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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第三章 四人の王
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終止符を打つ者

 眼下に広がる千万の大軍。士気は高まり、戦闘準備は万全と言っても差し支えない。まともにぶつかれば、まず敗北は有り得ないだろう。

 しかし、「だろう」では駄目なのである。覇王たるカガリの役目は、戦士をさらに奮い立たせ絶対の勝利を得ること。

 カガリは軍勢を見下げる位置に立ち、マイク越しに語り始めた。


「諸君、いよいよこの時が来た。人間と魔族の、長きにわたる戦いの歴史に終止符が打たれる時だ」


 空気がピンと張りつめ、カガリの一言一句に兵たちの神経がささげられる。


「ピリオドを打つ、ペンの持ち手は他でもない。ここに集いし、勇敢なる諸君ら戦士たちだ。犠牲は免れない。数えきれないほど多くの同志が、命を散らすことになる。我らは、その屈辱と苦痛を踏み越え、闘わなければならない」


 カガリは兵の心理を巧みに読み取っていた。今、マグマの如く溢れ出そうな闘志を必至に抑えている。

 声の調子を変え、カガリはそれを解放させる。 


「しかし恐れることはない! 諸君らがこれから流すであろう正義に燃える熱き血が、ピリオドを打つためのインクとなるからだ! そしてそれは同時に、新時代の礎となり栄光に語り継がれるものだ! 諸君らは今この時より、新たな世界の開拓者となるのだ!」


 士気は最高潮に達した。これ以上いけば、統制が効かなくなるほどに。

 ――さあ、仕上げだ。

 カガリは右手を天高く上げ、覇道を収束させた。眩い光が辺りを包んだかと思うと、タイミングを見計らったように諸将が飛び出した。

 カガリが空中で叫んだ。

 

「ここに集った、偉大なる大戦士諸君へ!! 覇王の名を以て命ずる!!」


 六人の部隊長が隊の戦闘へ降り立つ。マイクなど必要のない声量で、カガリの声は全軍に届いた。


「いざ、出陣!!」


 ここから先は、各部隊長の扇動の時間だ。

 最初は、クライム。率いる兵、二百万。

 科学国家ニュートの聖騎士、リンクもこの男に付き従っている。


「武装国家バーレンが騎士王、クライム! 一番槍は貰い受ける!!」

  

 ある意味、部隊長の中では最弱と言っていいかもしれない。本来、第一級の実力者だが、以前の戦闘で無茶をやったためにその力は随分落ちている。

 それでも、人を率いる力には長けていることから、任に抜擢された。

 二番手は、ライル。率いる兵は百五十万。


「誇り高き戦士たちよ! 騎士王ライルに付いて参れ!」


 先の闘いで肉体を十四の頃まで戻されたが、魔法王キリクを打破したその力はいまだ恐ろしい物がある。

 続けて、ラジニア。機械兵百四十万の采配を振るう。

 こちらは拡声器を使って落ち着いた声だ。

 

「科学国家ニュート国王、ラジニアだ。バックアップは任せたまえ」


 兵舎の設備管理による兵の士気上昇、速やかな兵站輸送など、この男の存在によって人間軍が受けた恩恵は計り知れない。影の功労者と言える。

 次に口を開いたのは、グスタフ。率いる兵数百八十万。


「宗教国家ブリンド国王グスタフ! 心配はありません! ゼウスの御加護がありますから」


 片目の視力を失ったものの、その戦闘力は衰えるところを知らない。人間側の最大級戦力の一人である。

 最後に、クライムに負けず劣らずの体格を持つ大男が。率いる『武士(もののふ』二十万。


「アカツキ国将軍、ノブナガである! 共に魔族を蹴散らそうではないか!」


 極東の島国より参戦した精鋭部隊である。その実力は未知数。

 これらに加え、カガリの傍には聖騎士ゼリナと魔導国家ヘレンの国王フウカ。そして、遊撃隊として勇者リーシャが。

 全員が名乗りを上げたところで、カガリが今一度、声を荒げた。

  

