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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第一章 最弱の行く道
30/80

受け入れろ

 まさに絶体絶命だった。今まで、殺されかけたことは何度かあったが、悪運の強さで何とか生き残ってきた。しかし、流石に今それを期待するのはリスキーすぎる。それに、いつも誰かの手を借りているようでは、魔王になるなど笑止。

 ここは何としても、自らの力で窮地を脱しなければ。

 

「問題は、どうやって俺の中に巣食う水銀を追い出すか……」


 呟いた瞬間、ノースの拳を顔に喰らった。吹き飛んだアレンは、何とか受け身を取ったものの、すぐにバランスを崩して倒れた。

 魔力が込められているからだろうか。明らかに水銀以上の毒性を備えている。普通の水銀ならば、アレンが立っていられないほどの影響は出ないはずだ。

 ぼやける視界で見えたノースが、言葉を発する。 


「何があったのかは知らないが、もう終わりか?」

「あれ、言葉が元に戻ってるじゃん……」

「見苦しい所を見せたな。もう大丈夫さ。落ち着いたからな」

「……おまえさあ」


 アレンはふらつきながらも立ち上がり、続けた。


「疲れねえか? 本当の自分隠して、常に冷静な演技して。お前はもっとワイルドっつうか、気性が荒いっていうか、かしこまってられる様な奴じゃねえだろ」

「黙れ。お前に語られるほど、俺は甘くない」

「ミナミだってそうだ。あいつも、無理して方言使ってる気がする。ホント、変なところで似てるよな、お前らは」


 考えてみれば、可笑しな話なのだ。人間界に居た年数はノースの方がはるかに多い。しかし、ノースは根付いているはずの方言を使わず、逆にミナミはなじみがほとんどないはずの方言を使っている。

 ノースは人間界との、故郷との繋がりを断つため。ミナミは、ノースとの過去を忘れないため。

 つまり、兄弟二人で意地を張って演技をしているのだ。


「もっと素直に生きてみろよ……。お前の過去なんてしらねーし、目的が何かなんて興味ない。それに、俺は一人っ子だから、兄妹って間柄がどんななのかもわからねえ。けど……」


 頭は良く回らない。呂律もまわりにくいし、体もだるいが、これだけは伝えたかった。


「もう兄弟喧嘩は止めにしろよ」

「……言いたいことは、それだけか。お前に、お前ごときに。俺の何が分かる」

「だから、知らねえし興味もねえって言ったろ」

「簡単に受け入れられるか……! この憎しみは、言葉で消える程小さくないんだよ」


 ――あ、そうか。

 ノースの言葉から、アレンは活路を見出した。受け入れればいいのだ。そのための力ではないか。

 ノースが魔法を放つ。同時に、《お人形使パペットマペットい》の力でアレンの体の自由を奪う。


「最弱の魔法候補。聞くところによれば、お前もここへ来る際に色々あったらしいじゃないか。大切なものを壊された気持ちは、よく分かるだろう」

「ああ、俺だって親を殺されたしな。正直、恨んでないとは言えない。けど……」


 最後の希望は、失っていない。約束を交わしたリーシャのために、復讐者になる訳には行かない。

 ――俺とお前の差は、そこだろうな。

 心の奥底に、支えがあるかどうか。ノースにはそれがなかった。孤独すぎた。


「争わずに受け入れろよ。お前には肉親が残ってんだから」

「魔術、《マジックミラー》。魔法はお前を襲った直後に反射され、二倍の攻撃力を持つようになる」


 「今度こそ消し飛べ」と言う怒号と共に、無数の魔法が振り後された。世界が生み出したあらゆる武器を象った光が、アレン目掛けて襲いにかかる。

 ――こういう使い方するのは、久しぶりだよな。

 アレンは魔法の接触する瞬間、呟いた。


「《万物一体化ユニゾン》」


 直後、ノースの繰り出した魔法は全て掻き消えた。アレンが全てを一体化させたのだ。それと同様に、水銀とも一体化を成し得たために、体を蝕んでいた症状も消えた。


「何の冗談だ……その力は」

「俺の力は、受け入れ一つになるための力」


 戦闘で使う機会があまりなかったが、この力こそが最も成長していたのかもしれない。ただ、それも当然だ。メリウスの治癒でも、シモンの炎でも、ミスラの眼でも、ラスクの知識でもなく、《万物一体化ユニゾン》こそが、真なるアレン独自の能力なのだから。

