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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第二章 第二次ラグナロク
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妖精の憤慨

 聖騎士ライルの出陣。それがキリクの耳に入るまで、そう時間はかからなかった。聞けば、単騎で猛然と魔族陣営に向かっており、既に相当の被害が出ているとのことだ。


「流石に、半端な数では押し切れんか。まあ、推測の範疇だ」

 

 キリクはそう呟くと、戦闘に立って魔法を放ち続けているフランたちに告げた。


「この場の指揮権を、お前たちに譲るぞ。私は聖騎士の排除に向かう」

「合点承知だ! さくっと倒してさっさと戻ってこいよ!」

「……ないとは思うけど、負けないでね」

「当たり前だ。『魔法王』の名は伊達じゃない」


 キリクは前を見据えると、《ウインドエンジン》を発動させ、空を飛んだ。超高速で滑空し、魔法と魔導がせめぎ合う戦場へ向かう。怪我で倒れているもの、既に死に絶えている者が、魔族人間問わずあちらこちらに転がっているのが見えた。

  

「……集団の戦力は拮抗しているな。だが――個人の戦力はどうかな?」


 土、火、水の魔力を融合させ、キリクは戦場に、それも人間が密集しているあたりに向け腕を構えた。

 

「魔法と魔導。埋められないさを教えてやろう」


 そこから放たれるは『溶岩魔法』。破壊力、浸食力、殺傷能力は火魔法を遥かに凌ぐ。


「生命に終焉を与えし地獄の業火。一切の容赦を与えず、侵し、殺し、奪い、壊し、焼き尽くせ――《ボルケーノドラゴン》」


 推定温度約二千度。キリクの魔力により、自然界のそれ以上に温度を引き上げられた溶岩が、龍を象り人間たちに襲いかかった。

 しかし、溶岩の脅威は、単純に熱というわけではない。勿論、熱が脅威であることには間違いないが、火魔法によって生み出される炎は、溶岩以上の温度を引きだせる(アレンの炎は現段階で四千度。ダウトもそれに匹敵するものを繰り出せる)。

 では、溶岩の真の脅威とは何か――それは粘着性だ。

 例えば、ロウソクに付いた火に指を一瞬掠らせても熱いとは感じない。ではこれが、指に付着するとすればどうだろうか。一瞬の苦しみと、持続し続ける苦痛。人体にとって性質が悪いのは、明らかに後者だ。

 ただ、溶岩魔法には一つ欠点がある。スピードが決定的に欠けているのだ。キリクが魔法を放った場所から、目標まで届くのに約三十秒。これでは当然逃げられてしまう。

 しかしその弱点は、キリクの力をもってすれば容易に克服できる。


「時間魔法、《オーバークロック》」


 瞬間、キリクと溶岩龍を除く全ての時間がほぼ停止レベルまで減速した。

 二十五秒後。

 キリクの魔法は解け、その直後に人間たちの悲鳴が響き渡った。無理もなかった。遥か遠方にあったはずの破壊の化身が、一瞬で眼と鼻の先まで接近してきたのだから。

 悲鳴の直後、溶岩龍は人間を飲み込んだ。数多の命が、その中で焼け死に、蒸発して行く。その事実を淡々と受け止め、キリクは味方の魔族に声を発した。


「聞け、皆の者! これより私は、聖騎士ライルの首を獲る! それまで、しばしここで持ち応えるのだぞ!」


 そして、キリクは光と水の魔力を融合させる。


「癒せ――《メリウスグレイス》」


 治癒魔法により、負った傷がみるみる間に塞がっていく。倒れいた者たちも立ち上がり、士気は最高潮に達していた。 


「キリク族長ォ! あんた最高だぜ!」

「必ずや勝利を手にして見せましょう!」

「速めにケリつけて、他の援護に周るぞ!」


 それぞれが鼓舞しあい、再び魔法による攻撃が再開されようとした。

 ――その時。


「……調子に乗りすぎだ。下等民族」


 声の直後、鋭い衝撃波が、魔族数人を切り裂いた。


「な……」


 一瞬思考を停止しかけたが、すぐに冷静を取り戻し、キリクは声の方向へ目を動かした。


「どうやら、お出ましのようだな。聖騎士」

「クズどもが。貴様らは淘汰されてしかるべき存在だな」

「えらく嫌われているようだ」


 ――まあそれは、

 キリクは空間魔法を発動させた。

  

