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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第二章 第二次ラグナロク
50/80

聖騎士は牙を剥く

 魔剣バアルとは、魔王の血を引く者のみに使用が許される呪われた剣である。この条件を満たしていない生物が柄を握れば、たちまち全ての魔力を吸い取られ、ミイラにされてしまう。

 これまでに、数多の命を刈り取ってきた魔剣には、ハーデスですら量りきれないほどの膨大な魔力がチャージされている。 

 それが今この時――


「全て消し去れ――《ダークメテオシャワー》」 

 

 気が遠くなるような時間溜めこまれ続けたこの魔力を、ハーデスは全て使い切らんと言うほどの勢いで殺戮の為の魔法を連発していた。

 既に、魔界全土が焦土になってしまうほどの魔法がクライム一人に襲い掛かっている。しかし、相手は人間界最大戦力と謳われる聖騎士の一人。両手に握る大剣を駆使して、易々と切り抜けていた。


「どうした、若いの。これが全開か?」

「言ってくれるね。体も温まってきたし……そろそろ全力で行くよ」


 ハーデスは肉体のリミッターを解除し、『悪魔還イビルリターンり』を発動した。完全に戦闘形態へ移行し終えると、空中で巨大な剣を担いでいるクライムとの距離を一瞬で詰める。

 それを待ち構えていたかのように繰り出される大剣を魔剣で受け止め、ハーデスは力づくで押し返した。金属音の余韻が残る中、クライムは地面に着地。軽く息を吸って、

 

「――そぉらっ!!」


 気合の一声と共に壊剣オーディンをハーデス目掛けて振り抜いた。防御も兼ねて放たれる魔法をことごとく蹴散らしながら、オーディンはハーデスを捉えた。

 斬られるのではなく、圧倒的質量によって吹き飛ばされ、ハーデスは軽く舌打ちをした。

 ――よく見なくても分かる。前より大きく、重くなっている。


「……どこまでも巨大化する剣、ね」

「実際どこまででかくなるのかは調べたことないが、何千年も前の記録だと『決別の森』を薙ぎ払った、なんて話もあるぜ」

「力比べじゃ分がないようだ……だったら」


 ハーデスは立ち上がり、剣を構え直した。魔剣に魔力を送り、もう一つの能力――時間干渉による超高速移動を発動させる。


 ――次の瞬間。


 クライムに無数の斬撃が降りかかった。


「……ぁあん?」


 何が起こったかを認識するまでの間に、今度は重い一撃。膝をつく直前で踏みとどまり、剣を非現実的なまでに巨大化。


「幾ら速く動こうがなあ……!」


 大きく振りかぶって周囲一キロほどを薙いだ。しかし、ハーデスを潰した感触を得られなかったクライムは、剣を天高く放り投げた。


「こうしちまえば、関係ねえ」

「……君は馬鹿かい?」

「出てきたか、小僧が」


 クライムの眼の前に現れ、ハーデスは呆れたような声を出した。


「あれが落ちてくるまで約十秒。ボクなら逃げれるけど、君じゃあ死ぬよ?」

「なら、さっさと逃げてみろよ」

「……一体何を考えているんだ」


 言葉に応える意思はないと言うように、クライムは右手を挙げ、


「さあて――」


 瞬時に糸状の覇道を剣にくっ付け、素早く腕を振り落とした。


「――な!!」

「……え?」


 グシャリ、と。明らかになってはいけない音がどちらかから聞こえた。 

 剣は見る見るうちに元のサイズに収縮し、持ち主の手に戻っていた。人型にへこんだ地面から身を起こし、クライムはその巨体をほぐしながら、ハーデスがいた方に歩み寄った。


「よう、鍛え方が足りなかったな」

「……そう、い、う……じげ、んじゃ、ない……だ、ろ、」


 声こそ上がったが、もはや虫の息だった。魔剣から魔力を受け取りながら、ギリギリで持ちこたえている状態だ。

 クライムが、止めを刺そうと剣を振り上げた。

 《学者泣ルールメイカーかせ》で逆転をしようにも、全文を唱えるより早く懐剣オーディンが突き立てられるだろう。


 ――万事休す、か。


 諦めかけたその時、その炎は飛来してきた。

 これまでの戦闘で、燃えそうなものはないこの場でも揺らめき続けるそれは、龍の形を象った紅蓮の炎はクライムをそこから数歩引かせるのに十分だった。


「やれやれ。頼りない弟子だな」

「……あっ、れぇ……? 来た、の?」

「さっさと傷を治せ。雑魚の方は俺が粗方片付けておいた」


 赤髪を揺らしながら歩み寄るその男に、クライムは不機嫌そうな声で問うた。


「相当できるな。何者だ?」

「俺はダウト。そこに倒れているやつの元師匠だ」

「ダウト、ねえ。もう一つ質問するぜ」


 クライムの眉間に、皺が寄っていく。怒りを持っているのは、誰の目にも明らかだった。


「雑魚は粗方片付けたって、どういう意味だ?」

「向こうで闘っているお前の部下たちだ。俺が半分ほど数を減らしておいたぞ」

「この下衆が……!!」


 懐剣が、再び巨大化した。振り上げて、怒りと共にダウトへ叩きつける。

 簡単に躱されてしまうが、構わずに信じられない速度で振り続ける。


「てめえは……俺がぶち殺すっ!! 絶対にだ!!」

「っは。その剣が味方にもあたっているとかは考えないのか?」

「当たらねえように振ってるっつうの!! 余計な事をごちゃごちゃ言ってんじゃねえぞ!!」

「それは失礼したな」   

  

