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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第二章 第二次ラグナロク
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計画

 キリクはアレンを連れて、黙々と移動した。木々を掻き分け、ダークエルフの住処へと足を踏み入れる。


「空間魔法、《インビジビル》。ここから先は、あまり他人に見られたくないので透明人間にしておきますよ」

「お前って、いくつ属性魔法使えるんだ?」

「召喚魔法以外の全てです。姿は見えませんが、気配と音は漏れますので注意してください」


 素っ気なくアレンに返し、キリクは足音を殺して歩き始めた。それに習い、アレンも後に続く。どうやら、二人の間だけなら姿が見えるように調整しらしい、

 家がたくさん立ち並ぶ住宅地に景色が切り替わり、あちらこちらに褐色の人々が見えるようになる。

 ――確かに、こりゃ姿を消して正解だな。

 悲しいことにあまり知名度のないアレンならともかく、族長のキリクが突然姿を見せては、一種のパニック状態になるだろうからだ。

 そんなことを考えているうちに、住宅地を抜けて今度は神社のような建物が見えてきた。

 

「あそこか?」

「ええ。少なくとも一般人はここに訪れることはありませんし、魔法を解きますよ」


 その建物は長い階段の上にぽつりと立っており、そこまで行くには当然、階段を登る必要がある。

 アレンはキリクの方をちらりと見て行った。


「飛んでもいいか?」

「《ウインドエンジン》ですか? なら駄目です」

「……何で」

「空を飛べば、流石に目撃者が出ます。それは避けておきたい」


 そこまで言い、キリクは「ただ」と言葉を続けた。


「普通に上るのは面倒なので、こうします」


 右手を前に出し、指パッチンの形を創る。


「空間を繋げ《テレポート》」


 瞬間、見えていた景色が移り変わった。空間魔法、《テレポート》を発動し、一瞬で階段を渡りきったのだ。


「すげえな。移動に関しちゃ、《コネクト》より断然性能がよさそうだ。けど、わざわざ歩かなくても最初からこうすりゃ良かったんじゃねえの?」


 アレンの質問に、キリクは溜息を吐いてこう返した。


「魔王基準で物事を考えないでもらいたい。一応言っときますが、魔法は本来そこまで多用できるものじゃないんですよ。私も魔力量は多い方ですが、最高レベルの魔法を使おうと思えば、一時間に五回程度が限界ですよ」

「え、じゃあデモンチョイスとかでの戦いは……」

「はっきり言って異次元です。まあ、だからこその魔王でしょうけど」


 アレンは呆然とした。確かに、今まで知り合った魔族はほとんどが『化け物』のような実力者だったが……。

 ――もしかして、俺って結構強かったりする?

 

