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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第二章 第二次ラグナロク
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歯車は回る

とりあえず、週一更新を目指します。

 魔族の三分の二の賛成票を集めるのに、そう時間はかからなかった。何せ、族長の方が先に賛成してしまっているのだから。

 晴れてオメルタ行使の権利を得ることが出来た妖精族ピクシートップ3を魔王城で待つアレンは、突然ノックされたドアに目を向けた。

 ――おかしいな。あいつらが来るのはもう少し後のはずだが。

 少しだけ警戒しながらアレンは言った。


「入っても良いぞ」

「それじゃあ、遠慮なく入らせてもらうぞ」

「久しぶりやんな。アレンはん」


 入って来たのは、ノースとミナミだった。アレンは警戒を解き、用件を聞いた。


「いきなりどうした? こっちはこれから大仕事をするんだが」

「アレンはんにどうしても会わせてくれ、って頼み込んできた奴がおるんや。外で待たせ取るけど、どないする?」

「まあ、あいつらが来るまで……」


 アレンは時計を確認した。時間までは、少しだけ余裕がある。


「二十分くらいなら、良いけど」

「……だ、そうだ。入ってこい!」


 扉の向こうにノースが声を掛けると、扉は重々しい音を立て開いた。そこから入ってきた人物を見て、アレンは一瞬目を見開いた。

 血のように紅い髪と、切れ長の眼。そして身にまとう雰囲気は――

 ――ダウト……?

 否。顔立ちなどは似ているところがあるが明らかに違う。目の前の人物は、間違いなく女だ。そして、ダウトより明らかに幼い。


「このたび、龍人族ドラゴニュートの族長を務めることになりました、クイントと申します」 


 極めて簡潔な名乗り方だったが、その声の調子はどこかダウトと被るものがある。アレンは少し焦りながらも、質問をぶつけた。


「お前、年はいくつだ」

「十二です」

「……龍人族は、そんなに若者不足なのか?」


 ダウトが就任したのは十四才だったらしいが、目の前の少女は(アレンが言えることではないが)それよりさらに若い。

 クイントは軽く息を吸い、答えた。


「ちゃんと、実力で勝ち取りましたのでご心配なく。それと、龍人族は今色々と危機的状況にありますので、私より上の世代は忙しいんです」


 危機的状況の中には、幽霊族ゴーストを除く五種族の中で、唯一五画魔将に選ばれてない。さらに、族長が突然失踪した、という事などを合わせた諸々あわせたことだった。

 クイントは真っ直ぐアレンを見つめて、口を開いた。


「私がここに来た理由ですが、魔王様と交渉をするためです」

「交渉だと?」

「ええ。オメルタについてですが……賛成する代わりに私を五画魔将に加えていただきたい」


 アレンは目を細めた。要求をのまなければ、オメルタ行使の際に必要な条件は満たされない。それは非常に困る。

 ――こいつ、面倒なことを持ち込んできやがった。


「どうしてもか?」

「どうしてもです」


 譲る気配は微塵もない。力尽くで賛成させることも可能だが、それは本当に最後の手段だ。

 沈黙を切り開いたのは、一つの声だった。


「良いじゃないか。五画魔将の座、くれてやる」


 声の主は、ドアを開き立っているキリクだった。後ろには、フランとペルシアの二人もいる。

 クイントの元に歩み寄って、キリクは言った。


「五画魔将の座は譲ってやる。そうすれば、賛成してもらえるんだろう?」

「ええ。何の不満もないですね」

「ならばこの場からさっさと消えろ」

「……その前に、ちゃんと約束してほしい」


 クイントは視線をアレンに向けた。


「あなたの契約の力、他人に行使することは可能ですか?」

「今の言葉を、破らないようにさせろってか?」


 アレンはキリクに目配せした。「構わない」と短く告げたキリクの言葉を確認し、アレンは左目に魔力を送った。


「承諾契約。キリクが五画魔障の座を譲る代償として、クイントはオメルタ行使に賛成しなければならない」


 左目が一瞬強く輝き、契約は終了した。それで満足したのか、クイントは一礼して退室した。

 

「手間を掛けさせたな。俺たちも、帰るとしよう」

「アレンはん。何かあったら呼んでーな」

「ああ。多分、近いうちに呼ぶと思う」


 ノースとミナミの背に言葉を掛けて、アレンは三人と向き合った。


「さて、始めるか。後必要なのは、魔王の認可だけ、だよな?」

「ああ。フラン、『オメルタの契約書』を出してくれ」

「ほれ、ここに血を垂らしてくれ」


 アレンは親指の腹を噛みきって、血判を押した。


「……内容は、エルフ、フェアリー、ダークエルフの三種族は全て平等であり、差別は未来永劫許されない、だったよね」

「それと、強制力はないけど、争いが起こった場合、フェアリーとダークエルフは結託しエルフに対抗する、だよな?」

「ああ。今すぐに一つになるのは無理かもしれないが、それでも……」


 キリクたち三人は、アレンに向き直り、頭を下げた。


「これは大きな進歩だ。礼を言うぞ、魔王。それと、あの老人にも伝えておいてほしい。賭けはあなたの勝ちだと」

「よせよ。お前が頭下げるなんてらしくねえ」

「確かに、産まれて初めてかもしれないな」


 微かな笑みを見せたキリクを見て、フランが驚いたように言った。


「……お、お前、笑えたんだな」

「さすがに、それは失礼だと思うよ……多分」

「多分は余計だペルシア」


 こうして、妖精族の内部差別は改善の道へ向かって行った。



 そして、時間は瞬く間に過ぎ、一年後。

 人間界のとある秘境。五大国の王、および聖騎士が一同に集結していた。

 その場の空気を被ことで表せば『恐怖』。全員が神妙な顔で、覇王の言葉を待っていた。その光景には、鬼気迫るものが感じられるが、それも当然だろう。これから伝えられることは、歴史を揺るがす大事件なのだ。 


「ではこれより、我々人間は――」


 そう、この瞬間より――


「魔界へ宣戦布告を申し込む」


 ――世界は急速に加速を始める。

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