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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第二章 第二次ラグナロク
62/80

右腕と頭脳

ようやく……ようやく主人公再登場します(実に十二話、七か月以上ぶり)

 魔界本隊。血で血を洗うかのような戦場で、大将アレンは先陣を切り闘っていた。数の暴力と連携で、着実に歩を進めてくる敵勢を相手に、数に劣る魔界軍は個々の力で対応する。

 魔界側四万人、人間側八十万人。その戦力差は二十倍にも及ぶ。

 常識で考えれば、先ず勝ち目はないだろう。一人当たり二十人、最低でも十人は撃破しなければ勝てない計算なのだから。如何にアレン、ノース直属の精鋭ぞろいだとしても、形勢は不利になる一方だ。

 それでも、戦力差は僅かながら縮まっていた。ノースの巧みな用兵で、損害を少なく敵を撃破しているためだ。

 兵を八つの部隊に分け、円を作る。一部隊が一時間戦闘を行った後、離脱。入れ違いになるように、次の部隊が攻撃を仕掛け、後方に待機する兵たちは魔法で援護射撃をする。戦闘を行った部隊は休息を取り、出番が来れば再び白兵戦を仕掛ける。これにより、消耗を抑え、休みなく攻撃を続けることが出来る。

 『車懸くるまがかりの陣』。人間を軽く凌駕する身体能力と射程距離、破壊力に秀でる魔法を使える魔族だからこそ、その真価を発揮する戦術である。

 加え、魔王であるアレン自身は休みも取らず前線で戦い続けている。魔族である以上、魔王のその姿を見て士気が上がらない訳がない。

 ――アレンが表に出て、俺は裏でサポートをする。そうすれば、


「負けは有り得ない。第三部隊、退却せよ! 第四部隊、前へ!」


 先頭に夢中で指示に気付かない者もいるが、《お人形使パペットマペットい》で無理矢理に後方へ下がらせる。一時間という、少し物足りないが、微かに疲労が溜まる戦闘時間がミソなのだ。

 最後尾に位置する際に、控えているメリウスから傷を癒やしてもらい、溜まったフラストレーションを戦場で発散する。指揮を取るのは至難の業だが、ノースならばそれが出来る。


「流石はノースだな。個人もそうだが、集団での闘い方も熟知してやがる」

「確かにあの男、お主には勿体無い器よのう」

「……おい、俺は仮にもお前の主人だぞ」

「油断しておる暇があるのか? 来るぞ!」


 そんな軽口を叩きながら、アレンは迫る火の粉を振り払い、敵陣のど真ん中へ突っ込んだ。大きく息を吸い、戦場によく響う声で叫ぶ。


「逃げの選択肢に勝利などない!! 栄光を手にしたけりゃ闘え!!」


 青炎を掌に収束させ、地面に押し付ける。刹那、アレンを中心として炎の竜巻が巻き起こり、敵を焼き尽くした。

 勢いづく見方が、我も我もと武器を振るい、攻防を続ける。

 ――数の上では負けてるが、勢いはこっちにある。

 

「ただ不気味なのは、敵が変わったことを仕掛けないってことだな……」


 ――何か、企んでやがるのか?

