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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第一章 最弱の行く道
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デモンチョイス

 デモンチョイスのルールは、基本的に一つしかない。

 他の候補者が戦闘不能、又は戦意を失うまで残ること。特別な対戦ルールもなく、全ての候補者が入り混じって闘うバトルロワイヤルだ。

 勝敗を左右するのは、如何に闘わずに済ませるかと言う運と、敵を退ける力のみ。

 そして、今回のデモンチョイス参加人数は二十一人。かなり少ない方だが、開催には問題ない。

 形だけの前座が終わり、魔界の全ての住人が固唾を飲んで見守る中、魔王アレクサンダーがゆっくりと告げた。


「これより、第百八代魔王を決めるため……デモンチョイスを開始する。最初の三分間で各自好きな場所へ散らばれ。戦闘指定場所は、魔界全体。ただし、住民が観戦する地下は含まれない。俺が雷を降らした時が、戦の合図だ」


 アレクサンダーは「それでは」と前置きして、言った。


「第百七回デモンチョイス開始だ――己の力で、王の座を奪い取って見せろ!!」


 一斉に、四方八方へ散らばった二十一人は、思い思いの場所へ向かい歩を進めた。

 アレンが向かう先は、先日に目星を付けていた森林。面積は違えど、三年間も暮らし、慣れ親しんだ《迷いの森》と酷似している場所だ。

 手頃な木の枝に立ち、メリウスとエマを召喚する。

 軽い準備運動をしながら、有利に闘うために《コネクト》の魔法陣を刻んだ鉄板をあちこちに投じる。


「そろそろ、三分経つな。準備は良いか?」

「我を誰だと思っておる。何なら、魔界全体を焦土に変えてやろうか?」

「そりゃあ困るな。だって……」

「俺が魔王になった時に困るから、でしょ?」


 メリウスに言いたいことを言われたアレンは、苦笑して頷いた。空を見上げ、雷が落ちるのを待つ。

 やがて、遥か上空で空気が放電をし始めたかと思うと、次の瞬間大音量の落雷がして開始の合図を地上に居る者へ伝えた。

 高ぶる気持ちを抑えながら、呟く。


「大多数はハーデスが勝手にやるだろうし……とりあえず、ウォーミングアップだ」


 アレンは《コネクト》の詠唱を唱え、手を伸ばした。適当に服を掴み、一気にこちらへ引き込む。困惑の声を上げ投げ出された男を見下げ、アレンが口を開いた。


「悪いな。魔法陣勝手に付けさせてもらった。出来りゃあ降参してもらいたいんだが、どうだ? 最年長候補のバルトさんよ」

「な……魔法陣だと? よく分からんが、俺が降参するはずないだろう」

「そうか。交渉決裂だな。なら……」


 アレンはバルトの背後へ移動し、肘打ちを繰り出した。素早い反応で躱したバルトは、距離を取って中級水魔法、《ウォーターアロー》を発動。

 迫る水の矢を、右足のバネの力で大ジャンプしてやり過ごすと、大木の幹をキックしバルトへ接近。常人の数倍は重い右拳を振った。両手で受け止めたバルトの背後へ、続け様にエマをワープさせて攻撃を加える。

 炎の塊を視界に捉えたバルトは、地面に手を付き叫んだ。


「我が身を守る盾となれ。《ウォーターシールド》!」


 間一髪。体を覆う水のおかげで、何とか青い炎を防いだバルトは、その水を噴水のような形状へ変化させ宙に逃れた。

 跳躍し、木の枝に乗ると一度目を閉じる。直後、カッと見開くと、バルトは急に背中へ手を伸ばした。手に取った物を見て、忌々しげにつぶやく。


「これは……確か召喚魔法の。魔法陣とはそういう事か。小賢しい真似を」


 バルトの背についていたのは、例の鉄板だった。それぞれの候補者が散らばる前に、アレンがこっそりと仕掛けたものである。そのおかげで、バルトをこの場へ持ってくることも、簡単に背後を取ることも出来ていたのだ。

