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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第二章 第二次ラグナロク
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ノースの災難

「馬鹿な……」


 何の前触れもなく目の前に君臨した一大戦力に、ノースは呆然と呟いた。何が起こったのか、何故ここに居れるのか、いつ侵入したのか、どのような手段を用いたのか。

 ――そんなこと、後で考えればいいか。

 問題は、この場をどう凌ぐか。必死にかき集めた情報と照らし合わせれば、この場で注意するべき人物は三人。

 第一に覇王カガリ。これは言うまでもない。そして、トランザムの聖騎士ゼリナに、バーレンの聖騎士クライム。

 どう見ても非常事態だった。ここからの判断で戦況は二転三転していくと、ノースは予見した。

 そして、この非常事態を前にノースがやるべきだと判断した行動は、主力メンバーに事の次第を通達することだった。


 ――魔術、《メッセージ》


 最低限の状況として、現在地と状況を一方的に伝え、ノースは深く息を吐いた。


「……さて、どこまでやれるかな」


 魔族の拠点となる最大都市、《カルマ》からほど近いここの立地を考慮すれば、これ以上進ませるわけにはいかない。

 右手に剣を創りだし、腰を低く構える。重心を前に傾け、ノースは言った。


「見たところ食料などの持ち込みはないようだが、まさか不眠不休で戦うなんて阿保なことは考えてないだろうな」

「当たり前だろう。こちらにも考えはある。それよりもだ……」


 一歩前に出て口を開いたカガリは、指を突き立てた。


「俺たちは貴様を殺してこの先へ進んでも構わんのだろう?」

「ダメだと言ってのこのこ引き下がるのか?」

「……そうだな。よし、決めたぞ」


 カガリは手を開くと、覇道の塊を放出した。

 そう一口に言っても、秘めた破壊力は常軌を逸しているものだった。事もなげに放たれたその一撃は、ノースの上級光魔法の遥かに上を行くほどの威力を持っていた。

 逃げ場もないエネルギーの嵐に巻き込まれ、あっけなくノースが消失したのを見て、カガリは首を傾げた。


「おい、今のは死んだのか?」

「死んだんじゃないすか? て言うか、俺だけでも進んでいいですかね?」

「馬鹿言え、単細胞のノーキンが」


 頭を掻きながら返答するクライムを一蹴して、カガリはゼリナに意見を仰いだ。ゼリナは少し目を閉じて考えると、カガリに耳打ちした。

 カガリは頷いて、小声でクライムに告げた。


「クライム、お前は自分の兵を連れて先に進め」

「え? いいんすか? でもなんで急に、それとなんでこご……」


 大きな声で話そうとするクライムの肩を叩き、カガリは続けた。


「良いから行け。そうすりゃわかる」

「……分かりましたよ」


 兵の方に向き直り、クライムは声を張り上げた。


「おいお前ら! 俺に続け! 薙ぎ倒すぞ!」

 

 バーレンの兵らしく、規律の取れた動きでクライムの後ろに続き、動く大群。

 刹那、先頭のクライムの背後にノースは現れた。


「……死ね」


 が、それを読んでいたように今度はゼリナがノースの前に躍り出た。そして笑顔のまま無言で剣を振るう。ノースは高速で襲い来る刃を見ながら、口角を上げた。

 ――ここまでは計画通り。ノースが左手を小さく動かした。

 直後、ノースの体を捉えるかと思われた剣筋が通ったのは――クライムの体だった。

 血飛沫が上がり、クライムが痛みに呻きながら呟いた。


「……おいおいゼリナちゃん。勘弁してくれ、よ」

「《お人形使パペットマペットい》。まずは一人、次はお前だ」


 息着く暇もなくクライムの体に触れ、ノースはそこらじゅうの空間からマナをかき集めた。これから発動する自身最強の魔術を発動するため。

 ――終わりにしてやる。

 ノースは息を吸い、魔術の名前を唱えた。


「《ダメージシェア》、この場の全ての人間に、この男と同じ傷を共有させる」


 痛みにうめく声、恐怖に上ずった声が聞こえる。地面に降りて、ノースは敵から距離を取って確信した。

 ――十分に戦える……俺の技は通用する!