 そんな疑問が頭をよぎった時、報せは届いた。

 ノースからの連絡が、頭の中へ響く。


「偵察からの情報だ。敵が動き始めたぞ。聖騎士ゼリナが横を突いてくる」

「ゼリナか……ノース、お前がこの場を離れたとして、陣形は維持できるか?」


 ノースは一瞬考え、判断した。


「技量による。お前がそれなりの指揮をとれるなら、維持は可能だろう」

「……分かった。ノース、魔王命令だ」

「ふん。何なりと申し付けるがいい」


 アレンは苦笑しつつ、命を下した。


「ゼリナを迎え撃て。倒せとまでは言わん。ただ、陣を決定的に崩すような事態は何としても防げ。やれるか?」

「誰に行っているんだ? 魔王閣下」

「任せたぜ、ノース」


 それを最後に魔術は切れた。アレンは指揮に意識を向けるため、攻撃の手を微かに緩めた。











 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「あっ、来た来た」


 進軍を続けていたゼリナは、ノースの姿を確認しそう呟いた。


「全軍止まれ!!」


 一喝し、部隊の歩を止める。一人だけ三歩前に出て、言葉を交わせる位置にまで接近した。


「会うのは二回目だよね? 覚えてるー?」

「できれば会いたくなかったがな。早急に帰ってもらいたいくらいだ」


 微量の殺意と敵意を交差させつつ、二人は表面的には穏やかに話していた。

 微かに微笑み、ゼリナは返答した。


「やだって言ったら?」

「皆殺しだ」

「怖いなー、人間の血も入ってるはずなのにそんなこと言うんだ」

「それ以前に魔王血統だ」

「ふーん。そうだよねえ。じゃあ……」


 ゼリナは一枚目のカードを切った。


「魔界の三分の一をあげるって言ったら、その魔王の血はどう反応するの?」

「……何?」

「覇王様はあなたのことをとっても高く買ってるの。すっごい好条件でしょ?」


 ――ああ、そういうことか。

 ノースは視線を険しくした。


「俺を引き抜く気か」

「ご名答。乗り気になったりしない?」

「断る」

「わお! 超即答!」


 ケラケラと笑い、ゼリナはさらに手札を出すことにした。


「それじゃあ、今度は人間の血に問いかけてみようか」

「…………」

「妹が人質にとられてるって言ったらどーする?」


 直後、無数の光剣がゼリナの周囲に突き付けられた。無論、ノースが放ったものだがゼリナは微動だにせず、口を開く。


「あれ、焦ってる?」

「下手な冗談を言うなよ。後衛にいるあいつが捕まってたまるか」

「信じる信じないは自由だけど、こちらに付かないなら地下の善良な市民の多くが犠牲になるよ」


 ――どうする。

 ノースの脳は、幾つもの選択肢を並列してシュミレートした。

 ――裏切るか、留まるか。

 ゼリナの言葉は嘘ではない。地下の善良な市民、つまりそれはミナミが防衛していた箇所を言っている。

 ――多大な犠牲を払ってまで、留まるべきか?

 一時的に裏切る、と言う手もある。頃合いを見て、再び寝返ればいいのだ。しかし、ノースの中ではある単語がちらついていた。

 魔界の三分の一。それだけの領地があれば、魔族と人間の混血、魔人の国が創れる。長い間肩身の狭い思いをしてきた自分たちの楽園を、ノースならば想像できる。それは、ノースの念願でもあった。

 ――アレンの元でも可能だが、ミナミと一般人を斬り捨ててまで――


「色々考えてるねー。ま、見るからに頭よさそうだしね」

「……少し黙っていろ」

「隠すことでもないから言うけどさ、あたしも混血なんだよね」

「薄々そんな気はしていた。同じような匂いがするからな」


 少し前にあった時も、それを匂わせるようなことは言っていたので、大して驚きはしなかった。ただ、はっきりそうと言われれば、別の問題が発生する。

 ――望剣の力をフルに発揮できるならば、厄介かもな。

 ゼリナは続けた。


「あたしは別にさ、人間に付こうが魔族に付こうがどっちでも良い訳じゃん? なんで人間に味方してるんだと思う?」

「……簡単だ。付きたいと思うような英雄がいたからだろう」

「そ。あんたにとってのそれが魔王で、あたしは覇王だった。あたしもあなたも、その気になれば王になれる器と実力を持ってる。なのに、何で誰かの下に付いているのか。これも分かるよね?」


 似ている。ノースとゼリナには、共通した部分が多々ある。


「そいつの行く末を見て見たいから。もっと言えば、それが面白そうだから」

「だからさ、あなたがこっちに付くのに、何の躊躇もいらないでしょ?」

「覇王はそれほどの人物か?」

「カガリ様に着いて行った方が、絶対に面白い」


 ノースは目を閉じて顔を下げた。そして、上げると同時に言った。


「そうだな――」


 ゼリナを囲む光の剣が次第に薄れていく――


「――やはり断る」


 同時に、矛先を後ろの軍隊に変えた。突然の事態に、射出された剣を避けることも出来ず、無数の屍が広がった。

 間髪入れず、今度は光の槍が雨あられと降りかかった。むせ返るような血の匂いが充満する。その中で、ノースは怒号を上げた。


「俺を、俺たち兄妹をなめるなよ……!! ミナミが何の考えもなしに捕まる訳がない。それにな……」

 

 掌をゼリナに向けて、ノースは言葉を繋げた。


「俺はまだ、王になる夢を捨ててはいない」


 その瞬間、ノースの眼を見て、ゼリナは理解した。

 ――ああ、なるほど。確かにこれは……

 野心と野望、世界を虎視眈々と、強かに狙うその姿には、ある種のカリスマ性がある。それでいて、頂点に立つことが目的ではない。ちゃんと、その先を見据えている。


「交渉決裂、だね。でも連絡する前に……」


 言いながら、ゼリナは剣を抜いた。何ものにも染まるような、純白の剣である。


「引っくり返せ――『希望の剣ヴァイス』」


 続いて、ゼリナは『もう一本』剣を抜き放った。こちらは打って変わって呑み込まれるかのような漆黒の剣。


「裏返せ――『絶望の剣シュヴァルツ』」


 ヴァイスとシュヴァルツ、白と黒を意味する二振りの剣が重なり合う。

 希望ヴァイスはある程度の現実を引っくり返し、絶望シュヴァルツはそれなりに概念を裏返す。

 二つが合わされば――


「覆せ――『希望と絶望の剣、リバーシ』」


 ほんの僅かだが、結果を覆すことが可能となる。


「さあ、少しだけ遊んでみようか」 

「そうだな。それも良いかもしれん」


 覇王の右腕と魔王の頭脳はこの時、正面から激突した。  

もう二、三話あとのあたりで、話がかなり動くかと思います。今、起承転結で言うと転の部分ですが、そろそろ最大の山場が来ます。

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