 微笑を浮かべながら、ダウトはクライムという男の人間性を鑑定した。

 この怒りようを見るに、仲間思いな人間であることは明白。一人一人の結束が強い人間の中でも、特に人を思いやる心を持っているのだろう。

 ――それはあるいは、英雄などの鏡となる精神なのかもしれない。

 しかし、それ故に利用するのは容易。

 ――ハーデス、よく見ていろ。こういう奴の攻略法を教えてやる。


「そういえば、お前の王様がどうなったか知っているか?」

「てめえらクソ魔族に殺されたんだろう!」

「……いや、実は生きている」

「な、何!?」

「嘘だ」


 ダウトは簡単にできた隙を付き、渾身の爆砕魔法を叩き込んだ。爆発で吹き飛び、休む間もなく放たれた雷撃と炎を浴びながら、クライムは怒りに震えながら剣を振るった。

 破壊力こそあるものの、如何せんそれは大振りすぎた。剣は空を切り、その間にクライムはダウトの追撃をもろに喰らった。


「お前のような人格者は、集団の士気を上げたり民間人に好印象を与えることにはこれ以上ないほど優れている。だが、それは言いかえれば甘く、単純というだけだ。ま、それで言えばウチの魔王もそうだが」

「く……そ……がぁ!!」

「ほら、また怒りで隙が生まれた」


 ダウトに言いように弄ばれ、クライムは荒い息遣いのままとうとう膝をついた。

 ――俺は、一体何を……

 強く、これ以上ないほど強く歯を食いしばる。

 そして、怒りで我を忘れ、無様な姿をさらしてしまったこと、殺されたという同志たちの無念を払拭するように、頭を上げ、次の瞬間、剣の柄へ思いっきり振り落とした。

 血が数滴、地面に落ちる。ズキズキと傷が痛む。深く深呼吸して、ダウトを睨み付けた。


「悪かったな。こっからはもう少しマシに闘えるぜ」

「自傷行為による気持ちの切り替えか。ならここからは……」


 静かな足音は、凶悪な殺気を忍ばせ近付いていた。完全なる敗北は、ハーデスのプライドを著しく傷つけ、憤りを感じさせていた。


「ハーデス、行けるな?」

「うん……仕切り直しだ」


 









 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「あーもう! ハーデスは何をちんたらやってるんですの!?」


 向こうの戦場で何が起こっているかなどつゆ知らず、ドロシーは半分自棄になりながら、無尽蔵に湧き出てくるロボットを破壊し続けていた。

 族長であるドロシー自らが先頭に立って闘っていても、戦況はあまり芳しくなかった。少しずつではあるが、確実に押されていた。


「一体ずつちまちま壊してても埒があきませんわ。ここは一発……」

「ドロシー様! 落ち着いてください!」

「う……分かってるわよ!」


 ドロシーの魔力量は、他の族長たちと比べ、かなり少ない方だ。種族の差によるものなので仕方がないが、少しばかし強力な魔法を数発撃つだけでガス欠になってしまうというのは如何せん心もとない。

 不安と焦りばかりが募る中、さらに悪い光景が視界に飛び込んできた。

 地獄から響くような断末魔、そして、真っ二つに切断された味方の亡骸。


「……何が……」

「やっほー。お姉さん綺麗だねえ」


 重力に従い倒れていく死体に隠れていたのは、まだ年端もいかぬ子供。しかし、その内に潜む無邪気な邪気は、ドロシーを戦慄させるのに十分だった。

 天真爛漫をそのまま表したような笑顔で、科学国家ニュートの聖騎士リンクは言った。 


「ちょっとの間さあ、二人きりでデートしようよ」

「そう言うセリフは……五年早くてよ」


 言いながら、ドロシーは『獣化』した爪でリンクの喉笛を掻き切ろうと試みた。獣の勘が、けたたましくサイレンを鳴らしているのだ。こいつはヤバいと。


「死になさい!」


 リンクは襲来する爪を見切り躱すと、ドロシーを投げ飛ばした。そこでようやく、事態に気付いた獣人族セリアンスロピィたちがリンクに攻撃を仕掛ける――が、リンクがゾッとするような笑みを浮かべた直後、


「あぁぁぁっぁぁぁぁぁああ!」

「っひ……いやぁぁぁぁあ!」


 そんな悲鳴と共にバタバタと倒れた。思わず足を止めた獣人族たちに目もくれず、リンクはドロシーに近付いた。


「それじゃあ、行こうよ。誰にも邪魔されないところへさ」 

 

 悪い予感しかしなかった。一対一に持ち込んだところで、先ず勝ち目はないように思えた。

 ――でも、従うしかないようですわね。


「あたしを満足させた男は、数える程度しかいなくってよ」

「ボクのエスコートがお気に召すと良いんだけど」

「……減らず口を」


 腹を括って、ドロシーは駆けだした。


  





 と、その時。


「さて、何か大変なことになっちゃってるみたいだけど、あたしはどうしましょうか? ドロシーちゃんが不安だし、行ってみようかしら? でもイケメンのキリクちゃんも気になるし、まだまだ幼いクイントちゃんも……あ! アレンちゃんも捨てがたいわぁ~! やだ、あたしったら優柔不断!」


 どこかで、誰かが、そんなことを言っていた。

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