VSゴルバスト
短いですが、更新です。
頭が冴え渡り、視界がクリアになる。体中に力がみなぎり、何でもやれそうな気分になった。《デッドエンジン》の恩恵が及ぶ時間は、三十分。ゴルバスト一人を倒すのには十分すぎるかに思える。
「行きますよ」
セバスは足に力を込めた。地を強く蹴って、ゴルバストに接近し、右手の剣を薙いだ。受け止められたが、気にもせず左の剣で突きを放つ。
身を仰け反らせてそれを躱して、ゴルバストはセバスの手を蹴りあげた。
「よくもまあそれだけ動けるものだ。出血の量が酷いぞ」
「いらぬ気遣いですね!」
そう一喝し、飛んで行った右手の剣を魔力操作で矢に変える。飛ばしつつ、背にある剣を右手に掴んで、一薙ぎする。ゴルバストが迎え撃ったことで、ギイインと、金属音が奏でられた。
セバスは素早く後ろに下がって、剣を逆手に持ち替えた。そして高く跳躍して、木々を蹴りながら加速していく。背中の剣を合間に飛ばして牽制しつつ、隙をうかがった。
警戒した構えを取りながら、ゴルバストが呼びかけた。
「……小癪な。早く攻撃せんと、お主の寿命が先に尽きるぞ!」
「言われなくとも、そのつもりです!」
最高速度に達したセバスは、回転しながらゴルバストを斬りつけた。しかし、ゴルバストとて、人間最強の一角。ただで肉は斬らせない。
剣を砕き、一番ダメージが酷い脇腹を的確に斬っていた。
痛み分けの結果として、与えられた傷はセバスが下だったが、全体的な負傷は依然セバスの方が上だ。滴る血が、地面にシミを作っていく。
しかし、幾ら状況が不味くても逃げることは出来ない。今この状況は、決闘神オラレスの力が最も働くものなのだ。
「そろそろ、終わらせようか。身体超強化魔導、《ブースター》」
瞬間、あっという間に距離を詰めると、ゴルバストはセバスへ剣を振るった。
ゴルバストが魔導を使ったことで、動きが比べ物にならないほど洗練されている。セバスは剣を受け止め、弾き返すと腕に魔力を集約させた。
加えて、ゴルバストを覆うように剣を創りだす。
「ええ、あなたの命を終わらせましょう。《パラダイスソード》」
セバスの最後の技が解き放たれた。周りを取り囲む剣が一斉に矛を向けて、襲いかかる。セバス自身も腕を黙視できないほどのスピードで振るった。
五月蠅いほどの金属音がしばらく続いた。
ゴルバストの力量と、セバスの物量。
数十秒後、勝負を決めたのは――
「……がはッ。やってくれましたね……まさか……」
――そのどちらでもなく、横から割って入った不意打ちによる一撃だった。
セバスの体には、三本の剣が深々と刺さっていた。しかし、セバスもタダでやられたわけではなく、ゴルバストの右胸に剣を突き刺していた。
「『神の力』は、とっくに解除しておるわ。逃げれない、という思い込みが仇になったな」
「正々堂々闘うという言葉は……あれは嘘ですか」
「ふん。お主のような猛者を相手に、正々堂々と戦っておれるか」
ゴルバストは胸に刺さった剣を抜いて、右手を空に掲げた。
「残りの兵数は、およそ三百万強。まあ、計略成功の確率は八割と言ったとこか」
「……計略? いったい何を……」
「お主の知るべきことではない」
無愛想にそう言って、ゴルバストは深く斬りつけた。
血飛沫が上がり、糸が切れたように体が地に倒れる。それはつまり、セバスが敗北したことを示しており、同時に魔界のささやかな勝率が大きく減ったことを暗示していた。
ゴルバストはセバスの亡骸から目を背けて、兵に伝えた。
「進軍を再開する! 立ち止まっている暇などないぞ!」
規律に従い、素早く隊列を組んで、軍は再び歩みを開始した。
――のだが、それはすぐに阻まれることになる。
「――行かせない」
極々小さな火球が、周囲に散らばった。かと思うと、それは大爆発を起こし、辺りを火の海にした。
「静まれい!!」
突如起きた非常事態にパニックを起こしかけた兵を一喝し、ゴルバストは奇襲の正体を探った。
――そこか!
魔導のエネルギー弾を、気配のある場所へ放つ。炎で迎え撃たれたエネルギー弾は、小規模な爆発を起こした。
ゴルバストは煙に隠れている人影に鋭い声を掛けた。
「誰じゃ。さっきの翁ではないな」
徐々に煙が晴れていく。まず目に入ったのは、血のような赤髪、そして、龍人族の翼。
人影は口を開いた。
「俺は、そのじいさんの弟子だ」
煙が完全になくなり、ダウトの姿が現れた。
「元龍人族族長ダウト。あんたの首、取らせてもらう」




