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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第三章 四人の王
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王の誕生

 ――どういうことだ。

 ドロシーを撃破し、クライムたちの援護に向かっていたリンクは思わず舌をならした。


「さっきまで確かにこのあたりで戦っていたはずだろ……!」


 強いエネルギーを確かにリンクは感じていた。

 一刻も早く駆けつけねばと来たところ、現場は既にもぬけの殻。クライムもグスタフも、ダウトですら何処かへ消失していた。

 ――何かが、この戦場で何かが起こった。


「クソッ! 時間がないって言うのに……!!」


 今のクライムに長期戦はあまりにも無謀である。かと言って、ダウトは短期決戦で仕留められるほど甘い相手ではない。

 急がなければならなかった。一分一秒が過ぎていく度、クライムの命は削られ続ける。

 ――どこに行った。考えろ、考えろ……!!

 その時、リンクの耳に大きな声が入ってきた。


「聖騎士リンク様! 覇王様より連絡事項を承っております!」

「……覇王から?」


 わざわざ人を飛ばすなど余程の重大事であろうことは確かだった。

 状況を打開するヒントになるかもしれない、そう思い立ったリンクは兵に言った。


「聞かせろ」

「はっ! 現在人間界が魔人軍およびアカツキ軍および魔族軍による攻撃を受けております! つきましては、覇王様はラジニア様と軍を二つに分け、覇王様が人間界救援を、ラジニア様が魔界攻撃の采配を振るう次第です」

「……何だと?」


 リンクはこの情報から、アカツキ軍の裏切り、魔人軍の台頭、それらの人間界襲撃を読み取った。

 ――それ以上の細かい指示はラジニアにでも聞けって事だろうな。


「伝達は以上だな? ご苦労だった」


 リンクの言葉を聞くと同時に、伝達兵はその姿を消した。

 もうじき、人間軍全体にこの情報は知れ渡るだろう。

 人間軍の統制力と練兵度ならば、軍の編成は各々の判断に任せれば十分に可能。十分としないうちに二つに分かれることが出来るだろう。


「……しかし、まさか人間界が攻撃を受けるとは」


 リンクはうっすらとだが確信していた。

 ――クライムとグスタフはそこにいる。


「人間界に戻るには……魔導王の力を借りるのが一番の近道」


 その時、遠方で巨大な魔導が炸裂したのをリンクは感じ取った。


「あの規模の魔導を使えるのはライルと魔導王と覇王くらいのもの……あそこか」


 言い終わらないうちに、リンクは足を動かしていた。











 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 時同じころ、リンクの探し人は窮地に立たされていた。

 ダウトと共に人間界に飛ばされた、クライムとグスタフである。


「……私たちが魔界に行ったのと同じ道理でしょうか」

「きっとな。魔導でできたんだから魔法でできないことはないだろ。それよりだ……」

「ええ。飛ばされたのは、私たちだけではないでしょうね」


 二人と対峙するダウトは、余裕そうな笑みを浮かべて口を挟んだ。


「如何にも。計画通りに事が進んでいるなら、三時間もあれば覇王の城を制圧できる。それ即ち、人間界の制圧だ」

「ふざけやがって……そんなことさせねえよ」


 鬼気迫る表情で呟いたクライムは、剣を振りかざして叫んだ。

 

「グスタフ!! 兵を指揮して何としてでも侵略を食い止めろ!!」

「は……? まさか」

「この赤髪は俺一人で何とかする! だから行け! 時間がねえ!!」


 グスタフはその提案を却下しようとした。二人掛かりでも厳しい相手を前に、一人でどれだけ持つというのか。それは勇気ではなく無謀だと、そう考えた。

 が、しかし。それを言うことは出来なかった。

 クライムの背中が、言葉を超えてグスタフに伝えていたのだ。

 ――差し違えてでも、ここで命を散らしてでも、敵を止める。

 王と言う立場は関係なしに、一人の戦士として、グスタフはクライムの言葉を一蹴することができなかった。

 気付けば、グスタフはこう言っていた。


「……わかりました。人間界は絶対に渡しません」

「恩に着るぜ。ありがとうよ……グスタフ」


 クライムは覇動を剣に送り込みながら、去りゆくグスタフにもう一言告げた。


「リンクを……あの馬鹿弟子のこと、頼む」

「任されました……! どうか御無事で」

「……ああ」


 深呼吸して、クライムはグスタフには聞こえないように呟いた。


「悪いが、無事ではいられない」

「戦士に敬意を表し、一騎打ちを受けて立とう……全力でな」


 両者は力を解放した。

 

「俺の命を……全てを捧げよう……! 薙ぎ倒せ――『崩壊の剣オーディン』!!」

「炎雷複合魔法――《アトミックエンジン》」

 

 爆発的なエネルギーが展開された。一切の容赦のない、純粋な殺意の衝撃だった。特筆すべきは、クライムから放たれる空気すら震わすほどの尋常ではない覇道である。

 クライムのその力を、ダウトは以前の闘いでも見ていた。

 ――今ならなんとなくわかる。あの時の急激なパワーアップは……


「寿命を代償にしてまで……そこまでして闘う理由が貴様にあるのか!?」

「ああ!! 託された遺志の為にも俺は闘い続けなければならねえ……!!」 


 決着を着けるべく、刃と拳が交差した。











 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 同じころ、クライムたちとは少々離れた場所で、一つの『革命』が起きようとしていた。

 主導者は――ノースである。


「人間界に暮らす全ての混血者に告ぐ! 時は来た! 今こそ我らは魔人と名乗

り、三つ目の種族として独立するのだ!!」


 魔術によって、ノースの声は人間界にいる全ての魔族に聞こえていた。

 威厳と自信に満ちた声で、ノースは続けた。  


「我らは人間とも魔族とも変わらない、もう一つの種族である! おかしいと思わないか! どうして支配され、窮屈な思いをする必要がある!?」


 民衆を奮い立たせるために、ノースは力の限り叫んだ。


「革命だ! 自由を手にするための、正義の戦争をやるんだ! 諸君らが思いを一つに立ち上がれば成せないことはない! 自由は万人に等しく与えられるべきだからだ!」


 ノースの声に呼応するように、人間界のあちらこちらで、魔人たちは胸にうずく何かを感じ取っていた。

 ――いける。まだ心は生きている……!

