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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第二章 第二次ラグナロク
46/80

世代交代

 時はさかのぼり、会議が終わり、少し経った頃。魔界ではかつてないほどの避難活動が行われていた。あと数日もすれば始まる戦争に備え、一般市民を安全な場所へ避難させるのだ。

 避難先にはデモンチョイスの際にも使われた、あの巨大地下空間が適用される。地下には既に、ありったけの食料と物資が運び込まれている。さらに、それが尽きた場合にも対応できるよう、生活空間とは別に、広大な田畑と人工的に作られた川が整備されており、自家生産も可能としている。

 

「全く、よくこれだけの設備を造った物だ」


 市民の先導をしながら、ノースは呟いた。地下自体は遥か昔からあった物らしいが、そこに手を加えたのは百七代魔王ラスク――の部下とのことだった。

 ――ありがたいことに変わりはないが。それよりもだ、


「……あのバカ、どこへ行きやがった」


 言葉が指し示している人物は、ミナミのことだった。

 今やれることがないのでこの仕事を引き受けているが、もともとはミナミの仕事だ。確かに少し遅れるとは言っていたが、既に三十分は過ぎている。

 職務怠慢もいいところだ。ノースは若干イライラしながら、地下空間に人々を誘導していた。

 と、その時だった。


「……どろくらいなかにひゃいってるー?」


 という能天気な声と共に待ち人はあらわれた。みると、足元が少しふらついている。ノースはぶちまけたい不満をぐっとこらえ、冷静に言った。


「……ろれつが回ってないぞ。何をしていたんだ?」

「ん~」


 頭を押さえながら、ミナミは答えた。


「ちょっと貧血気味なだけやから、気にせんといてー」

「気にせずにいられるか。焦点もあっていないぞ。それとここに固まっても意味がないから、お前は別の場所に」

「あのさ、つかぬこときくんやけど……」

「おい、無視するな」

「ファーストキスの定義ってなんやろな……?」

「……もういい! お前は休め! 速めに休んだ方がいい! 帰って寝ろ!」

「うぅ~」


 それを最後に、ミナミはその場で倒れてしまった。何があったのかは分からないが、ノースは溜息を吐いて、魔術を使いキリクに通信を飛ばした。 

 

「突然なんだが、来てもらっても良いか? キリク」

「……いきなり何を言っているんだ?」

「年齢的にお前は短期間での強化なんて望めないだろう。どうせ暇ならこっちを手伝え」

「随分失礼なことを言うんだな。確かにそうかもしれんが、私には私の仕事が……」

「フランとペルシアに任せろ。いや待て、ついでだからフランも連れてこい。一番若いペルシアに全部押し付けろ。分かったな!」


 そこで一方的に連絡を断って、ノースはドロシーとシュラウドにも同じような連絡をした。

 約一時間後、四人はそろって現れた。


「まさか全員来てくれるとは……」


 冷静になってみると(ならなくても)相当無茶なことを頼んだので、こぼれた言葉だったが、その言葉の瞬間、フランを除いた三人分の敵意が刺さってきた。

 一つ大きく咳払いして、ノースは言った。


「それじゃあ早速、一般市民を誘導してくれ。俺が一人で頑張っていたが、それでもまだ三十億人以上残っている。それとキリク」

「……なんだ?」


 最も強い敵意を向けられ、一瞬竦みかけたが何とかこらえて、後ろのミナミを指差した。


「空間魔法であいつを家まで送ってやってくれ」

「お前の妹か。何で倒れてるんだ」


 その時、予想外の人物が声を上げた。


「あちゃー、やっぱ無理してたのか」

「シュラウド! お前、何か知ってるのか!?」


 ノースは眠っているミナミに反応したシュラウドを問い詰めた。

 どぎまぎしつつ、シュラウドは言った。 


「……いや、ちょっとな」

「言え。それとも、言えない事なのか?」

「まあ待てって。とりあえず殺意を収めようぜ、な」


 人当たりの良い笑顔を浮かべながら、シュラウドは素早く耳打ちした。諸々の事情を理解したノースは、大きくため息を吐いた。


「そう言う事か。分かった。早く行ってくれ」

「ま、そういうことだ」


 折りたたんでいる翼を広げ、仕事を開始したシュラウドを見送り、ノースはキリクの方に向き直った。

 