「全兵死兵と化せ!! これより、魔界領内へ攻め入る!!」


 人間軍千万の進軍は始まり、第二次ラグナロク最終戦は幕を開けた。











 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ほんのわずかに時は遡る。

 魔界では、人間の侵攻にそなえ、やはり兵を集結させていた。もっとも、集まった数は三百万程度。また、士気は全体的に低かった。


「……戦況は不利、と言わざるを得ないか。前方には人間、後方には妖精族ピクシー吸血鬼族ヴァンパイア

「アレン。率直に訪ねるぞ。勝てると思うか?」

「……ノースか。そうだな、質問の答えにはなんねえけど……」


 アレンは顔をノースに向けて、笑顔を作った。


「お前のやりたいようにやってくれ。多分それが正解で、俺の望む未来だ」

「やはり……気付くか」

「気付くようにやってたんだろ? 全く、変な所で気使うなよな」


 脚に力を込め、アレンは空高く跳んだ。そして掌をノースに向け、


「こっからは、敵同士だ」


 魔力を終結させた。


「《サタンズ記憶クロニクル》『炎王』ギルギニア」


 繰り出されるは、金色の炎。龍を模したそれが、ノースを飲み込もうと襲い掛かった。


「さよならだ……お前はもう、俺の知っている魔王ではなくなった!」


 龍が噛み付こうというその刹那――ノースの背後から強力な魔法が繰り出された。風の虎と水の獅子、二匹の炎の龍、雷の巨人、闇の狼。そしてノース自身の光の流星。

 金色の龍を飲み込んで、それらはアレンの元へ牙を剥けた。


「みんな……さようなら」

 

 大爆発が生じ、天地が揺れた。気付いたころには、アレンは何処かへ消え去ってしまった。

 ノースの横へ歩み寄り、口を開く者がいた。


「……さて、兼ねてからの計画通りいったね。魔王失脚はこれで終わり。まあといっても、これからが大変なんだけど」

「ペルシア。この瞬間から魔族の事実上のトップはお前だ。頼むぞ」


 ペルシアは頷いた。

 ノースが思い浮かべていたプランには、二つの目標があった。

 一つは人間と魔族の共存。アレンが目指した理想である。そのためにはまず、五種族の関係を修復する必要があった。骨は折れたが、何とかペルシア、ドロシー、クイントの三人を説得させることには成功した。

 ダウト協力の元、人間と共存することの利を説き、人間との和解を魔族の総意とすることもできた。そこから先、人間から賛同を得る方法は、戦いの中で探るしかない。

 さて、二つ目の目標。それは――


「俺は……魔族と人間の混血者――『魔人』の王となって、この戦争に別の入り口から介入する」


 現在、この世界において魔人の占める人口の割合は二十パーセント程度。いつまでもごちゃまぜになって暮らしてる場合ではない。

 指導者となる存在が必要だ。


「クイント! 行くぞ」


 補佐として、同じく混血者であるクイントがノースと共に行動をする。

 去り際、クイントはダウトへ言った。


「お兄ちゃん、龍人族ドラゴニュート族長の肩書き、返すね」

「……任された。まあ、また近いうちにまた会うだろう」

「全て終わったら、旅行にでも行こう。積もる話はその時にさ」

「死ぬなよ」

「うん」


 ノースとクイントは、魔人を召集した別地点へ向かった。

 残ったのは、ペルシア、ドロシー、ダウト、ハーデスの四人。

 動きやすいように髪を結びながら、ドロシーが言葉を発した。


「さあ、人間たちがやってくるのも時間の問題ですわよ。準備を整えた方がよろしくては」

「大丈夫だよ。そろそろ来るはずだ」


 ペルシアは遠くを見て、呟いた。


「噂をすれば……ってね」


 盛大な足音を響かせながら、軍隊が到着した。

 妖精族吸血鬼族連合軍、その数三百五十万。魔族軍の大主力である。

 少し感嘆して、ダウトが口を開いた。


「さて、吸血鬼族の族長はいまだ決まってないが、誰が指揮をする?」

「とりあえずはボクがやるべきだろう。闘ってるうちに一皮むけるやつも出てくるだろうさ。そうなったらそいつに任せる」

「そうですわね。頼みましたわよ、ペルシア」


 ペルシアは溜息を吐いて、眼下の兵を見下ろした。

 ――士気が上がれば、望みはあるかな。

 

