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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第二章 第二次ラグナロク
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何をするべきか

 会議室に転移したアレンは、開口一番に質問した。


「奴らが再びここまで来るとしたら、どのくらい時間がかかる?」

「渡された情報をもとに計算してみたんやけど、三日前後といったところやね」

 

 ミナミの返答にアレンは頷いて、ノースに席へ座るよう促した。そして机の上に広げられた地図を覗き込み、口を開いた。


「とりあえず、これまでの経緯を確認する。俺は各地で人間の軍が現れた、と聞いてまず妖精族ピクシーの村へ向かい、科学国家ニュートの軍を退けた」

「そのことに付いてだが、一つ聞いても良いだろうか?」


 言葉を割って入ったキリクが、眼をアレンに向けて言った。時間がないことは分かっているはずなので、そうそう無意味なことは言わないだろうと、アレンは発言を許可した。


「手短に頼むぞ」

「召喚魔法で遠方へ送ったようだが、もっといい方法があっただろう?」

「……例えば?」


 キリクは地図のとある場所――広大な海を指差した。


「一つ挙げられるのが、海底に沈ませることだ」


 指を動かして、今度は火山を指差した。


「あとはマグマの中だったり、岩の中だったり。それは出来なかったのか?」

「……無理だ。召喚魔法は、そこまで万能じゃない」


 アレンは腰を下ろした。そして、全員に向けてこう告げた。


「この際だから、召喚魔法の説明をしておくか。恐らくだが、この先の闘いで重要な力になるはずだからな。皆、俺が渡した魔方陣を出してくれ」


 その言葉に従い、各々自由な箇所から魔法陣が刻まれている小さな板を取りだした。それは、戦争に備えアレンがこの場のメンバーに配備していたものだった。


「俺が魔界中を右に左に移動できるのは、そいつのお陰だ。つまり、召喚魔法は魔法陣がある場所にしか移動できない。んでもって、海底やマグマには、魔法陣を設置できないだろう?」


 と、そこでノースがアレンの言葉に斬り込んだ。


「《コネクト》ならそうかもしれんが、《ゲート》は別のはずだ。あれなら魔法陣がない場所にも行けたはずだぞ」

「その分、魔力消費がでかいんだ。百人程度が限界だから、あんな大規模な転移には使えない。それに――」

「召喚魔法の性質、やろ?」


 ミナミは、その先のアレンの言葉を繋いだ。

 

「そもそも大前提として召喚魔法は、違う場所、次元から他者をそのままの形で呼び出す魔法のことや。これは言いかえると、『安全に物体を移動させる性質』を持っているという事。この性質によって、危険な場所への召喚は出来ないってことなんや」

「もっと具体的に言うとな、そう言った場所に転移させようとすると、魔法の発動がキャンセルされるんだ」 

  

 また、メリウスやシモンと言ったアレンの眷属が違う世界との環境の差異(重力、気温、大気の成分、言語など)に適応できるのも、この性質の恩恵である。

 キリクは納得して、呟いた。


「時間を取らせて悪かったな。話を進めてくれ」

「妖精族の領地に向かったところまで話したよな。その次だから、吸血鬼族ヴァンパイアの集落だったな」

「いやほんと、かなり危なかったな。俺ら熟睡だったから。て言うか、今も眠いし」


 大きなあくびをして、シュラウドは目をこすった。夜行性である彼らにとっては、この時間に起きていることは苦行以外の何物でもない。増してや、魔導国家ヘレンの軍を寝起きで退けられるわけがなかった。寝起きバズーカなどと言うレベルではない。

 アレンは話を続けた。 


「同じように召喚魔法で退けて、今度は獣人族セリアンスロピィの集落へ。ここには宗教国家ブリンドの軍がいた。まあ、有無を言わさずこれも島流しだ」

「微妙にこなれてる感があらしたのは、そう言う事でしたの?」


 ドロシーは苦笑いで呟いた。構わず、アレンは続けた。


「さらに俺が向かったのは、ハーデスが暮らす場所だ」

「敵が実際に出現したのは、もう少し離れたところだったけどね」


 腕を頭の後ろで組み、ハーデスは言った。「ただ……」


「強大な力は感じたけど、ボクたちが向かった時はもぬけの殻だったんだよね――たった二、三分の間に」

「え? それはおかしくないですか?」

「クイント君……じゃなくてクイントちゃんか。そう、これは明らかにおかしい」


 「何故おかしいか、分かるかな?」いたずらっぽく問いかけられ、クイントはそつなく答えた。


「私の所には来なかったので明確には知りませんが、人間の軍はかなりの大所帯のようじゃないですか。移動をするには、それなりの時間がかかるはず……」

「そう。ここから導き出される答えは――」


 ハーデスは急に真面目な顔つきになって言葉を繋げた。


「ボクたちの想定していない敵――不確定要素イレギュラーがいるって事さ。それも、途轍もなく強大で厄介な……ね」

「…………」


 その存在は、全ての者が大方の予想を付けていた。が、決して口には出さなかった。人間からすればそれは紛れもな英雄だが、魔族からすれば邪魔でしかない。


 ――勇者。この戦争に参加しているであろうことは、最早明白だった。

 

