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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第一章 最弱の行く道
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かみさま

もうしばらくしたら、更新速度が速くなる……はずです。

 魔族の祖先は、『悪魔』である。これは、全世界の魔族人間問わず、幼少のころに教えられることだ。

 具体的な血の繋がりこそないものの、血統以上の何かで、悪魔だった頃の力は全ての魔族に眠っている。今ハーデスが行使している力は、悪魔の力を魔法により肉体に宿すという物。

 魔王の血を引いているハーデスの祖先は、当然初代魔王だ。初代魔王と言えば、『神殺し』の異名を持ち、悪魔たちの滅亡を回避させた張本人。

 歴史上最強の人物であるだろうことは間違いない。


「……ヤバすぎだろ。その力」

 

 薄ら寒いものを感じながら、呟いた。

 アレンの脳内にはラスクから託された知識が詰まっているが、その中にこんなものがある。

 二代目魔王以降の魔王血縁者は、初代魔王の力を全て受け継いでいる訳ではない。今現在私たちが受け継いでいる力は、純粋な魔族でも精々半分程度である。

 詳細は定かではないが、もしも、もしもハーデスが百パーセント初代魔王の力を引き出せるとしたら――勝負にならない。


「じゃあ、行くよ」


 瞬間、アレンは驚愕で眼を見開いた。

 ――あれ、いつの間に空飛んでんだ?

 そう思った、いや思う前に、アレンは地面に打ち付けられた。次いで、休む間もなく無数の黒い槍襲いかかる。

 反射的に青い炎を放出し、身を守った。さらに《ウインドエンジン》で森を移動し、無我夢中で身を隠す。

 ――勿体ぶってる場合じゃねえ! 全力でいかねえと、瞬殺される!

 アレンはエマとの一体化を解くと、話しかけた。


「エマ、真名で行くぞ」

「ちゃんと使いこなせよ、小童。飲み込まれても知らぬぞ」

「心配すんな。……行くぞ!」


 アレンは額の魔方陣に血を付着させた。右手を額の前へ持っていき、詠唱を開始する。


「――誇り高き竜の化身よ。我を主と認め、その大いなる力を解放せよ。万物を焼き払い、破壊し、支配する力を献上したまえ――」

「汝を王と認める。我が真名を叫べ!」

「――出でよ『シモン』! 契約は果たされた!」


 次の瞬間、二人を炎が包み込んだ。それを待っていたかのように、叩き込まれる魔法。『シモン』はそれをちらりと見やると、莫大な量の炎で焼き消した。

 

「さて、一応聞くが……無事か? アレンよ」

「何とかな。これで、少しは闘えるだろ」


 アレンの隣に佇むシモンの姿は、エマの時よりも若干大人びたように見えていた。元々あった圧倒的存在感も、増している気がする。

 ハーデスを探そうと、きょろきょろと辺りを見回したアレンの目の前に、ハーデスが姿を現した。 


「へえ。あの時より、火力は随分上がったようだね」

「当たり前だ。あんだけ鍛えて何も変わらなかったら、それこそ悲劇だぜ」

「そう。でさ、一つ疑問があるんだけど……」


 言いつつ、ハーデスは天へ手を押し上げた。その自然な動作は、死のサイレンであり、絶望のカウントダウンでもあった。

 『フォーム』によって、アレンの四方八方から高威力の魔法が襲いかかる。


「その程度で、ボクの相手になるとでも?」

「……お前の言うその程度が、千倍になったとしたらどうだ?」


 巻き上がった爆炎から出てきたのは、炎で防御をしている数えきれないほどのアレンだった。

 

「蒼桜の舞、躱しの奥義。《千本桜せんぼんざくら》。これでも、相手にならないか?」


 千体の青いアレンが、ハーデスをぐるりと取り囲む。一体一体が、アレンとほぼ同等の力を持っているのに加え、守りの奥義、《満開桜まんかいざくら》の恩恵で自動防御まで備えている。

 

