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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第二章 第二次ラグナロク
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五画魔将

 魔王城のとある一角。固く閉ざされた会議室に、魔界の精鋭中の精鋭が集結していた。

 魔王となったアレン、ノースとミナミ、そして、幽霊族ゴーストを除く各種族の長。大きな机の一番目立つ位置に座るアレンは、全員の視線を受けていた。それぞれの族長からすれば、自分たちの命運を握っていると言っても過言ではないのだ。じっくりと、品定めをする必要がある。

 やりにくいが、やるしかない。アレンは口を開いた。


「それじゃあこれから、五画魔将を決めて行こうと思う」


 空気が今前以上に張り詰める。飲まれないように、間を置かず続ける。


「とりあえず、事前に決めてあるのは、そこの二人。何か意見はあるか?」


 アレンから見て右側。腕を組んで座っていた人物が、無言で手を挙げた。端整な顔立ちに、尖った耳と、少し長めの金髪。妖精族ピクシーの長、『魔法王』の異名を持つキリクだ。エルフの血を受け継いでおり、見た目は二十歳くらいだが、実際は四十歳を超えているらしい。

 

「……言ってみろ」

「そこの女、ミナミとか言いましたか。同盟を組んでいたらしい、彼女はまだいいです。しかし、もう片方はいかがなものかと思いますが」

「それは、俺が人間と魔族の混血だという事を言っているのか?」


 ノースの反論で、ピリッとした空気が流れる。キリクが落ち着いて返す。


「そうではない。私が言いたいのは、貴様の思想に問題があるという事だ」

「……考えを変えた、と言っても信じてはもらえないか」

「当然だ。まあ、魔王が決めるのならそれに従うが……」


 キリクがアレンに視線を向ける。少し目を細くして、問いかける。


「本当に、信頼に価する者なんでしょうか?」 

「大丈夫だ。魔王の名に懸けて保証する」

 

 言いきったアレンをじっくり観察し、自分で結論を付けると、キリクは腕をまた組んだ。何とか、引き下がってもらえたようだ。

 息を少し吐いて、話を進める。


「じゃあ、残り三人だけど、俺としてはハーデスとダウトを入れたいと思っているんだけど……」

「……何?」

「はあ?」

「今、何と?」


 ダウトの名が出た途端、各族長の鋭い視線が向けられた。

 その内、獣人族セリアンスロピィの長、ドロシーが真っ白な髪を指で弄びながら言った。


「ダウトは何処かへ失踪したと聞きましたが?」

「それは知っている。けど、考えてみたら俺……知ってるやつがそれぐらいしかいないんだよ。セバスはやらないって言ってたしな」

「……だとしても、消息不明の物を重役に置くのは、はいそうですかと頷けませんわ」

 

 頭の上で存在感を放っているネコミミを時々動かしながら、反論する。

 ――まあ、確かにそうでもあるか。

 アレンはこめかみを手で押さえて、答えた。

 

「もっともな意見だ。ダウトの件はなしにする。……で、ハーデスは良いのか?」

「元魔王候補が三人かぁ……。大衆がどう取るかね?」

 

 低い声でそう言ったのは、吸血鬼族ヴァンパイアの長、シュラウド。二メートルを超す恵まれた体格に、青白い肌。眼の下にある隈のせいもあって、如何にも不健康に見える。

 基本的に夜行性な種族のため、相当眠いのだろう。しばしば欠伸をしている。


「可能性の一つではありますが、魔王血統を優遇している、と取る者も現れるかもしれませんわ」

「かと言って、ハーデスは外さない方がいいだろう。彼なら、魔界の、引いては魔王の力を誇示する象徴になれる」


 ドロシーの意見も、キリクの意見も一理ある。ハーデスがこの場の誰よりも強者であることは、感じ取っていた。

 しかし、こんなところで行き詰っている場合ではない。ノースが口を開いた。


「俺が下りればいいだろう。残りの三人は各族長が務めればいい」

「……良いのか? なんて、聞くだけ野暮か。分かった。そうしよう」


 アレンが立ち上がった。息を吸って、宣言する。


「では、ミナミ、ハーデス、キリク、ドロシー、シュラウドの以上五名を、第百八代魔王の五画魔将とする。異論はないな」


 全員が頷き、会議は終了を告げた。











 


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 会議が終了し、族長が出て行くと、アレンはどっと息を吐いた。


「……疲れた」

「ホンマや。息苦しくてかなわん」

「お前何もしゃべってなかったろ」


 ノースの指摘に苦笑いで返し、ミナミは体を伸ばした。それにしても、まさか本当に五画魔将に選ばれるとは。

 アレンが伏せていた顔を上げて、言う。


「とりあえず、これからやるべきことを決めるぞ」


 ノースに顔を向けて、資料を出すよう命じる。


「お前のばあさんのおかげで、経済的な問題はないみたいなものだ。それに、人間の血も引くお前が魔王になったのだから、混血者の差別も、何とかなる。残っている問題は一つだけだ」

「……なかなか厄介な」


 渡された資料をミナミにも回して、読み進める。

 一枚目には、案件が書かれている。記されているのは「妖精族ピクシー内での差別」という物。

 そういえば、数年前にセバスも言っていたような気がする。


「妖精族って一口に言っても、何種類かに分かれるんだっけ?」

「ああ。そいつにも書いてあるが、力を持っている方から、エルフ、フェアリー、ダークエルフの三つだ」

「ダークエルフは、他種族との間に生まれたエルフのことを指すんだよな?」

「ややこしいやっちゃなー。解決できるん? これ」


 アレンは頭を掻いた。差別問題となると、なかなか難しい。弱い方に力を貸しても、単に立場が逆になるだけで終わる。

 一番簡単なのは、強い方が弱い方を受け入れることだが、これも大変だ。他人の上に立つ優越感を知ってしまえば、それを手放すことが出来るのは、極々少数だ。

 

「魔王権限使っても、ただの圧政だろうしな……」

「お前の眼はどうなんだ? 契約内容によっては、使えるんじゃないのか?」

「何となるかも知んないけど、やるなら向こうの許可も必要だ」


 となると、やることは限られてくる。


「キリクはんと話し合う、ぐらいしかないんちゃうの?」

「だろうな。それが一番平和的だ」

「だが、話して何とかなる相手か? あれは」

「何とかするよ。しなきゃダメだろ」


 そう言って、アレンはパンと手を叩いた。


「とりあえず、今日はお開きだ。詳しいことは、また後日にな」

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