、わっ」
尻餅をつくことでそれを交わすも、また白い塊が自分のすぐ脇を通り過ぎていく。
「うわわっ」
転がって立ち上がると、今まで座っていたところに、また白い塊が突進してきて、通り過ぎていった。
ガサササっと僕の周りを円を描くように渦巻いている白い物体。
「な、なに…」
クロウは、悠然と構えそこにいた。
それをみて、少し冷静さを取り戻す。
もしかしたら、これがラグルかもしれない。
震える手を叱咤して、腰からナイフを取り出し、落としそうになりながらもなんとか握って構える。
また1匹飛び掛ってきた。
それをとっさにナイフをもったまま、自身を防御してしまう。
攻撃するより、身体が反射的にかばうように防御してしまうのだ。
それをみて、クロウが首を振ると、襲い掛かってきた白いものにタイミングをあわせて無造作に爪をたてた。
ひとたまりもなく、それは白い光となって消えていき、地面に小さな白い塊が落ちた。
それが、2度、3度と続き、あたりは静けさを取り戻した。
「…あ。く、クロウ、ありがとう…」
僕はヘタっと座り込んでしまって。
何もしてないのに、息だけはあがっていた。
動悸もすごい。
これが、命のやりとりというものなんだと。
実践と練習は全然違うのだ。
それを、わかっていなかった。
クロウはそんな僕をみて、やれやれっといった感じで、前足で頭をボフボフつついた。
しっかりしろってことかな。
こんなことじゃいけない、と決意を新たに、探索を続けることにした。
クロウに頼りっぱなしじゃ格好悪いじゃないか。
僕もクロウのように強くなりたいのだ。
核を拾ってかばんにしまい、探索を続けることにした。
日が暮れるまで、その草原を探索していた。
日陽草が132個、なにかよくわからない核は51個。
その間で川を見つけて魚をとり、クロウも適当に野うさぎなどを捕まえてきたので、捌いて、火をおこしご飯を食べた。
草の採取は僕が主にやったけど、核51個は、実は全部クロウがやった。
何度もやってみるんだけど、攻撃があたらなくて、僕自身のかすり傷が増えていくのだ。
みかねるとクロウが倒してくれて。
どうしたらいいのか、エンカウントするまでの間に考え、実行していく。そのうち攻撃はあたるようになってきた。
でも致命傷にはならないようで。
もう少しでコツをつかめそうだと、繰り返しやっているうちに相手の動きが鈍ってきて、動きを追うことができるようになってきた。
そいつは、白い塊…ではなく、白いうさぎと白いねずみをあわせた様な奇妙な生き物であった。
強靭そうな爪をもち、凶悪そうな牙がのぞいている。
次で、倒す!
飛び掛ってきたところを、ぎりぎりで交わし、隙だらけの横腹にナイフを振った。
それが視認できるほどには、相手の動きが鈍り、またこちらの動体視力があがったのだ。
もろにナイフの攻撃を受け、身体を二つに切り裂かれながら光の粒子となって消えていった。
後には、核とよばれるものが1つ地面にコロンっと転がった。
「た、倒したぞーーー!」
クロウは、よくやった、と言わんばかりに頷いている。
「クロウ、僕やったよ!」
ぎゅっと抱きついて生きている実感を得る。
はじめて自分だけで倒したのだ。
感動も一入だ。
次はもっとはやく倒せるようにがんばろう。
そうして、日が暮れるまで特訓を続けた。
結果、一人でもなんとか倒せていたラグルを、楽に倒せるようになった。
1撃とは言わないまでも、3回くらい攻撃を与えることで倒せるようになったのだ。
この時点で薬草は200個を超え、核は106個になった。
野宿をしてすごした翌日、町に帰るべく道に戻ろうと草原を横切っていると
「いやぁぁぁぁ」
悲鳴が聞こえてきた。
「え?」
でも、そこから声はきこえてこなくて。
「く、クロウ、今悲鳴聞こえたよね?」
と、クロウを見ると、面倒くさそうに僕を見返した。
「た、助けにいかなくちゃ…!」
わたわたと声がした方へ走り出そうとすると、クイっと服をひっぱられる。
「え、なに?」
クロウはやれやれといった風体で、僕が進もうとしていた方とは逆の方へ走り出した。
…あやうく迷子である。
助けに行くつもりが迷子って。
情けなくなったユエであった。
