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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第三章 四人の王
80/80

最高で最低で

 魔界攻略軍の指揮を執るラジニアは、予想外の苦戦を強いられていた。魔族軍の精強さもそうだが、何より恐ろしいのは敵に回ったアカツキ軍の突破力だった。

 戦術、個々の戦闘力、連携、あらゆる点において人間軍の上を行っている。


「さすがに乱世を潜り抜けているだけはあるな」


 歯軋りして唸るラジニアの元に、一人の伝達兵が駆けてきた。


「報告します! 魔導王フウカ様及び、ライル様の姿を確認!」

「どこだ!」

「前方より見方を撃破しつつ進行中!」

「な……!?」


 直後、大規模な攻撃魔導がそう遠くもない所で炸裂した。

 ――まさか本当に……

 険しい顔になり、ラジニアは指示を下した。


「残存機械兵をすべて投入せよ!! 何としてもここを通すな!」


 途端に、無数の機械兵が所狭しと姿を現した。

 行く手を阻む機械兵のあまりの数に、フウカたちは思わず足を止めた。


「ちょっ……もしかして全部ぶっこんできたんじゃないのあれ!?}

「恐らくそうでしょう……逆に言えば、ここを乗り切りさえすれば」

「カガリは目前、そう言うことだよね!」


 ライルは頷いて、覇道を練り上げると共に声を張り上げた。


「魔族軍、アカツキ軍よ聞け! これより俺が道を切り開く! 諸君らはその後、俺の合図で一気に雪崩れこめ!!」


 ライルは剣を抜き放ち、続けた。


「俺の言うことを聞かぬ者は、巻き添えを喰らっても良いとそう判断する!!」


 ライルは尋常ではないエネルギーを放出した。忠告は冗談ではないと察知し、全ての兵が下がりだした。

 剣を掲げ、叫ぶ。


「木霊せよ――『奏剣アルカディア』!!」


 アルカディアが振動し、不気味とも取れる音色を奏で始める。

 

「形態変化――創始の鏑矢かぶらや


 ライルは柄を握る右手を引き、左手を前に出した。丁度、弓を引くような体勢である。狙いは、上空へ定められた。

 空気が震え、風が凪いだ。

 瞬間、ライルの全身全霊を賭けた一撃が繰り出された。


「《リンフォルツァート》!!」


 不可思議な音を散らしながら、鏑矢は空へ飛翔。無数に枝分かれし、地上の機械兵へ降り注いだ。

 矢が貫くたびに奏でられるその音は、力強く確かな調律を創り出していた。

 ライルは息を切らしながら、叫んだ。


「今だ……!! 突破しろおおぉぉ!!」


 待ってましたとばかりに、魔族アカツキ両軍は攻め入った。怒涛の勢いで攻め上が姿に慄き、人間軍は蹂躙された。

 あわやラジニアの元へとたどり着かんと言うその時、


「性根を入れろお前らぁ!! まともにやれば勝てない相手じゃないぞ!!」


 小さな体から、歴戦の勇将を彷彿とさせる怒号が轟いた。


「人類の意気地を見せてみろ!!」

 

 リンクは右手を掲げ、魔導を放った。放出されたエネルギー弾は、敵の勢いを落とすことに成功した。

 兵はリンクのその姿に、全盛期のクライムの姿を垣間見た。


「余計な真似を……」


 ライルは再び剣を構え、リンクへ接近した。


「そこを退けろ! リンク!」

「魔導王に言え。ボクを人間界に送るようにな」

「人間界……? そうかその手があった!」

「話は聞かせてもらったよおお!」


 遅れてきたフウカは右手を掲げ、振り落した。


「お望みどおり人間界に戻してあげる! 《ラグナロク》!」

 

 瞬間、リンクは人間界へと転送された。フウカは目線を遠方の巨大要塞ラグナラボへ向けると、ついでと言わんばかりに言った。


「面倒だからラジニアも送っちゃおう!」

「いやそれは……」

「《ラグナロク》!!」


 フウカは『ラグナラボ』ごとラジニアを転送させた。が、その一手は余計だった。ライルは天を仰いだ。

 ――これはまずいぞ。

 してやったりと言う顔で喜ぶフウカに、ライルは呆れたような口調で言った。


「……どうやって収集つけるんですかこれ」

「え?」

「覇王を説得し停戦の号令が出たとしても……ここの戦闘はどちらかが全滅するまで止まらないでしょう。誰かが力づくにでも冷静にさせない限りは。もうそういう段階まで激化しています」


