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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第二章 第二次ラグナロク
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魔王の行く末

時間が欲しいです……

 同じころ、人間軍も撤退を完了。カガリは主だった幹部を集めて、開口一番に言った。


「王と聖騎士、本来十人いるはずだが……俺を含めてもここに居るのは六人か」


 それも、その半数は軽くない傷を負っていると来ている。大したダメージを受けていないのは、カガリ、ゼリナ、ライルと、欠席しているラジニアだけである。

 一番の重傷者は片腕を失い、体の至る所に傷を負って、治療のために席を外しているクライム。次いで、片目を潰され十数か所の骨折を負ったグスタフ。ペルシアの猛攻により、フウカもかなり消耗している。

 怪我こそ少ないものの、剣との契約を破棄したリンクも、戦力面においては大きなダメージと言えるだろう。

 お世辞にも良いとは言えない有様を見て、カガリは溜息を吐いた。 


「色々言いたいことはあるが……まずは褒めるところから始めるか。此度の戦争、戦功第一は……ライルだな」


 名前を呼ばれたライルは静かに席を立って、カガリの元まで歩み寄ると、跪いてカガリの言葉を待った。


「魔法王キリクを撃破した働き、見事だ。これからも励むがよい」

「……はっ」


 少し間をあけて、ライルは言った。しかし、心の中では全く違うことが駆け巡っていた。

 ――キリクを殺したことは、褒められることなのか?

 それは言いかえれば、この戦争への疑問。人間らしさと言う曖昧な言葉を使えば、人間の中にも人間らしさが欠落した者はいるし、魔族の中にもキリクの様に人間らしい者だっている。

 ――それでも、俺は……

 カガリに面と向かって戦争を止めろと言う無謀さは持ってない。ペルシアの様に、独立するほどの権力もライルにはない。ただ、無理矢理にでも理由を付けて闘うしか道は残っていないのだ。

 ――フウカ様を守るため、それが俺の戦闘意義だ。 

 密かな覚悟を決めて、ライルは席に戻った。カガリは続いて、グスタフの名を呼んだ。シュラウド撃破の件を褒めて、再び席に座らせる。


「三位はラジニアだが、この場にいないんでな。割愛する。さて褒めた後は……」


 ピリッと、空気が微かに変わった。

 カガリは、フウカとリンクを交互に見た。


「叱ることもせにゃならんよな? フウカ、リンク」

「むぐぅ……」

「言いかえす言葉もありませんよ、覇王様」


 両者バツの悪そうな顔で、微妙に視線をずらす。勝手に戦線を離脱した上、妖精族ピクシーとの激突で小さくない被害を受けたフウカも、戦闘に敗れ剣との契約を手放し、捕虜にすらなりかけたリンクも、何らかのお咎めは受ける必要があった。


「フウカ。お前ほどの奴がなぜ負けた? よっぽど相手が悪かったかこの状況でふざけていたかのどちらかだろう」

「負けてないし! ちょっと押されてただけで……」

「質問に答えろ。お前に傷を負わせるほどの奴が、キリク以外の妖精族に居たのか? だとしたらどんなやつだ」


 いつにも増して厳しいキリクの表情と言葉に、流石のフウカも口を噤み、大人しくなって話した。


「名前は確かペルシア。始めの印象はほんの少し優秀な魔法使いって感じだったけど、あれはやばい。あたしやキリクと同じ、『成長の天才』。それも、精神面でのそれに特化してると言っていい。あ、でも、次やる時は……」