「……こちらも同じだがな、人間」

「ここは……そうか。貴様の仕業か、魔法王」


 二キロほど離れた地点への強制転移。これまでの闘いで、魔力残量が少し心もとなくなっているが、それをおくびにも出さずキリクは言った。


「さて、掛かってくるがいい。魔法王の胸を貸してやる」


 無表情でその言葉を受け取り、ライルは剣を抜き放った。


「木霊せよ――『狂奏の剣、アルカディア』」

 

 すると、剣はその形状を大幅に変えていった。全体的に少しだけ子ぶりになっていくが、厚さ、幅はかなりある。それも、上から下に掛けて段々と幅が広くなっている。そして、その物体が何なのかを決定的に物語る六本の弦。


「形態其の一、斬空のギター」

 

 『奏剣アルカディア』。それは音撃による破壊を可能とさせたセンリツの剣。











 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 キリクとライルが戦場から離れたことを望遠鏡で確認し、魔導王フウカは通信装置の電源を入れた。

 しばらくの間が空いて、僧王グスタフのホログラムが中空に映し出された。


「……何ですか? フウカ」

「あの馬鹿でかい炎のドラゴン。そっちからも見えてるでしょ?」

「ええ。どうやら、城へ向かっているようで」

「あれの術者、多分そっちにいるから、今から向かうよ」


 ちょっとの間、グスタフは沈黙して、一言言った。


「余裕ですね」

「魔導国家ヘレンを甘く見過ぎだっつーの。まあ、悪い結果にはならないと思うよ。……で、行っていいよね?」

「フウカ。その場の気分で軽率な行動は止めた方が……」

「え!? ぜひ来てくれって? さっすがグスタフ! 古い付き合いなだけあって話が通じる!」


 笑顔でグスタフの意見を無視しながら、フウカはすこしイタズラそうな顔した。


「ま、もう《ラグナロク》使ってるから、後二十秒もすればそっちに転移されるんだけどね!」

「昔からあなたは……来るからには、相応の仕事をしてくださいよ」

「あったりまえじゃん! 誰に言ってんのさ!」


 グスタフの盛大な溜息と同時に、通信は切れた。

 フウカは覇動を杖に込めながら、時計の秒針を見つめた。


「五、四、三、二、一……」


 瞬間、周りの景観ががらりと変わった。ある程度知らされていた人間サイドはともかく、妖精族ピクシーたちは酷く混乱した。


「……どこだよ、ここ」


 頭が絶望的に弱いフランに任せておけず、現在妖精族のトップになったペルシアは、そう呟いた。

 

「……冗談じゃない。魔導でこんなことが出来るなんて、聞いてない」

「つっても、そんなにピンチって訳でもないだろ。見てみろよ、ペルシア」


 フランに言われ、ペルシアは辺りを見回し、フランの言いたいことに気付いた。


吸血鬼族ヴァンパイア龍人族ドラゴニュート……成るほどね。三強が揃ったってわけだ」

「どういう作戦か知らねえけど、こりゃ失策以外の何でもねえだろ」

「……そうだね。よし、とりあえず戦況を確認する」


 徐々に冷静さを取り戻し、ペルシアはクイントとシュラウドの姿を探した。が、二人とも前線に出ており、近くにはいない。

 小さく舌打ちして、ペルシアは目に付いた龍人族に声を掛けた。


「おい、お前たちの族長はどこ行った」

「妖精族!? 何でこんな所に……」

「聞いてるのはこっちだ。早く答えろ!」

「さ、最前線で闘っているが……」


 ――それって、押されてるってことか?

