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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第二章 第二次ラグナロク
33/80

断ち切る

 妖精族ピクシーの集落は、普段魔法による障壁が張られており、迂闊に入れるわけではない。


「まあ、関係ねえけど」


 アレンは空を飛び、風魔法で障壁を無理矢理突き破った。するりと侵入し、手頃な木の枝に着地する。

 

「へえ、結構涼しいんだな。決別の森とは大違いだ」


 呑気にそんなことを言っていると、下の方から声が聞こえてきた。


「何だお前!」

「敵襲か!?」

「おい、誰か族長を呼べ!」


 突然見ず知らずの他人が障壁を破ってきたのだから当然の反応だ。アレンは苦笑して下に飛び降りた。

 右手を挙げて、あくまでフレンドリーに話しかける。


「突然で悪いけど、キリクを呼んでくれ。話があるんだ」

「ふざけるな! 誰だお前!」

「魔王だよ」

「嘘をつくな! 金髪だからと言ってごまかせると思うな!」


 ヒステリーに喚く、エルフと思わしき男の言い分も、もっともだ。いきなり襲来した侵入者が魔王などと名乗っても、悪趣味な冗談にしか聞こえない。

 ――やっぱ、知名度はあまりないか。

 就任して一ヶ月も経ってないのに加え、カメラ越しに見た映像は決して鮮明とは言い難い。精々印象に残って、魔王なのに金髪だという事だろう。


「まあ、それよりもだ――いきなり遭遇しちまったな……差別の実態に」


 目の前には三人の男がいるが、少し視線を巡らせるとダークエルフ特有の褐色の肌を持つ少女が横たわっている。

 流石に死んではいないようだが、放置しておけるほどの軽傷でもない。アレンは一瞬でその少女の元まで移動すると、抱きかかえて言った。


「おい、この子のケガは、お前たちが負わせたものか?」

「はあ? だとしたらどうするんだ」


 そう返され、アレンは少し考えた。

 許そうとは思わない。大の大人が、子供にここまで暴力を振るうなど、言語道断だ。不幸中の幸いなのか、性的虐待は受けていないが、もはや関係ないだろう。

 右手を前に出し、中指の指輪を見つめ、その視線を男たちに向ける。

 

