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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第三章 四人の王
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魔人軍始動

 魔界、人間両軍が衝突した頃、別の地でも重大な戦いが幕を上げようとしていた。場所は、人間軍本陣、科学国家ニュートの王ラジニアの研究室。

 五画魔将の一角、『監視者』ミナミがついに動き出した。


「さて、時は来たり……って奴やな」

「ふぉ!? 何不吉な事呟いているのだな!?」

「だだだ、脱走しようとかいう考えは、捨てるんだな!!」


 ミナミの呟きに冷や汗を流しながら、見張り兼拠点守備として本陣に残るコウガとヒョウガは喚きたてた。

 

「知っているとは思うが! この牢は我が妹にして人間界のスーパーアイドゥル! フウカが張った障壁によって守られているのだな!」

「そりゃお前だって、決して弱くはないんだな! けどあの妹の障壁を破壊できるとは思わないんだな!」


 事実である。

 普段は威厳の欠片もない魔導王フウカだが、その腕は超一流。特に障壁にかけては、長い歴史から見てもたぐいまれな才能を持っている。

 フウカがその気になれば、ダメージを通せるのはアレンやカガリ、ハーデスなどの数人に限られる。

 ミナミが再び口を開いた。


「まあ確かに、ウチではこいつを破壊できひんな。よくもまあこれだけの物を創ったもんや。けど……」


 牢の中には、ミナミの他に二人、従者として連れてきたダミヤとリナリスがいる。ダミヤたちの方を見ながら、ミナミは勝ち誇ったように言った。


「さすがの魔導王も、『魔術』に付いての知識は浅いみたいやな?」


 ダミヤとリナリス。この双子は何も、ミナミが考えもなしに選んで連れてきたわけではない。

 この二人には、それぞれ才能がある。


「通信魔術、《コール》。もしもーしお師匠さま、いつでもいいですよ」


 妹のリナリスには、魔術の才能が。


「ダミヤ、どんだけいる?」

「五滴ほどあれば、十分です」

「りょーかいりょーかい」


 ミナミは手刀で自らの掌を切り裂いた。血が微かに吹き出したが、見向きもせずその手をダミヤに差し出した。

 頷いて、ダミヤはその血を口に含んだ。


「《トランス》魔王の力を、解放する」


 この双子は、吸血鬼族ヴァンパイアと人間の間に産まれた。そして、本当に微か(アレンよりもさらに薄い)ながら、その身には魔王の血が流れている。

 そのせいか、兄のダミヤは非常に特異な体質を有している。


「《絶対領域イビルキングダム》」


 純粋な魔王の血をその身に含むことで、己に眠る魔王の力を呼び覚ますことが出来るのだ。

 

「俺を中心として半径十メートル内。五分の間そこが俺の王国だ」


 言って、ダミヤは牢の外へその身を転移させた。見事に脱獄完了という訳である。  

  

「なああああああ!?」

「イレギュラーすぎるんだな! 聞いてないんだな!」

「未知数だろう? それが俺たち魔人の武器だ」


 ダミヤは拳を握り、黒い瞳でコウガたちを睨んだ。

  

「安心しろ。殺しはしねえ」

「さすがお兄ちゃんだね。魔王の力さえ使えば、大抵のことは何とかなるもん」

「な、なめるなよ小僧! ボクチンらが何の対策もしてないと思うか!」

「自慢じゃないが小生ら、運動不足の科学者にも勝てる自信はないんだな!」

「そりゃそうだろうな」

「だがしかーし!」

「我々には科学がある!」


 コウガとヒョウガは不遇な人間である。魔導王の子に生まれたにもかかわらず、魔導の才能に恵まれなかった。長男と次男であったがために、周囲の期待と落胆も並ではなかった。

 そんな彼らに手を差し伸べたのが、発明王ラジニアであった。ラジニアは二人に知識を叩き込み、その才能を見出した。

 コウガとヒョウガには、共通の目標がある。それは――


「魔導を科学で超越せよ!」


 科学による、世界の発展。魔導士とそれ以外の差を埋めること。

 その野望は、一つのヒーローの形となって、現れた。


「稼働せよ、僕等の希望の象徴! デウスエクスマキナ!」

 

 叫んだその刹那――

 ガコン、と。何かが起動する音が聞こえ、同時に施設が微振動を始めた。


「何を、した?」

「音声認識は無事に成功した模様なのだな……ダミヤだったか? 坊やよ」

「早く逃げた方が、利口なんだな」

「……は?」

「お兄ちゃん! そいつら逃がしたら……!」


 困惑するダミヤを尻目に、コウガとヒョウガが立っていた床は突如として中を浮いた。


「全長二十メートル、総重量三百トン、活動可能時間およそ五時間」

「現状、聖騎士や王と拮抗した実力を持つ唯一の機械兵」


 何か嫌な予感がして、ダミヤは外へ続く扉を蹴り飛ばした。

 

