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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第二章 第二次ラグナロク
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最強の大魔王

 望剣リバーシの最大の特徴は、それぞれ特製の違う二本の剣だということだ。

 しかし、希望の剣ヴァイスは人間にしか、絶望のシュヴァルツは魔族にしか握れない。そのため、二本を繰るには使用者が混血でなければならない。

 もっとも、血が薄ければその分、能力も弱まるのだが――

 ともあれ、二刀流を操るには、両の手を同じくらい器用に扱い、尚且つ怪力と言われるほどの尋常ではない筋力が必要となる。

 二刀流を生み出したことで名高い宮本武蔵だが、彼の強さの所以はそれだ。彼は生まれつき、天性と言っても良いほど腕の筋力が発達していた。そこに努力を重ねた末、常人にはとても真似できない二刀流を編み出すに至ったのだ。

 二刀流は誰にでも使えるものではない。そのため武蔵自身、あれは剣術ではなく両手を同じくらい動かせるようにするためのもの、と言うほどだ。

 その分、もしも剣を二本――それも一本使うのと同じような感覚で自在に使えるのなら、非常に強力な武器となる。

 そして、覇王国家トランザム聖騎士、ゼリナにはそれが出来た。 

  

「殺される前にこっちに付いた方が利口だよー。これ、最終通告ね」


 殺気を放ち、次なる魔法の準備をしていたノースに、ゼリナは黒剣の矛先を向けた。無論、ノースがはいそうですねなど言うはずがないことは承知だ。


「こちらも最終通告だ。今退かないのならば、直ちに殲滅する」


 一瞬の沈黙の後、ゼリナは矢の如く接近した。近づけまいとするノースは素早く魔法の弾幕を展開。同時に魔術、《ロックオン》を使い敵の軍勢へホーミング能力付きの光に矢を降らせる。


