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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第二章 第二次ラグナロク
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あれが邪魔なの

 ドロシーたち獣人族セリアンスロピィが苦戦する一方、有利に戦闘を進めている箇所もあった。シュラウド、クイントが率いる吸血鬼族ヴァンパイア龍人族ドラゴニュートの連合軍だ。

 古代より、個人の戦闘力で最強を競い合ってきた二種族が手を組んだのだ。並大抵の戦力ではこれを打ち破ることは不可能。それに加え、現在の時刻は十一時。宗教国家ブリンド国民が信教を義務付けている『ジルビア教』の基本原則に乗っ取れば、彼らはもうすぐ活動を止めなければならない。

 それに対し、吸血鬼族側はその時間からようやく本領が発揮され始める。

 払った犠牲は少なくないが、勝利は目前に迫っていた。

 後方で戦況を逐一聞いていたシュラウドはあらゆる情報を加味し、クイントに一つ提案した。


「一つ提案なんだが、こっからは俺も出て良いか?

「……わざわざ、ボクたちが出る必要はないかと思うのですが。何故です?」

「上手くいきすぎてんだよなあ。それが少し引っかかるっつうか」

「それだけですか」


 横目で見られ、シュラウドは苦笑いしつつ一言付け足した。


「あとはまあ……勘だな」


 盛大な溜息が聞こえ、少し気まずく思っていると、クイントが渋々と言った感じで言った。


「十分後。彼らの就寝時間になったら向かってください。それで、もしなにかあったら報告をお願いします」  

「いや、さすがその年で族長になっただけはあるね。とても模範的な解答だ」


 手を叩きながら、にこやかな笑みを浮かべるシュラウドに、クイントは少し不機嫌な声で指摘した。


「……からかってますか?」

「いや別に。ただ……」


 屈伸運動を始めつつ翼を広げ、シュラウドは隈だらけの眼をクイントに向けた。


「少し、模範的過ぎるんだよなあ」

「は……?」

「いや、気にすんな」


 クイントの頭に骨ばった手をポンと置き、シュラウドは颯爽と飛び立った。


「な……」


 その姿をだまって追いながら、クイントは呟いた。


「あの人、ナチュラルに命令違反したな」


 十分どころか、一分も経っていない。再度溜息を吐いたその瞬間――



 破滅を現す殺意と、恐怖を司る狂気、双方の持つ牙がぶつかりあった。


「シュラウド……さん?」


 ゾクリと、バベルに入った時でさえも感じなかった不吉な予感が、クイントの体を駆け巡った。

 少し先――遠くでもなければ近くでもない場所で、何かがあった。

 そして、その心配は的中することになる。

 

「あーあー、クイント、聞こえてるか?」

「シュラウドさん、大丈夫なんですか!?」

「それよりもだ。クイント、お前出ろ」

「出ろって、戦場で何が……」


 あらゆる情報をすっぽ抜かせて言われた言葉に戸惑う。それを感じ取ったのか、シュラウドが早口で、必要最小限の情報を告げる。


「聖騎士に遭遇した。当初の作戦通り、タイマンに持ち込むつもりだ。あと、奴らはまだ眠らない。それどころか、さらに勢い増してるぜ」

「……聞いていた話と違いますが」

「俺も驚いてるよ。予想外ってのは怖いもんだぜ。だから、お前が戦場に行け。強者の出撃で、戦況は幾らでも覆る」


 そうは言われても、クイントはすぐには動けなかった。

 ――急にそんなこと言われても、どうすれば。


 クイントは、急いで頭を回し始めた。


 ――これから全速力で向かったとして、十分もあれば最前線に着くだろう。

 