「……フウカ、次からは俺の傍に居ろ。お前は危なっかしい」

「はあ!? いきなり何いってんの? やられっぱなしじゃムシャクシャするの!」

「フウカ!」


 言葉を遮るように、キリクは怒鳴った。予想外の怒気を含んだ声に、フウカは思わず言葉を止めた。


「お前への罰を今決定した。一時的に魔導国家ヘレンの軍事指揮官から降りろ。代わりはライルが務める。そしてお前は俺の傍で、一部下として働いてもらう」

「そんなムチャクチャ……」

「覇王からの命令だ。大人しく従え。この話はこれで終わりだ」


 確固たる意志を秘めた言葉でフウカを黙らせ、今度はリンクに目を向けた。嫌な汗が出るのを感じながら、リンクは口を開いた。


「……何なりと」


 心得たとばかりに、カガリは言った。


「こちらの情報を随分と喋ったようだな。お前の身柄と共に悲剣ミゼラブルも返ってきたからいいものの、もし返ってこなかったら俺たちにとってかなりの痛手だった。何か、良い訳はあるか?」

「強いて言えば、幽霊族ゴーストの参戦を伝えたことくらいかな。それ以外は、何も言うことないよ」

「仮に今ここで死罪だと言われても受け入れるか?」

「フウカ様と違って、好かれてもないですからねえ。甘んじて受けますよ」

  

 半ばあきらめたようなセリフを聞き、カガリは無言で立ち上がった。

 ゼリナが無言で差し出した剣を手に取り、ゆっくりと近付きながらそれを抜き放った。

 鋭い切先が、リンクの面前に出される。リンクは動じることなく、微かに息を吐いた。剣が微かに上へあげられる。

 刃がリンクの首を捉えようとしたまさにその瞬間、


「待て」


 と、一つ。制止の低い声が室内に響いた。


「そいつを斬るのはまだ待ってもらおう。どうしても斬りたくば……」


 男は、大きな体をキリクとリンクの間に割り込ませた。そして剣の刃を掴むと、おもむろに自らの首筋へあてた。


「武装国家バーレンの聖騎士である、俺を先に斬れ。敵前逃亡をした俺も、リンクとそう変わりはないはずだ」


 苦労しながら年を取ることでしか身に付かない貫禄で、クライムはその場の雰囲気を完全に変えてしまった。

 リンクと共に、クライムまで失っては勝てる者も勝てなくなる。即座にその判断に至ったカガリは、黙って剣を収めた。


「傷は、大丈夫なのか」 

「動けないこともありませんよ。ただ、恐らく先は長くない。だから、この老兵の最後の我がままだと思って聞いてもらいたい」

「……言ってみろ」

「此度のリンクの失態に、目を瞑ってもらえないか。その代わりと言ってはなんだが、私が奴を鍛え直します」

「ふむ……」

「どうか、聞き入れてもらいたい」


 カガリは考えた。クライムがやろうとすることに、どれほどに価値があるかを。

 ――面白いかもしれんな。

 元より、リンクの才能は一流だ。それは認めてもよい。正確に少々難があるが、クライムが介入すればよい方向に転びそうな気はする。  


「信じて良いな?」

「ぜひとも」


 カガリは軽く頷いて見せ、リンクの目の前へ立った。今度は鞘に入った剣を横に持ち、突き出した。


「許そう。お前の首を獲りかけた剣だが、くれてやる」

 










 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 同時刻、会議を欠席したラジニアは、自らの研究室に籠っていた。部屋にいるのは四人。残りの三人は助手として連れそうコウガとヒョウガ、そして被検体のミナミである。

 

「付添いの二人は牢に移させてもらったが、安心したまえ。君が大人しく好意的であるなら何もする気はないからな」

「それ聞いて安心したわ。で、ウチの血を抜いていろいろと調べてるようやけど、成果はどんなや?」

「素晴らしいな。コウガ、ヒョウガ、軽く説明してやれ」


 見向きもせずに、ラジニアはそう答えた。それを聞いた二人は、対照的な体を大きく動かしながら、無駄に大きな声で喋りはじめた。


「でぃわ!! 魔導国家ヘレン前国王の嫡男にして、現国王フウカたんの兄であるこのボクチンが、華麗に説明してやるのだな!」

「その弟であり! イケメンでかわいいと巷で話題な小生も続くんだな!」

「そんな噂は聞いた事もないけどな」

「根暗なマッドサイエンティストは黙って実験してるんだな!!」

「我が弟よ! そのような友達いそうにもない変態科学者は世界の片隅にでも置いておくのだな! ただ、ボクチンらのビジュアルに嫉妬しているだけなのだな!」

「どうでもええから! 説明するならはよしてくれへん?」

 