「は……何だこれ」


 目の前にあるのは、巨大な鉄の塊。全体図が見えているのは、《万能のアイズ》を発動していたミナミだけだった。


「あかんな……これは……」


 白を基調としたデザイン。搭載している兵器の数は数えきれないほど。右手には大剣を持ち、左手にはスナイパーライフルのような武装をしている。

 コウガとヒョウガは、神の名を持つ機械兵――デウスエクスマキナに乗り込んだ。

 ゆっくりと左手が動き、銃口が向けられた。咄嗟に、ミナミが叫んだ。


「ダミヤ! あんただけでも逃げろ!」

「冗談はよしてもらいましょうか……妹置き去りにして逃げる兄がどこにいますか!」

「でも、あれは……」


 ダミヤは制止を聞かず外へ飛び出た。


「心配御無用! 俺は魔王の力さえあれば最強だ!」

「アホ言うな! 相性を考えろ!」


 ライフルが火を噴いた。巨大なレーザーがダミヤに向かって襲い掛かる。

 魔力を十分に溜めて、ダミヤは受け止めた。


「重力操作で跳ね返してやるよ!」


 瞬間、莫大なエネルギーが炸裂した。如何に後ろの牢がフウカの障壁により守られているといっても、無事で済むとは言い切れない、


「おおおらあああ!!」


 雄叫びと共に体中から魔力を絞り出し、何とか方向をそらすことは出来た。

 が、安心したのも束の間、即座に大剣が振り下ろされた。


「さらばなのだな! 若き命よ!」

「ざけんなよ……!!」


 右掌に魔力を集約させると、大地にそれを叩きつけた。なけなしの魔力から迎撃の魔法が繰り出される。

   

「無数の石柱よ、障害を叩き潰す鎚となれ! 土魔法、《トーテムトール》」


 地面が盛り上がって、数十本にも及ぶ巨大な石柱が姿をのぞかせた。大剣を受け止めるべく突進していくが、もはや焼け石に水である。  

 石柱は剣に触れるごとに破壊されていく。


「くそ……」

「お兄ちゃん、避けて!」


 次の瞬間――


「光魔法、《サンクチュアリ》」


 ――剣は、光の壁に遮られた。

 それだけではない。上空からも異変は舞い降りた。


「火魔法、《ドラゴニア》」


 烈火の龍がエクスマキナに牙を剥けたのだ。ライフルからレーザーが放たれるが、それを飲みこんで腹部に衝突。大爆発を巻き起こした。


「これは……なんなのだな!?」

「そうだな……強いて言うなら……」


 ダミヤの傍に歩み寄る黒髪の男と、翼を広げ、上空でエクスマキナと対峙する赤髪の龍人族ドラゴニュート。救世主は、この二人である。

 黒髪の男――ノースは、不敵な笑みを浮かべて言った。


「魔人の王だ」


 ダミヤの肩に手を掛け、今度は優しい笑みを浮かべた。


「よく逃げなかったな。妹を守ろうというその覚悟、本物だ」

「へへへ、王様に言われると、何か照れますね」

「……一先ず下がって、ミナミとリナリスを安全な場所へ」


 ノースは後ろの牢へ向かって、光の剣を投げつけた。超スピードで飛来した剣は障壁をいとも簡単に砕いた。


「さっすが。王様名乗るだけありますわ……」

「頼んだぞ」


 頷いて、ダミヤは後方に下がった。同時に、クイントがノースの横に降り立った。

 ノースは笑顔を引っ込めると、冷めた目でエクスマキナを見つめた。


「機械仕掛けの神、か。その力は破壊ではなく創造に使うべきだ」

「ノースさん、ボクはどうすればよいでしょう?」

「もうじき、五万ほどの兵が追いつくだろう。それを率いて……」

「この拠点全土を制圧しろ、ですよね」

「やれるな?」


 当然と言わんばかりに笑みを浮かべ、クイントは駆けだした。


「前哨戦になるかも怪しいが……まあ、相手してやるよ」

「科学は負けないのだな!」

「小生と兄上は、それを証明して見せるんだな!」


 人間軍本陣。まずはここを落とし、人間界と魔界から魔人を呼び入れるための基盤を作る。その後、十分な戦力が集まった所で魔族人間両軍の和睦を進める。

 リナリスの魔術で意見を交換しながら、ノースとミナミが立てた計画の概要はこんなところだ。


「ここは絶対に負けられない。本気で行かせてもらう」 

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