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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第一章 最弱の行く道
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天使の叫び

「どれだけ人間と交わろうと、やはり魔王の血は魔王の血か……凄まじい力を感じるな」


 眼前に立つ黒き獣を見つめながら、赤髪の魔族は呟いた。しかし、彼にとってそんなことはどうでもいい。今自分がやるべきことは、この怒り狂う小さな魔王後継者を魔界へ連れ帰ること。その大義を果たすため、赤髪の魔族は身構えた。


「許さねえ……絶対に」

「なんだ、ちゃんと話せるのか。どちらにしても、暫く眠っていてもらうが」

「そんなことどうでもいい!! お前には聞きたいことが山ほどある。一つ目の質問だ。何故……何故父さんと母さんを殺した!! 答えろ!」


 叫びながら、アレンは飛び掛かった。右手で拳を作り、魔族の鳩尾へ向かい振り抜く。自分でも驚くほどのスピードで突き出された拳だったが、魔族の身体能力から見ればそれでも遅いのだろう。容易に受け止められた。そのまま背負い投げの要領で魔族の後方に飛ばされたが、すぐに体勢を立て直し再び殴りかかる。

 その拳をまた受け止め、アレンとの距離がゼロになった所で魔族は話し始めた。


「そう言えば名前を名乗ってなかったな。俺の名はダウトだ。それでは質問に付いてだが、簡単だ。あの二人は魔族と人間の禁忌に触れたからだ」

「禁忌だと……」

「ああ。あの二人は魔族と人間の最大の禁忌である、『魔王と人間の混血』……つまりお前を産み落とした。本来なら即死刑の重罪だが、奴らはこの村でその眼を逃れた。今この瞬間までな」

「待て……魔王と人間の混血だと……? それって……まさか」


 途轍もなく嫌な予感が、アレンの脳裏をよぎった。

 直後にダウトが発した言葉が、それを現実だと伝える。


「ああ、そのまさかだ。お前だよ。簡単に言ってやろう。お前は魔王の血を五百十二分の一引いた、第百八代魔王後継者候補だ」


 空いた口が塞がらない、というのは今のようなことを言うのだろう。無理もない。もしも、目の前の、拳を受け止めている魔族の言ったことを鵜呑みにすれば、自分のひいひいひいひいひいひいひいお爺ちゃん、もしくはお婆ちゃんが魔王であり、自らもその忌まわしき血を僅かながら引いているということなのだから。

 ――有り得ない、そう一蹴するのも可能だが、鏡に映った自分の姿を見てそれを言うことが出来るのだろうか。 

 答えは否だ。黒い髪と目、牙のように尖った歯、尻の辺りから生える尻尾。どこからどう見ても学校で習った魔王の特徴そのものだ。

 

「納得したか? お前は魔王の資格を持っている。その黒い髪と目が動かぬ証拠だ。とはいっても、あくまで候補だが」


 ダウトの言葉が止めだった。アレンは力なくああ、とだけ呟き拳を下ろした。


「それで良い。魔王の血が覚醒したからには、人間界ここで暮らすことは出来ない。お前のいるべき場所は魔界だ。さあ、行くぞ」

「……ああ……」


 無言で一歩を踏み出す。闘争心の消散と共に髪は金に目は銀色に戻り、歯も元の長さに戻った。尻尾は戻らないようだが、そんなこと気にすることが出来る状態ではなかった。自分は一体何者なのか、その問いが渦巻いては『魔王』と言う答えが返ってくる。その無慈悲な答えはアレンの視界を段々、ゆっくりと暗く深く染めていく――


「アレン!」


 ――事はなかった。一つのアレンを呼ぶ声が、絶望を打ち砕き視界を照らしたのだ。


「……リー……シャ……?」


 アレンを呼ぶ声の主は、いつの間にか玄関の前に現れていた。純白の白髪と煌めく金の目を持つ少女。不安げな表情を見せ、怯えていることは一目瞭然だが、その声は確かにアレンを救い出していた。


「リーシャ……どこから聞いてた?」

「アレンが……魔王だってとこから……だけ、ど」


 震えた声で、ささやくほどに小さかったが、確かに聞き取れた。彼女が自分を恐れているか否か、それは分からないが、それは関係ない事だろう。

 魔王の血を引く者が、人間界で暮らすことは出来ない。当然だ。だからこそ、拒絶し、突き放す。


「リーシャ、俺はここから出ていく。どうなるかは分からねえけど、心配すんな。……つっても、俺みたいのは出て行った方が、この村にもお前にも都合が良い……」

「ふざけないで!!」


 リーシャの叫びはアレンの拒絶の言葉を中断させた。既に少女の眼尻には既に雫が溜まっており、今にも落ちてきそうだがそれを必死で耐えながら、続きを叫ぶ。


「アレンが魔王だろうとなんだろうと……そんなこと関係ない!! アレンはあたしの、たった一人のヒーローなんだから……だからお願い。ここに居て……じゃないとまた殴るわよ!!」


 言い終わると同時に限界が来たのか、リーシャは等々泣き崩れた。涙が落ち、床に痕を付ける。それを見つめているアレンは一つの感情を抱いた。

 それは怒り、両親を殺された時のような憎しみからの物ではなく、ただ純粋な怒り。目の前の少女を泣かせた愚かな己への怒り。


 ――自分のために涙を流す人がいるのに、俺は何寝ぼけたこと言ってんだ。そうだ、俺はここに居たい。俺のいるべき場所はここだ。それなら……まだ……


「諦めるわけには行かねえよな……」


 ギリ、と歯を食いしばりダウトを睨みあげる。闘う覚悟を決めたことで体が再び変化していく。今度はさっきよりも強く、魔王の血が脈動していく。体の中で暴れまわる魔王の血が何かを必死に訴えている。『力を開放しろ』と喚きたてる。脳内にそれが流れ込む。


「うるせえな……そんな必死に喚かなくても大丈夫っだっつーの」


 冷静に言いながら傍に落ちているフルーツナイフを左手に、工具用の金槌を右手に持つ。準備は整った。後は脳に煩く響く言葉スペルを唱えるだけ。


「《万物一体化ユニゾン》」

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