 しばらく考え、ようやく言葉の意味を理解したフウカは、数回まばたきを繰り返した。

 

「……まじ?」

「そしてこの混乱を止めれるほどの実力者はいなくなりました。こうなってはもう……私たちが急ぐ意外に策はありません」

「うー……こういうことは早めに言ってよね!」

 

 フウカは言いながら、最大までエネルギーを放出した。


「全速力でいくよ! ちゃんと着いて来てよね!!」

「誰に言っているんですか。行きますよ!」


 ジェットのように加速し、二人は戦場を潜り抜けた。

 覇王との距離は、もはや目と鼻の先だ。 


















 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 人間界に降り立ったリンクは、一目散にクライムが闘っている場所に向かった。道中、リンクの頭をとある記憶がよぎった。

 八ヶ月前、人間と魔族の両軍が激突し、有利な戦況にあった魔族軍が突如撤退、人間軍が魔界に領地を獲得したあの日のことだった。

 軍機密流出の罪で命を取られかけたリンクが、クライムに助けられたあの時のことである。


「良いかよく聞け。俺はお前を弟子にする。もっと言えば、俺の後継者にする」


 開口一番に、クライムはそう告げた。

 

「は?」


 予想外の発言にリンクはそんな間抜けた言葉しか出なかった。クライムは腕を組んで続けた。


「簡単に言うとだな。俺の命はもう長くない。オーディンに残りの寿命をほとんどくれてやったからな」

「……で、死ぬ前に何か残したいと? 年寄りの冷や水じゃないか」


 リンクからすれば、寿命を削っただの先が長くないだの、そんなことは心底どうでもいいことだった。


「覇王をとりなしてくれたのには感謝するけど、あんたの弟子になる気はない」

「じゃあ弟子じゃなくていい! そうだな……あ! お前俺の養子にでもなるか!?」


 冗談とも本気とも取れない提案に、リンクは苦笑いしか出来なかった。

 ――何を考えてるんだコイツは。


「面白くない冗談かますね。いやそれより、ずっと聞きたいことがあったんだ」


 かねてから、リンクには疑問があった。もうすぐ死ぬというのなら、丁度いい機会だからここで聞いておこうと思いついた。


「あなた、ボクを恨んでないのか? ボクが殺した先代の聖騎士は、あなたと深い中にあったって聞いたよ」

「……あいつとはまあ、何だ。自分で言うのもなんだが、友達以上恋人未満って奴だったよ。けどな……前にも言ったはずだ。恨んでねえよ」


 ――嘘だ。

 リンクは思っていた。クライムのような情に厚い人間が、仲間の死の直接の原因を許すはずがない。

 仮に本当に恨んでないとすれば、クライムには何か特別な思想がある。クライムの強さの本質はそこにあると、リンクはそう踏んでいた。


「教えてくれないかな。あなたが辿り着いた境地を」

「別にそんな大層な事でもねえ。言ってしまえばよ……気付いちまったんだ。どれだけ復讐しても、追いつけねえってことに」

「追いつけない?」

「それだけ俺の周りではバタバタ人が死んだ。んでもって何でか知らねえが、俺はその死に目にやたらと出くわしちまった」


 その時のクライムの眼を覗いて、リンクは微かな戦慄を覚えた。

 ぞっとするほどに達観した、生死を超越したような眼だった。

 ――いったいどれだけの死を潜り抜けてきたんだ。


「死んでいくやつらがよ……俺の手を取って色々言うんだ。その瞬間、いやでも理解しちまう。こいつの遺志は俺に託されたんだって」

「それで、託された物からあなたは何を考えたんだ」

「……うーん。それは秘密だな!」

「なっ……」


 クライムはへらっと笑って、大きな手をリンクの頭に乗せた。


「気が向けばそのうち教えてやるよ。まあ、お前ならそのうち分かるだろうけどな多分」

「あのねえ……」

「リンク、俺はよ。俺がここまで生き残ったのには何か理由があると思ってんだ。で、ここからは俺の推測って言うか希望なんだが」

「……何さ」

「カガリやフウカ、それにゼリナアンク、お前も含めて、俺より下の世代には不気味なほどに才能が集まってる。魔族だってそうだ。いずれ世界を引っくり返しちまうんじゃねえかって、そんな可能性すら感じるくらいにな」


