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少年冒険記譚  作者: kakeru
2/62

date02:発見

04-05まとめました。加筆修正はしておりません。



クロウと出会って、はや5年がたった。


僕は10歳になった。



あれから、僕はよく森へ足を運ぶようになった。

もちろん、ちゃんとその日の夕方には帰るようにしている。


僕はというと、なにかが襲ってきてもなんとかなるようにと、あの日から剣を父に教えてもらうようになった。


今ではそこそこ使えるようになってきたような気はしている。

実践で使ったことはないので、腕前は全然わからないけれど。




今日も、木刀と、ナイフを腰にぶらさげて森の中を歩いていた。

クロウはどこからきているのかわからないけれど、1時間ほど森の浅いところをうろついていると、ひょっこり姿を現してくれる。



そして今日も、ひょっこりと姿を現した。



「クロウ」



抱きつこうと手を広げて近寄ると、ひょいっとかわされる。

切なげに見つめると、そんな僕に冷たい一瞥をくれて、やれやれと頭を振る。



クロウはとても知性が高いようで、こちらの言っていることがきちんとわかっている。



「今日は、あっちを見てみようと思って」



そう。

こつこつと探検を重ねているのだ。


この森は、サマルの森と呼ばれている。

少しずつだけど、森の探索範囲を広げているのだ。


村の資源にもなるし、なにより冒険することが楽しくて仕方ないのだ。




あの日から、魔物にあったことはない。

浅いところにはでないようで、そう考えると相当深部まで迷い込んでいたようだ。



クロウと一緒にぶらぶら森の中を歩く。

聞こえる音は、葉が風に遊ばれて囀る音と、鳥のささやき、だけだった。

ユエは自分の足音を殺す術を完璧に覚えていた。



村はサマルの森の入り口にあり、その北側からずっと森が広がっている。

今日はその北東にあたる場所に来ている。

5年かけてこつこつきているので、今では少し深いところまで探索の手を広げていた。



「クロウはさ、この森の先って何があるか知ってる?」



チラっと僕をみると、そっぽをむいた。



「知ってそうだね。でも教えてもらえないよなぁ」



そう、クロウは言葉を話せない。

よって、なにがあるかを知るのは、自分の足で歩き、自分の目でみるしかないのだ。



と、目の前に崖が現れた。



「こんなとこに崖があるのか…」



手をついて、土質を見ると、もろく崩れやすかった。

よじ登るのは無理そうで、崖にそって東へ向かう。


しばらく歩いたけど、崖の終わりが見えてくることはなかった。



「どこまで続くんだろう」



もうしばらく歩いてみると、一部土肌が流され、人工物らしきものが曝け出されていた。



「クロウ、これ何かな…」



見てみると、クロウは金の瞳を細めて、それを見つめていた。


僕はそれに近づいて、手で触れてみる。

冷たいような、暖かいような、よくわからない物質で。

でも、堅くどっしりとした質感が返ってくる。



「壁、なのかな…」



クロウを見ると、先程よりさらに険しい表情になっていて、これ以上触れてはいけないような気になってきた。


ざっと見回してみるも、むき出しになっているところはここ以外になく、中に入れそうな場所も当然見当たらなかった。



「ん、木の実とか薬草を集めて帰ろうかな」



時間的にも、そろそろ村に向かわないと夕方に間に合わなくなりそうだった。





ぶら下げてきたかばんに、薬草や木の実をいっぱいに集め村に向かっているとガサガサと遠くから音が聞こえてきた。

ついで、人の声。



「…エー。ユエー、どこだー」



「コット?どうしたんだろう…」



クロウと目を合わせて首をかしげ、



「ここだよー」



コットの方に歩き出した。



僕はこの時気づかなかったんだ。

あまりに当たり前のことに。



クロウが、魔物なんだということに。



そう、傍にはクロウがいたのだ。。

ユエは、クロウの存在を誰かに話したことがなかった。

なんとなく、話したくなかったのだ。



「お、ユエ!どこいってたんだ、探し、た…ぞ……」



コットは、今は13歳。

兄貴分であることに変わりはなく、僕より体格もずいぶん立派だ。

おそらく、父親に似たのだろう。

コットの父親はごつかった。

短く刈った茶色い髪に、鳶色の瞳、でも、愛嬌のある顔立ちだ。

それは母親に似たんだろう。


今は、その愛嬌のある顔が驚愕に彩られる。