 いつまでたっても終わりそうにない会話を強制的に打ち切らせ、ミナミは本題に入らせた。


「おお、これは失敬! では、さっそく……」

「小生ら――主にラジニア殿と兄上が目下進めている研究は、ズバリ『魔王の血の効力、性質、特性』についてのことなんだな! ここ重要だけど、テストに出ることはないんだな!」

「ちなみにさっきまでは、マウスに魔王の血を注入して、身体の変化を見ていたのだな。で、その成果ってのが……」

「衝撃の結果が明かされのはCMの後なんだな!!」

「スポンサーはいないからそんなものないのだな! 今ボクチンが喋ってるんだから割り込んでくるななのだな!」

「さっさとその成果ってのを見せてくれへんか……?」


 あまりにも進まない会話に最早笑う事すらせず、ミナミはツッコんだ。相変わらずのハイテンションで、兄弟は訳の分からないやり取りをしながら、十分後にようやく一枚の写真を持ってきた。


「見るがいい!! これこそ!! 忌まわしき魔王の血の異能ちからであるぞ!!」

 

 ミナミははっと息をのんだ。

 そこに移っていたのは、体中を食い千切られ、全身血まみれになって横たわる獅子型の魔獣の亡骸だった。

 辺りには内臓がばら撒かれ、その惨状はまるで行儀の悪い悪魔に食べられたかのよう。普通の神経をしていれば、直視することすら躊躇う。


「これをやったのは、魔王の血を注入されたくだんのマウスなんだな」

「ネズミが……ウソやろ……!?」

「片手で掴めるようなマウスが、全長二メートルはある化け物を食い殺したのだな。もっとも、十分で肉体が崩壊、精神に至っては注入直後から理性を保てていなかったが」


 薄ら寒くなった。

 そんなものが自らの体を脈々と駆け巡っているのだから、若干の恐怖を憶えることは必至だろう。

 唐突に、ラジニアが話し出した。


「不思議なものだよ。魔族同士でいくら子をなしてもその力は一向に薄くならないのに、人間と交わればその度に力は半減していくのだから。人間を拒絶し、滅ぼさんとする力。それを持つ者が王なのだから、共生などできるはずがない」

「そんなことはない。少なくとも今の魔王は……!」

「現魔王のアレンは、人間を滅ぼしてもよいと、そう覇王の前で言ったそうだぞ」

「え……?」

 

 そこで、ラジニアは振り向いた。


「信じられない、といった顔だな。だが事実だ。覇王に聞いた限りだが……」


 ミナミは、眼をそらすことが出来なかった。その先の言葉は、聞きたくなかったはずなのに。  


「危ういぞ、あの魔王。強大な力を持て余した英雄の末路を辿りかけている」

「アレンはんに限って、そんなこと……」

「異常犯罪者や独裁の王などは、えてして皆、善良な面を持ち合わせているものだ。だから犯罪者の知人友人はよくこう言う。『あんなことをするような人ではないと思っていた』と。善良な市民と頭のおかしい犯罪者、支配者と奴隷、英雄と魔王。案外、その本質はほとんど同じなのかもしれない」


 ふいに、ラジニアが視線を外した。傍にあった椅子を手繰り寄せると、それに座り、何処を見るでもなく、誰に言うでもなくぽつりとつぶやく。


「その僅かな部分が、決定的な違いなのかもしれんがな。果たして、魔王はどちらだろうな。世界の破壊者か救済者か。魔王自身にも、分からんのかもな」 

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