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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第三章 四人の王
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リベンジ

「む~~~~~~」


 唸りながら、置いてけぼりにされた魔導王フウカは悩んでいた。

 フウカを取り囲むのは数えきれないほどの妖精族フェアリー。ライルとペルシアが、互いに手を出すなと言い残しはしたが、そこが戦場である以上、警戒状態を解くことは出来なかった。

 

「む~~~~~~」


 さらに唸ると、妖精族は二、三歩後ずさり警戒の色を濃くした。

 ――だめだこりゃ。

 ライルとペルシアがどのような結論に至るのか、はたまた既に結論は出たのか。それは分からないが、黙って流されるようなことはしたくなかった。

 少なくとも、知る必要がある。人間の王の一人として、ライルが何故あのような考えに至ったのかを。


「よーし!」


 フウカは頷き、威勢よく立ち上がった。手を腰に当てて辺りを見渡すと、笑顔で言った。


「お話ししようか!」











 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 フウカが平和的に事を進めようとする一方で、激化する戦場はいくつもある。

 聖騎士リンクとドロシーの戦場などがそうだ。短期決戦を望む二人だけに、戦闘の規模も大きなものになるのは必然。

 互いに共通している点は、一撃で決めるという一点のみ。

 完全獣化したドロシーと、肉体強化魔導を何重にも施したリンク。どちらも急がねばならない事情がある。

 ドロシーは対等に闘える時間が限られていること。獣化の性質上、長期戦になればなるほど不利になるのは明白。

 リンクは、ダウトと闘っているクライムを救援するするため。今のクライムにダウトを抑えるだけの力がないこともまた明白だ。


「早く倒れて良くてよ」

「こっちのセリフだ。あいつには時間がないんだよ……!」


 形勢はリンクに若干有利。スピードに物を言わせた連撃に次ぐ連撃で、ドロシーに無数の傷を刻み続けていた。

 一撃の重みでこそ獣化したドロシーが勝っているが、リンクにはそれを容易に躱せるだけの身軽さがある。

 ――点や線の攻撃では埒があきませんわ。

 自分より早い敵を捉える術、そんなものは今も昔も大して変わらない。


「死の世界を構築せよ――」


 狙った一点に誘い込むか、回避できないほどの範囲攻撃を繰り出すか。

 このうち、リンクは前者に引っかかるような敵ではない。いざとなれば誘導を打ち破るほどの馬力も持っている。

 ドロシーは広範囲攻撃による一撃必殺を狙った。


「《アブソリュートゼロ》」


 魔法名と共に、ドロシーは雄叫びを上げた。

 刹那、ドロシーを中心として絶対零度の世界が広がり始めた。


「勝負を決めに来たね。いいよ。こっちもそのつもりだったし」


 リンクはドロシーの真正面で立ち止まると、腰を低く構えた。


「クライム仕込みの型破り剣術、見せてやるよ」


 呟いて、リンクは真正面から向かって行った。剣を後ろに引くと、冷気との衝突の瞬間に高密度の覇道と共に刺突。

 直後、相殺された勢いで爆発が起こった。

 噴煙の中、ドロシーの眼は捉えていた。リンクの持つ剣が粉々に砕けたのを、右手が凍り付いたのを。

 

「私の勝ちですわ……!!」


 好機と見るや、ドロシーは大地を強く蹴り、リンクの首を獲りにかかった。

 右手は封じられ、剣も砕かれた。形勢逆転はここになった。


「……言ったはずだよ」


 ドロシーの爪が降りかかる直前、リンクはふとそう言った。

 

「例え使う武器が骨の剣だろうとひのきのぼうだろうと……あんたごときに負けるなんて有り得ない」


 言い終わった時には、血飛沫が待っていた。

 リンクの物ではない。ドロシーのである。

 右手の氷を溶かしながら、リンクは吐き捨てた。


「それが例え――手刀だろうとね」


 ドロシーの獣化が解け、血と共に魔力が徐々に消えていく。


「どうやら、今回は奇跡は起こらなかったようだね」


 ドロシーの魔力が感じ取れなくなったのを確認し、リンクは走り出した。











 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 そのころ、将軍ノブナガ、聖騎士ゼリナが率いる十五万の軍勢が、ノース率いる魔人軍により占拠された大拠点奪還作戦を遂行しようとしていた。