「ほんの軽く、制裁を加えよう……!」

「ッヒ!?」


 アレンの膨大な魔力に怖気づき、一人が間抜けな声を出す。掌を向けて、魔法の名を告げる。


「切り裂け《リッパーストーム》」


 途端に鋭い嵐が巻き起こる。三秒経って風が止むと、アレンは砂の壁に守られた男たちを目撃した。


「お前たちがやった、訳じゃなさそうだな。レベルが違う」

「ああ、私がやった」


 声の聞こえる方へ顔を向けると、そこには十人ほどの部隊を引き連れたキリクが立っていた。

 先頭に立っているキリクが、眉を潜めて口を開く。


「困りますなあ。正面から入ればいい物を、わざわざ障壁を壊してくるなど。流石の私とて、黙っておれませんぞ」

「黙ってくれなくて結構。これから話し合いをするんだから、喋ってもらわねえと」


 ――口の減らない魔王だ。

 胸の内でそう言い、キリクは部下に男たちのことを任せて、アレンについてくるよう言った。


「場所を変えましょう。どうぞこちらへ」

「待った、この子はどうすればいい」


 キリクはアレンの腕の中で気を失っているダークエルフの少女を見た。ため息を吐いて、一緒にいて構わないと無言で伝える。

 アレンが木の枝に飛び移ったのを見て、キリクも移動を開始した。


「で、どこ行くんだ?」

「ここから三キロほど真っ直ぐ行った場所です。私の足なら、三分で着きます」

「三キロか。だったら……」


 アレンは《コネクト》の魔方陣が描かれた鉄板を投げた。弾丸のように飛んでいき、約三キロほどの場所で木に刺さる。


「次元を繋げ《コネクト》」

「……? 何を」


 キリクが言い掛けたところで、転移が完了した。


「……召喚魔法、か。なるほど、これが俺の唯一使えない……」

「っさ、この辺だろ? 早く案内してくれ」


 キリクは小さく頷き、手招きした。少し歩いたところで、アレンはその光景に目を疑った。

 今までの光景と一転、木が一本も生えていなかった。それどころか、草も花も、虫の一匹すらいない。


「ここは……」

「その昔、三種族の間で戦火が激しく散った場所」


 キリクがその中へと足を踏み入れる。アレンもそれに続き、歩を進める。


「話、というのは私たち妖精族の差別に関することなのでしょう?」

「ああ。そうだけど、何で分かった?」

「いつだったかな。二、三年前に強大な力を持った老人がここを訪れました」


 キリクは指を少女を下ろしているアレンに向けた。


「そしてこう言った。賭けをしよう。近い未来、金髪銀眼の少年が魔王になったら、種族内での差別を止めろと」

「それ、俺のことか……? っあ」


 そこまで言って、アレンは気付いた。

 ――強大な力を持った老人って、セバスか?

 キリクが話を続ける。


「初めは相手にせず追い返したが、今度は障壁を破ってきやがる。こちらが捕まえようとしても、さっきの言葉を置き土産に逃げてしまう。そのうち面倒になってきて、私はその賭けに乗ることにした」

「セバス……俺がばあさんの所で修業してる時に……」

「そして今、私は賭けに負けた。エルフは誇り高き種族だ。約束は破らない。だから、協力しよう」


 言いきって、キリクは聞いた。


「聞いていたか?」

「ああ……ただ、策はあるのか? そもそも、本当に差別のない世界があり得るのか?」


 キリクが口角を上げる。自身に満ち溢れた声で言った。


「あり得る。実際、昔はそうだったのだから」


 そうして、キリクは話しはじめた。妖精族ピクシーの歴史を。

 曰く、元々エルフ、フェアリー、ダークエルフの三種族は、共存していた。しかしある時、ほんの小さな確執が原因で争いが起こってしまった。争いは争いを引き起こし、負の連鎖が始まり、やがて泥沼の戦争へと発展した。

 妖精族以外の種族の介入すらも禁じられた、百年にも及ぶ戦争。その時の戦場が、今アレンとキリクの居る場所。


「ここに木も草花もないのは、戦争により何もかもを奪われたからだ。焼き尽くされ、吸い尽くされ、蹂躙し尽くされたのだ」

「……戦争の勝敗が、今の権力に繋がってる、そうで良いのか?」

「ああ。だが、今話した通り元々は共存できていた」


 キリクは強く拳を握った。解いて、その手をダークエルフの少女へあてる。すると、傷が見る見るうちに塞がっていく。


「それは……」

「時間魔法、《アドバンス》。対象の時間を進ませる魔法です」

「寿命が縮まる、なんてことはないのか?」

「同時に、肉体に降りかかる時間を《ロースピード》でほんのわずかに遅らせもしました。寿命への影響がなくなったはず」


 手を引いて、キリクはフッと笑った。

 ――まさか、俺がここまで丸くなるとは。

 セバスが来る前のキリクとは、比べ物にならない。あの頃は、他種族に嫌悪しか抱いていなかった。アレンには賭けをしたと言ったが、真実は少し違う。

 どうやって説得したのか、ダウト、シュラウド、ドロシーを呼んで襲来してきたのだ。あの時は本当に驚いた。価値観が完全に崩れたようだった。まさか、あの三種族が手を組むとは。

 ――老人一人の働きでそんなことがあり得るのなら、やろうと思えば差別をなくせるはず。

 そして、キリクは秘密裏に行動を起こした。今こそ、その計画を成就させる時。



「いつまでも過去の過ちに囚われてたまるか。誇り高きエルフの血は、束縛を拒絶する。そろそろ、鎖を断ち切る頃だろう」


 上手くいくかどうかは最後まで分からない。しかし、何もせずに現状を打破できるものか。


「魔王よ。デモンチョイスで見せた契約の力。貸してもらうぞ」

「幾らでも貸してやるよ。このくらい!」 

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