神出鬼没の魔導姫
長らく放置してしまい申し訳ないです…
魔人軍の出現。その急報は、科学国家の王ラジニアにまず伝えられた。
「本陣から緊急連絡なのだな! 五画魔将ノースが襲撃に来たのだな!」
「増援を送ってほしいんだな! ボクチンたちだけじゃ、ちょっと不安だったりするかもなんだな!!」
予想以上のボリュームに無線から耳を離し、ラジニアは言った。
「分かったからギャーギャー喚くな。……で、覇王さんよ。どうする?」
「あたしが行ってあげようか! カガリ、あたしに命じて!」
「黙ってろフウカ。お前は今回前線には出さねえ」
「なんで!? 理不尽、しょっけんらんよー!!」
フウカの文句を聞き流しながら、カガリは冷静に思考を進めた。
人間の軍は、全部で六つに分けられている。各軍団長の内訳は、覇王カガリ、発明王ラジニア、僧王グスタフ、聖騎士ライル、同クライム、アカツキ国将軍ノブナガ。これに加え、勇者リーシャも単独で軍隊規模の力を発揮する。
このうち、最前線で戦っているのはクライム軍、グスタフ軍の二つ。それと、遊撃隊としてノブナガ軍の内の三分の一程度とリーシャが、魔族軍の横へ入り込もうと移動している。その少し後方では、ライル軍が支援を中心的に行っている。
残りのカガリ軍、ラジニア軍、ノブナガ軍は待機中である。
敵はノース。いまや少なくなってしまった、魔王の血を引く実力者である。少なくとも聖騎士級の戦力を派遣しなければ、返り討ちに会うであろう。
それらの情報を踏まえ、カガリが導き出した答えは――
「ノブナガ殿。聞いての通り、我らが本営が敵襲を受けている。救援の任、お任せしてよろしいな?」
「ふむ。まずは、ノースとやらの情報を貰えますかな。返事はその後じゃ」
「世界規模で見ても、五本の指に入るほどの英傑だろう。俺が調略しようとしたほどだ」
「なるほど……」
ノブナガは、慎重すぎるほどに考えるクセがある。勝つか負けるかの勝負ごとにおいて、絶対勝つという確信がなければ、動こうとしない。
――覇王が敵をあそこまで褒めるか。俺と同等、いやそれ以上の実力者と見た方が良いな。
長考に入り、なかなか返事をしないノブナガに業を煮やし、カガリは付け加えた。
「我が副官ゼリナもつける。強さは俺のお墨付きだ」
ゼリナの実力を密かに感じ取っていたノブナガは、その言葉で勝てるという確信を得た。
「あいわかった。このノブナガ、不肖ながらお力添えさせていただく」
「すぐに迎え。油断はするなよ」
口角だけ少し上げて、ノブナガはその場を去った。兵を呼び、進軍の準備に取り掛かった。
とその時、ゼリナがカガリの後方に進み出てきた。
「今回は、最初から殺すつもりで行ってよろしいですか?」
「構わんが、暴れすぎるなよ。出来るだけアカツキの軍勢を削らせるんだ」
「。そういえば……」
「なんだ」
「いやその……」
急に何かを勿体ぶるような口調になったゼリナを訝しく思い、カガリは周囲を見渡し、
「……あいつ」
大きく、舌打ちをした。
「静かにしてたと思ったら……あのバカどこに行きやがった。……フウカ!!」
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同じころ、魔族人間両軍は血で血を洗うような大乱戦を繰り広げていた。一万年以上も前のラグナロクを超えるかのような、史上類を見ないほどに多くの命が血を流し、散らし、もがいている。
どちらが優勢、という事もない。総合的な戦力は人間が圧倒的に勝っているが、かといって一度に千万の兵を投入することは不可能だ。戦場は広大だが、動くことを考えれば五百万人が限界。
このため、人間側が一度の投入できる兵数は三百万ほど。対する魔族は、二百万程度。個々の力で人間を上回る魔族なら、十分に闘えるのである。
「通常、攻城戦には三倍の兵力がなければ勝てないという!!。これは攻城戦じゃなく、いわば攻国戦。しかも、我らは一万年に渡って防備を整えている!!」
ペルシアは兵を勇気づけるため、喉を潰す程に鼓舞の声を上げ続けていた。
「勝てるぞ! 攻撃の手を休めるな!」
魔王政権からの独立、妖精族吸血鬼族同盟の締結、さらにはアレン失脚のための裏工作、魔界を一つにしてのラグナロク開戦など。
キリクの死を受け入れてからの一年足らずで、ペルシアは別人のように成長した。いまや、魔族を率いる王の貫録を持つまでに至った。
マジックストーンを使い、ペルシアはダウトとドロシーに連絡を取った。
「そっちの戦況はどうだ」
「互角だな。ハーデスがよく暴れてくれている。もっとも、まだ聖騎士と王には出くわしてないからかもしれんが……」
「ですが、彼らは以前の対戦でそれぞれに痛手を与えていることも確かですわ。私たち三人が力を合わせれば何とかできないことはないですわ」
何にしても、ノースの動きも重要になってくるだろう。薄氷を踏むような、糸の上を歩くように危ない戦闘を続ける必要が出てくる。
「恐らく、近いうちに聖騎士か王と対峙することになる。絶対に死んじゃだめだよ」
「当たり前だ。この戦争が終わった後、新しい世界を作って行かなくちゃならないんだからな」
「と、話している間に接近してるみたいですわよ。大きな力が、三つ」
後方のペルシアの眼には、その姿がはっきり見てとれた。
