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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第一章 最弱の行く道
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秘めたる牙

 『五画魔将』――魔界に置いて、魔王に次ぐ権力を発揮する最高幹部たちである。新しい魔王の就任時に、魔王自身が選んだ五人で構成される超少数精鋭の実力者だ。採用基準には特に規定がなく、完全に魔王の独断によるもので決められる。各一族の族長、そこらの戦士、他の魔王候補など、とにかく魔王が認めさえすれば誰でもなれる。

 その中でも、第百六代五画魔性たちは、歴代類を見ないほどの頭脳派で知られる。化学、経済、軍事、戦略、魔法学、政治、医学、天文学など挙げればキリがないが、ありとあらゆる学問に通じ、魔界の文明を百年は早めたと言われるほどだ。

 

「王様が無能だったからかどうかは知らないけど、その五人組は無駄に優秀すぎるからねぇ。ま、ラスクにそういう人を引き付ける才があったってことかもだけどさ……何にしても」


 ――さすがのボクでも、これは少し厳しいかな。

 内心そう思いつつも、ハーデスは身構えた。目の前に五人組を相手にする際に、最も注意するべきは驚異的な威力を持つ魔法だろう。

 魔法を極限まで知り尽くしているからこそ、どのように魔力を動かせば、最小の魔力量で最大の攻撃力を生み出すことが出来る。《学者泣ルールメイカーかせ》で魔法が効かないようにすれば、何とかなりそうだが一度法則を作ると、解除されるまで新たに作ることは出来ないのであと四分はどうにか凌がねばならない。

 

「でも、要するにノース君に操られてるだけだ。そっちを叩けばいいね」


 ハーデスは上空に飛び上がると、天井をキックし、ノースとの距離を詰めた。右手を前に出し、簡単な詠唱を呟く。


「吹き飛ばせ、《ダークインパクト》」


 ハーデスの手から闇魔力で構築された衝撃波が飛び出し、ノースを襲った。詠唱は時間を掛ければ掛けるほど、その魔法の攻撃力を強くするために、今回の魔法は威力を大分絞ってある。しかし、それであっても人一人を潰す位の力は持っていた。

 だというのに、ハーデスの魔法は弾かれ――跳ね返された。


「なっ!?」


 予期していなかった反撃に、ハーデスはまともに攻撃を受け吹き飛んだ。ふすまを破り、奥の部屋に飛び込む形になったハーデスは何とか起き上がると、既に向かって来ている追撃に備えた。

 闇、火、雷、水、土、光の六つの龍が襲いかかってくる。ハーデスは急いで右腕を天に向け、叫んだ。


「破壊をもたらす黒き狼よ、全てを喰らい尽くせ!! 《フェンリル》!!」


 一瞬で魔力を喰らい尽くした黒い狼に手を突っ込んだハーデスは、吸収した魔力を自分に還元した。闇魔法の研究を重ねたことで可能になった技術で、《リバース》と名付けたものだ。

 ハーデス自身の闇魔法で吸い取った魔力を、自らに還元させる。そうすることで、魔力切れの心配はゼロになったと言っていい。

 回復した分の魔力を使い、ハーデスが一つの魔法を発動させた。


「呪われた悲しい眷属たちよ。その憎しみを、悲しみを、憎悪を、我が体に叩き込め。その黒き力で、我が身体を闇に染めよ――《ダークエンジン》」


 瞬間、ハーデスの体を黒い霧のようなものが包み込んだ。

 ――これで、百パーセントだ。

 続けざまに、前方へ巨大な黒い球を創る。ノースたちのいる場所へそれを飛ばし、頃合いを見計らって指を鳴らした。


「……弾けろ。そして、死ね」 


 直後に大爆発、城を吹き飛ばし、周囲一帯の木々をなぎ倒しながら、更地を作りあげ、ノースも消え失せる――はずだった。


 爆発の威力は全て吸収、ハーデスの下へ反射された。


 何かに体を貫かれた感触のみが、体を撃った。痛いとか、苦しいとか、そういう次元のものではなかった。ただでさえ強力なハーデスの魔法が、一点に集中されてきたのだ。

 結果的に、ハーデスはほぼ全身の骨を砕かれた。しぶとく生きてはいるものの、命に危機に瀕する重体だ。言い表しようのない激痛にようやく気が付き、揺らぐ視界でノースたちを捕えた。


「……やって、くれたね……」

「まだ喋るだけの元気があるのか。ただ、言ったはずだぞ。生きて帰れると思うな、と」

「嘘はいけないなあ……君が言ったのは、無事に帰れると思うな……だろう?」

「どっちでもいい。どっちにしろ、お前はここで死ぬからな」

「……その前に、どうやってボクの攻撃を防いだか……教えてくれないかな。っぐ……頼むよ」


 ノースはしばらく冷ややかな視線で睨みつけていたが、やがて口を開いた。


「良いだろう。冥土の土産に教えてやる」

「あっは。また如何にも逆転される悪役のセリフを吐くね」


 ノースはハーデスの言葉を無視して、五画魔将に視線を向けると話した。


「……こいつらが魔法研究の権威だという事は知ってるな? では、いったい彼らはどんな成果を上げたのか、答えは魔力と覇道の元となる――マナを使用して発動する次世代の魔法だ」

「マナを使用するだって……? そんなことが」

「できる。では、この新しい魔法はどんな力を持っているのか? 簡単に言えば、自然界に存在する属性以外の魔法だ。例えば記憶を操ったり、幻覚を魅せたり、嘘を吐かせなくしたり、衝撃を反射させたりだ」