「それで、やってくれるか?」

「……今は非常事態だ。私情は挟まないでやる」


 右手を突きだし、指を鳴らす。大人の対応でミナミを転移させると、キリクは短く言った。


「フラン、行くぞ」

「おっしゃ! 任せとけよ。テキトーに地下へ連れこみゃあいいんだろ?」

「……先が思いやられる」  

 

 こうして、残ったのはドロシーとノースのみになった。長い髪を結びながら、ドロシーがノースに物を言おうとする。が、ノースはそれを止めて言った。


「お前には、別の仕事を任せる」

「あら、何かしら?」

「迷宮を攻略してもらう」


 迷宮、という単語にドロシーは視線を険しくした。


「どの迷宮を攻略すればいいの?」

「世界最高レベルの危険地域――北の大迷宮『バベル』だ」

「……まさかとは思うけど、一人じゃないでしょうね?」

「ああ。ハーデスとクイントも向かわせる。やってくれるか?」


 大迷宮バベル、それは北の最果てにそびえたつ、あまりにも巨大すぎる塔である。頂上は雲に隠れて見えず、攻略した者は数えるほど。

 一説には、初代魔王の墓場なのでは、とまで言われるいわくつきの場所なのだ。それでも挑む理由はただ一つ。その最上階には『魔界最強の兵器』が眠っているからだ。

 

 ――その名は魔剣、『バアル』

 

 峰を削り、海を割り、嵐を両断する。その剣が創った伝説は数知れず。手中に収めることが出来れば、強力な武器になることは間違いない。

 

「……なぜ私に任せるのか、よく分かりませんわ」

「まあ、正直に言えばキリクやシュラウド、魔王の血を引く俺やミナミの方が、実力的には遥かに上だ」


 「だが」と前置きして、ノースはキリクたちを見た。


「お前やクイントに、もっと強くなってもらわなければ困るんだよ。アレンが魔王に着任して一年。そろそろ、世代交代しなければならない時期だ」 

 

 キリクもシュラウドも、平均寿命で考えれば先の方が短い。後継者について頭を悩ませるような年だ。


「多分だが、向こうもそう考えている。そのために、この戦争で命を散らす覚悟もしているだろう」

「……いつまでも、おんぶにだっこという訳には行きませんものね」

 

 ドロシーは少し深呼吸して、微笑み、言った。


「引き受けましたわ。三日で確実に攻略して差し上げます」


 









 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 そこから本の少しだけ遡る頃、アレンに転移させられたカガリの率いる軍は、殺風景な地に来ていた。

 周りを見渡すと、他の物も勢揃いしているらしく、各王と聖騎士たちがこちらに視線を合わせた。


「ったく、なんてザマだ」


 眉を潜めて呟くと、五年前から変わらない、空気を読む気もない声が響いた。

 魔導国家ヘレンの王、フウカだ。


「遅い! あんたの指示がないと動きにくいんだから、早く来てよ!」

「来てるだろうが。相変わらずやかましいな、フウカ」

「むー、こっちはいろいろ大変だったんだからね。いきなり攻撃魔導が飛んできたりさ」

「……何?」


 カガリは前方を見渡し、ある男の姿を探した。

 

「ラジニア、それは本当か?」

「ああ、ありゃあ確かに攻撃魔導のそれだった。ついでに言えば、お前さんレベルのな」

「……ッチ。厄介だぞ」


 カガリの物と同等レベルの覇道を使える人間など、数が限られている。目の前のおてんば娘か、その部下の聖騎士ライルか。どちらもあり得ないのだから、行き着く結論は一つ。

 ――魔王……俺の攻撃をここに移しやがった。

 つまり、今この瞬間ですら、奇襲の危機が訪れているという事。


「今すぐこの場から……」

「その必要はありませんよ。覇王殿」


 言葉を遮った声は、宗教国家ブリンドの聖騎士、アンクのものだった。病的に白い肌と、坊主頭。そして口元には血の跡があった。

 ――またやったのか。

 事情を知る者がそう心の中で言うが、決して口には出さない。言いたくもないに決まっている。

 『また死体を食べたのか』など。

 ある意味尤も狂っていると思われるアンクは、言葉を続けた。

 

