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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第一章 最弱の行く道
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豹変

 まずは様子見として、単純に炎をぶつけてみる。二メートル程度の青い火の玉が真っ直ぐに飛来していく。

 ノースは《サンクチュアリ》を繰り出し、身を守ると今度は攻撃に転じる。背後に百は超えているであろう光の弓矢を創造し、走り出す。

 右手に光剣を構え、アレンと何度か打ち合う。単純な剣術の腕ならばアレンに分があるが、絶妙なタイミングで放たれる《ライトニングアロー》でその差を埋める。加えて、並列思考による何十ものシュミレートでさらにアレンを圧倒する。

 ほんの僅かの弱点すらも、得意の魔法と優秀な五十二の思考でカバーする。

 ――それでも、勝てない相手じゃねえ。

 アレンは右上から落ちてくる剣を弾くと、後ろに下がった。


「喰らってろ。《花篝はなかがり》」


 ノースの立つ場所に巨大な火柱が立つ。ただ、この程度でやられてくれるような相手じゃないことは百も承知。

 今アレンが狙ったのはノースの本体ではない。アレンの考えが正しければ、あれは恐らく身代わりの人形。根拠はそこら中に倒れている死体の数。

 『ミスラの眼』の恩恵で、この場に来た時に強制的に情報が叩き込まれていたが、その時の情報によると死体の数は全部で十。しかし今ある死体の数は九に減っている。

 それらの根拠が生み出す答えはただ一つ。


「本体は別の場所で、俺の油断する時を待っている、そうだろ?」

「ふん、少しはやるじゃないか」


 背後から襲いかかった攻撃を受け止め、鍔迫り合いになる。


「あの見事な変装は、魔法の力か? それとも魔術か?」

「結論から言えば、どちらもだ。そして――お前は未だその術中にはまっている」


 ノースがそこまで言った瞬間、アレンは不吉な予感を感じ取った。一先ず上空に逃げ、渾身の力で炎を絞り出し辺り一帯を焼き払う。

 

「……何だ? この違和感。まるで……」


 と、次の瞬間アレンは目を見開いた。四方八方から全部で百はいるであろうノースが飛び掛かってきたからだ。面喰らいながらも、攻撃を回避すると、それらのノースは何もなかったかのように掻き消えてしまっていた。

 しかし次の瞬間には真後ろに立っているノースが視界に入ってきた。


「っく。あんま調子のんなよ! 《桜影さくらかげ


 アレンは炎の分身を作ると、機動力に物を言わせさらに背後を取った。ノースの攻撃は当然のごとく空を切り、大きな隙が生まれる。


「これで、王手だ!」

「馬鹿言うな。お前ごときが俺に勝てるとでも?」

「はあっ!」


 アレンの剣はノースの体を斬る――事ができなかった。

 ――嘘だろ? これじゃあ。


「夢で闘ってるみたいじゃねえか!」

「実際それに近いぞ」


 今度は上から聞こえた声に顔を向けると、すかさず魔法の洗礼が返ってきた。咄嗟に《花守はなもり》で攻撃を防ぎ、アレンは必死に頭を回した。

 恐らく、この摩訶不思議な現象は、ノースの言葉を信じれば魔法と魔術を併用した技術によるもの。例えるなら、幻覚のようなものを見ている状態。


「だったら……」


 アレンは左目に魔力供給をした。『ミスラの眼』の力は、主に三つ。

 一つ目はハーデスに使った《強制契約》。一方的に約束を取り付けられるが、解除するのは不可能で、どちらか片方にしかメリットがない契りは交わせない。

 二つ目は《承諾契約》。術者と対象の意思が合致することで初めて交わせる契りだ。内容はどんなことでもいいが、契約を止める際には再び両者の意思を合わせなければならない。

 そして三つ目の超情報処理能力。効果はミナミの《完全なるアイズ》の能力の内の一つである、解析眼の上位互換と考えて良い。土地の地形、生物の生体情報、魔法などの解析もこなすことが出来る。


「俺の目はごまかせても……神の眼までごまかせると思うなよ」


 アレンの左目に刻まれた紋章が、輝きを増す。風景にこそ変化はなかったが、確かに変わったことがある。

 今まで何人ものノースが出てきたが、その謎がようやく解けた。最初の身代わりと同じ理屈だ。ただ、今はノースの姿ではないが。ノースの姿に見えていたタネは簡単。光魔法でアレンの目に入る光を調節し、死体の姿かたちをノースのそれに変えていたのだ。

