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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第二章 第二次ラグナロク
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もう一人の召喚術士

 妖精族ピクシー吸血鬼族ヴァンパイアの独立宣言。

 突然のことに、アレンはしばらく沈黙していた。そして、事態が冗談の類でないことを受け止めると、冷静に発言した。


「吸血鬼族をどうやってたぶらかした」

「人聞きが悪いな。なに、向こうも指導者を失ったのは同じだ。そして、その怒りや悲しみはウチと同じくらいに強い。けど、吸血鬼族と妖精族じゃあ、決定的に違うところがある。何か分かるか?」


 ノースが苦汁を飲んだような顔で言った。


「――後継者か」

「そう。吸血鬼族には、シュラウドの後を継げるような後継者がいない。その点、キリクは有能だった。早くからペルシアという後継者を、しっかり決めていたからな。トップのいない吸血鬼族が暴徒と化す前に、ペルシアが丸め込んだって訳だ」


 キリクとシュラウドは古くからの付き合いだった。そのことは両種族が承知のこと。シュラウドが最も信頼するキリクが選んだペルシアにならば、付き従っても良いかもしれない。それが、吸血鬼族の総意となった。

 なんにせよ、それをいち早く察知し、『独立』という大それた行為に瞬く間に映したペルシアの手腕は、最早認めざるを得なかった。

 アレンは溜息を吐いて、尋ねた。


「今、撤回すれば咎めはしない。そう言っても止まる気はないか?」

「ない」

「……そうか」

  

 ――和睦は、有り得ないか。

 こうなった以上、闘うしかないだろう。簡単に降伏するはずがない。血みどろの内乱に発展するのは、間違いない。

 アレンは銀色の炎を右手に灯し、口を開いた。


「フランよ。その首、今ここで獲っても構わないか?」

「こんな死にぞこないの首でよければ、幾らでもくれてやる」


 繰り出された炎を止める者は、居なかった。

 美しい銀色の業火に焼かれながらも、フランの顔は晴れやかだった。妖精族の未来を、キリクがペルシアへ託したように、彼女もまたペルシアに望みを託した。


「……まさか、こんなことになるとはな」


 呟いて、アレンは素早く皆に指示を下した。


「ドロシー、集落に戻って民に事を説明。動揺は極力抑えてくれ」

「……了解ですわ」


 ドロシーの次は、ノースとダウトへ。


「ペルシアを追いかけて行ったクイントが心配だ。二人とも、追いかけてくれ。もしペルシアと遭遇するようならば――交戦しても構わない」


 そこで、ダウトが首を傾げた。


「クイント? 初めて聞く名前だが……」

龍人族ドラゴニュートの現族長だ」

「つまり……俺のいなくなった後の、というわけか」


 ――言わなければならないことが、山ほどあるな。

 自らの身勝手で苦労をしてきたであろうクイントを思って、ダウトは拳を固く握った。まずは、謝るところから始めなければならないだろう。


「ノース、急ぐぞ」

「ああ。アレン、何かあれば俺に相談しろ。それと、ミナミのことはあまり気にするな。あいつがそう簡単にくたばるものか」

「頼んだぞ」


 二人が出て行ったことで、部屋に残るのはアレンとハーデスの二人のみとなった。


「……シナリオに大分ズレが生じちゃったけど、どうするの?」


 ハーデスがそう切り出した。

 アレンが企てた計画。世界平和を目指すための筋書き――『世界平和計画』の全貌を知る、数少ない人物だ。


「当初の計画では、ラグナロクはそろそろ終わりを迎えているんだったよね?」

「人間、魔族、双方甚大な被害を出していれば、戦争に疑問を持つ者も出るはずだ。その時を見計らい、覇王と交渉をする。金輪際、争うのを止め手を取り合わないかと。覇王も馬鹿じゃない。むしろえげつないほど頭は良い。魔王の俺が直に離せば、賛成してくれるだろう考えた」


 ハーデスはその後の言葉を繋げた。


「そこに持ち込むためには、幾つかの何点を乗り越えなければならない。一つ目、戦争に疑問を持つ者が、雑兵、首脳陣に出ること。二つ目、どちらか一方がやられるのではなく、なるべく平等に被害を受けること。この二つ目に重要なのが――」

「何か、象徴となる存在が殺されること。その最たる例が――『勇者』」

「魔界で言うと、キリクやシュラウドと言った前時代からの猛者。まあ、魔界側はアレン君やノース君、その下の多数の魔族が人間との和睦に賛成しているから、この犠牲は必要なかったんだけど」


 勇者のことにはあえて触れず、アレンは続けた。


「和睦をした後、俺はノースに魔王の座を譲って隠居。そして、故郷に戻ってリーシャと再開。一番重要なのは、ここからだったな」

「突如、ボクが反逆者となり人間魔族を関わらず虐殺を繰り返す。ちなみにターゲットは、和睦に賛成をしない過激派。と言っても、そのことがばれないように幾らかの犠牲も出ちゃうだろうけど」