「へえ、そうか、うん、そうかー」

「何をニヤニヤしてるんですか。……まあいいです。探し人を呼びましょう」


 白い目でアレンを見たキリクは、呼び鈴を鳴らした。澄んだ音が響いて、中から人の声がする。次いで、こちらへやってくる足音。

 勢いよく扉が開かれ、元気そうな女性が飛び出てきた。


「お、キリクじゃん。どうした? それと、そっちの金髪の兄さんは知り合い?」

「……え、おい、どういうことだ?」


 アレンは目を見開いていた。そんな馬鹿な、と胸の中で反芻する。


「黒髪と黒目って……魔王血統?」


 外見で判断するに、年齢は十代後半と言ったところか。実際はその二倍か、三倍か、と言ったところだろうが。

 だとしても、おかしい。立ち姿だけでも分かるが、なかなかの実力者だ。

 それならば、デモンチョイスに出ているはずなのだ。しかし、デモンチョイスの生存者は、アレン、ミナミ、ハーデス、ノースの四人。

 キリクが片目でアレンを見て、一言告げる。


「一応言っときますが、神は染めているだけで、眼はカラーコンタクトですよ」

「……なるほど。……紛らわしいな! おかげですげえ難しいこと考えかけてたよ!」

「それは時々言われるよ。でもさ、黒髪黒目ってなんかお洒落じゃん。だったらやるべきじゃん。そういう訳よ」


 屈託のない笑顔でそう言いのける彼女に、アレンは苦笑いでしか返すことが出来なかった。

 ――なんかすげえ神経図太いやつだな。


「ニヒヒ。とりあえず、キリクのむっつりはあたしのこと何も言ってないだろうし、自己紹介しとくか」

「誰がむっつりだ」

「あたしはフラン。正式ではないけど、ダークエルフのアタマ張らせてもらってる」

「おい、無視するな。それと、この子はお前に任せるぞ」

「……お前、まさかロリコンだったのか?」

「断じて違う!」


 ダークエルフの少女を受け取り、褐色の女性は顎で中へ入るよう促した。


「とりあえず、中に入れよ。どうせ、面倒な話するんだろ?」


 案内された部屋は、ちゃぶ台や茶飲み、茶だんすに障子と言ったアカツキ特有の雰囲気を持っていた。


「また模様替えしたのか。三か月前にしたばかりだろう」

「んー、あれは微妙だったからな。二日でやめたわ。その後二、三回模様替えして、ようやくこれに落ち着いたのよ」

「相変わらずお前は……まあいい。それより、ペルシアは居るのか? 連絡を入れていたはずだが」

「さあ? まあ、そのうち来るだろ。あいつのことだし」


 そんな会話を二人が繰り広げていると、暗い声が一つ割り込んできた。


「ペルシアはここにいますが……自分だって、好きで影薄いわけじゃないんですよ。好きでこんなテンション維持してるわけじゃないんですよ。好きで……」

「だーっ! もういい、黙れ!」

「揃ったようだし、始めるぞ」


 アレンは三人を見比べた。冷静沈着なキリク、色々と騒がしいフラン、そしていつの間にかそこにいた有り得ないほど影が薄いペルシアと言う男。これが、エルフ、フェアリー、ダークエルフのリーダー的人物である。

 ――何とも濃いメンツが集まったな。

 頬を掻いて、アレンは引き攣った笑みを浮かべた。


「とりあえず、俺も名乗った方がいいよな?」

「あ、そーいえば名前聞いてない。せこいぞー俺は名乗ったのに!」

「だから今から名乗ると言っているだろう」

「……人の話を聞きなよ、フラン」

「ん? なんか言ったかペルシア?」

「……もういい」


 いじけて体育座りになったペルシア、それを見て何故だと問いかけるフランに、黙って座るキリク。

 ――こりゃあ、一筋縄ではいかねえ連中だな。

 しかし、いつまでも向こうの空気に呑まれている訳には行かない。ここで、魔王としての威厳を見せねば。


「俺はアレン。魔王として、この場に立ち会わせてもらう!」


 瞬間、フランとペルシアの視線がアレンに突き刺さった。


「お前が魔王?」

「嘘ではなさそうだ。なるほどね」


 視線に負けないように、アレンは言葉を繋げた。


「ここに来た理由は、ただ一つ。妖精族ピクシー内での差別をなくすためだ」

「ま、そういう訳だ。そろそろ、話を進めて良いか?」


 キリクが助け舟を出したおかげで、ようやく話が進もうとする。

 

「っへ。ようやく、あたしたちの計画が最終段階に移行するって訳だ」

「それなりに長かったね。魔王さんは、計画の概要を知ってるの?」

「いや、まだ伝えていない。だから、今から私たちの復習も兼ねて説明しようと思う。フラン、何か書くものはないか?」


 キリクの言葉を聞いて、フランが傍の畳を引っくり返した。何かぶつぶつ言いながら、奥底からホワイトボードとペンを取り出す。

 それを受け取って、キリクはペンで描き始めた。簡単な図で示された妖精族の力関係を、みんなに見えるように置く。

 

「私たちの力関係は、領土に現れている。つまり、ここの土地を四つに分けた場合半分がエルフ。もう半分をさらに二等分した土地を、フェアリーとダークエルフが所有している訳だ」

 

 もっと詳細に言えば、土地の質にも上下関係が現れている。同じ領土でも、フェアリーとダークエルフの生活に差があるのは、そういった理由からだ。

 キリクはさらに続ける。


「力関係もそうだ。エルフが圧倒的頂点で、フェアリー、ダークエルフと続く。正直、これこそが差別問題の一番の根源だと言える。だからこそ、ここを何とかせねばならない」

「それで、あたしらを含む十数人で話し合った結果、一つの案が出たんだよな」

「それこそが……」

「フェアリーとダークエルフが手を組み、エルフと同等の戦力を得ること!」

「…………」

「ん? どうしたんだペルシア?」

「自分が言おうとしたのに……」

「わ、わりい!」


 二人の会話は放っておいて、キリクがアレンに話を続ける。


「要は、力を持つエルフに対抗する戦力を作りだし、差別できないようにする、と言う計画ですが……」

「いきなり済まんが、無理があるような気がするぞ。これじゃあ、不安定すぎる」

「でしょうね。まあ、まだ話の途中です。一番重要なのは、そこまでの過程です」


 キリクは重々しく次の言葉を発した。


「『魔界最高権力執行法オメルタ』を、行使します」

「……オメルタか」


 魔界に置いて、何にも増して拘束力のある最高権力。それがオメルタである。魔族の血が流れている限り、決められた掟には絶対に従わなければならない。万が一破れば、その血縁者もろとも皆殺しという恐ろしい掟だ。

 それ故に、取決めには各族長、並びに五画魔将、魔王、そして全魔族の三分の二以上の賛成票が必要となる。


「オメルタ……確かに、そこまでしなければこの問題は解決できない、か」

「はい。それを踏まえて、あなたにお願いしたいのは――」


 続きの言葉を聞いて、アレンは呟いた。


「……そりゃあ、なるほど……」


 ――幽霊族ゴースト族長、サーペントの説得だと?


「サーペントっつったら、気難しいことで有名な堅物じいさんのことだろ? 面倒言ってくれるぜ」 

 

 ――まあ、やるしかねえけど! 

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