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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第一章 最弱の行く道
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だって兄妹なんだもん

 戦況は、不利の一言だった。しかし、それはミナミも予想していたこと。魔法も格闘術も頭の回転の速さも運でさえも、兄の方が上回っているのだから。

 勝つことは万に一つもない。そんなことは、分かりきっている。

 

「だからこそ、最初から差し違える覚悟で行かなあかん」


 一見まともに見えるノースだが、内面は狂っていると言っても過言ではない。さらに厄介なことに、その狂った思想を実現する力を持ち合わせている。

 ――兄貴を止めるのは、ウチの役割や。

 覚悟を決めたミナミは、ノースの傀儡となった候補者たちを見渡した。彼らの体には、今の今まで温かい血をが流れ、感情を持っていた。彼らは確かに「生きていた」のだ。それを闘いの道具として使うなど、道徳的にも魔族的にも、何より個人的に、許されることではない。

 だからまずは、ノースの能力――《お人形使パペットマペットい》の支配から彼らを解放する。

 ミナミは《完全なアイズ》の能力の内、魔力を視認する力を両目に宿した。すると、下調べした通り、死んだ候補者たちの体に、ノースの腕から伸ばされる糸のようなものが繋がれていた。

 中級光魔法、《ライトブレード》の呪文を唱え、右手に剣を握ると、ミナミは猛然と走り出した。突き出る岩を蹴りながら、ノースと候補者から離れた、比較的安全な場所で糸を断ち切る。たちまち、電力を失ったロボットの様に地に伏せた候補者を、上級光魔法、《サンクチュアリ》による光の壁で保護する。

 全員分の《サンクチュアリ》は、魔力の消費が少々痛いが、やむを得ない。少し息を切らしながら、ミナミはノースに話しかけた。


「兄貴、多分これが最後やから、聞いとくで。ホンマにあの計画、やるつもりなんか?」

「計画……ああ、魔族と人間の絶滅か」


 こともなげにそう言ったノースに、若干の恐怖を感じながらも、ミナミはもう一つ問うた。


「その計画をやるっちゅうんなら、放っておくわけにはいかんし……殺し合いになるで」

「分からないな。何故そこまで、自分でやろうとする。お前より強い知り合いも、いるだろう」


 ミナミの脳裏にアレンの姿が浮かんだ。確かに、アレンならば、もしかしたらやれるかもしれない。そう考えることはあれど、託そうという気にはなれなかった。

 その気持ちに無理矢理理由を付けるとすれば、それは恐らく――


「兄妹やからな。これはあくまで、兄弟喧嘩ですませたいんや」

「殺しあうのが兄弟喧嘩の範囲に入るのかは分からんが、なるほどな。やはり俺とお前は相容れないのかもな」


 言い終わると同時に、ノースも右手に光の剣を作りだした。構えは、左足を後ろに引き、重心を前に傾け、剣を逆手に持つという物。幼き頃から慣れ親しんだその構えを、ミナミもとった。

 そう、兄妹なのだ。どれだけ嫌いでも、殺し合いをしなくてもいけなくても、魔法の属性が同じなのも、眼が悪いのも、程度は違えど頭の回転が速いのも――

 兄の凶行を止めるのは、妹の役目だ。今、それを果たす。


「来いよ」


 ノースの呟きが、開戦の合図だった。駆けだしたミナミは右手を振るった。ノースがその一薙ぎを弾いて、すぐさま反撃を繰り出す。

 右下から襲い来る刃を跳躍して躱すと、ミナミは再び《完全なる目》を使用した。今度の力は、眼に入る全ての情報を解析する圧倒的観察眼。これで、ノースの一挙手一投足から、次に行うであろう動作を予測できる。

 地面に着地したミナミを、今度はノースが攻めに入った。何度か打ち合い、互いに後方に下がった時に、ミナミは開いている左手から中級光魔法、《ライトアロー》を放出した。

 

「随分と未熟な魔法だ。少しだけ、教えてやろう」


 ノースは《サンクチュアリ》で光の矢を防ぐと、残った障壁を魔術で分解し、その魔力を使ってミナミの放ったものより高威力な《ライトアロー》を繰り出した。

 さらに、避けようとするミナミの動きを、魔術による金縛りで止めて、回避する手段を封じる。直後、光の矢がミナミに猛威を振るった。

 咄嗟に魔力の壁を張ることで、何とか意識を保ったミナミが口を開いた。


「……兄貴。あんたがふざけた目標を持つようになったのは、なんでや?」 

 

 煙が立ち上る中、ノースはぽつりと話しはじめた。

 

「そうだな。少しだけ、昔の話をしよう。丁度、十年前。俺が八つのころ。お前も、もう生まれている時だ。魔界にはまだ伝わっていなかったが、髪と眼の色を変えたところで、小さな村では誤魔化しきれなかった。そこからは、お前も知っているだろう?」


