歯車は回る
とりあえず、週一更新を目指します。
魔族の三分の二の賛成票を集めるのに、そう時間はかからなかった。何せ、族長の方が先に賛成してしまっているのだから。
晴れてオメルタ行使の権利を得ることが出来た妖精族トップ3を魔王城で待つアレンは、突然ノックされたドアに目を向けた。
――おかしいな。あいつらが来るのはもう少し後のはずだが。
少しだけ警戒しながらアレンは言った。
「入っても良いぞ」
「それじゃあ、遠慮なく入らせてもらうぞ」
「久しぶりやんな。アレンはん」
入って来たのは、ノースとミナミだった。アレンは警戒を解き、用件を聞いた。
「いきなりどうした? こっちはこれから大仕事をするんだが」
「アレンはんにどうしても会わせてくれ、って頼み込んできた奴がおるんや。外で待たせ取るけど、どないする?」
「まあ、あいつらが来るまで……」
アレンは時計を確認した。時間までは、少しだけ余裕がある。
「二十分くらいなら、良いけど」
「……だ、そうだ。入ってこい!」
扉の向こうにノースが声を掛けると、扉は重々しい音を立て開いた。そこから入ってきた人物を見て、アレンは一瞬目を見開いた。
血のように紅い髪と、切れ長の眼。そして身にまとう雰囲気は――
――ダウト……?
否。顔立ちなどは似ているところがあるが明らかに違う。目の前の人物は、間違いなく女だ。そして、ダウトより明らかに幼い。
「このたび、龍人族の族長を務めることになりました、クイントと申します」
極めて簡潔な名乗り方だったが、その声の調子はどこかダウトと被るものがある。アレンは少し焦りながらも、質問をぶつけた。
「お前、年はいくつだ」
「十二です」
「……龍人族は、そんなに若者不足なのか?」
ダウトが就任したのは十四才だったらしいが、目の前の少女は(アレンが言えることではないが)それよりさらに若い。
クイントは軽く息を吸い、答えた。
「ちゃんと、実力で勝ち取りましたのでご心配なく。それと、龍人族は今色々と危機的状況にありますので、私より上の世代は忙しいんです」
危機的状況の中には、幽霊族を除く五種族の中で、唯一五画魔将に選ばれてない。さらに、族長が突然失踪した、という事などを合わせた諸々あわせたことだった。
クイントは真っ直ぐアレンを見つめて、口を開いた。
「私がここに来た理由ですが、魔王様と交渉をするためです」
「交渉だと?」
「ええ。オメルタについてですが……賛成する代わりに私を五画魔将に加えていただきたい」
アレンは目を細めた。要求をのまなければ、オメルタ行使の際に必要な条件は満たされない。それは非常に困る。
――こいつ、面倒なことを持ち込んできやがった。
「どうしてもか?」
「どうしてもです」
譲る気配は微塵もない。力尽くで賛成させることも可能だが、それは本当に最後の手段だ。
沈黙を切り開いたのは、一つの声だった。
「良いじゃないか。五画魔将の座、くれてやる」
声の主は、ドアを開き立っているキリクだった。後ろには、フランとペルシアの二人もいる。
クイントの元に歩み寄って、キリクは言った。
「五画魔将の座は譲ってやる。そうすれば、賛成してもらえるんだろう?」
「ええ。何の不満もないですね」
「ならばこの場からさっさと消えろ」
「……その前に、ちゃんと約束してほしい」
クイントは視線をアレンに向けた。
「あなたの契約の力、他人に行使することは可能ですか?」
「今の言葉を、破らないようにさせろってか?」
アレンはキリクに目配せした。「構わない」と短く告げたキリクの言葉を確認し、アレンは左目に魔力を送った。
「承諾契約。キリクが五画魔障の座を譲る代償として、クイントはオメルタ行使に賛成しなければならない」
左目が一瞬強く輝き、契約は終了した。それで満足したのか、クイントは一礼して退室した。
「手間を掛けさせたな。俺たちも、帰るとしよう」
「アレンはん。何かあったら呼んでーな」
「ああ。多分、近いうちに呼ぶと思う」
ノースとミナミの背に言葉を掛けて、アレンは三人と向き合った。
「さて、始めるか。後必要なのは、魔王の認可だけ、だよな?」
「ああ。フラン、『オメルタの契約書』を出してくれ」
「ほれ、ここに血を垂らしてくれ」
アレンは親指の腹を噛みきって、血判を押した。
「……内容は、エルフ、フェアリー、ダークエルフの三種族は全て平等であり、差別は未来永劫許されない、だったよね」
「それと、強制力はないけど、争いが起こった場合、フェアリーとダークエルフは結託しエルフに対抗する、だよな?」
「ああ。今すぐに一つになるのは無理かもしれないが、それでも……」
キリクたち三人は、アレンに向き直り、頭を下げた。
「これは大きな進歩だ。礼を言うぞ、魔王。それと、あの老人にも伝えておいてほしい。賭けはあなたの勝ちだと」
「よせよ。お前が頭下げるなんてらしくねえ」
「確かに、産まれて初めてかもしれないな」
微かな笑みを見せたキリクを見て、フランが驚いたように言った。
「……お、お前、笑えたんだな」
「さすがに、それは失礼だと思うよ……多分」
「多分は余計だペルシア」
こうして、妖精族の内部差別は改善の道へ向かって行った。
そして、時間は瞬く間に過ぎ、一年後。
人間界のとある秘境。五大国の王、および聖騎士が一同に集結していた。
その場の空気を被ことで表せば『恐怖』。全員が神妙な顔で、覇王の言葉を待っていた。その光景には、鬼気迫るものが感じられるが、それも当然だろう。これから伝えられることは、歴史を揺るがす大事件なのだ。
「ではこれより、我々人間は――」
そう、この瞬間より――
「魔界へ宣戦布告を申し込む」
――世界は急速に加速を始める。