「戸惑ってるみたいだし、演説の一つ二つやった方が良いかもね」

「そうですわね。……で、誰がやりますの?」


 ダウトが指を指した。


「族長のやってる期間、それと人望から考えれば……ドロシー、お前が一番相応しい」

「頼むよ、女王様」

「……え」


 一瞬固まったドロシーに、ペルシアが少し笑って言った。


「大丈夫だよ。あんた、外見は良いから。あと、声もよく通る」

「そうだな。確かに外見は良い」

「外見もの間違いじゃなくて? うぅ……分かりましたわ。やりましょう」

「フフ……期待してるぞドロシー」


 背中を押されて、ドロシーは軍勢の前に出た。さすがのドロシーと言えど、ここまで大勢の前で話すのは初めてである。

 ――一体、何を話せば……

 緊張もする。いざ言葉を出そうと思っても、口が上手く開かない。

 ――何かの小説の戦乙女ヴァルキリーのようにはいかない。

 それでも、何とか言葉を紡ぎだした。


「みなさん」


 最早考えることすらできないような、真っ白の頭で続けた。


「これまでの経緯、何が起こっているか分からないかもしれません。簡単に述べれば、決裂していた五種族は再び手を取り合い、魔王という頂点を失くした状態で、再始動しました」


 生まれながらに持つものだろう。いつしかざわつきが収まり、意識を一点に集中させてしまっている。

 何故か。答えるならば、『美しいから』だろう。端麗な容姿だけではない。立ち振る舞い、声のトーン、表情。それら全てに、洗練された何かが宿っている。


「これより魔族は、人間との共存を目指し、人間を迎え撃ちます。矛盾しているかもしれませんが、分かりあうには一度ぶつからなければなりません。それで認識するしかないのです。この争いは無意味だと。大切な人を悲しませたくなければ、涙を見たくないのなら、争いを止めなければならないと。それを、全世界が認識しなければならない」


 ――そろそろ、だな。

 ドロシーの背中を見つめていたダウトは、ゆっくりと前へ歩み出した。


「ですから……だから…………」

「お前たちは今! 闘わなければならない! 死力を尽くして!」

「え……? ダウト……?」

「あとは任せろ。ここまでくれば俺でもやれる」


 微笑んで、ダウトは続けた。


「これは一つの革命である! 世界を根底から揺るがすほどの、大革命だ! 人間と魔族の戦争に終止符を打つというのは、とてつもなく難しいことだ。しかし、諦めてはならない。諦めない限り、可能性はゼロじゃない。志半ばで死んでいった仲間の為にも、世界を平和に導かなければならない」


 狙っていたかのように、ペルシアも前へ進み出た。


「諸君らはその先導者だ! 諸君らは終止符を打つためのペンをそれぞれ持っている。滅ぼすのではなく、ともに生きるという選択で終止符を打つためのペンだ!」


 息を深く吸って、ペルシアは一息に言った。


「諸君らがこれから流すであろう血は、無駄にはならない! 必ずや平和の根強い土台として、未来永劫語り継がれることだろう! 私が……ボクがそうさせる! 絶対に、犠牲を無駄にはしない!」


 人間が、既に目と鼻の距離まで迫ってきている。ペルシアは最後の言葉を紡いだ。


「みんな、ボクに続け!!」


 ペルシアを先頭に、軍は動き出した。

 微かにボーっとしていたドロシーは、苦笑していた。


「何か、美味しいとこ取りされてませんこと?」

「まあ、許せ。あの方が効果的だった気がしたしそれに……」

「何ですの?」

「お前、あのまま放置してたら困ってたろ」

「……ふん。余計なお世話ですわ」


 肩をすくめて、ダウトはペルシアを追った。ダウトも行った後で、ドロシーはポツリとつぶやいた。


「……全く……ちょっと、かっこいいと思っただけですわ……」

「へえ~、それは意外。ドロシーちゃんでもそんなこと言うんだね」

「ふぇっ!?」


 驚いて、ドロシーは声の方を見た。そこでクスクス笑っているのは、これまで一言もしゃべらなかったハーデスであった。


「まあ、黙っていてあげるよ」

「い、今のは……! そ、その、あれですわ!」

「分かった分かった。早く行くよ。出遅れちゃう」


 ハーデスは地上に降りようと、腰を少し落とした。と、その時。去り際にドロシーへ一言だけ告げた。


「一応言っておくね。ボク、今回の闘いで死ぬからそこんとこよろしく」

「……え?」

「さあ、両軍入り乱れての乱戦だ。そそるねえ!」


 そう言うなり、ハーデスはものすごいスピードで降りて行った。

   

「ああ~もう! 訳が分からなくってよ!」


 何はともあれ、第二次ラグナロクは最終局面を迎えた。 

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