 目標が目視できる位置まで接近したノブナガは、突撃のタイミングを計っていた。


「これだけの大軍じゃ。敵は既に防衛の準備を整えているであろう」

「でも、正面突破でいける気もしますけどねえ」

「馬鹿者。儂はそのような油断をした者を何十人と滅ぼしてきたわ」

「歴戦の大将軍様が言うと説得力がありますなあ」

「お主、覇王の前以外ではけっこうやかましいのお」

「おっと失礼」


 人差し指を口の前に持っていき黙ったゼリナに苦笑を向け、ノブナガは固く閉ざされた門を見据えた。

 元々はフウカが障壁を張り強固に閉ざされていたのだが、魔人軍突入の際に破られたようで拠点内に入るのは容易い。

 しかし、中にどれだけの兵が待ち構えているのかが不明である。世界中にいる魔人の数を考えれば、現実的ではないが百万程度の兵を動員することも可能ではある。

 

「さて、どうしたものか……」

 

 と、言った時、ノブナガは目の前の光景に目を疑った。

 門が開いたのだ。

 

「まさか向こうから出てくるとか?」


 ゼリナがそう呟いた直後、それは現実になった。

 ノース、クイント、ミナミを先頭に、五万の魔人軍が姿を現した。

 この事態に、兵たちは騒然となった。気性の荒い物は、得物に手を掛けようとまでしていた。

 ――あのノースとか言う男、英雄なのか阿保なのか……


「皆静まれい!!」


 ノブナガは数多の苦境で鍛え上げた一喝により兵の動揺を鎮めた。

 ――見定めてやるわい。


「そこの者! 名を名乗るがよい!」

「魔人を束ねし王、ノースと申す。貴殿はアカツキの将軍ノブナガ公とお見受けする」

「ご名答じゃ! 覇王カガリの命を受け、その方の命を頂戴しに参った」


 ノブナガはノースの実力を測っていた。風格、度量、戦闘力、いずれをとっても他の王を名乗る者と遜色ない。

 ――あのカガリが欲しがったのも無理はないか。

 しかし、どういう魂胆でわざわざ出てきたのか、それが分からない。

 次の言葉を待っていると、ノースが一歩前に出た。


「我が魔人軍の兵力は、今ここに出ているもの――五万が全てだ」

「……それは、こちらの数を知っての発言か」

「無論だ。私が貴君に言いたいのは、仮に戦闘となれば私たちは全滅するだろうという事だ」

「ほう! それは良いことを聞いたわい!」


 ノブナガは軍配を手に取り、天に掲げた。突撃の合図である。ノブナガの兵たちは反射的に刀を抜いた。


「よく訓練されている、素晴らしい戦士たちだ。戦乱を勝ち残ってきただけはある」

「最後に、言い残すことはあるか」

「最後? ノブナガ公、冗談がお下手ですな。こちらとしては終わる気はないですぞ」

「どういうことじゃ」

「確かに先程申し上げた通り、その大軍が押し寄せれば我らは全滅するでしょうな。ただし、それにはそちらもそれなりの犠牲を覚悟することだ」


 ノースは唇を湿らせ、力説した。


「俺には貴方がここに来ることが分かっていた。何故か? 覇王が俺を内心で恐れているからだ。例え勝てたとしても、それ以上魔族と戦えなくなるような損害を受けるかもしれない。だからアカツキに出撃を命じた」


 その時、ゼリナが剣の柄に手を掛けた。


「訂正しなさいノース。カガリ様は貴方ごとき恐れてはいない」 

「ゼリナ。そう言えばお前も魔人だったな。後で選択すると良い。俺とカガリ、どちらがお前の王としてふさわしいか」

「何を言っているのか理解できないんだけど? 殺していいよね?」


 足を出そうとしたゼリナを、ノブナガが引き留めた。

 ノブナガを睨んで、不機嫌そうにゼリナは言った。


「離してくれない?」

「……ノースよ。続けろ」

「俺たちは勝てないにしても一人一殺――お前たちに五万の犠牲を出させる自信はある。そしてここで負けたとしても、その敗北は世界中にいる魔人に伝わり大きな渦になるだろう。そうなればどうなる? 魔族と人間に魔人が加わり、三つ巴の戦争となる」