 魔術で幻覚を見せ、自分がやられたように見せかけて、不意打ちを仕掛ける。ただし、このままのシンプルな作戦では見破るだろうと考え、ノースは更に手を打った。《お人形使パペットマペットい》で誰でもいいので盾にして、《ダメージシェア》で全員に被害を与える。

 ――もっとも他人の傷への干渉が可能になったのは、最近のことだったから、少し危なかったな。

 と、その時だった。


「……アハ、アハハ」


 不意に響いたゼリナの笑い声に、ノースは思わず身構えて睨みつけた。


「あなたもその力使えるんだ! なるほど素晴らしい才能だね!」

「……まるで、自分も使えるような言い草だな」

「うん。そうだよ」


 その言葉が、真実かどうかは定かではない。

 魔術のことを言っているのなら、それはつまり人間と魔族の混血という事を意味している。第三者から存在を教えられたミナミのような例は別として、何も知らない者が魔術を習得するには、マナを扱うという工程に辿り着かなければならない。それだけでも大したものだが、その時点で純血の者はあることを理解し、断念せざるを得ない。

 マナは体に毒であり、完全に使いこなすことは不可能、という事だ。

 ――もし、もしもこいつが混血者なのだとしたら、相当厄介だぞ。

 ノースの脳裏に、『望剣リバーシ』の情報が目まぐるしく駆けまわった。険しい顔のノースとは裏腹に、笑顔を浮かべるゼリナはカガリに声を掛けた。


「カガリ様。こいつの相手は、あたしに任せてくださいませんか?」

「構わん。だが、その前にこの怪我を治療しろ」

「そうですね。それでは――」


 ゼリナは剣を逆手に持った。ノースが思わず身構えたが、気に留めずその剣を地にあてる。カツン、と無機質な音が響いた。剣に波動が流れていき、光が宿る。


「――ひっくり返せ。『希望の剣ヴァイス』」


 たちまち、全員の傷が一瞬にして癒えた。剣先をノースに向けて、ゼリナは楽しそうな声で言った。


「じゃ、やる?」

「やる? じゃねえぞこのクソガキ!」


 そう言って、クライムはゼリナの後頭部にゲンコツを入れた。


「……いつつ……。いきなり何? 喧嘩売ってるんですか?」

「そりゃこっちのセリフだ。躊躇なく斬りやがって。俺じゃなかったら死んでたぞ!」

「いま言うことじゃないでしょ。脳みそついてんの? 複数個の細胞持ってんの?」

「当たり前だろ。それより、てめえはもっと協力して闘いやがれ。仲間を巻き添えにしすぎなんだよ!」


 ――いきなりなんなんだ、こいつら。

 罠? そう一瞬疑って、関係ないと考え直す。どっちにしろ隙が出来ているのだから、今攻撃しないでいつするのか。 

 ノースは目を瞑った。同時に全ての思考を展開させて、魔法を一斉掃射する準備を整える。 

 

「消し飛べ――」

「……待て」


 上に掲げた腕を掴まれたことで、魔法の発動は未然に終わった。手首を離されて、ノースは背後の人物に振り返った。


「遅かったじゃないか。どこで道草食ってた?」

「他にもいろいろ行ってたんだよ。お前のことだし、きっちり時間稼ぎはしてくれるはずだろ?」

「ふん。魔王にそこまで信頼されるとは。光栄だな」

 

 心にもないことを、などと思いながらアレンは周りを囲む人間を見渡した。

 ――なるほど、こりゃ確かに異常事態だ。

 カガリが前に出て、アレンをまっすぐに見つめた。


「強いな。何者だ?」

「魔王様だけど」

「その金髪でか?」

「なかなか珍しいだろ」


 ピン、と張りつめた空気の中で繰り広げられた会話の中でも、双方懐の探り合いはしっかりしていた。

 上空から、カガリが繰り出した攻撃魔導が襲いかかるのを見通し、アレンは《コネクト》でエネルギー弾を遠方に飛ばした。カガリは顎に手を添えて、しばらく考え事をしたかと思うと、急に口を開いた。


「強行突破、と洒落込もうか」

「させるわけねえだろ。悪いが一旦退場願うぜ」 


 アレンは右手を前に出して、一言つぶやいた。


「次元を繋げ《オーバーコネクト》」


 途端、巨大な魔方陣が五つ現れ、人間軍を飲み込んだ。《オーバーコネクト》は、多人数をより遠方に転送することを考え作られた上級召喚魔法だ。 

 魔法陣に包まれる最中、カガリはアレンに向けて、去り際に一言放った。


「この戦争には、面白い余興も用意してある。楽しみにしていろ」

「何があるのか、までは教えてくれねえよな」

「懐かしい気分に浸れるぞ、とだけ言っておいてやる」


 その言葉を最後に、カガリを含む軍隊は消えた。アレンは息を吐いてノースに言った。


「魔王城に行くぞ。全員そろってるから、これからの事を話し合う」

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