 ハーデスはこの時点で質問の答えを得た。つまり、その新しい魔法でハーデスの攻撃をそっくりそのまま反射させ、ハーデスにぶつけたという訳だ。

 ノースは続ける。

 

「ここまで話せば、大概の奴はこんな疑問に辿り着く。何故もっと広めないのか、と。難しいからだ。途轍もなくな。何故ならこの技術は、呼吸によって得た空気を、二酸化炭素の量を増やさずそのままの気体の成分で吐き出せ、というのと同じような事だからだ。加えて、マナをそのままの状態で使うのは、魔族にも人間にも毒だからな」


 ハーデスは思わず口を挟んだ。「体に毒って、君はどうなんだい」

 返答は、ハーデスの予想の斜め上を行くものだった。


「俺は人間とのハーフだ。どういう訳か、こいつは魔族と人間のハーフには無害で扱うことが出来る。まるで、そうなることを望まれているかのように。俺はこれを、人間と魔族の混血者が秘めた可能性、そして武器と認識し『魔術』と名付けた。」


 ノースは最後に付け加えた。


「俺は、魔王になる気など更々ない。だがな、ここから。この地から、俺のような……人間と魔族の混血と言うだけで虐げられてきた奴らを救う。これは、そのための力だ。弱者とみられていた俺たちの、隠されていた牙だ」


 人間の魔導とも、魔族の魔法とも違う、両種族の混血が使う新しい力。それは、ラスクが子孫のためにと残した代物であり、アレンにもその知識を与えていた。しかし、結局のところ、アレンには習得することが出来なかった。

 それを今、一人の天才が解き明かし、偶然にもラスクが作ったあの村と、規模は違えど同じようなものを作りだそうとしている。

 中級光魔法、《ライトブレード》で光の剣を創りだし、ノースは言った。 


「……話しすぎたな。お前には、もう死んでもらう」

「いや、ボクはまだ死なない」


 ハーデスが呟いた瞬間、ジャラジャラと、金属が擦れ合うような音が響いた。音源はハーデスの体。よく見ると、肌に露出している場所に鎖のようなものが確認できる。

 ノースは目を見開いた。人間界の宗教国家『ブリンド』に住む教徒たちは、自らを追い込み悟りを得るため、封印術のようなものを自らに掛けると言うが、まさかこの男も――


「貴様……逃がさんぞ!」

「もう遅い……《アンロック》。これで、百七十パーセントだ」


 ハーデスの場合、それは肉体にセーブを掛けない脳の代わりの物だ。どういう事かと言うと、ハーデスは生まれた時から脳に異常があった。通常、脳と言うのは肉体が壊れないよう、セーブを掛けている。そのため一般生活で使う筋量はおよそ三十パーセント。

 これを常時百パーセントにすると、どうなるか。当然ながら、肉体に負担がかかりすぎ、崩壊する。

 本題に戻るが、ハーデスの持つ脳の異常とはこれだった。脳がセーブを掛けれず、常に、二十四時間四六時中、所謂火事場の馬鹿力状態になっている。

 封印術は、欠陥した脳の異常を補うための補助器具。そしてそれが取れた今――


「ここは一先ず……退散しよう」


 ハーデスは右足を軽く上げ、勢いよく振り落した。そのすさまじい威力により、床は抜け、伝わった振動で城そのものが大きく揺れた。

 脳内魔力が異常に分泌され、一人で薬物中毒状態になっているハーデスは嬉々として城を破壊しまわった。


「な……なんて奴だ。無茶苦茶だ」

「ハハハハ!! じゃあ、バイバイ!!」


 ハーデスは置き土産に、空から黒い槍――闇属性の《グングニル》を降らせた。

 命からがら逃げだしたハーデスだが、全身の骨を砕かれたうえで肉体のリミッターを解いたため、未曽有の大怪我を負ってしまった。















「……とまあ、これが一年前の事件の全貌や」

「いや、何でお前が知ってるんだ」


 ミナミから全てを聞かされたアレンは、真っ先に尋ねた。

 さっきの彼女の話には、ミナミ自身は何も関与していなかった。それなのにあそこまで詳しく話せるのは少し、いやかなりおかしい。

 ミナミが答える。


「そりゃあ、ウチの能力のおかげや。《完全なアイズ》って言って、色んな力が目に宿っとる。その中の一つ、千里眼でのぞいたからこそや。ほんで、ウチはあいつを、兄貴を倒したい。アレンはんは、ハーデスにリベンジしたい。利害一致ちゅうことで、同盟組もうや」


 何故ノースを殺したいのか、と聞こうとしたアレンは、途中で思いとどまった。あまり家庭の事情に踏み込むのは、止めておいた方がいいだろう。特に、この家庭の場合複雑な理由がありそうでもある。


「まあ良いや。同盟、組んでやるよ」

「ホンマか? 恩にきるでアレンはん!」


 

 その後、時は瞬く間に過ぎ、遂に一年が経った。

 遂に、遂にだ。

 魔王アレクサンドルが魔王に就任してから、百年の月日が経ち、時代の魔王を決める日がやってきた。


 そう。


 魔王継承の儀。通称――『デモンチョイス』。

 次代の王が、遂に決まろうとしていた。

 

火事場の馬鹿力云々の話ですが、諸説あるようです。とりあえず、通常は三十パーセント、という事にしておきました。

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