 ノースの支配から解かれたアレンは、ノースに笑いかけた。


「……言っただろ。受け入れちまえばいいんだ」

「っく……調子に乗るな。《ダメージギブ》!」


 途端に、ノースの傷がなくなり、その分のダメージがアレンに蓄積される。


「何もかも滅びれば、争いが起こることはなくなる。ならば、俺がその世界を作り上げる。邪魔はだれにも許されん!」


 ノースはアレンに近付いた。右拳を握り、思い切り引き絞る。しかし、この時、ノースは薄々感付いていた。

 ――勝てないかもしれない。

 それでも、諦めるわけにはいかない。


「死ね! ぶち殺したる!」

「ノース、最後にもう一つ説教してやる」


 振り抜かれたノースの拳は、狙った通り心臓を貫いた。但し――


「馬鹿な……お前、その体は」


 水銀と化し、液体状になったアレンの体を、だが。アレンは《ウインドボム》を繰り出し、その風圧でノースとの距離を取った。

 アレンが、これが最後だとばかりに右手を横に構える。 


「蒼桜の舞、総終王技。《夜天桜火やてんおうか》」


 アレンが纏う青い炎が、夜を思わせる深い黒へと変貌を遂げる。その瞬間、ノースの疑問は確信へと変化した。

 

 ――負けた。


「お前は大切なものを壊された痛みを知ってるんだろ。だったら、その痛みを味わう人が少しでも減るように努めろよ。それが、痛みを知るものの役割だろ」

「……たまげたな。戦闘の中で進化する、お前はその点に関しては紛れもなく俺以上の天才だ」


 ノースは諦めたように目を伏せると、一つ問いかけた。  

  

「お前、名前は?」

「そういや知らないんだっけ。アレンだ。そんでもって――」

「最弱の魔王候補だろ。始めに聞いた」

「ああ、そうだっけか。……なあ」


 アレンは少し考えて、先を続けた。

 

「デモンチョイスが始まった直後、俺は一人の誇り高き戦士を追い詰めて、一つの選択を迫った。結果として、その戦士は俺が殺したけど……今から、その時と同じ選択を、お前に迫る」


 アレンは軽く息を吸って、続きを告げた。


「降参してくれ」

「…………」


 ノースは長い間沈黙した。ここで殺されるか、降参して生き延びるか。

 死ぬのは、嫌だった。しかし、生きたところで何が出来るのか。もしノースが、実際に目的遂行のため動いても、恐らくアレンに潰される。何も、出来ない。

 死ぬのは嫌だが、空虚に生きるのはもっと忌むべきことだ。 

 ――今の目的は駄目だ。しかし。

 ノースの胸の内に、一つの欲が生まれようとしていた。魔族人間を滅ぼすことによる平和は無理でも――

 ――俺を打倒したこいつなら、もしかしたら。


「アレン。俺の質問に答えろ」

「何だ?」

「お前は、世界を平和にすることが出来るか?」


 アレンは笑みを浮かべ、即答した。


「そのために、今闘ってんだよ」

「なるほどな……」


 全く。この男は……。


「なら俺が力を貸してやる。頭脳要員も、必要だろう?」

「っへ、そうこなくっちゃな!」


 ――見てみたくなったじゃないか。アレンの紡ぐ平和への道を。 



 ノース、ミナミ両名脱落。残り二名。   

今話で、すっごく久しぶりにリーシャの名前を出しました。一応メインヒロインのつもりなんですが……。もう少し先に進めば、出番が急増するはずです!

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