 ノースは巡らせていた策を本格的に始動させた。


「あの人の言うとおりだ! 俺たちには自由を手にする権利がある!」

「武器を持ってこい! 鍬でも鎌でもその辺の棒切れでも何でもいい!」

「今こそ立ち上がるべきだ! 未来を切り開くんだ!」

「革命だ! 革命を起こすんだ! 支配から逃れるんだ!」


 ノースに命じられ、町民に扮した兵たちの声である。至る所で流されたその声は、やがて大きな渦を作らんとしていた。

 ――クライマックスだ!

 ノースは上空へ飛んだ。全ての人に見えるように、光魔法で巨大なモニターを幾つも作り上げた。


「俺の声が聞こえる、俺の姿が見える、全ての魔人へ伝える! 我が名はノース! 諸君らを導き、未来を勝ち取る男だ!」


 ノースに流れる魔王の血が、強く脈動した。

 人々が思わず畏敬し、崇め、憧れる存在。それが王、英雄であり、魔人から見たノースの姿は紛うことなくそれだった。


「戦え!! 魔人の意気地を見せつけるんだ!!」


 この時、全ての魔人が立ち上がった。

 ノースと言う存在を以てして、魔人は初めて思いを一つにした。

 ――自由を勝ち取る。


「鬨の声を上げよ!!」


 刹那、巨大な雄叫びが世界を揺らした。



 







 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 軍の再編成が完了するのに先駆け、カガリはすぐに動ける者だけを連れて本陣へ向かった。

 本陣にいたはずの魔人軍とアカツキ軍が突如人間界へ現れたということは、そこに何かがあるはずだと考えたのだ。

 果たして、その何かの正体はカガリの目に飛び込んできた。

 本来、『決別の森』が存在していたはずのその場所は完全なる更地と化し、まるで障壁のように巨大な魔方陣が展開していた。

 そして、その魔法陣の前にたたずむ一人の青年。


「……来たか。覇王」


 ペルシアはゆっくりとそう言った。対面するのはこれが初めてだが、カガリが纏うオーラで覇王だということは容易に判別できた。

 ペルシアが知っている王の人材――アレクサンダー、アレン、ノース、ハーデスなどと比べても何ら謙遜ない圧倒的引力。


「誰だお前は」


 大してカガリは拍子抜けしていた。使われた召喚魔法から見て、てっきりアレンが出てくるものと思っていたからだ。

 ――果たして、どれほどの人物だ。

 カガリはさらに口を開いた。


「お前の言う通り、俺が覇王だ。で、お前はなんだ? 俺と話をするつもりなら魔王を連れてこい」

「ボクは……いや、俺は……」


 ペルシアは一瞬、言葉に迷った。

 これから言わんとしている言葉は、この戦争においてとても大きな意味を持ってくる。既に皆の許可は取ってあるため、それを名乗ることに問題はない。

 ペルシアは思った。果たして自分に、その重責が背負えるのかと。

 ――いや、こんなところで迷ってる場合じゃない。

 ペルシアは思い描いた。自分の思う英雄の姿を。お手本となる者は、何人もいた。思い描いた彼らは、歩みを止めることなどしなかった。

 ――なるんだ、ボクも。英雄に。

 亡きキリクの姿が、ペルシアの背中を押した。


「俺の名はペルシア。魔族の――新たな王だ」


 この瞬間、魔族の命運はペルシアの手に委ねられた。

 カガリは言葉を冷静に受け止め、独り言の様に呟いた。


「……ペルシア、か。ほう……お前がフウカの言っていた……」

「魔王として、覇王に対談を申し込む……!」


 沈黙が場を支配した。

 カガリが話し合いに応じれば、一万年の闘いの歴史にピリオドが打たれる、その希望が見えてくる。

 数十秒の沈黙の後、カガリは静かに言った。


「一つ聞かせろ。聖騎士ゼリナは魔人軍に付いたのか?」

「聞いた話だが、ゼリナはちょうどこのあたりで、自ら命を絶ったとのことだ」

「…………そうか」


 ――馬鹿野郎が。

 

 カガリは一歩歩み寄ると、ペルシアに手を差し出した。

 話し合いに応じる、その意思表明と受け取りペルシアも近付いた。


「感謝す……」

「話し合いには応じない」

「……っ!!」


 掌を向け、カガリは衝撃波を繰り出した。

 回避行動を取る間もなかった。ペルシアは吹き飛び、血を流しながらふらふらと立ち上がった。


「何故……!」

「逆に応じるとでも思うのか? なめるなよ。此度の戦は不退転の覚悟で仕掛けたもの。未だ停戦する期には非ず!!」

「ああそうかよ……」


 ――やっぱり、闘うしかないのか。

 ペルシアは覚悟を決めた。

 人間界最強を相手に、どこまでやれるかは分からないがそれでも――


「《雷神風神デュアルディオス》!!」

「総員下がれ! 巻き込まれないよう注意せよ!」


 ――魔王を名乗った以上、後には退けない!!

 魔族と人間、双方の王が激突した。

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