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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第二章 第二次ラグナロク
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魔法王の遺志

 第一に感じ取った異変は、視界を覆い尽くす激しい光だった。幾年もの間、視覚は封印されていたのだ。その衝撃は半端なものではなかった。


「っぐぁ……っ!」


 思わずこぼれた声が、ライルの耳には確かに聞こえていた。

 ――馬鹿な

 そう思ったが、風の吹く音が、自分の呼吸音が聞こえる。先ほど失ったはずの聴覚も、取り戻されていた。

 自らの体に起きている事態は、ゆっくりと回復していく視界が物語ってくれた。

 ――ああ、そういうことか


「……やってくれるじゃないか、魔法王」


 右手を目の前に持ってくる。その手は、想像よりも随分と小さい。

 見える風景も、かなり低い所に位置している。ライルの身長が縮んだためだ。

 そう――


「俺が視覚を失ったのは十五歳になり元服をした時だから、それより前……十四ってところか」


 ――キリクが放った魔法によって、ライルは七歳ばかり若返った。

 ライルは大分はっきりしてきた目で、満身創痍のキリクを見た。息も絶え絶えで、最早闘う力は残されていないように見えた。

 その姿に複雑な感情を抱きながら、ライルは静かに口を開いた。


「何故そこまでして、自分の命を削るようなことをしてまで、俺に魔法を掛けた」

「言っただろう……私はお前の未来を救う、と」

「おかしいだろう……! 何で魔族が、人間を救おうという結論にたどり着ける!? しかも命を捨てるような真似をしてまで!」


 キリクは優しく微笑んで、ゆっくりとかぶりを振った。


「……捨ててなどいない。これは言わば投資だ」

「自分のいない未来へのか? それに何の意味が……」

「私自身はいなくとも、私の遺志を継ぐ者は生きている! その者のために、私は命を燃やすのだ」


 ――ペルシア、私は案外お前のことをかっているんだぞ。

 次代の妖精族フェアリーを束ねるのはペルシア以外にいない。声に出したりこそしないが、それほどまでにキリクはペルシアに期待を寄せている。

 ペルシアが頂点に君臨し、フランがそれを補佐する。

 それが叶えば、妖精族は安泰だというのがキリクの考えだった。

 ――ただ、わがままを言うなら、


「……もう少し、あいつの成長を見ていたかった……」

 

 ――如何せん、まだまだ未熟だ。

 キリクは薄れゆく意識の中で、懐からマジックストーンを一つ取りだした。

 最後の魔力を込めて、ペルシアの元へメッセージを届ける。


「ペルシア……妖精族を、未来を、私の遺志を……お前に託したぞ」


 暗くなって行く視界、重い瞼を微かに開けながら、キリクは少し前に、セバスとやった賭けを思い出していた。

 ――あの時は負けたが、今回は負けないさ。

 砂時計の砂が落ちるようにゆっくりと途切れる意識で、最後にキリクは呟いた。


「大丈夫だ……お前がその気になれば……英雄にだってなれる」


 それを最後にキリクは意識を手放した。

 残ったライルは、亡骸にそっと近づき拳を固く握った。


「……何なんだよ。こんなの、聞いてないぞ。魔族にこんな人間らしいことが出来るなんて、聞いてない……!!」

 

 キリクの最後の言葉は、とてつもなく大きな慈愛に満ちていた。

 他人へ向けられた言葉のはずなのに、ライルが不覚にも聞き入ってしまったほどだ。


「何が違うんだ。人間と魔族と……変わらないじゃないか! 俺たちは、何でこんな争いをしているんだ!」


 何が何だか、分からなくなっていた。


「この戦争にどんな大義がある!? 勝利の先に何が待っている……!?」


 爪が食い込んだ掌から、血が流れる。その痛みすら感じぬまま、ライルは叫んでいた。


「魔族と人間――手を取り合えばいいじゃないか!!」


 その声は、何もない大地に虚しく木霊した。











 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 一方、キリクの言葉を聞いたペルシアは、大いに戸惑っていた。