クロウについて走っていくと、
「いや、こないで…」
僕と同じくらいの年の女の子が大きな草色の瞳にいっぱいに涙をためて座り込んでいた。
ふわふわしていそうな、やわらかそうな髪は乱れていて、あちこちに葉がついていた。
顔も転んだときについたのか、泥がついていて。
それをおいつめるように、そこには6体の野犬…のような魔物がいた。
ここには、こんな魔物も出没するのかと見当はずれのことを考える。
クロウはやっぱり面白くなさげに、目の前で背中をみせている一匹を爪で引き裂いて屠ると、彼女の前まで辿り着く。
睨みをきかせながら、彼女を守るようにその場を動かずじっとしている。
僕は、クロウの後をおって、彼女に声をかける。
「大丈夫?」
「あ…あぁ…」
うまく言葉が話せず、声をもらすだけだった。
魔物たちは、対象を邪魔されたクロウに向けたらしく、一斉にとびかかっていった。
「く、クロウ!」
僕は彼女を背にかばいながら、クロウをみているしかなくて。
そんなクロウは、その場を動くことなく、一哭した。
すると、魔物たちは一瞬動きを止め、その一瞬の隙にクロウは5体をいとも簡単に爪で引き裂いて戦闘を終わらせた。
なんともあっけないもので。
ユエは、彼女を立たせ、ついでに核も6個回収して町に戻ることにした。
腰が抜けてしまったのか、へたりこんで震えている彼女を支えて、なんとか道まで戻る。
介抱しながら、しばらく待っていると、やっと落ち着いたのか話してくれた。
彼女の名前はリリー。
なんでも、調薬士を目指しているらしく、自分で調合の練習をしているらしい。
その材料をとりに、今日は町からでてきたらしかった。
でも、今日はもう帰るとのことで、一緒に町まで戻ることにした。
「あの、ほんとにありがとうございました」
「うんん、僕何もしてないしね」
クロウが、ふんっと鼻を鳴らした。
リリーが気に入らないのか、仲良くしたがらなかったのだ。
「あの、これも…」
「あぁ、いいよ。たくさんとったからね」
なるべく気にやまなくてもいいように、笑って言う。
リリーには、多めにとっていた薬草を少しあげたのだ。
依頼は20個だし、困ることはない。
「今度、必ずお礼します!」
「気にしなくていいのに…」
そんな気を使われると困ってしまう。
こっちとしては、偶然のことだったし、あまっている薬草をあげただけなのだ。
ユエも調薬はできるが、精度は決してよくはない。
錬度もあるのだろうが、村一番の調薬士は僕の5倍は効果が違うのだ。へたしたら、もっと違うかもしれない。
なので、薬士の薬は高値で取引される。
「あーじゃあさ、今度僕に薬作ってよ。材料持ち込むからさ」
「え?」
「それがお礼でいいよ」
「で、でも…」
「僕も調薬できるけど、効果はよくないしね。作ってもらえるとうれしいな」
「わかりました!がんばって腕をあげておきますね」
リリーは僕に住所を告げると、頭を何度もさげて行ってしまった。
「僕の貧乏も少しはマシになるかなぁ…」
薬代が浮くかもしれないと、貧乏がすっかりしみついてしまっているユエだった。
やっと協会前まで辿り着いた。
おとといの夕方に出て行ってからまだ丸1日と半日くらいしか経っていないのだけれども。
「クロウ、やっとついたね!早く報告してお金稼がないと!」
すでに、冒険者というよりも日銭を稼ぐことに意欲を燃やしているようだ。
クロウは呆れた顔で僕の顔をみていたけれど、さっさと門をくぐって行ってしまった。
「あ、まって…」
あわててクロウの後を追いかけていった。
「メイさん、こんにちは」
カウンターには、おとといと同じようにメイさんが陣取っていた。
でも、そこにはもう一人お客様がいた。
僕より少し上くらいの、黒いローブを着て杖を持った、いかにも魔法使いです!といういでたちの女の子。
後姿なので、顔はわからなかったけど、赤いまっすぐな髪が腰まで伸びていたので、女の子だろうとあたりをつけたのだ。
「あら、ユエくん。いらっしゃい。少し待っててね」
メイさんは優しく微笑んで、そう言ってくれた。
なんか、家に帰ってきたような、ほっとする感覚に襲われる。
少しくすぐったくて、僕はごまかすように近くのいすに腰掛けて待つことにした。