 次に、その後の可能性を考えていく。


 ――向かったとして、どう戦えばいい。魔法を中心に短期決戦を狙うか、それとも長期戦に挑むか。


 脳内で、目まぐるしく情報が駆け巡っていく。 


 ――そもそも、なぜ敵はまだ眠ろうとしないんだ。ひょっとすれば、まだ隠している奥の手があるかもしれない。


 クイントは爪を甘噛みした。心臓が鼓動を速めていく。 


 ――そうなると、その可能性も視野に入れて長期戦の方が望ましいか。それとも、奥の手を使わせる間もなく早急に潰した方が、



「返事をしろ! クイント!」

「――――は、はいッ!」

 

 思考を横殴りしてきた荒々しい声に、クイントは一瞬体を縮こまらせた。小さい舌打ちのあとに、シュラウドの声が続く。


「いいか、一度しか言わんし言った内容も多分覚えないから、よく聞け。ウダウダ考える前に動け、動きながら考えろ。多少失敗しても、ごり押しで何とかなるもんだ。責任は後でいくらでもとれる」

「……わかり、ました」


 クイントの視線が上がり、腕が前に突き出される。

 ――後先考えずに、ごり押しでも構わない。

 何をされるのが、一番嫌か。予想外の事態が起きているならば、こちらも予想外を引き起こせばいい。


「見るがいい、人間。これが、ボクの武器だ」


 瞬間、途轍もなく巨大な火竜が飛び出した。続けざまに、二匹目、三匹目。浮雲が進むようなゆったりとしたスピードで、ある一点を目指して進んで行く。


「狙いは覇王城だ。まさか、そのまま通すなんてことは、しないだろう?」

「っは! 思い切ったことしたな! それでいいぜ!」


 愉快だと言わんばかりのシュラウドに、クイントは一応忠告した。


「シュラウドさん。死なないでくださいね」

「誰に言ってんだ。ただ、絶対に俺に近付くなよ」

「はい?」

「絶対に近付くな。いいか。絶対だぞ。絶対の絶対だからな! 来るなよ!」


 それを最後に、通信は途切れた。


「全く……まあいいや」


 クイントは翼を羽ばたかせた。体を宙に浮かせ、上方から戦場を見渡す。こうしてみると、人間側が持ち直し始めていることがよく分かる。


「さて、行くとするかな」











 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「うっわー、なんかすごいのが出てきたなあ」


 少し離れた場所で、魔導国家ヘレンの王フウカは、突如現れた火竜を見て素直な感想を上げた。


「距離と方角的に、グスタフたちが闘ってる相手が出したんだよね。うーん。やっぱ火力じゃ魔導は勝てないよねぇ」


 地面に足がつかない、普通の物より高い椅子に座り、足をぶらぶらさせながらぼやいて、フウカは後ろに目を向けた。


「ねーライル。どうすればいいかな? あれお城に向かってるよ」

「そうですね。防壁を張るにしても迎撃するにしても、かなりの手間がかかりますから――術者を殺すのが手っ取り早いかと」

「なるほど、ね。よーし決めた!」


 フウカは元気にそう叫ぶと、椅子から降りて高らかに宣言した。


「王からの命令である! これから我が軍は、ブリンド軍のもとへ向かい共闘する! 早急に戦場へ伝令せよ!」


 近くで控えていた一般兵が、敬礼して駆けていく。それを見送って、フウカは魔杖ワンドを握った。


「さて、じゃあライル。今から聖騎士としての仕事を全うしてもらおうか」


 その言葉を受け、ライルは傍に跪いた。


「……何なりと」

「今闘っている魔族のさ、族長いるじゃん。魔法王キリク。あいつさあ、邪魔だと思わない? あいつがいなかったら極端な話、敵ごとグスタフたちの場所に移動しても勝てる気がするんだよねー」


 フウカはライルの顔を上げさせ、笑顔を浮かべた。


「ねえ、ライル」


 ――これだ。

 この言葉を、この調子で言われれば、その次の発言は決まっている。

 ――あなたにそう言われたら、断るわけにはいかないじゃないか。


「アレ消して」

「御意」 

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