空気が、ピンと張りつめた。
目下最大驚異の出現である。これからの勝敗が、そのまま全体への明暗につながるといっても過言ではない。
「ハーデスにも伝えてくれ。その三人は、僧王グスタフ、聖騎士クライム、聖騎士リンクだ。お前たちならいける。各個撃破するんだ」
「了解」
通信が切れ、ペルシアは再度援護に集中した。
不安はいくらでもある。勇者が何も行動を起こしていないのも不可解であるし、勝つだけでも至難であるのにその上和平を結ぶのが目的であること。
アレンが何を考え、何をしようとしているのか。理解しているものは皆無であろう。
「それでも、やらなきゃならない。ボクならやれる。そうだよね、キリク」
魔法を繰り出すべく、掌を前方へ突き出したその瞬間――
「やっほー! みんなのアイドルフウカちゃんだよ! カガリのバカたれがしつこいから逃げてきちゃった!」
「……な!?」
何処から来たのか幼き魔導王は、人懐っこい笑顔と共に、魔導を繰り出した。莫大なエネルギーが、ペルシア目掛けて射出された。
――ガードが、間にあわない。
万事休す、と思われたその時、
「――裁断せよ。斬空のギター」
覇道による刃が、ペルシアの身を守った。
全く予想だにしない者から、救いの手は差し伸べられた。
「……何の冗談だ」
「そうだよ! なんで邪魔するのさ!」
「御前、今だけでいい。俺のわがままを見逃してくれ」
そこにいたのは、キリクの仇にして魔導国家ヘレンの軍事総司令官、ライルだった。
「初めまして、だな。魔法王の後継者、ペルシア」
「……よくもまあ、ボクの前に姿を見せたな……!」
「話をしにきた。聞いてくれ」
真っ直ぐにペルシアの目を見て、ライルは訴えかけた。敵意はない、と。
数秒の沈黙の後、ペルシアはただ一言、
「断る」
そう吐き捨て、魔力で雷の巨人を作り上げた。
「落ち着け! 俺は魔族と闘いたいとは思ってない!」
「え!? そうなの!?」
「ボクも同じさ。人間との共生を目指して、こうして闘っている」
「ならどうして……」
巨人の腕が、ゆっくりと上がっていく。話し合う、と言う気は皆無であった。
「どうして……か。やられた分はやり返さなければ、割に合わないだろう」
「ライル! なんかよく分かんないけど、闘うしかないよ!」
「ダメです! こんな無意味な争いは一刻も早く止めるべきです!」
「止めたきゃ止めてろ。少なくともお前だけはボクが殺す」
刹那、腕は振り落ろされた。フウカが障壁を張り防いだが、それで終わりではなかった。
騒ぎに気付いた妖精族が二人を包囲したのだ。
「待て! 俺を殺すことを、キリク殿は願っていない!」
「耳を貸すな! 総員、砲撃準備!」
「ライル、やるよ。こいつら殺さないとあたしたちがやられる」
「しかし……」
「魔法王に何を言われたのか知らないけど、魔族と人間は共存できない」
フウカは魔導の弾丸を周囲に展開。迎撃態勢を整えた。
「希望を捨てたら……その時点で終わりじゃないですか」
「終わってるんじゃない? 一万年も昔に」
「だとしたら、創ればいい! 不可能を壊して、可能性を広げればいい!」
「集団単位ならば、共生も恐らく可能だ。だが、個人の憎しみはまた別問題だ」
ペルシアは、手を横に払い砲撃開始の指示を下した。同時に、フウカも攻撃を仕掛ける。
次の瞬間、爆発。噴煙が上がるが、攻撃の手が休まりはしなかった。
「《風神雷神》!」
ペルシアが最高威力の魔法を繰り出した。高密度の魔力が込められた一撃は、フウカの障壁ですらいとも簡単に粉砕した。
そこを狙って、妖精族全戦力による集中砲火である。
フウカとライルといえど、無事では済まない。
「……何故だ」
額から血を流しながら、ライルは呟いた。
「お前は、人間との共存を考えているんだよな?」
「それは否定しない。むしろ、それがキリクから託された遺志であり、俺の心からの願いだ」
「じゃあ何故……何故ここまで、俺を殺そうとする?」
「言ったはずだ。やられた分はやり返すと」
「……そうか。まあ、俺を殺したいのならそれでいい。けどな」
傷を背負い、自らの横で膝をついている幼気な少女を見て、ライルは振り絞るように言った。
「御前に傷を付けたことは、許されんぞ」
「ライル、だめだよ。あいつ、予想以上に強くなってる。下手したらカガリとも……」
「奴――ペルシアとは、一度本気でぶつからなければならないようです」
ここまで頑なにフウカの意見を聞かないことは、初めてだった。
変わろうとしている。そのことを、フウカは感じ取った。
「ライル……何か、生意気になったね」
呆然と、そんな言葉が出てきた。
「申し訳ありません。どうも、英雄と呼ばれる者たちはいろいろ影響を与えるようで……私も、それにかぶれたようです」
自虐的に言って、ライルはペルシアを睨み付けた。
「我が国の軍に、攻撃を止めるよう伝える。どうだ? 一対一で話してみないか」
勿論、話すなどと言うのは方便である。ペルシアはライルの顔を観察した。覚悟を決めた者の、清々しい表情だった。
――闘う事でしか、何かを変えることは出来ないか。
ゆっくりと頷いた。
「いいよ。場所を変えようか」
両者の胸にる気持ちは共通していた。即ち――
――キリク、あなたが選んだ者がどれほどか、見極めさせてもらうぞ――