「くっ、離れろっ」



コットは急に僕の方に駆け出し、クロウと僕の間に立つ。



「え?」



コットはユエをかばうように、クロウの前に立ち、威嚇している。

今にも腰の剣を抜き放ってしまいそうだ。



クロウは、それを面白くなさげに見ていて。



「まって、コット!」



僕はあわててクロウとコットの間に立つ。



「クロウは僕の友達なんだ!」



「は?何言ってやがる。そいつは魔物だっ!危ないんだよっ!!」



コットは表情険しくクロウの隙をうかがっているようだ。



「クロウは何もしないよ!!僕を助けてくれたんだっ!」



「目を覚ませユエ!魔物はそんなことしない!騙されてるんだ!!」



「クロウは魔物なんかじゃないっ!悪く言うなっ」



コットがクロウのことを知ろうとしてくれないのが、すごく悲しかった。


クロウが何をしたというのか。



「クロウ、行こうっ」



僕はクロウを促して、森の奥へと走る。



「ユエっ」



コットが追ってきている気配がしたけど、僕は振り向かず全速力でその場を離れた。




あぁ、きっとコットは村中にこのことを話すだろう。

僕は、どうするべきなのか。


ユエの中には、クロウと別れる、という選択肢は存在していなかった。



その日の夜遅く、僕は家にこっそり帰った。


もうすでに時刻は日付をまたぎ、数時間経った頃だ。


玄関の戸が音を立てないように細心の注意を払って開く。


抜き足差し足で自分の部屋に戻る。

足音を立てずに歩く練習がこんなときに役に立つとは…

人生分からないものである。



旅の必需品を携帯バックにつめていく。。

今までコツコツためてきた路銀と、少しの薬。



父と母が寝ているであろう方を見る。

少し、寂しい気分になった。



で、家を出ようと廊下を静かに歩いていると、急に目の前の扉が開いた。



「うわぁっ」



「どこに行く気だ?」



父親と母親が、なんとも言えない表情でそこにいた。



「え…と……」



「コットが、ユエが魔物にそそのかされたと言ってきたよ」



「クロウは、そんなことしないよ!」



父が、そのようなことを言うのが悲しかった。



「父さんは、お前が黒い狼と一緒にいることを知っていたよ」



「え?」



「隠しているみたいだったから、あえて言わなかったけれど。何度かみかけたよ」



僕はびっくりして、父さんを見るしかなくて。



「あの子は気づいていたみたいだったけどね。何度か目があった」



クロウ、知ってたんだ…



「あれは、魔物だ。お前に危害を加える気はなさそうだったけどね」



そこで初めて母さんが口を開いた。



「ユエ…。どうするつもりだったの…?」



母さんの顔が、泣きそうに歪んでいた。



「そんなものもって、何も言わずに消えてしまうつもりだったの?」



そう言って、泣いてしまった。

父さんは、母さんを抱き寄せて、頭を撫でてあげていた。



「あ…」



僕は、何も言えなくて。



「ユエ。村を出て行くのか?」



「…もう、いられないと思って……」



父さんの顔が見れなくて、俯いてしまった。



「確かに、コットが村中に言ってまわっていたけれど」



やっぱり、と予想が的中していることを知る。



「明日、村長が答えを出すだろう。まあ、あまりいい結果はでないと思うが…」



「父さん、僕クロウが殺されるところなんて見たくないよ」



勝手に涙が溢れてきた。



「ユエ…」



父さんは僕の頭を母さんにしているように撫でてくれた。



「行ってこい。いつか、わかってくれる時がくるさ。父さんが止めても、お前は行くんだろう?」



「父さん…」



「ここはあなたの家よ、ユエ。いつでも帰ってきて頂戴。勿論、クロウくんも一緒に」



「母さん…」



母さんは、泣いていた。

でも、気丈に笑みを浮かべていて。



「父さんと母さんは大丈夫だ。…力になってやれなくてすまない」



「…ありがとう」



父さんと母さんに、頭を下げる。



送り出してくれてありがとう。


止めないでくれて、背を押してくれてありがとう。


クロウを認めてくれてありがとう。


それと、帰る場所をくれて、ありがとう。




「行って来ます」



僕は、振り返らずに家を出た。

涙は止まってくれなくて、顔はぐちゃぐちゃだったけど。

手でぬぐって、走った。


クロウが待っていてくれる森へ向かって――




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