「ここにあった魔法陣は、既に私が破壊しましたので」

「そう言う事だ。心配することはないはずだ」

「――ちょっと待ってよ。私が破壊しました、じゃないでしょ」


 下の方から聞こえた幼い声に顔を向けると、そこには科学国家ニュートの聖騎士、リンクが不満げな顔をして座っていた。


「ボクが力を貸さなかったら、見つけることすらできなかったんだよ」

「お前なあ……ガキか、ってガキだったか」

「そうだけど、それってつまりボクが天才って事の裏付けだよね」


 生意気なことを口走るが、歴代最年少、十二歳にして聖騎士になった才能は認めざるを得ない。

 カガリはリンクに伝えた。


「生きてかえるようなら、褒美をくれてやるよ」

「ふん。さすが覇王様だね。まあ……いずれあんたも超えていくけど」


 その時、リンクから出たほんのかすかな敵意を感じ取り、二人が動いた。


「撤回しなさい。カガリ様はあんたごときには超えられない。絶対に」

「御前はフウカ様の守るべき対象だ。それに歯向かうなら殺すぞ」

「……物騒だなあ。ゼリナさんに剣を突きつけられるのは良いけど、男に殺すなんて言われても」


 ゼリナとライルの殺意を淡々と受け止めながら、リンクはカガリに言った。


「良いんですか? 止めなくて。これだけされちゃあ、ボクも黙ってられない」

「……口先だけじゃねえようだ。やってみろ」

「そうですか。じゃ、遠慮なく」


 凶悪な笑みを浮かべ、リンクの剣が放たれようとした時だった。


「ちょっと待て! 落ち着けっつーの!」

「そこまでです」


 クライムがゼリナとライルを引っぺがし、グスタフがリンクを組み伏せた。


「お前らなぁ、今の状況わかってんのか!?」

「反逆者の芽があるんです。摘み取っても構わないでしょう」

「邪魔するなら、あなたも……」

「いい加減にしろっつってんだよ!!」


 クライムは怒鳴ると、眉間にしわを寄せた。


「何に向かって殺すとか言ってんだ……! 人間の誇りを忘れてんじゃねえぞ」

「だが……」

「だがもくそもあるか! お前ら若い衆が手を取り合わねえでどうすんだ。お前らにその座を譲った、もしくは奪われた先代に申し訳ねえとは思わねえのか」


 その中にはクライムの同僚もいる。他の四人は世代交代に成功したようだが、クライムだけはいまだできずにいる。

 ――取り残されてるような気がするけど、それでも、 


「いつまでも闘ってるわけにはいかねえんだ。いつまでもこうやって喧嘩を止められるわけじゃねえんだぞ」 

「…………」


 そこで大きくため息を吐き、クライムはグスタフに言った。


「そのガキンチョ放してやりな」

「っく……いい気になるなよ!」

「一応言っとくけどな。俺は別に、お前のこと恨んでねえぞ」

「はぁ?」

「……何でもねえよ」


 頭を掻きながら、クライムはカガリの元に近付いた。


「早く、進みましょうや。くだらないことで時間を喰っちまった」

「いや、俺も軽はずみな言動だったな。あんたが安心して引退できるよう、頑張ってみるよ」

「さいですか」


 カガリは息を吸うと、全員に聞こえる声で命令した。


「ヘレンとニュートの者はフウカとラジニアの命令に従い、物資を補給せよ! それ以外は先へ進む! 五時間後、《ラグナロク》で物資ごと転移するように!」


 カガリの計算では、三日もあればまた元の場所に戻れる。その間、勇者が単独で行動することになるが、マイナスには働かないだろう。

 実力者の一人でも倒せば、上出来だ。


「勝つさ、絶対に」 

 年齢設定ですが、以下の通りです。


~魔族~

アレン……16歳

ハーデス……16歳

ミナミ……16歳

ノース……19歳

ダウト……20歳

クイント……14歳

キリク……47歳

フラン……34歳

ペルシア……19歳

ドロシー……21歳

シュラウド……49歳

サーペント……10000とちょっと

~人間~

カガリ……21歳

フウカ……16歳

ラジニア……41歳

グスタフ……39歳

ゼリナ……16歳

ライル……22歳

リンク……12歳

アンク……20歳

クライム……37歳

コウガ……25歳

ヒョウガ……23歳


平均寿命……人間70歳、魔族65歳(人間は医学が発達しているため、魔族より平均寿命が高い。それを差し引くと、60前後)


 こんな感じです。

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