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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第一章 最弱の行く道
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勇者覚醒

 結論から述べると、アレンは二年の歳月を重ね、ようやく二万枚のコインを奪うことに成功した。

 勝負をしては勝ったりギブアップしたり勝ったり……を長々と繰り返しやっとの思いで試練を突破した。敵の実力は、常にアレンの一歩上を行くように設定されており、成長期という事も合わさってアレンの体は目覚ましいほどの進化を遂げている。

 さらに、無駄に知識を持ち合わせる、ラスクの下で魔法の修業をすることにより召喚魔法の応用技まで身に着けることにも成功。少なくとも、二年前のハーデスはとうに超えているレベルに行き着いた。

 そして忘れてはならないのが、試練クリアの報酬――質問タイムだ。


「さて、そんじゃ試練突破のご褒美として、一つだけ質問を許してやるぞ」

「……そういやそんな話だったか。じゃあ……」


 アレンは幾つか聞きたいことをピックアップした。その中から、一番重要であろうものをチョイスする。


「俺の故郷。あの村について、教えてくれ。婆さんが作った……あれはどういう意味だ?」

「……それか。ええぞ。まずは、あたしゃの一人娘『ショコラ』のことから話すとするかのう」


 ラスクが指を鳴らした。すると、周りの景色が移り変わる。既に何百とみてきた光景だ。現れた景色は数十個の言うが並べられた薄暗い空間。前方には巨大なモニターがある。

 

「何だこれ?」

「シアターとか言ってたかの。人間界の科学国家ニュートでは一般的な娯楽らしいぞ。ま、とにかく座れ。詳しいことはみればわかる」


 促され、アレンは手頃な席に腰を下ろした。電気が完全になくなったかと思うと、モニターに『魔映』という文字が派手なロゴとともに映った。しばらくそれを映したかと思うと、突然ぱっと画面が切り替わった。

 そこに映ったのは手作り感あふれる、独特なタッチで描かれた女のキャラクターと男のキャラクター。


『むかーしむかしあるところに、それはそれはうつくしい、もうつきすらもこうべをたれてしまうようにきれいなまおうと、にんげんのおとこがいました』

「……うわぁ」


 アレンは思わず、声の主に目を向けた。ひらがなで書かれた字幕はまだいいが、ナレーションを自分で、それも自らを賛美する言葉を恥ずかしげもなく述べたからだ。ちなみに、当の本人はしてやったり、といった表情で画面に目を向けている。


『ふたりはやがてこいにおちましたが、かなしいことににんげんとまぞくです。それはゆるされざるこいなのです。それでも、ふたりはしゅういのはんたいをおしきり、ひとりのこどもをみごもりました。しょこら、となづけられたかわいいかわいいむすめは、すくすくとそだちました』


 成長したショコラと思しきキャラクターが、アップで映る。同時に、暗雲が立ち昇り音楽も暗い物へチェンジされた。


『しかし、いかにまおうのちをひくとはいえ、かのじょはにんげんとまぞくのあいだにうまれたきんきのそんざい。はくがいをうけることになってしまったのです。みかねたびじんのまおうはしょこらをにんげんかいへにがし、とあるむらをつくってそこにすまわせることにしました』


 アレンが片方の眉を上げた。ここで村が出てくるのか。


『むらのひとたちはやさしく、まぞくだとかにんげんだとか、そんなことをきにしないひとたちでした。しょこらはそのむらのあるにんげんとこいにおち、こをつくりましたとさ。めでたしめでたし』


 画面が黒くなり、室内の照明がともる。ラスクが席を立ち、アレンに話しかける。


「ま、こいうことじゃ。わかったかの」

「まあ、なんとなく。なんであの年になるまで……というより、どうやって百数十年も誤魔化してきたのか、と思ってたけど、婆さんのおかげだったのか。あんたが、情報を隠蔽してくれてたんだな。俺が候補者になっちゃったから、居場所がばれたけど」

「きにせんでも大丈夫じゃぞ。いつかそうなると思って、ここを作ったんじゃからな。セバスちゃんに修行を付ける様にも……」

「え?」

「おおっと、これは内緒じゃ。今のは聞かなかったことにしてくれな。聞きたければ次の試練をクリアすることじゃ」


 景色が元に戻った。ラスクは去り際に告げた。


「明日から始めるからな。今日は自由時間にするぞ。休んでもええし、鍛えてもええし……ま、好きにするんじゃな」


 背中を向けるラスクを見送って、アレンはどうしようかと考えた。疲れがないわけではないが、どうしても休まねば、というほどではない。かといって、一人で修業するのも少々口寂しい。

