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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第二章 第二次ラグナロク
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対策会議

 人間界の宣戦布告。そのニュースは、瞬く間に魔界中へ知れ渡った。

 迅速に対策を考えるべく、アレンはすぐに魔界最大戦力たり得る八人を集め、会議を開いた。


「情報によると、敵が攻めてくるのはおよそニヶ月後。向こうは相当準備してきたんだろうし、はっきり言ってまともに勝負になるかすら怪しい」


 そう口火を切ったアレンは、大量の書類を持ってきたノースに視線を向けた。ノースが全員に見えるように書類を渡してから、説明をする。


「俺やミナミ、キリクを含めた数人で考えた策だが、その前に敵と味方の戦力を確認しておく。まず、人間界からだが……」


 円卓の上に、五つの駒を投げた。次いで、それより少しだけ小さい駒をまた五つ投じる。


「覇王カガリを筆頭に、五大国の王、並びに五人の聖騎士。この計十名には、そこらの兵を何人ぶつけようが無駄だ。今ここに集まっている魔界最高レベルの者でなければ、相手にならん。」

「ほう。で、その割り振りだったりは……決まってんのか?」


 吸血鬼族ヴァンパイア族長、シュラウドが口をはさむと、キリクが横から入って、口を開いた。


「敵がどう攻めてくるかは分からんが、各種族の戦力的に、最も軍事力に劣る獣人族セリアンスロピィには、科学国家『ニュート』を担当してもらう。構わないか? ドロシー」

「ま、仕方ありませんわ。それ以外の強国と闘りあう戦力は、残念ながら持ち合わせておりませんので」


 キリクは頷き、続けた。


「では次だが、人間界最強と呼ばれる、魔導国家『ヘレン』。これは、私たちエルフで決まりだろう?」

「まあ、一昔前ならまだしも、今ではエルフの方が戦力は上ですしね」

「うちも、昼に動くのはつらいし異存なしだ」


 クイントとシュラウドが納得したので、残りは龍人族ドラゴニュートと吸血鬼族のみとなる。

 シュラウドが顎を摩りながら、言葉を発する。  


「俺ら吸血鬼族の特徴を活かすとすれば、宗教国家『ブリンド』だろうな。やつら、ジルビア教? とやらの問題で、決まった時間に寝ないといけねえんだろ?」

「ちょっと待ってほしい! 武装国家たる『バーレン』と刃を交えて、現状の龍人族が勝てるわけがない!」

「それは……おいキリク、どうすんだ?」


 助け船を出されたキリクは、少し考えて言った。


「ノースとミナミには、一般人の統制を頼みたい。魔王が直接戦場に出るわけにもいかんだろうし……ハーデス、お前の傘下のゴロツキは、どのくらいいる?」

「んーと……千人いるかいないか、ってとこじゃない?」

「なら、龍人族に加勢して……」

「てゆーかさあ」


 キリクの言葉を途中で遮り、ハーデスが立ち上がった。机に手を突き、全員を見渡す。


「みんな、勝つ気有るの? はっきり言うけど、今のじゃあ戦力に無駄がありすぎる。人間界、もとい聖騎士を舐めすぎだよ」

「……どういうことだ、ハーデス」

「覇王は除くとして、人間最強は実は王じゃなく聖騎士の方なんだ。実際に一度闘ったことのある僕から言わせてもらえば、今の振り分けじゃあまるで相手にならない」

「一度闘ったことがあるだと?」


 ノースの問いに頷き、ハーデスは言葉を繋げる。


「ちょっと昔に、人間界へ不法入界したことがあってね。その時にちょっとだけ」

「……勝敗は」

「引き分けってところかな。今ならボクが勝つだろうけど。まあ、それは置いておいて、だ。族長レベルだと、聖騎士一人と闘うのがやっとだ。王様も同時に相手しよう、なんて無謀も良いとこだ」


