かみさま
もうしばらくしたら、更新速度が速くなる……はずです。
魔族の祖先は、『悪魔』である。これは、全世界の魔族人間問わず、幼少のころに教えられることだ。
具体的な血の繋がりこそないものの、血統以上の何かで、悪魔だった頃の力は全ての魔族に眠っている。今ハーデスが行使している力は、悪魔の力を魔法により肉体に宿すという物。
魔王の血を引いているハーデスの祖先は、当然初代魔王だ。初代魔王と言えば、『神殺し』の異名を持ち、悪魔たちの滅亡を回避させた張本人。
歴史上最強の人物であるだろうことは間違いない。
「……ヤバすぎだろ。その力」
薄ら寒いものを感じながら、呟いた。
アレンの脳内にはラスクから託された知識が詰まっているが、その中にこんなものがある。
二代目魔王以降の魔王血縁者は、初代魔王の力を全て受け継いでいる訳ではない。今現在私たちが受け継いでいる力は、純粋な魔族でも精々半分程度である。
詳細は定かではないが、もしも、もしもハーデスが百パーセント初代魔王の力を引き出せるとしたら――勝負にならない。
「じゃあ、行くよ」
瞬間、アレンは驚愕で眼を見開いた。
――あれ、いつの間に空飛んでんだ?
そう思った、いや思う前に、アレンは地面に打ち付けられた。次いで、休む間もなく無数の黒い槍襲いかかる。
反射的に青い炎を放出し、身を守った。さらに《ウインドエンジン》で森を移動し、無我夢中で身を隠す。
――勿体ぶってる場合じゃねえ! 全力でいかねえと、瞬殺される!
アレンはエマとの一体化を解くと、話しかけた。
「エマ、真名で行くぞ」
「ちゃんと使いこなせよ、小童。飲み込まれても知らぬぞ」
「心配すんな。……行くぞ!」
アレンは額の魔方陣に血を付着させた。右手を額の前へ持っていき、詠唱を開始する。
「――誇り高き竜の化身よ。我を主と認め、その大いなる力を解放せよ。万物を焼き払い、破壊し、支配する力を献上したまえ――」
「汝を王と認める。我が真名を叫べ!」
「――出でよ『シモン』! 契約は果たされた!」
次の瞬間、二人を炎が包み込んだ。それを待っていたかのように、叩き込まれる魔法。『シモン』はそれをちらりと見やると、莫大な量の炎で焼き消した。
「さて、一応聞くが……無事か? アレンよ」
「何とかな。これで、少しは闘えるだろ」
アレンの隣に佇むシモンの姿は、エマの時よりも若干大人びたように見えていた。元々あった圧倒的存在感も、増している気がする。
ハーデスを探そうと、きょろきょろと辺りを見回したアレンの目の前に、ハーデスが姿を現した。
「へえ。あの時より、火力は随分上がったようだね」
「当たり前だ。あんだけ鍛えて何も変わらなかったら、それこそ悲劇だぜ」
「そう。でさ、一つ疑問があるんだけど……」
言いつつ、ハーデスは天へ手を押し上げた。その自然な動作は、死のサイレンであり、絶望のカウントダウンでもあった。
『フォーム』によって、アレンの四方八方から高威力の魔法が襲いかかる。
「その程度で、ボクの相手になるとでも?」
「……お前の言うその程度が、千倍になったとしたらどうだ?」
巻き上がった爆炎から出てきたのは、炎で防御をしている数えきれないほどのアレンだった。
「蒼桜の舞、躱しの奥義。《千本桜》。これでも、相手にならないか?」
千体の青いアレンが、ハーデスをぐるりと取り囲む。一体一体が、アレンとほぼ同等の力を持っているのに加え、守りの奥義、《満開桜》の恩恵で自動防御まで備えている。
「本体の俺を倒せば他は消えるが、分身がやられても本体には何の影響もないぜ」
「へーえ。面白いねえ。でも、こうしたら?」
ハーデスは怪しく微笑み、ただ一言告げた。
「『今から五分間、この世界では火が灯らない』」
《学者泣かせ》の力により、世界の法則が書き換えられる。千体のアレンは一瞬にして消失。形勢は一気に傾いた。
呆然にとられるアレンに接近したハーデスは、手の指をまっすぐ伸ばし貫手の