 ミナミは、かぶりを振った。今は亡き父からノースのことは聞いていたし、ノースと数年間は共に暮らしてもいた。が、ノースから過去の話はされたことがない。

 それと、生前の父の話によると、罪を隠そうとした父は、アカツキの田舎にノースと人間の母親を残して、ミナミを魔界へ連れ帰ったらしい。しかし、罪が露呈して父は処刑されたため、そこから先のことは知らないのだ。

 

「そうか。なら話してやろう。村八分のような扱いを受けながら二年が経過し、俺が十歳になった時だ。親父が処刑されたことで、魔界に、俺が魔王の血を継いでいることがばれたんだ。すぐに魔族がやってきて、俺を連れ去ろうとしたよ。でもその時……」


 ミナミは、ノースの僅かな憤りを感じ取った。ノースが、拳を強く握って続ける。


「あいつが。あのクソみたいな村で、唯一俺と母さんに味方をしてくれたあいつが、俺を引き留めた。笑えるだろう。非力な少女が、屈強な魔族に立ち向かうんだぞ」

「え……それって……」


 ミナミは思った。似ている、と。ノースの過去は、依然話してくれたアレンの過去と共通点がある。アレンは髪と眼が黒ではなかったため、村で虐げられることはなかったが、少女が引き留める、という点は同じだ。

 

「その女の子は……」

「殺されたよ。その魔族にな。そして、その時決めたんだ。魔族も人間も、全て淘汰すると……!」


 ――例えそれが、血を分けた妹だとしても。

 そう一言付け加えて、ノースは上級光魔法、《サテライトキャノン》を放出した。放たれた光の光線は、大地を削り、空を薙ぎ払い、全てを破壊していく。

 あの時の少女が、ノースと人間を繋ぎとめる懸け橋であったとすれば、兄妹であるミナミは、ノースにとって魔族とを繋ぐ最後の砦だ。逆に言えば、ミナミを殺さなければ、ノースの目的の達成はありえない。

 ――だからこそ、俺のフルパワーで、消し去ってやる! 

 ノースは魔王の能力とは別の、生まれたときに授かった、最強の武器を行使した。


「《グングニル》《セイントレイン》《ジャッジメントソード》《シャイニングドラゴン》《ゴッドハンマー》」


 全てを貫く光の槍、全てを浄化する聖なる雨、裁きを下す咎の剣、破壊の限りを尽くす狂気の龍、神々の力が宿りし天の鎚が、一斉にミナミを襲う。

 複数の魔法の一斉行使。使える者は、ごくごく僅か。多大な魔力量と、もう一つ。ある特殊能力を天より授からねば使えない。

 複数の物事を、同時に思考する能力。『並列思考』。

 ノースが一度に思考できる数の限界は、五十二。《お人形使パペットマペットい》の能力も、この力があってこそだ。


「塵の一つも残らんだろう。これでようやく。人間と魔族、両方から決別できる」










 


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ミナミとノースの戦闘が始めるよりも前。アレンとハーデスもまた、闘いを始めようとしていた。

 思えば、三年ぶりだ。三年の間に、アレンはラスクの元で修業を積み、ハーデスはハーデスで、修行を積み重ねてきた。


「さーて。どのくらい強くなったか、測らせてもらうよ、アレン君」

「あの時と同じだと思うなよ。今度は俺が勝つ」

「楽しみにしているよ。じゃあ、まずは……」


 「これだ」そう言って、ハーデスは無数の黒い弾丸を出現させた。三年前、小手調べに使った魔法だ。ハーデスの周りをぐるぐると迂回する小さな弾は、ハーデスが指を鳴らした途端にアレンの元へ飛んで行った。

 アレンは落ち着いて右手に炎を集めると、それを光線のように放ち迎え撃った。やがて、十秒間にも及ぶ小手調べ対決は、引き分けに終わった。


「なるほどね。これなら、本気を出してもよさそうだ」


 ハーデスは二、三度屈伸をすると、怪しく笑って呟いた。


「ただ、こいつ使うと手加減できないから、気を付けてね」


 瞬間、ハーデスの黒い魔力が、体を覆った。それは螺旋のように回転を始め、アレンに何か悪い予感をさせた。

 ――こいつ。いったいどんな力を生み出しやがった。

 試しに炎を放ってみるが、魔力に触れた途端に掻き消されてしまった。半端ではない密度のようだ。あの中で、何か良からぬことが起こっている。

 数秒間の沈黙の末、ついに姿を現したハーデスの姿に、アレンは目を見開いた。


「な……なんだその姿」

「ちょっと、先祖返りをね」

  

 眼は黒い所と白い所が入れ替わっており、爪は鋭利に尖っている。尻尾も何やらおぞましいエネルギ-を纏っていて、背中からは羽が生えている。

 まるで、体の各部が、戦闘のためにのみ発達しているかのようだった。


「ふふふ。気分が高揚するね」

「なんだよ、それ」

「えー? 名付け親はボクだけど……」


 ハーデスはにんまりと笑い、続きを言った。


「『悪魔還イビルリターンり』っていうんだ。ご先祖様の体を、一時的に借りるのさ」

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