 妙に現実感のある言葉を叩きつけられ、一同は押し黙った。ハーデスは溜息を吐いて席に座ると、ぽつりとつぶやいた。


「ミナミちゃん。言いたいことあるなら黙ってないで言いなよ。君の悪い癖だよ」

「……え?」

「せっかく頭いいんだから、その力をボクらに貸してよ。一年前の会議だってそうだ。結局、何も言わずに座っていただけだった。……ボクが言いたいのはそれだけ」


 ハーデスはそれだけ言い残し、部屋から出て行った。追いかけようとしたミナミをアレンが止めて、言う。


「追うな。それより、言いたいことがあるなら言え。知らないうちに枷を付けてるなら、今それを外せ。お前の力が必要なんだよ」

「……そうやな。いや……そうだね」


 その時、ミナミの眼が微かに変わったことに、ノースは気付いた。


「さっきのハーデスの話を踏まえて、族長の皆さんには聖騎士の相手をしてもらいます。もっと詳細に言うと、聖騎士『のみ』の相手を頼みます」

「のみって、まさか……」

「他の雑魚は相手せず、聖騎士と一対一で闘え、と?」


 ミナミは苦笑の混じったドロシーの声に大きく頷いた。


「現実問題、それが最も兵を犠牲にしない闘い方なんです。一般の兵と一緒に聖騎士と闘ったところで、戦力にはならない……と言うより邪魔なだけです!」

「随分はっきり言うんですわね……」

「それと!」


 ミナミはキリクを指差した。あまりの気勢に少し気圧され、姿勢を正してキリクが言う。


「……何だ?」

「さっきあたしたちに一般人の統制を任せるとか魔王を戦わせるわけにはいかないとかほざいてたけど、そんな悠長なことを言っている暇はない。アレンは他以上にフル稼働してもらわないと」

「バカな……大将を前線に出すなど……」

「そうでもせんと勝てんやろ!!」

「…………大した奴だよ。分かった。言ってみろ」


 ――やはり。

 キリクを完全に黙らせてしまったミナミを見て、ノースは一つの感想を抱いた。

 ――本当にこいつは、時々訳の分からない次元にいることがある。

 幼いころから、それなりに劣等感を抱いていた。ノースと言う遠すぎた兄の存在に。全ての点において劣っていると、何一つ勝てないと決めつけていた。

 それが枷となり、本当の実力が出せていなかった。

 ――だが、そのつまらない枷は外れた。お前は、もう俺と同じ場所に立ててるよ。 

「まず、聖騎士ってのは人間界に古代より伝わる五本の剣を有する連中の総称。その剣の名と所属国は……」


 ミナミはペンを取りだし、猛スピードで紙の裏に書き写した。


「覇王国トランザムの『望剣ぼうけんリバーシ』、魔導国ヘレンの『奏剣そうけんアルカディア』、武装国バーレンの『壊剣かいけんオーディン』、宗教国ブリンドの『欲剣よくけんアギト』、化学国ニュートの『悲剣ひけんミゼラブル』。一気に言ったけど、理解できた?」