 最も激化しているであろう場所を睨み、直後に見開いた。


「……ハハ。なんだよ、あれ」


 呆然とそう呟き、遥か遠方から飛来してくるエネルギーの彗星に手を向けた。


「次から次へと……何なんだよ、一体!」


 周囲の魔力をかき集める。幸い、ここにはまだ再使用していない魔力が豊富にある。ありったけの魔力を腕に込め、雷魔法、風魔法として一気に放出する。


「創作魔法――《風神雷神デュアルディオス》」


 雷撃と嵐撃のエネルギー体が迸り、迫っていた攻撃魔導を打ち砕いた。しかし、ひとまず危機は去ったかと思ったその時――同レベルのものが、さらに七発。


「ウソ……だろ?」

「残念ながら現実のようだぜ! ペルシア、一旦さがってな!」


 声を張り上げ、フランは地面に手を置いた。


「持ってくれよ、あたしの魔力……!」


 ボコッ、とフランの周囲の土が隆起する。


「全員後ろにいろ! 行くぜ! 上級土魔法、《ジオグランドリューズ》!!」


 土と岩で形成された腕が無数に形成される。それぞれが手を組み合い、堅固な防壁を創りだしていく。 

 何重にもしかれた防護壁が完成した直後、七つの凶弾が炸裂した。爆音と衝撃、壁にひびが入って行く音。


「くっそぉぉお! まだまだぁぁ!」


 吼えて、渾身の力でさらに魔法を発動させる。

 そうして何とか、七回目の爆発まで耐えた。がれきが味方に当たらないよう注意して魔法を解くと、フランはがくりと膝を浮いた。


「……ッチ。やっぱ、魔力量じゃ、男には勝てねえ……か」

「フラン! 大丈夫かい?」

「……わりぃ、しばらく休ませてくれ。今は、碌に下級魔法も使えねえ」

「分かった。じゃあ、後ろで安静にしててくれ」


 ペルシアは肩を貸し、フランを立たせた。ゆっくりと歩き始めようとした時、


「……あ……」

「……? フラン、どうし」

「……わりぃ、死ぬかも」

「何を、言ってんの」


 途端、フランの体から急激に力が抜けた。


「クスクス。狙い通り。やっぱりあたしって天才かも」

「……おいおい。わけわっかんねえ」


 そこには、魔導士を従えたフウカの姿があった。


「やっほー。王様だよ」

「ここは後衛のはずだろ……? 何でいるんだよ」

「まあ、あたしが本格的に動き始めれば、こうなっちゃうよね。それにしても……」


 フウカは目を細めて続けた。


「キリクがいないってだけで、ここまで簡単になっちゃうか。やっぱ、魔法王の名は伊達じゃないね。代わりのリーダー格は……あ、そこにいる影の薄い君か」

「影が薄くて悪かったな。そうだ、ボクがこの中じゃあ一番強い」

「うーん。フウカちゃんチェックじゃあ、君はキリクを超えられない……というより肩を並べることも無理かなぁ。なんていうか覇気がない」


 その言葉は、知らず知らずのうちにペルシアの逆鱗に触れていた。


「……ダメなのか?」

「ん? ごめん、よく聞こえ」


 大きく息を吸い、フウカの声を遮るようにペルシアは激昂した。


「臆病者が英雄にあこがれるのはいけないのか!?」

「はい?」

「ていうかそもそも……」


 この時。

 ペルシアの内に潜む『怪物』が、ほんの少し顔を出そうとしていた。滲み出る濃密な殺気に、フウカはほんの少し眉を動かした。


「ボクの底を、お前が測るな……!!」

「ありゃ、何か怒らせちゃった!」

「お前なんて、キリクがいなくても、ボク一人で何とかする」

「にゃんとまあ! いいよ、先に進むのは正々堂々倒してからにしてあげる」


 双方、後ろに立つ有象無象をさがらせた。これから始まるのは、陰と陽、二人の天才同士の勝負。陰の天才が、目障りな光に歯向かおうと決心したのだ。


「フラン、ボクに任せるのは頼りないかい?」

「いや……お前なら、キリクより上の場所に、行けるって」

「そう。その程度の傷で死ぬなよ」

「っけ、お前もな」


 フランはなけなしの魔力を用いて、縦横三十メートルほどのリングを作り上げた。


「……無茶するなよな」

「うーん、と。この中で闘うってことでいいよね?」

「そりゃそうだろ」


 クイントたちが今、何と闘っているのかを、ここから知ることは出来ない。ただ、自分と同じように状況が芳しくないだろうことは分かる。

 ――って、人の心配は出来ないか。


「行くよ。能天気野郎」

「誰が野郎じゃ! 美少女様と言えーっ!」


 魔導王と魔法王の後継者(仮)の戦闘が始まった。 

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