しばらくして、ローブの女の子は協会から出て行った。
出て行くとき、僕のほうをチラッと見て行った気がするけれど、早く報告してお金を稼がないとという思いに勝てるわけもなく、すぐにそのこのことは忘れた。
「これ、依頼の薬草と、核です」
カウンターに依頼品を載せる。
メイさんはそれをみて、びっくりしていた。
「たくさんとってきたのね…」
数を数えてみると、薬草が203個、核が106個、ついでに犬型の核が6個。
「これ、どこで出会ったの?」
犬型の魔物の核を手で触ってきいてきた。
「薬草がとれる草原の近くですけど…」
「おかしいわね…この魔物はこんなところに出ないはずなんだけど…」
なぜ核をみただけでわかるのかと疑問をきくと、どうもその核には魔物の情報が記されているらしく、姿と名前くらいならわかるそうだ。
「でも、よく倒せたわね。この魔物、Eランク相当の魔物なんだけど」
チラッとクロウをみて、
「まあ、いいわ。薬草とラグルの核ね。これは何度でも受けられるうちの協会で発注している依頼なの」
「そんなのがあるんですか」
「えぇ。薬草が足りなくならないように、あとは、簡単な魔物で経験を積んでもらうためよ」
協会もいろいろ考えているようだ。
確かに、薬草が枯渇しては、日々困る人がでてくるだろうし、町の安全も魔物を狩ることによって得られるのであれば、1石2鳥である。
メイさんは、依頼の数だけ報酬を出してくれた。
薬草の採取の報酬が5銀だったので、10回分で50銀
魔物の核は、報酬が10銀だったので、21回分で210銀
合計で260銀だ。
ユエはほくほく顔でそれを受け取り、巾着袋にしまった。
「ユエくん、次はどうする?」
「んー…」
次を何も考えていなかった。
「僕にできそうな依頼ありますか?」
メイさんは思案顔になり、ひとつの紙をとりだした。
「これ、まだ貼りだしてなかったんだけどね」
紙には、
急募!下水道の魔物駆除
出現魔物:ラッド、アメーバ、エアフィッシュ など。
期限:20日まで
注:下水道最奥にある祭壇に、新たに結界核を設置してくること。
「結界核?」
「結界核っていうのは、言葉通り結界を張ってくれる魔道具のことよ。魔物の核から作られるのよ」
「へ~、そんなものがあるんですね」
「えぇ。それも万能じゃなくてね。一定期間で壊れてしまうから、定期的に核を置きに行かなくちゃならないの」
なるほど。
つまり、あと20日くらいしたら核が壊れちゃうんだね
「結界が張ってあるのに魔物って出るんですか?」
「威力が弱まってきたら、弱い魔物なら通れちゃうみたいよ。網目が広くなっていくイメージかしら」
足元で伏せているクロウをみて、
「ねぇ、クロウ。僕にできるかな…?」
クロウは気だるげに僕をみて、好きにしろ、とまた目を閉じてしまった。
否定されなかったのなら、大丈夫なんだろう、と思うことにした。
「受けます!」
「じゃあ、処理しておくわね」
「お願いします」
メイさんは、カウンターの中から、鍵と古ぼけた紙きれ、それと白く輝く核を取り出した。
「これ、下水道に入るための鍵ね。こっちが下水道の地図。核を設置する場所も載ってるわ。そしてこれが結界核。なくさないようにね」
僕の手にそれをおいて、下水道の入り口の場所を教えてくれた。
「気をつけて。期限は今日から20日の間よ。くれぐれも遅れないようにね」
「はい」
僕は頷いて、協会を後にした。
気づけば外は夕焼けで赤く染め上げられていて。
…下水道には、明日からかな…
恥ずかしかったけど、また協会に戻った。
「あの、メイさん」
「どうしたの?」
「どっかに泊まれる場所ないですか…」
そう、宿がどこにあるのかわからなかったのだ。
メイさんは、目をぱちくりさせて、ふふっと微笑んでから、協会の3階の部屋をひとつ貸してくれた。
ここは宿もしているようで、町の宿より格安で泊まれるんだそうだ。
町の宿屋は1泊100銅、協会だと50銅なんだって。
ありがたく使わせてもらい、僕は久しぶりのベッドに身を沈めて、眠りについた。
お金の単位は
銅、銀、金になってます。銅が安くて、金が高い。
1000銅で1銀、1000銀で1金