 バルトが続ける。


「……ガキが、大人をあまりからかうもんじゃないぞ」


 そう言い、バルトは長々と詠唱を唱え始めた。

 この行為に、アレンは一瞬戸惑った。敵の前で長い詠唱を唱えるなど、自殺行為に等しいからだ。しかし、真意は分からないが、このチャンスを逃す手はない。


「エマ! 合わせ技だ!」

「うむ。蒼桜の舞、攻めの型。《花篝はなかがり》」

「吹き荒れろ……《トルネード》!」


 エマによって放たれた青い炎に暴風を乗せ、灼熱の青い竜巻を出現させる。


「焼き尽くせ、《ブルーインフェルノ》!」 


 アレンはそれを、バルトの元へと移動させた。

 バルトの取った行動に、アレンは眉をひそめた。バルトは依然動かず詠唱を続けているのだ。気付いていないはずはない。当たれば即死という事も分かっているはずだ。

 ――なのに、何で動かない? 避けれると思ってんなら、大間違いだぜ。

 竜巻が当たる直前、バルトはその場を移動しようとした。が、その行く手を遮るものがあった。メリウスの分身体だ。六人のメリウスが、バルトを捕まえようと迫りくる。

 その時、バルトが僅かな笑みを見せた。


「……あら?」


 メリウスがそんな間抜けな声しか出せないほどに、バルトは鮮やかに全てのメリウスをすり抜けた。すかさず、さらに多くの分身が放たれるが、それも無駄に終わる。

 そのある意味美しいとも取れる光景を見て、アレンが呆然と言った。


「そんな馬鹿な……全部躱すなんてことが」


 メリウスの力は、何も再生力に限ったわけではない。何十人にも分身して繰り出される体術は、何の考えもなしに動いているようで、その実かなり計算されている。どう動けば避けにくいのか。どこを攻撃すればより多くのダメージを与えることが出来るのか、などを踏まえたうえで、構成されているのだ。加えて、不死身の如き回復力まで備えている。

 それはある意味、一対多の到達点でもある。故に、それを全て完璧に躱すなど――増してやあたれば即死の攻撃が目と鼻の距離まで来ているのならば、アレンの常識では不可能だ。

 それでも、有り得ないが認めるしかない。現実になっているのだから。

 バルトがようやく地に手を付いた。約一分間にも及ぶ詠唱により、最大威力の魔法が放たれる。


「終わりだ。《ウォータードラゴン》」


 途端、数十の龍が生み出され、アレンとエマに襲いかかった。炎の竜巻を飲み込み、突進してくる。


「エマ、防げるか!?」

「……無理だな」

「だろうな! なら……」


 アレンはエマと共に少し離れた木へワープした。

 ――だが、攻撃を受けた。

 ぴったりタイミングを合わせて、バルトが三体の水龍を向かわせたのだ。混乱しながらも、アレンは《トルネード》で水を吹き飛ばし、風の防壁の中で思考を巡らせた。

 今のは反応とか、そういう領域のものではない。アレンが何処へ飛ぶか、分かっていなければできないことだ。

 とするなら、こちらの思考を読んだか、予知でもできるのか。

 ――そう言う技を破るには、あれが一番簡単だよな。


「……エマ、力を貸してくれ」

「良いだろう。飲み込まれんよう気を付けろよ」


 差し出された手を握り、小さく叫んだ。


「《万物一体化ユニゾン》」


 うっすらと目を開け、体を確認する。意識もはっきりしているし、体も普通に動く。

 《トルネード》が破られる前に、アレンはある魔法の詠唱を唱えた。 


「万物を吹き飛ばす風の精霊よ。我が声に答え、力を授けたまえ。その力は自由への礎、支配からの反逆。そう、今この時、我が身体は嵐となる。――《ウインドエンジン》」


 瞬間、水龍が雪崩れこみ、圧倒的物量でアレンの居た木を薙ぎ倒した。と思えば、次の瞬間には大爆発を起こした。水で構成されている龍に、アレンが推定三千度の炎(魔力が自動的に周りを覆う事で、狙い以外の場所へは熱を与えない)をぶつけたために、水蒸気爆発が生じたのだ。

 森全体を巻き込むほどの爆発を耐え、アレンはバルトの居る元へと向かった。《ウインドエンジン》の力で空を飛行し、音速に近いスピードで移動する


「蒼桜の舞、攻めの型。《斬花ざんか》」


 その途中、右手に剣を作りだし、残っている龍を次々と屠る。アレンは一騎当千の如く全ての龍を駆逐し、木に叩きつけられているバルトへ剣を突きつけた。

 度重なる水蒸気爆発によって、もはや一メートル先すらも見えないが、火の明かりでバルトもアレンの接近に気付いた。呆れたように、バルトが言った。

 

「無茶しすぎだろう。馬鹿かお前?」

「訳の分からん力による策は、無茶で叩き潰すのが俺のやり方だ。これで、詰みだな」

「……詰みか。そうだな、ここまでか。くそったれ。手前みたいなガキにやられるとは」

「一応聞くぜ。降参してくれ。出来れば殺したくない」


 バルトは自虐の笑みを見せると、再び口を開いた。


「殺せ。お子様に生かされるなんて、カッコ悪すぎるからな。そいつで、俺を斬るなりなんなりしろ」

「そう言うと思ったよ。その気概に敬意を表して、出来るだけ綺麗に殺してやる」


 その言葉がツボにはまったのか、バルトは思わず噴き出した。葉巻を一本取出し、突きつけられている剣に掠らせて火をつける。

 が、湿気のせいでその火はすぐに消えた。


「この位吸わせろよ。まあいいや。ガキ、名前はなんてんだ?」

「……アレン・アヴィス。それと――」


 アレンはバルトを一刀のもとに斬りつけ、続きを伝えた。


「――最弱の魔王候補だ」

「……そうかい……やっぱ、悔しいな……」


 青い火がバルトを飲み込み、美麗な光と共に灰へ変えた。


 ランク四位、バルト・フローラモ脱落。デモンチョイス残り参加者、八名。

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