 ノブナガは黙って聞いていた。そして必死に考えていた。最終的にどう動くかということを。


「分かるか? ここで戦っても、利益になることは何一つない」

「で、お主は儂らにどうしろと?」

「教えて差し上げよう。アカツキが最大の利益を得る方法――」


 ノースは微かに口角を上げた。半分流れる魔王の血脈が、ノースの王としての姿を一層強調させた。


「覇王連合を抜け、魔人に付け。それで、全てがいい方向へ動き出す」

「……十秒、時間を貰おう」


 ノブナガは急速に思考を進めた。

 悪くはない。元々、今回の戦争に参戦したのも連合から頼まれて仕方なくであるし、アカツキの戦力を削りたいと言う連合側の姿勢も明らか。

 そして何より、ノースの存在。もしこのままノブナガが首を縦に振れば、少しの損失もなく味方が手に入る。そしてその先にやるであろう行動も、ノブナガには見当がついていた。

 ――この男、強者なり。


「あいわかった! 将軍の名を以て、アカツキ国は魔人国家と停戦、及び友好同盟を結ぼう!」

「これからよろしく頼むぞ。ノブナガ」

「儂を呼び捨てにするか! 見上げた度胸、天晴じゃ!」


 ノブナガは豪快に笑い、部下に命じた。


「黒法螺を吹けえ!!」


 指示の直後、法螺貝の音が響き渡った。と同時に、ゼリナの下に付いていた三万の兵はアカツキ軍に瞬く間に粉砕された。

 ゼリナが、鬼のような剣幕で問うた。


「何のつもりですか」

「我が軍では赤、白、青、黒の四つの法螺貝で伝達をしておる。今の黒法螺は――寝返りの合図じゃ」

「どこまでも狡猾で周到な……!!」

「儂も相当なものじゃが、ノース程ではないわ」

「人聞きの悪いことを言わないでもらいたいな、将軍殿」 

 

 ノースの狙い通り、アカツキ国はおびき出され味方に加わった。つまり、この場で人間に味方をする者は一人となった。

 

「ゼリナをこの大軍で取り囲んで欲しいなんて、俺は一言も言ってないぞ」

「年寄りのお節介だ。ありがたく受け取るがよい」

「……で、ゼリナよ。どうする? 十七万の軍勢に対し、お前は一人。勝てそうか?」


 ゼリナは溜息を吐き、大人しく両手を上げた。


「俺かカガリ、どっちがお前の王にふさわしいか。選択しろって言ったよね。あたしの答えはカガリ様。これは絶対に変わらない。殺したければ殺せば? あたしはあんたに付く気これっぽっちもないから」

「俺では、カガリの代わりになれないか?」

「うん。それに、あなたの作る平和な世界は退屈そうだから」

「それは残念だ」


 ゼリナは腰から、鞘ごと二振りの剣を抜いた。


「『望剣リバーシ』魔人にあげる。これが、あたしが魔人に対してできる精一杯の協力」

「……有りがたく貰い受けよう」

「はーあ。まさか、こんな消化不良な負け方するなんてなあ……」


 負けを認め始めたゼリナに、望剣リバーシが裁きを下し始めた。徐々に砂へと変わっていく体を見ながら、ゼリナは何でもないように笑った。


「精々頑張ると良いよ。王様」


 それを最後に、ゼリナは塵と消えた。

 望剣を手にしたノースの横に、ミナミが進んできた。


「兄貴、これでええんやな」

「ああ。できれば味方にしたかったが仕方ない。彼女は自分の王に忠義を尽くして死んだんだ。とやかく言うのは野暮だ」

「王って、どっちのやったんかな? 最後に、兄貴のこと王様って言うてたし」

「……さあな。ゼリナのことはゼリナにしか分からんだろう」


 ふうと息を吐いて、ノースは顔を上げた。


「それより、まだやるべきことが山積みだ。クイント!」

「どうしますか?」

「狼煙を上げろ! どでかくな!」


 クイントは「了解」とだけ答え、右手を上に伸ばした。


「世界中に響かしてやる――夜明けの一撃を」


 小さな火球が、射出された。


「弾けろ――《ウェイクアップバズーカ》!!」


 火球は空中へ飛んでいくと、程なくして轟音をまき散らした。

 ノースは大きく息を吸い、鼓舞するように言った。


「これより! 魔族協力の元! 『人間界突入作戦』を遂行する!」


 舞台は更に拡大する。文字通り、全世界へ。 

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