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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第三章 四人の王
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結ばれた手

 アレンがハーデスを下した頃。

 ノース率いる総勢五万の魔人軍が、クイントの先導により人間界本陣へと突入。大部分の戦力を前線へ送り出している人間界側は、徹底した籠城戦法を取った。

 ノースにとっての脅威は、コウガ・ヒョウガ兄弟の操る巨大機械兵『デウスエクスマキナ』と本体からの増援。

 だが、ノースには既に勝利のイメージが固まっていた。


「デウスエクスマキナ――機械仕掛けの神か。馬鹿らしい」

「馬鹿らしいだと!? お前今そう言ったか!」

「ああこれ以上ないほどに下らん。無用の長物とはこのことだ」

「それは科学への侮辱と受け取るんだな! 死んで後悔するのだな!」


 兄妹の操縦に従い、エクスマキナはライフルを構えた。一撃で山すら溶かす、超威力のレーザー砲である。

 

「エネルギー装填完了! 消え去れえええええい!!」

「……アホ共が。それだけのエネルギーを何故破壊に使おうとするんだ」


 爆音と共に、レーザーは射出された。一直線にノースを目掛けて。

 ノースは無言で右手を掲げ、同じ規模のレーザーを放った。空中で相殺させると、ため息を吐いてエクスマキナの上空から無数の光の槍を降らせた。

 槍は装甲を貫き、重大な損傷を与えるに十分な威力を持っている。

 兄弟は思わず叫んでいた。


「ぬおおおおお!?」

「《グングニル》。科学じゃ魔法には勝てない。これがお前たちの限界だ」


 言いながら、ノースは右手に魔力を集約。光の剣を創りだし、エクスマキナに接近した。剣のリーチに入った所で飛ぶと、脚の関節部分を切断。勢いそのままに反対側の接続部も斬り捨てた。


「堕ちろ。偽りの機械神」


 支える物がなくなり、エクスマキナは重力に従って倒れた。


「ま、まだなのだな!」

「兄ちゃん、たかが足がやられただけなんだな!」

「エネルギー再装……」


 刹那、ライフルの銃口に剣が突き立てられた。


「もうやめろ。これ以上科学に罪を背負わせるな……!」


 煙が上がり、ライフルは爆発。同時に、剣を持つ腕も両断された。

 もはや、エクスマキナに闘う力は残されていない。金属の塊も同然だった。


「あわわ……」

「ま、魔王血統……じ、次元が違うんだな……」


 ノースは静かに、コックピットへの扉をこじ開けた。

 エクスマキナをいとも簡単に破壊した本人と、面と向かうことになったコウガとヒョウガは恐怖のあまり沈黙せざるをえなかった。

 しばらくして、ノースは二人の胸倉を掴み上げた。

 

「あひいいいい……!」

「こ、殺したいなら殺すのだな! ただし弟には手を出すななのだな!」

「兄ちゃああああん!!」


 ノースは静かに、しかし怒りを込めて言った。 


「お前たちは進むべき道を間違えた。決定的にだ」

「道を間違えた……?」

「ふ……」


 瞬間、コウガとヒョウガは目を見開いて叫んだ。

 

「ふざけるな! 間違えてなんかない! ボクチンら兄弟には科学の道しかなかったのだな! それを否定されたらボクチンたちは……」

「恥ずかしくて生きていけないんだな! 魔導国家ヘレンの王族の血を持ちながら魔導を使えない小生らの希望は、科学しかなかったんだな!」


 魔導国家では劣等生でしかなかった彼らでも、科学国家ならば輝けた。機会に触れている時にのみ、彼らは王族としてのプライドを保つことが出来た。

 ――そんな境遇はだいたい想像がつく。

 だが、ノースが言っている道とは、そう言う事ではない。


「魔法がどうとか科学がどうとか……俺はそういう話をしてるんじゃないんだよ!! 俺がしているのは使い方の話だ!!」

「使い方……?」

「はうとぅーゆーず?」

「そうだ。お前たちの技術は破壊に使うべきではない。むしろその逆、創造や再生に活用されるべきだ」


 ノースは鬼のような形相でまくしたてた。

 

「科学は魔法や魔導を超えれない。それは破壊活動に限ってだ。科学が最も活かされる場所はそこじゃないだろう! 人々の生活を豊かにし世に平穏をもたらす……それが科学の真の存在理由じゃないのか!?」

「ぶ、文明の発展には戦争が最も有効……そんな言葉も……」

「お前たちなら! こんなことしなくてもできるだろう。犠牲のない発展――お前たちならやれるだろう?」

「……な」

「出来ると言え!」

「で、出来ます! させてもらいます!」

「よし、だったら……」


 ノースは掴む力を緩め、何でもないように続けた。


「お前たち、俺の仲間になれ」

「…………」

「……はい?」

「言った通りだ。魔人の国の発展に、力を貸してくれ」


 口元を綻ばせ、ノースは二人の心のとげを取り除くための、切り札の言葉を放った。 


「歓迎するぞ。勿論そうなれば、お前たちは王族ではなく――ただの科学者となるがな」


 つまるところ、コウガとヒョウガには『魔導国家ヘレン本来の王位後継者』という肩書きがのしかかっていた。

 故に、彼らは能力だけの自信を持てなかった。他の何ができても、『魔導国家ヘレンの王子のくせに魔導を使えない落ちこぼれ』という言葉が心の底に巣食っていた。

 ノースの言う魔人の国へ行けば、二人は晴れてその呪縛から解放され、純粋な科学者としての道を歩める。

 断るという選択肢は、ないに等しい。


「間違えた道、正してほしいのだな」

「王様よ、よろしく頼むんだな」

「間違えたなら、もう一度やり直せるさ。お前たちならそれができる」


 ノースは、差し出された二人の手を掴み、引き上げた。

 ――さあ、次だ。待っていろペルシア。反撃の狼煙を上げてやる。


「コウガ、ヒョウガ。これからの計画を話そう」












 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 聖騎士ライルとペルシアの戦闘もまた、熾烈なものになりそうだった。