「反逆者ハーデスを討つため、人間と魔族は連合軍を立ち上げる。その中には、俺も入る。そして――」


 ハーデスが微かに口角を上げて言った。


「ボクとアレン君は長年にわたる戦いの決着を付ける」

「それに持ち込むためにも、俺たちに勝るような実力者はいてはいけなかった。だからセバスを勝ち目の薄い戦場に駆り出したし、勇者は何が何でも殺さなければならなかった」

「……勝敗はどうあれ、ボクは連合軍に敗れ処刑されるだろう。ボクと言う共通の敵を倒したことで、世界は平和への道を歩み出す。アレン君はリーシャちゃんとの生活を得れる。ボクは平和ボケした世界なんかに住まずに済むうえ、世界中の強者と思う存分闘ったうえでこの世とオサラバ出来る」



 ハッピーエンド、とは言えないかもしれないが、それでも世界は平和な方向に導かれる予定だった。

 

「盲点だったのは、ペルシア君の超覚醒。それに何より――リーシャちゃんがまさかまさかの勇者だったという事。いやー、運命ってのは残酷だよねえ」


 アレンは何も答えなかった。

 幾つかのパターンを考え、シュミレートするが、その度に絶望的な現実を突きつけられる。

 案じたハーデスが、問いかけた。


「いい案は浮かんだかい? 君とリーシャちゃんが一緒になれて、なおかつ世界も平和にできるシナリオ」

「……今の、この状況だからこそできることもある。けど、それを踏まえても、いくら考えてみても……」


 アレンは顔を落として、絞り出すような声で言った。


「俺の隣にリーシャがいる光景ヴィジョンが……見えない」











 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 その数分前、クイントはペルシアと向き合い、話をしていた。

 ペルシアの言葉を聞いていたクイントは、文字通り言葉を失っていた。

 ――独立するって、つまり魔王に歯向かうってことか?


「何て……馬鹿なことを」

「勝算は多いにある。妖精族と吸血鬼族、この二つの種族が手を結んだんだ。軍事力、資源、どちらも互角だ」

「数字ではそうかもしれない! けど……魔王血統に、王族に、普通の血筋の魔族が勝てるわけないだろう!?」


 クイントの言葉は正論だった。

 キメラのために寿命が長かったセバスや、古代から生きている幽霊族らを除けば、魔王血統の者に才能や実力で勝てる者などまずいない。

 差異はあれど、彼ら彼女らは、王族は産まれながらのエリートばかりなのだ。

 しばらくの沈黙の後、ペルシアは言った。 


「それが気に入らないんだよ。奴らは、王族は力を持ちすぎている。この世界において、不自然なほどに魔王の血は優秀すぎる」

「そんなこと言ったって、仕方ないだろ……?」

「お前はおかしいと思わないのか? とある血筋の物しか王になる権利を持ちえないこの魔界を。王になる権利は、万人に平等にあるべきだろう!?」


 ペルシアは、圧倒するようにさらに続けた。


「俺はそう言う国を作る! 才能があるとかないとか、そんなこと関係なしに! 何も差別しない、されない、平等の国を作る! そのためには、奴らの血はあまりにも邪魔だ……」

 

 ペルシアは拳を握った。人差し指を突きだし、クイントに向ける。


「もう、魔界に魔王の血はいらない。根絶やしにする必要がある。クイント、龍人族の長であるお前に頼む。味方に付け。そうすれば獣人族セリアンスロピィもこちらに付かざるを得なくなる。民衆を失えば、魔王は王ではなくなる」

「……あんたの言っていることは、もしかしたら正しいのかもな」


 クイントは呟いた。

 ほんの少し視線を落とし、手を前に出す。


「けど、例え正しいんだとしても……ボクには反逆者になる勇気はない」

「そうか……だったら、ここで排除するまでだ」


 雷光と火炎が交錯――刹那、爆発した。

 その直後、衝突し周囲に散らばった魔力を再利用して、ペルシアは魔法を繰り出した。


「貫け――《ライトニングアロー》」

「なめるなよ――《フレイムアロー》!」


 炎と雷の矢がそれぞれ何百と打ち出される。が、クイントはすぐに不利を感じた。

 使っている魔力量は同じだが、破壊力はペルシアの方が遥かに上なのだ。

 魔力コントロールの差、そして精神の差だろう。魔力コントロールはもとより、今のペルシアには大きな覚悟がある。以前にも増して、力を付けている。   

 それだけではない。クイントにはもう一つ。どうしても庇いきれない違いがあった。


「くっそ……もっと、出力を上げれば……」

「必死そうな顔でほざくなよ……!」


 ペルシアは一瞬だけ出力を上げ、クイントの魔法を押し返した。


「っく!!」

「逃がさないよ――」


 上空へ回避したクイントに掌を向ける。


「撃ち抜け――《ストームグングニル》」


 超速度の風の槍が射出された。目標は、左胸。生命の源である心臓。  

 凶槍がクイントの心臓を捉える寸前、文字通りの横槍が入った。


「《フレイムグングニル》」


 火力に勝る炎の槍が、ペルシアのグングニルを突き破ったのだ。

 