 クライムはリンクの頭に乗せていた手を剣にかけた。


「俺はお前たちの作る世界に、俺たちの世代の爪痕を残したい。俺が背負った覚悟は無駄じゃないって、仲間の死は犬死にではなかったって、それを証明するために俺は生き残ったんだ」

「……わかったよ。ボクにその爪痕とやらを残しなよ」


 そうして、リンクはクライムの教えを受けることになった。

 結果として、リンクは一回りも二回りも強くなった。センスのみで振っていた剣に理論が加わったことで剣はますます冴えを増した。残虐性の強かった精神に道徳心が加わることで、魔導の質も向上した。

 短い間だったが、二人の間には確かに信頼ができていた。 

 決戦前夜、リンクは再びクライムに問うた。


「で、そろそろ教えてくれないかな。あなたが復讐の鎖を解くためにたどり着いた境地」

「……そんなこと話したっけ?」

「質問に質問で返すなよ……!」

「多分テキトーに話したんだろうよ。俺の言葉をあんまりまともに受け取るな。大体ノリで喋ってるから」


 あしらうように手をひらひら振りながら、クライムは欠伸をした。


「でもまあ、お前ならそのうち分かるさ。それがきっと正解だ」

「カッコいいこと言ってるつもりなのかもしれないけど、それ前に言ってたことと一緒だからな」

「……そうだっけか?」

「本当にテキトーな人だなあなたは……!!」



 ――でもあんたの言うとおりだ。分かる気がするよ。


 走りながら、リンクは歯を食いしばった。


「まだ……まだ死ぬなよ……!!」


 目で確認できる場所で、火球が炸裂していた。ダウトの繰り出した魔法である。リンクは敵味方関係なく蹴散らしながらそこへ向かっていた。

 ――あなたはいつだってテキトーだ。

 

「別に、深い意味があって隠していたわけじゃないんだろ。ただカッコつけてただけ、そうだろ!?」


 リンクは全力で駆けた。木々を薙ぎ倒し、最短のルートでそこへ向かった。

 

「……いいぜ、付き合ってやるよ」

 

 ――その一世一代のカッコつけに……!!

 リンクの視界に、クライムの背中が映った。ダウトの炎に焼かれながらも、懸命に剣を振るっていた。


「ぅおおおおぉぉぉおあああ!!


 空気を震わす雄叫びが届いた。満身創痍の中、最後の力を振り絞った抵抗である。リンクは拳を固く握った。


「分かったよ……あなたが辿り着いた境地。確かにそんな大層な物じゃないな」


 クライムの背中は、リンクに言葉を超えた何かを伝えていた。 

 クライムが背負ってきた無数の遺志を垣間見る気分で、リンクは足を動かした。


「あなたは死んだ者の絶望じゃなく希望を尊重した。託された無数の未来のために戦う覚悟――それがあなたの強さ」


 クライムが渾身の力で剣を上に振り上げた。同時に、ダウトは全力で火炎の魔法をぶつけた。


「燃え尽きろ……! 《プロミネンス》!」


 熱気が伝わってきた。もうクライムは限界だろう。リンクは右足で力強く大地を蹴り跳躍した。


「リンク……!! どうだ、俺はカッコいいだろう!?」


 命の叫びが、リンクの鼓膜を震わした。

 ――最高にカッコいいさ。少なくともボクの中では。

 リンクの両手が、オーディンの柄を握りしめた。

 胸の内の言葉を飲み込み、リンクは言った。


「……最低にカッコわるいよ馬鹿野郎!!」


 微かに微笑み、クライムは灰となっていった。

 次の瞬間、クライムからリンクに渡った大剣は振り落とされた。

 刃はダウトの身体を切り裂いた。ダウトは後方へ素早く下がった。

 

「お前は……」

「聖騎士リンク! ここからはボクが相手だ」


 リンクは剣を掲げ、高らかに名乗った。

 ――あなたが背負ってきた分、これからはボクが背負って行こう。 

    

「絶望を打ち砕け――《崩壊の剣オーディン》!!」

「クライム……とんだ置き土産をしていきやがったな」


 リンクは強い覚悟を秘めた目で、ダウトを見据えた。


「希望の力とやら、ボクも信じてみるよ。カッコつけが言うに――それが正解らしいからね」  

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