 途中、百人くらいのノースが出てきたのは、恐らく魔術の力によるもの。


「ったく。手の込んだ事しやがるぜ」


 もう、これ以上死体を弄ばせたくはない。


「先に謝っておきます」


 アレンは目を一瞬瞑り、右手の中指に魔力を集中させた。

 ――ばあさん、力貸してもらうぜ。


「吹き荒れろ《トルネード》!」


 全ての死体が風に巻き上げられる。そこにアレンは巨大な火球をぶつけた。

 たちまち青い竜巻が巻き起こり、渦中の全てを焼き尽くしていく。随分と乱暴な火葬だが、これでノースの傀儡となることはもうない。


「あとは、本体のてめえを叩くだけだ……! 棄権するなら今の内だぞ、ノース!」

「誰がするか。戦況は俺に傾いているんだぞ」

「んなもん、一瞬で取り消してやる」


 今度はアレンから仕掛けた。炎と風の推進力で距離を瞬時に詰めて、拳を構える。最小限のフォームで、早く打つことを意識して顔面を狙う。

 こめかみを的確にとらえ、僅かにのけぞらせると、さらにラッシュを加える。


「もともと、拳で殴る方が得意なんだよ!」

「こ、の。舐めるなあぁ!」


 ノースの手から放たれた光線を簡単に避けて、アレンは蹴り上げを繰り出した。中空へ打ち上げられたノースにジャンプで追いつき、炎を纏った拳で下に打ち付ける。

 間を開けず、さらに拳を撃ちに行く。


「まだまだぁ!」

「くっ……舐めとんじゃねえぞワレ!!」

「は?」

「しゃらあ!!」


 突然豹変したノースは、アレンの腕を掴んで投げ飛ばした。ゆらりと立ち上がり、眼鏡を握りつぶすと、呟いた。


「久しぶりに……おらびたくなってきた」

「なっ、お前。いきなりどうした?」

「説明がちぃとばかしたいぎいのお。少しだまっちょれや!」

 

 よくわからないが、どうも、何か振り切れてしまったらしい。あれがノースの素、ということだ。

 ――ていうか、さっきの投げ飛ばした力尋常じゃなかったぞ。


「お前、実はめちゃくちゃ武闘派だろ?」

「うるさいのお。こっちは今ぶちいらついとんじゃ。御託はええから続けるぞ」


 ノースが今までとは比べ物にならないほどのスピードで走ってくる。繰り出される拳を受け止めると、上から数十の魔法が襲ってきた。

 あまりにも予想外の攻撃に、まともに受けたアレンは大きく吹き飛んだ。


「な……今の自分でも喰らってただろ!?」

「関係あるかぁ! はようぶっ殺しちゃる!」


 見ると、またもや四方八方から光魔法が来ている。そして、そこへわざわざ身を放り込んでくるノースの姿。

 飛んで火に入る夏の虫、どころではない。


「んな無茶苦茶な!」

「無茶は承知じゃ! ワシの体がめげようが構うかぁ!」

「くっそ、さらに厄介になってやがる!」


 魔法が炸裂したことによる爆発、そして格闘によるダメージ。あまりにも無茶なノースの戦法だが、確実にアレンの体を傷つけていく。

 厄介な相手だが、見つからなかった弱点がこれでようやく見つかった。この戦闘スタイルになって、ようやく弱点が出来た。 

 再び魔法が仕掛けれられる。躱すことも出来るが、現状打破には繋がらないので、ここはあえて受ける。


「今のお前の弱点、それは……」 

「死んどけやワレ!」


 傘の様に《花守》を被せる。背後の攻撃は受けることにして、上からの攻撃は何とか防ぐ。後は、ノース本人の攻撃をどう調理するか。

 大きく構えて、バズーカのような拳が放たれる。アレンは『ミスラの眼』をフル活用してその動きを見切った。背中に魔法は直撃するが、耐えて強く踏み込む。


「喰らえ……」


 ノースの心臓に、拳をねじ込んだ。全神経と全筋力を駆使した、正に全身全霊のパンチ。


「お前の弱点。それは一撃一撃の動作が大きすぎることだ」


 故に凄まじい威力だが、ほんの僅かの隙が生まれる。

 ――つっても、ミスラの眼がなきゃ見切れなかったかもしれねえが。

 アレンのカウンターを喰らったノースは派手に吹き飛んだ。攻め込むなら、勝負を決めるならここだ。

 手加減など不必要。確実に一撃で仕留めるために、現最強の技を放つ。


「蒼桜の舞、攻めの奥義――《竜桜火りゅうおうか》」


 右手に集まった炎が、龍の形を象っていく。全部で三匹。獲物の命を消し去らんと、牙を剥く。

 アレンが右手を伸ばす。瞬間、龍たちは瞬く間に大きくなり飛んで行った。


 しかし。


 その龍は、本来狙うべき場所を大きく外れた。

 立ち上がったノースが、呟く。


「どういうつもりじゃ。今さら手加減か?」

「いや……違う」


 ――あれ?

 一番困惑していたのは、アレンだった。

 ――なんだ? 視界が歪む……。

 平衡感覚が奪われていき、たまらず膝をついた。おかしい、突然こんことになるのは。

 ――まさか、毒物?

 その時、アレンは閃いた。


「ちょっと、待てよ。……この症状は」


 アレンはラスクから貰った知識から、自分が含んでしまった毒物を特定した。


「これは、『水銀』。あの時か……!」


 デモンチョイスでの最初の闘い。最年長候補者であるバルトとの勝負で、アレンはバルトの使った《ウォータードラゴン》を蒸発させた。

 思えば、あれが水銀でできていたのだ。 


「あのおっさん……飛んだ死に土産を置いていきやがった……」


 いや、それより。


「まだ勝負は続いてんだぞ?」

 

 今回ばかりは、助けも入らない。

 ――まずい、殺される。 

ノースの方言は広島弁です。

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