「間一髪、間にあったか」

「赤髪……炎の魔法……まさか」

「……ダウト。何時ぞやに会ったことがあるな。まあ、キリクの後ろにいたうちの一人だから覚えてないだろうが」

「あまり、油断はしない方がいいぞ」


 続けざまにノースの声が聞こえ、ペルシアは辺りを警戒した。


「もう遅い、《スターダストプリズン》」


 既に、ペルシアの周囲を無数の光球が包囲していた、  

 動けば光線で蜂の巣にするぞ、と言う警告でもあった。

 ノースは一歩前に出て、問うた。


「お前の口から聞いておきたい。戻る気はないか?」

「ない。フランもそう言ったはずだ」

「ならば、殺すまでだ」


 ノースは右手で拳を握った。それと同時に、光球からレーザーが繰り出される。それがペルシアの体を貫く直前――

 ノースの横に居たダウトは本能的に何かを感じ取った。


「待て、攻撃を止めろ!」

「……なに?」

 

 間髪入れず、レーザは身に降りかかった。ペルシアではなく、ノースたちに。

 ダウトが防御魔法で防いだものの、その隙にペルシアは包囲を抜け出し、追撃を仕掛けてくる。


「特別に見せてやるよ。魔王が使うようなちんけなものじゃない。然るべき使用者が使う『召喚魔法』の力を」

「召喚魔法だと!?」


 ペルシアは風と雷の魔法を無数に放った。放たれた魔法は、魔法陣を通ってノースたちに襲い掛かる。

 と、そこでノースはおかしなことに気付いた。

 ――何故、何もない場所へ転送できているんだ。 

 魔法が出てきている場所は、ただの虚空なのだ。そこになければならないはずの魔方陣が見当たらない。

 ペルシアが、その疑問に答えるように話し出した。

 

「魔法陣は、何で書描いても良いんだ。ペンでもいいし、刻み込んでも良いし、大きさだってどうでもいい。だから――ボクは自分の『魔力』で描いてる」

「……そんなことが」

「ボクならできる。魔力コントロールにおいて、あの魔法王すらたどり着けなかった境地にいるボクだからこそできる」 

 

 戦慄した。アレンと渡り合うだけの力を、ペルシアは確かに持っている。得ようとしている。

 ――とんでもない奴を敵に回したな。

 ノースは魔法の弾幕を展開してその場を抜け出した。それに続いてダウトもクイントを連れて抜け出る。

 睨み合う中で、ペルシアが呟いた。


「今日は別に、真正面から闘いに来たわけじゃない。退いても構わないか? お前らも、無駄な傷は負いたくないだろう」

「その前に一つ聞きたいことがある。お前、まだ眷属は召喚していないのか?」

「まだな。けど、近いうちに召喚するさ。その時には、アレンやハーデスにも負けないほどの力を持つようになっているだろう」


 言いながら、ペルシアは背を向けた。それでも、後ろから攻撃を許すような隙はなかった。


「魔王に伝えろ。フランの仇はとる。それと……」


 振り向いて、単調な口調で言う。

 

「頭のおかしい魔王を見限るなら早々にな。こっちはいつでも大歓迎だから」


 そのままペルシアは去って行った。

 気まずい雰囲気の中、ノースが思い出したように口を開いた。    

 ダウトを指差して、紹介する。


「知っているとは思うが、元龍人族族長の……」

「ダウトですよね。知ってますよ。ずっと、探していた人ですから」

「え……?」


 思わぬ発言に驚いたのはダウトだった。探していたと言われても、少なくともこちらはクイントのことすら知らなかった。

 年も性別も知らなかったため、まだ幼く女子であることに驚いているところだ。

 それなのに、クイントはダウトのことを探していたと言う。

 

「いつかに、会ったか?」

「実際に会ったことはありません。けど、事の顛末だけは知っています」

「事の、顛末……?」


 クイントはおもむろに話した。

 

「あなたの父は、人間との子を作り処刑された。では、もしその子が生きていたとしたら? 今、何歳だと思いますか?」 

「おい、まさかお前……」


 クイントは頷いた。


「ボクはあなたの妹です。ようやく会えたね、お兄ちゃん」

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