「本体の俺を倒せば他は消えるが、分身がやられても本体には何の影響もないぜ」

「へーえ。面白いねえ。でも、こうしたら?」


 ハーデスは怪しく微笑み、ただ一言告げた。


「『今から五分間、この世界では火が灯らない』」


 《学者泣ルールメイカーかせ》の力により、世界の法則が書き換えられる。千体のアレンは一瞬にして消失。形勢は一気に傾いた。

 呆然にとられるアレンに接近したハーデスは、手の指をまっすぐ伸ばし貫手の

形を作ると、その手で心臓を貫いた。


「見当違いだったのかな? それとも、この状況からさらに進化できたりするの? どの道、今の君じゃあ魔王には届かないよ」

「……くそが。こんなとこで……終われるかよ」


 メリウスの力により、心臓を貫かれたところで死にはしない。しかし、問題は出血の方だ。メリウスが治せるのは、あくまで体の傷だけであり、病などを治療することは出来ない。

 何か、現状を打破する可能性を探っている今だって、血は失われ続けているのだ。この調子では、直ぐに立つことすら困難になる。


「君は、まだすべての力を解放してない。思い出してよ。君はもっと強くなれるだろう?」


 ハーデスはそう言っているが、本当にそうだろうか? 使役している眷属の力も、魔法も、体術も、何を使ってもこの圧倒的不利な状況は覆りそうにないが。

 召喚魔法で転移すれど、ハーデスを振り切れるとは到底思えない。

 ――くそ。もっといい頭してれば。知識だけあっても、バカには活用できねえよ。

 そう考えた瞬間、不意に、アレンを天啓を受けたかのような衝撃が貫いた。

 ――いや待て。その手があったか。

 

「……ああ、そうか。確かにあるな……最後の、バカみてえな可能性が」


 アレンは脇腹に爪を立てると、力いっぱい切り裂いた。

 鮮血が飛び散り、強烈な痛みが身を撃つ。だが、これでいい。

 《コネクト》を発動し、ハーデスの近くから離れたアレンは、今持っている血の入った瓶を取出し、全て地面に流した。 

 それでも足りず、さらに《コネクト》を使用し、保存用にとっておいた瓶も全て取り出す。約三年間溜めた血液の量、凡そ三十リットル。

  

「見せてやるよ、ハーデス。これが、バカのやり方だ」

 

 アレンは魔力を使い、夥しい量の血液全てで、巨大な魔方陣を描いた。

 脳裏に浮かんだ言葉は、極めて短いものだった。


「器を失くした悲しき魂よ。我が慧眼に宿れ」


 召喚魔法サモンが呼び出すことが出来るのは、何も生物のみとは限らない。常軌を逸した血の量、魔法使いの技量、そして強い運など。それらの条件を満たしたとき、極稀にとある魂を呼び寄せることがある。


「――契約神ミスラの眼。これで俺の勝ちだ」


 それは、『神』の魂。古の時代、初代魔王によって殺された神の魂が、アレンの眼に憑りついた。

 アレンの左眼には、複雑な模様の紋章が刻まれていた。

 何ともおかしな話だ。過去に初代魔王に殺されたミスラの魂が、今は子孫であるアレンの眼に宿り、初代魔王の力を反映させたハーデスと闘おうとしているのだから。


「今回は、暴走なんてしないよね?」

「心配すんな。こいつにもはや意思はねえ。あるのは、敵を倒す莫大な力だけだ」

「そうかい。神の力ってのがどれほどの物か、見せてもらうよ」


 神と魔王の力がぶつかろうとしたまさにその瞬間、魔界の空気が一瞬だけ震えた。遠方に見える爆炎が示す大まかな場所は、アレンを激しく動揺させた。

 その場所は、デモンチョイス開始前に、ミナミが伝えてきた戦闘場所。 


「ハーデス。勝負はいったんお預けだ。急用ができた」

「嫌だよ。その間ボクが退屈になる」

「だったら、無理矢理従わせてやる」


 アレンはハーデスと視線を合わせた。そして、おぼろげに掴んでいる『神の眼』の力を行使した。

 

「強制契約。契約神ミスラの名のもとに、お前とは三時間闘わない事を誓う。何人たりとも、この契りは破れない」 


 今にも飛び掛かろうとしていたハーデスの動きが、ピタリと停止した。ハーデスがどれだけ力を込めようとも、その縛りを解くことは出来ない。


「お前が俺と闘おうとして動いても、ミスラの力がお前を縛り続ける。そんじゃあ、一旦引かせてもらうぞ」


 ハーデスに目を向けそう言うと、アレンは未だ煙の上がっている地点へ向け、足を急いだ。

 自らの体に、とある異常が起きているのを知らずに―― 

あれんは「かみのめ」をおぼえた!

あれんのちゅうにびょうれべるがあがった!

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