「託すってなんだよ。そんな縁起でもない事……」


 魔導王フウカと互角以上に渡りあい、敵を少しだけ後ろに退かすなど、獅子奮迅の働きを見せていたペルシアだったが、僅かな動揺が仇となった。


「無駄口叩くとかケッコー余裕じゃん!」


 そんな声と共に放たれた巨大なエネルギーへの対処が一瞬遅れた。

 炸裂した破壊の衝撃波が、大将ペルシアを含む妖精族軍に少なくない損害をもたらした。


「このっ……! みんな止まるな! 押し返すぞっ!!」

「無理だっちゅうの! この天才フウカ様に勝てるわけないじゃーん!」

「五月蠅いんだよ……! いい加減に黙れ!!」


 怒りと共に両手を突きだし、ペルシアは大威力の魔法を放った。  

     

「吹き荒れ破壊せよ――《風神雷神デュアルディオス》!」

「万物を保護せよ――《イージスシールド》」


 暴虐の限りを尽くす破壊の権化を、魔導最高レベルの盾が何とか受け切った。

 が、その直後の無数の援護射撃で盾を破壊すると、ペルシアはさらに同様の魔法を放ち、人間側を押し返した。

 ――まさか、死んだわけじゃないだろうなキリク。

 そんな訳がない、と心では思っていた。あれは殺そうとしても死なない。

 

「死なない……はずだよな」


 闘いはまだまだ終わらない。むしろ、激化していると言っても過言ではなかった。











 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 同刻、科学国家ニュート陣営。

 彼らの本拠はかなりの速さで地下を『進んで』いた。

 全長七十メートル、高さは十メートルほど。キャタピラで走行し、全体をアダマンタイトによる装甲でカバー、ニュートの科学力を結集した完全武装。艦内にいるのは、選りすぐられた頭脳を持つ精鋭科学者数十名。さらに、人型戦闘マシーンを無尽蔵に製造する設備も完備。それ以外にも、ありとあらゆる戦闘用マシーンを製造できる。

 その名も『ラグナラボ』。

 ニュート国王ラジニア発案の元、フウカの兄であるコウガとヒョウガが中心となり設計。まさに、人間界の頭脳と技術の結晶だ。

 各地に飛ばしたカメラから送られる映像を見ながら、ラジニアは誰に言うでもなく呟いた。


「俺たちは、魔導の才には恵まれなかった」


 この世界で、魔導と魔法を使える者とそうでない者との差は大きい。

 差別ではないが、そこには明確な『区別』の線がある。

 強者と弱者、守るものと守られるもの。


「だが幸いにも、明晰な頭脳を生まれ持った」


 弱者であり守られるものだったラジニアは、生まれ持った優秀な頭で考えた。這い上がる方法を。

 答えは一瞬で出た。


「科学は魔法を超える。それを、この戦争で証明して見せよう」


 怪しい笑みを浮かべ、ラジニアは手元のパネルを操作した。


「現在地は、魔界の心臓地の丁度手前。リンクが暴れてくれたおかげで、存外簡単に侵入できたな。おびただしい数の生体エネルギーが確認できるが、大方一般市民の物だろう」


 ラグナラボが、侵攻を再開する。 

  

「ここを襲撃されれば、流石に堪えるだろう……!!」  


 速度を上げ、ラグナラボは地下居住スペースに突っ込んだ。

 

「ヒヒヒ……さあ、魔族狩りの始まりだ」


 意気揚々と言ったラジニアだったが、突如ラグナラボは進行を止める障害物にぶつかった。

 目前にあるのは、光の壁。かなりの高密度で、簡単に壊せそうではなかった。


「まあ、流石に無防備ってことはないか。どうやら、それなりの実力者を警備に付けているようだ」


 そして、邪魔をする者の正体は目と鼻の先にあった。

 赤いフレームの眼鏡の奥の強い意思を秘めた瞳で、その少女は毅然として睨みつけてきていた。


「五画魔将――『監視者かんししゃ』ミナミだったか。兄に劣らないほどの鬼謀を持つと言われるが、どれほどの物かな」


 ラジニアは口角を歪ませ、さも嬉しそうに言った。


「知恵比べと行こうじゃないか」


 過酷な籠城戦の火蓋が切られようとしていた。

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