 この闘いは言うなれば、心の垣根の壊し合い。それぞれの本音をぶつけてもよいと思えるまでの、全てを掛けた命の削り合い。

 技、と呼べるものは使われなかった。ただただ、感情の高ぶりに任せて魔力と覇道をぶつけあうという、お粗末極まりないものだ。

 それでも、この勝負の行方は世界に大きな影響を与えることになる。


「ペルシア! まだ俺の話を聞く気になれんか!?」

「質問をするのはボクの方だ! 聞くかどうかはそれから考える!」


 吠えながら、ペルシアは不慣れな接近戦を仕掛けた。分かったといわんばかりに、ライルも剣を後ろへ放り投げた。

 取っ組み合いの中で、怒号とも取れる声での掛け合いが続いた。


「キリクは何を願っていた!? 何を考え、何を残した!?」

「お前と、そして俺と同じだ! 人間と魔族の共存、そのために俺にお前のことを教えた! 俺とお前が手を結べばそれは不可能ではないと、そうとも言っていた!」


 ――分かっている! そんなことは百も承知だ!

 キリクはひたすら葛藤していた。感情と理性、強くなりたい欲求と自分は小さな存在だと言う鎖の間で。

 

「教えろライル! お前の気持ちは何故突き動かされた? お前はキリクの何を見た……!? 英雄としての器に影響されたのか!? それとも何らかの言葉を聞いたのか!?」

「俺が見たのは、別に英雄の最後なんかじゃない! 俺はあの時のキリクに――」


 ペルシアは攻撃の手を休め、続きの言葉を待った。ライルはそのペルシアを投げ飛ばし、叫んだ。  


「あの時俺は、誠なる父の姿を垣間見た! 慈愛にあふれ、正義を具現化したような……! 俺はあの時のキリク以上に人間らしい親愛を見たことがない!」

「父……だと」

「ああそうだ! あれは紛れもなく、子の成長をひとえに願う一人の父親の姿だった! あれを見てなお魔族全てを恨むと言うなら、俺はそいつの正気を疑う!」

「キリク……あんたは……」


 体が熱かった。血の巡りが速くなっていると分かった。ペルシアは思い出していた。キリクの遺言を。

 ――お前ならば英雄になれる。

 

「無理だよ……ボクは自分の感情すら支配できずに……こんなわがままな奴に……英雄の資格なんて……!」

「ペルシア……!! お前はもう託されてるんだ! 逃げ道は塞がってるんだ!」

「分かってんだろ!! 俺に逃げを選ぶ度胸がないことくらい!!」


 奮い立たせるように叫びながら、ペルシアは立ち上がった。


「父さん……あんたの言葉、信じるぞ」

「ペルシア……」

「何が聞きたい。話し合いをしようじゃないか」

 

 ライルは少しはにかみ、口を開いた。


「人間と魔族の和平。そこまで持っていくための作戦を教えてくれ。協力する」

「いいだろう。魔族から人間への信頼の第一歩として、話す」


 ペルシアは話した。ノースとミナミ発案による、起死回生の一手。

 ライルは全てを聞き、言った。


「本気なのか? 他に……方法はないのか!?」

「ない。いいかライル。これは魔族だけの問題じゃない。人間だって共有しなければならないんだ」

「だが……」

「犠牲を払ってまで戦争が起こる理由、分かるか? メリットがあるからだ。犠牲以上の利益を得るために、我々は戦争をする。つまり、犠牲に見合った利益がなければ戦争なんて起こらない」


 ペルシアはさらに熱弁する。


「それを理解させるために、どうしても人間界に攻め込む必要がある! 人間に魔族の脅威を再認識させなければ、民衆が戦争を止めるはずがない!」

「確かに、そうかもしれない。だが!」

「他に方法はないんだよ! あるなら教えろ! 犠牲を払わない方法があるなら教えてくれ! 俺たちには、これ以上の方法は見つからない……!!」

「……仮にだ。それで、平和が訪れたとしよう。問題は、その先だ」

 

 ライルの言わんとしていることは、分かっていた。その先に待ち受ける問題はいくつもある。


「戦争を仕事とする軍人はどうする。俺を含む膨大な数の人々が失業することになる。彼らのほとんどは戦う以外の技能を持っていない」

「……それはまだ小さな問題。そうだろう」

「最もまずいのは、それが永久には続かないであろうことだ。百年程度ならば平和は続くだろう。だが五百年後は? 千年後は? 俺たちが昔話の登場人物になったら……歴史はまた繰り返される」


 ペルシアは沈黙した。業を煮やし、ライルは迫った。


「そんな穴だらけの作戦で、何故納得できた!?」

「……対策は、ある」

「何?」

「だが言えない! 現時点でこれを知っていいのは、人間では覇王だけだ!」

「お前、さっき俺を信用すると……」

「確かにそう言った! だが言えない」

「何故だ!? 説明しろ!」


 ペルシアは目を伏せ、静かに呟いた。


「世界に平和が訪れた後、ボクたちが何としても隠し通さなければならない秘密だからだ。だから、知るのは必要最低限にとどめる」


 それ以上の追及をライルがすることはなかった。

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