 出来てない、とはとても言えない雰囲気なので無理矢理に理解する。ミナミが怒涛の勢いそのままに続ける。


「割り振りやけど、ドロシーさんとキリクさんは、さっきまでの話し合いどおりでいいとして、問題はそこの二人!」

「えっと……クイントだったな? 今の話を踏まえてバーレンのとこの聖騎士と闘うのは無理か?」

「……聖騎士だけなら……まあ、なんとかなる、かも知れません。多分」

「歯切れわりいなあ……しゃあねえ、俺がやるか」


 こめかみを指で押さえながらシュラウドが発した言葉にかぶせるよう、突然その言葉は響いた。


「ボクがやるよ。個人的に彼とは戦いたいんだ」

「お前……」


 キリクが面喰ったように口をあける。当の本人――ハーデスはけろりとしながら口を開いた。


「面白そうなことになってる気がしたから、戻ってきちゃった。色々と吹っ切れたようでよかったよ。ミナミちゃん」

「おかげさまでね。ありがとな」


 見たことないような笑顔でそう言ったミナミに、何か嫌な予感を抱いたノースは一つ大きく咳払いをした。


「……それで、だ。トランザムの聖騎士だが、俺が行くのが順当だと思うのだが……どうだろうか。一般人のことは、今のミナミなら大丈夫だろう」

「うん、じゃあそういうことにして、今度は王様の首を誰が取るかを決めちゃおう。キリクさんなら、どうしますか?」

「私にふるのか。まあ、そうだな……」


 キリクはメンバーを見渡し、言った。


「とりあえず、覇王に対抗できるのは魔王一人だけだろう。そして……魔導王フウカの相手だが、フランとペルシアに任せる」

「フランとペルシア……ダークエルフとフェアリーの両トップですわね。大丈夫ですの?」

「戦場が近ければ、俺も聖騎士を倒した後加勢しに行く。それに、頭は少々弱いが実力は本物だ。心配はいらない。忘れたか? 今や妖精族ピクシーは五種族中最強だ」


 これで、残るは三人。慎重に思考しながら、ミナミは言った。


「あたしも闘うつもりだけど……実力的に科学国のラジニアと互角ってとこだね」

「ま、ボクとアレン君ならもう一人ずつくらいやれるでしょ。ただ問題は……」

「武装国バーレンの王、ゴルバスト、だな」


 老将ゴルバスト。本人の戦闘能力もさることながら、特筆すべきはずば抜けた指揮能力。彼の元で闘った兵士の生還率は、驚異の九十二パーセント。しかも、生涯無敗という化け物のような戦績を持っている。

 どれだけ兵を向かわせようとも、敗走は必至。強者をぶつけても、半端な強さではゴルバストに勝てない。


「ゴルバスト自身が年寄りだから魔導国に次ぐ二番手だけど、若かったら多分最強の国だよね。ここを落とそうと思えば、他の所相手にしてられないし、かといってミナミちゃんじゃあ逆立ちしたって無理だ。キリク君とか、ノース君あたりの実力でも、死を覚悟しないと、いや覚悟しても倒せないかもね」

「うーん。他に戦力は……」


 その時、ノースがふと気づいたように呟いた。


「俺は良く知らんが……失踪したとかいう前任の龍人族族長の居場所は突き止められないのか?」

「ダウトか……うーん、まあ分かるよーな分からんよーな」

「曖昧だな。どういうことだ?」


 アレンは頭を少し掻いた。


「……結構前に、キリクたち経由でハーデスから手紙をもらって、その内容ってのがダウトの居る場所だったんだ」

「ああ、そんな手紙書いたっけ」

「あれはそんな内容だったのか。で、どこにいるんだ?」

「それが……先代魔王アレクサンダーのところで修行しているらしい」

「そうそう。で、先代が何処にいるのか分からないから、ダウト君の居場所も分かんないんだよね」


 つまり、ダウトを戦力としてカウントするのは、好ましくないという事。

 他に誰かいなかったか――記憶をたどっていき、やがてノース以外の全員が声を上げた。


「――一人だけ、いた」


 その人物は、ある者にとっては師であり、ある者にとっては得体のしれない謎の人物であり、ある者にとっては師のさらに師であり、ある者にとっては命の恩人でもある。


「……セバス。俺が知る限り、魔界最強はあいつだ」

「あの色々と規格外な老人か」

「懐かしいですわね」

「いきなりあらわれてキリクを説得しろ、だもんな」

「セバスさんのおかげでデモンチョイスまで生き延びれたんだっけ」

「まあ、強者であることは……認めてあげないこともないけど」

「……すまん、だれのことを言ってるんだ?」


 一人首を傾げるノースを放置して、ミナミは言った。


「確かにあのとんでもじいさんなら……けど、もう一線は退いてるんじゃあ」

「俺が魔王になった時にな。つっても、そんなこと言ってる場合じゃねえだろ。何とか説得するさ」

「説得するって、つまり、そういうことだよ?

「……分かってる。けど、やらなきゃだめだ」


 アレンは長く息を吐くと、閉会を宣言した。


「セバスの件は俺に任せてくれ。今回の会議はこれで終了するから、みんな覚悟と準備を決めておいてくれ」

今回、かなり長くなってしまいました。

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