「見たところ、雑魚の数は四千とちょっと……多少時間はかかるが、お前の相手をしながらでも片付けられるな」

「ふーん。随分と余裕だね!」


 弾幕を切り抜けたゼリナは、二本の剣を縦横無尽に振り回す。一見めちゃくちゃのようだが、考えているのかセンスによるものなのか、避けにくい剣筋だった。

 ――なるほど確かに、言うだけはある。

 一撃でも喰らえばかなりのダメージになるだろう。だからこそ――


「――突っ込む」


 縦、横と、ノースは続けざまに斬られた。ミスではない。狙ってやったのだ。血が出過ぎないうちに、素早く次の作業に取り掛かる。


「魔術――《ダメージギブ》」


 刹那、ノースと同じような傷が、ゼリナの体に現れた。


「っぐぅ!!」

「続けて――《ダメージシェア》」


 ゼリナの傷が、今度は背後の軍勢へ共有されていく。魔王の血を身に宿すノースですら危ない一撃だ。訓練を積んだ程度の人間が耐えられるようなものではない。

 屍は瞬く間に広がっていく。ほんのわずかな人数が残ったが、この異常事態に混乱してしまい、とても統制など取れてはいない。


「なんだ、随分と脆いな」

「全くだよねー。とりあえず、引っくり返させてもらうけど」


 ゼリナは素早く後方に下がって、白剣を掲げた。


「引っくり返せ――『希望の剣ヴァイス』」


 その声に呼応して白い光が瞬く――直前、ゼリナが呟いた。


「あたしの分だけでも、お返ししとくよ」


 次の瞬間、ゼリナたちの傷は消えていた。それと引き換えにしたかのように、ノースの体には大きな傷痕が残った。

 先程のノースと同じことをやり返したのだ。ノースは苦悶の表情を浮かべ、吠えた。


「魔術……やってくれるじゃないか!」

「言ったでしょ? あたしも混血だって。それくらい練習すれば使えるって」

「……それもそうだな」


 ――まともに闘ってては、勝てんか。

 ノースは深呼吸すると、目に付いた敵兵に傷を送りつけて、ゼリナを睨み付けた。そして、ゆっくりと感情のタガを外していく。


「久方ぶりじゃのう。考えを捨てて殺るのは」

「んー? なんか雰囲気変わった?」

「…………」


 何の前触れもなく、ゼリナの顔面に拳が炸裂した。

 ――いや、ちょ……

 いきなりのことながらも、ゼリナは綺麗な受け身を取った。


「ひっど! 女の子の顔を殴ると……」

「知るかい、ボケェ!!」

「流石にこっちもキレるよ……!!」


 巨大な光纏った、彗星の如きパンチを剣で受け切り、ゼリナは勢いを流動した。その時の一瞬をついて、ノースは敵勢へ大規模魔法を仕掛けた。


「消し飛べ、《サテライト》」


 ノースの左掌から、口から、空から、地中から、極太のレーザーが何本も射出される。それがことごとく敵を薙ぎ倒し、確実に戦況をノースの方へ傾けさせた。


「うっそぉ……ホントに全滅させちゃった」

「次はワレの番じゃ。覚悟きめえや」


 ノースの右腕に、膨大な魔力が集まって行く。拳と共に無数の魔法を繰り出すという、自分にもダメージが来る自殺行為だが、キレたノースにはそんな些細なことなど関係ない。

 

「いねや!!」

「何? もしかして勝った気でいんの?」


 神々しい悪魔の一撃が降りかかる寸前、ゼリナは黒剣に覇道を込めた。


「裏返せ――《絶望の剣シュヴァルツ》!」


 シュヴァルツは概念を裏返す力を持っている。この時、ゼリナが干渉した概念は《勝利》。そうすると何が起こるかと言うと――


「あれ、腕を止めちゃっていいの?」

「な……んで」

「あなたならすぐに理解できるでしょ」


 両手を大きく振りかぶり、ゼリナは悠々とノースを袈裟斬りにした。吹き上がる血飛沫を見て、ノースは地に伏した。

 ――まずい。傷が深すぎる。

 呼吸が微かに薄くなり、視界が揺らぎ始める。

 その中でも、ノースは鋭く推察していた。


「概念を、裏返す。つまり……なるほど。俺があの時感じていた……これで勝てる、戦況はこちらに傾く、有利になるなどの感覚。その『勝利の概念』を、一時的に裏返したのか……!」

「そうすると、それは『敗北の概念』となる。勝てるかもって考えが負けるかもに変わり……あなたは攻撃を止めてしまった」


 如何に手勢を全滅させたと言えど、蓋を開けてみればゼリナの圧勝だ。最早、ノースには抗う術は残っておらず、万事休すかと思われた。



 魔王アレンが現れるまでは。 



「……魔王?」 

「……何故……?」

「ノース、これから全軍へ向けて指令を飛ばす。お前もそこで聞いてろ」

 

 そう言い、アレンは黄金の炎でノースを包み込んだ。といっても、その炎は敵を焼き尽くすためのものではなかった。

 ――これは。


「傷が、癒えていく……?」


 ノースは微かに目を見開いて、アレンを見た。雰囲気が、微かに変わっているのが感じ取れる。

 今までは比較的甘い、優しい王様と言うべきオーラだったものが――


「なにが、あった」


 今は、紛うことなき『魔王』のそれになっている。

 自らを包む不思議な炎を見て、ノースはさらに問いただした。


「この力はなんだ? 味方の軍はどうなった? 答えろアレン!」

「向こうにはシモンを置いてきた」

「シモンを置いてきただと? なら何故、炎を使える? お前自身には炎の魔力など、ましてや傷を癒やす力も……!」

「察しろ。それと口を慎め」

「……っ!」


 威圧感でノースを黙らせて、アレンはゼリナの方へ声を掛けた。


「もうじき、そちらにも連絡が行くはずだ」


 アレンは無表情で短く言うと、マジックストーンを一個取りだした。比較的多くの魔力を込め、全ての軍団長へ回線をつなぐ。

 それと時を同じく、ゼリナの通信機にも連絡が入った。

 それぞれ別の場所でカガリ、アレンの口が開かれ、世界最高権力を秘めた言葉が放たれた。


「……え?」











 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「時間切れ……だな」


 そう呟き、吸血鬼ヴァンパイア族長シュラウドは倒れた。デッドエンジンにより得た力で鬼の如き力を見せつけいたが、ついに僧王グスタフを仕留めることは出来なかった。


「私を殺すことは叶いませんでしたね。しかし、見事です。右目を潰され、骨も何本か折られた。敵ながら天晴」


 荒い息を吐きながら、グスタフはもう一人の主力クイントに視線を向けた。


「今なら、あなたと互角でしょうか? これはまいった」

「ぶっ殺してやるよ。シュラウドさんが命を投げてまで繋げてくれたんだ」


 殺気を漲らせ、走り出そうとしたその時――

 