形を作ると、その手で心臓を貫いた。
「見当違いだったのかな? それとも、この状況からさらに進化できたりするの? どの道、今の君じゃあ魔王には届かないよ」
「……くそが。こんなとこで……終われるかよ」
メリウスの力により、心臓を貫かれたところで死にはしない。しかし、問題は出血の方だ。メリウスが治せるのは、あくまで体の傷だけであり、病などを治療することは出来ない。
何か、現状を打破する可能性を探っている今だって、血は失われ続けているのだ。この調子では、直ぐに立つことすら困難になる。
「君は、まだすべての力を解放してない。思い出してよ。君はもっと強くなれるだろう?」
ハーデスはそう言っているが、本当にそうだろうか? 使役している眷属の力も、魔法も、体術も、何を使ってもこの圧倒的不利な状況は覆りそうにないが。
召喚魔法で転移すれど、ハーデスを振り切れるとは到底思えない。
――くそ。もっといい頭してれば。知識だけあっても、バカには活用できねえよ。
そう考えた瞬間、不意に、アレンを天啓を受けたかのような衝撃が貫いた。
――いや待て。その手があったか。
「……ああ、そうか。確かにあるな……最後の、バカみてえな可能性が」
アレンは脇腹に爪を立てると、力いっぱい切り裂いた。
鮮血が飛び散り、強烈な痛みが身を撃つ。だが、これでいい。
《コネクト》を発動し、ハーデスの近くから離れたアレンは、今持っている血の入った瓶を取出し、全て地面に流した。
それでも足りず、さらに《コネクト》を使用し、保存用にとっておいた瓶も全て取り出す。約三年間溜めた血液の量、凡そ三十リットル。
「見せてやるよ、ハーデス。これが、俺のやり方だ」
アレンは魔力を使い、夥しい量の血液全てで、巨大な魔方陣を描いた。
脳裏に浮かんだ言葉は、極めて短いものだった。
「器を失くした悲しき魂よ。我が慧眼に宿れ」
召喚魔法が呼び出すことが出来るのは、何も生物のみとは限らない。常軌を逸した血の量、魔法使いの技量、そして強い運など。それらの条件を満たしたとき、極稀にとある魂を呼び寄せることがある。
「――契約神ミスラの眼。これで俺の勝ちだ」
それは、『神』の魂。古の時代、初代魔王によって殺された神の魂が、アレンの眼に憑りついた。
アレンの左眼には、複雑な模様の紋章が刻まれていた。
何ともおかしな話だ。過去に初代魔王に殺されたミスラの魂が、今は子孫であるアレンの眼に宿り、初代魔王の力を反映させたハーデスと闘おうとしているのだから。
「今回は、暴走なんてしないよね?」
「心配すんな。こいつにもはや意思はねえ。あるのは、敵を倒す莫大な力だけだ」
「そうかい。神の力ってのがどれほどの物か、見せてもらうよ」
神と魔王の力がぶつかろうとしたまさにその瞬間、魔界の空気が一瞬だけ震えた。遠方に見える爆炎が示す大まかな場所は、アレンを激しく動揺させた。
その場所は、デモンチョイス開始前に、ミナミが伝えてきた戦闘場所。
「ハーデス。勝負はいったんお預けだ。急用ができた」
「嫌だよ。その間ボクが退屈になる」
「だったら、無理矢理従わせてやる」
アレンはハーデスと視線を合わせた。そして、おぼろげに掴んでいる『神の眼』の力を行使した。
「強制契約。契約神ミスラの名のもとに、お前とは三時間闘わない事を誓う。何人たりとも、この契りは破れない」
今にも飛び掛かろうとしていたハーデスの動きが、ピタリと停止した。ハーデスがどれだけ力を込めようとも、その縛りを解くことは出来ない。
「お前が俺と闘おうとして動いても、ミスラの力がお前を縛り続ける。そんじゃあ、一旦引かせてもらうぞ」
ハーデスに目を向けそう言うと、アレンは未だ煙の上がっている地点へ向け、足を急いだ。
自らの体に、とある異常が起きているのを知らずに――
あれんは「かみのめ」をおぼえた!
あれんのちゅうにびょうれべるがあがった!