「その後アレン君はノース君の元へ行き、今へ至る。まあとにかく、後三日はあるんでしょ? やれることをやっておこうよ」


 直接ぶつかる時は迫っている。勝つための準備は、今からでも進められる。

 アレンは手を叩き、締めくくった。


「何をするべきか。自分でよく考えろ。半端じゃ勝てねえぞ」











 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 誰かが、断末魔を上げる事もなく、というより殺された事すら認知できずに死んでいった。それを誰かが理解するよりも早く、殺戮を繰り返す。

 

 ――何故?


 そうしなければいけないから。それが義務だから。それが存在の意味だから。そういう風に教えられたから。そんなの嫌だと言えないから――


「……めんどくさ」


 面倒な考えを振り払うように剣を振るう。体が真っ二つに割れて、血飛沫を上げて名前も知らない魔族が一人死んだ。

 

 ――誰のためにやってる?

 

 分からない。知らされてない。考えたこともない。そもそもこの質問は誰がしている? 自問自答でもしているのだろうか? どこかで聞いた事がある声のような、ないような。気のせいかもしれない。

 でも、何か大事なものを忘れてるような――


「……めんどくさい」

「めんどくせえなあ」


 被った言葉を発した場所へ、体を向ける。


「人が隠居生活してる時に、戦争なんかしてんじゃねえっつの」

「……だれ?」


 目の前の男は、掌から電気を発した。あれに当たったら、少し痛そうだ。


「百七代魔王、アレクサンダーだ。うるせえから殺すぞ」

「音は発してないけど……まあいいや。私の名前は……」


 あれ、なんだっけ?

 忘れちゃった。仕方ないから、役職を名乗ることにする。


「勇者」

「っは! 少しは楽しませろよ!」

「…………」

    










 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「――出でよ、龍の化身シモン!」

「……む、珍しく戦場ではないようじゃな」


 少女の姿で出てきたシモンは辺りを見渡して言った。


「して、何用かの? メリウスまで呼び出して」

「そうよ。今から何する気なのか、きちんと話してもらわないと」


 二人の視線を受けながら、アレンは話した。


「急な話だが、これから俺は短期間で爆発的に強くならなければいけない」

「まあ、近況が近況だものねえ」

「それで、何をする気だ?」


 一指し指を立てて、シモンに突き付ける。少し風が吹いて、シモンの白い髪がなびいた。


「そろそろ、はっきりさせておこうぜ。お前が俺に力を『貸す』のか、『捧げる』のか」

「……なるほどのう。確かに、はっきり決着を付けてなかったか」

「そう。今まではあくまで、俺の力に見合うだけの力を貸してもらうだけの関係だった。主従関係が曖昧なままだ。これだと、百パーセント全ての力は使えない」

「闘って、我を従えようと言うのか」

   

 シモンの微かな笑顔の裏に隠れていたのは、期待の感情だった。思えば、始めて呼び出された時からずいぶん経つ。あの頃は小指でひねりつぶせるほど未熟だったが、今はどうなっているのか。

 シモンは真紅の炎を纏った。 


「《紅桜べにざくら》。死んでも文句は言えんぞ?」

「上等だ。メリーさん、力貸してもらうぜ」

「分かってるわよ。全く、これにもすっかり慣れちゃったわね」


 メリウスが手を握ったのを確認して、アレンは呟いた。


「《万物一体化ユニゾン》」


 アレンの眼が銀色に輝いた。少し前までは、こうはならなかった。何故なら、メリウスの力を完全に支配してしまっていたから。今は違う。銀色の瞳は、完全に支配していては出現しない。かといって、支配しきれていないわけでもない。

 これは、メリウスの力を完全に使いこなしている証拠だ。支配するのではなく、一体化する。感情を持っている以上、支配されるというのは気持ちの良いものではない。

 どうしても、僅かに歪みが生じてしまう。その歪みが、力を使う際に障害となってしまう。だから、あえてメリウスの意識を残しておく。

 ――ま、支配力をコントロールできるまで四年は掛かったが。

 アレンの髪が、黒に染まって行った。 


「さあ、始めようか」

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