 王の声が木霊した。


「……ふざけんなよ……!」






   


  

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 科学国家ニュートの、聖騎士リンクに勝利したドロシーとサーペントにも、その報せは届こうとしていた。


「そう言えば、人間はどうやって連絡を取っているんですの?」


 ふと浮かんだ疑問を、ドロシーは簀巻きにされているリンクにぶつけた。今さら隠すことでもないと勝手に判断し、リンクは口を開いた。


「仕組みはまるでわけわかんないけど、ウチの発明家気取りの王様が開発した装置を使ってる。持ち運べるくらい小さい奴は音声だけだけど、大型を使えばホログラムで相手の姿を映すことも出来る」

「そんなものが……あなたは知っていらしたの? ご意見番?」


 サーペントに会話を繋げる。サーペントは首を振るような仕草をして、言った。


「知らないわねえ。数百年見ないうちに、人間界も随分変わっちゃったみたいね」

「まあ、あのおっさんのお陰で五百年くらい科学が進んだ、とか言われてるし」

「魔界にも、ぜひとも取り入れたいですわね」


 そんな当たり障りのない会話をしている時に――

 

「あれ、連絡が来てる。出て良いかい?」

「内容を全て教えることですわ……って、こちらも連絡が……」


 王の言葉は告げられた。



「……何を、言ってるんですの?」











 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 武装国家バーレンの軍隊と闘う、ハーデス傘下のゴロツキたちを指揮していたダウトは、敵の練兵具合に舌を巻いていた。


「なんて奴らだ。指揮官なしでここまで連携を取るか!」


 加えて、一時的なトップであった聖騎士クライムが重傷を負ったことで、全ての兵が死を覚悟して突撃してくる。

 大軍が死兵と化して襲ってくるのだ。唯一の勝利の道である個々の実力がほとんど埋まった、と言ってもいい。さしものダウトも、苦戦を強いられていた。

 

「皆、俺に続け! 今一度力を振り絞り、押し返してしまえ!」


 雄叫びを上げながら突撃していく最中――


「なんだ? ハーデスが渡したマジックストーンから……」


 ここにも、声は届いた。 

 


「こちらとしては有りがたいが……正気か、アレン?」






 





 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 魔法と魔導が炸裂しあう、最も熾烈な戦場にも、届こうとしていた。


「死に絶えろ、クソどもが……!!」


 此度の戦争で、ペルシアは明らかに変わろうと、いや既に変わっていた。自ら先頭に立ち、妖精族ピクシーという巨大な組織を率いることで、自らの王の器を知らずの内に完成させようとしていた。


「出し惜しみなどするな! 全力を尽くせ! 生中に生なく……!」


 嵐と雷が、襲い掛かる凶弾を跳ね除け人間に殺戮をもたらしていく。


「死中に生あり!! 全軍押して押して押しまくれ!!」


 大気を揺るがすほどの雄叫びの中で――


「――全軍に告ぐ、これより直ちに――」


 王はそれを告げた。



「おい……血迷ったか、魔王!!」











 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 後戻りは、もうできないだろう。何せ、俺はもう言い掛けてしまっているのだから。恐らく、ほとんどの者の俺を見る目が変わる。

 ――構うものか。

 これが、俺の決めた道。例えそれが、修羅の道だろうが、茨の道だろうが、そんなことは関係ないし知ったことじゃない。

 この言葉を最後に、いや、始まりに俺は魔王になる。

 正真正銘――『最強の大魔王』に。



「全軍に告ぐ。これより直ちに撤退せよ」



 この世界のために、俺の自己満足のために、そして何よりリーシャのために――

 俺は、誰にも聞こえないよう呟いた。


「――俺が絶対悪になる。正義を結託させるための、絶対悪に」


 誰が予想してただろうな。最弱の魔王候補が、こんなこと言うなんて。

 なあ、セバス?   

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