 ならば、あの時のリベンジと行くのはどうだろう。そう――ドラゴンを呼び出す。

 アレンは詠唱を開始した。あの時とは違う。本当の名前、真名で呼ばれ百パーセントの力を引き出されたドラゴンには勝てないかもしれないが、偽りの名で呼び出す――力をセーブしてあるドラゴンが相手ならばやれるはずだ。


「出でよ、ドラゴン!!」


 いつものように、地面に手を付く。銀色の体を持つ龍が現れる。

 しかし。

 それはいつものドラゴンではなかった。


「き、貴様……いつまで待たせる気だ。我の純潔を奪って……」

「えっと。どうした? いつもなら、ここで襲ってくるのに……」

「黙れ! 仕方が無い。話しやすいように、姿を戻してやる」


 ドラゴンはその体をどんどん小さくしていった。アレンの背丈よりもさらに小さく――百二十センチぐらいまで小さくなり、格好も変える。

 アレンは目を見開いた。なぜなら、そこにいたのは――


「う……そ……だろ?」

「うるさい。この強姦魔が」


 赤い眼、長い銀髪が目を引く――右に少し出ている牙がキュートな美少女だったのだから。










 同じころ、人間界はニュートで、アレンとラスクが映画を見ていた場所と同じような場所に一人の人影があった。何者かは画面に目を向け、無表情で視界に流れる映像を脳へ流し込む。

 鑑賞者の名はリーシャ。魔王と対を成す、勇者の責務を背負わされた少女だ。彼女は無表情で眼の前の映像を見ているが、その内容は常人が見て耐えられるものではない。

 魔族が人間を殺し、拷問をし続ける。

 リーシャの目の前にあるモニターは、それのみを延々と、一日中流し続ける。大音量で響き渡る悲鳴、呻き声、命乞い、鳴き声、断末魔。演技では出せない、本物だと認識せざるを得ない何かが、これは現実だと訴えかける。

 この空間は常軌を逸しており、常人ならば一日で廃人と化してしまうだろう。むしろ、そうなってしまった方が楽かもしれない。しかし、リーシャの、勇者として潜在的に持っている希望が、それを食い止める。


 希望とは、時に絶望よりも残酷だ。


 いつだったか、ここに来た誰かがそんなことを口走っていた。ギイ、と錆びた音がして、扉が開かれた。リーシャがそちらに目を向ける。男が入ってくる。

 ――そうだ。あの男が言っていたんだ。そして、あの男があたしをここへ閉じ込めた。

 男が口を開く。


「自分で作っといてなんだが、相変わらず悪趣味な映画だ。俺でも、一ヶ月で廃人になれる自信があるな。全く、覇王もえげつねぇこと考える」

 

 男――ニュートの王ラジニアはリーシャの方に手を付き話しかける。


「感情はほぼ消えかかってるみてえだな。ま、意識があるだけでも凄いが。さすがは勇者様ってところかな。ヒヒヒ。なあ……」

「……何?」

「お前が気にかけてる、アレンだっけ? 言うの忘れてたけど、あいつの魔力反応がな、二年前から消えてんだわ」


 リーシャは僅かに目を細めた。


「……嘘よ」

「言いにくいんだが、死んでんじゃねえかな。そいつ。少なくとも、この世界にはいねえ」

「……黙って……!」


 瞬間、リーシャを中心として途轍もないプレッシャーが放たれた。モニターが壊れ、壁にひびが入る。アレンという最後の希望が揺らぐことで、勇者の力が覚醒しようとする。

 もうひと押し。そろそろ、最後のカードを切る頃合いだ。


「モニター壊れちまったな。まあ、俺の持ってる小型モニター使えばいいか。勇者様、これを見てくれ」


 そこに流れているのは、正にアレンの殺される瞬間だった。無論、これは本物ではない。だが、ニュート中の科学力を結集してつくられた限りなく実写に近いアニメーションだ。

 よくよく見れば、分かるだろう。だが、リーシャにそれは不可能だった。四年間も見せられたあの映像のせいで、魔界なら殺しは日常茶飯事。そう脳内にインプットされているからだ。

 結果として、最後の希望が断たれた。


「……四年間。勇者とはいえ、か弱い少女の希望を摘み取るには十分すぎる時間だ。勇者の覚醒条件、完全なる絶望は達成された。魔族を滅ぼすためには、甘さや慈悲なんてもんは邪魔にしかならねえ。感情の無い、傀儡にならなければならないんだ」


 ラジニアはとある包みを取り出した。布をめくっていき、中にあるネックレスを手に取る。ちょうど胸にあたりに金色の十字架がくるようになっている。

 そのネックレスを、リーシャの首にかけてやる。


「こいつには、歴代勇者の力と、記憶が込められている。闘い方の云々なんかは……全部そいつが教えてくれるだろう」


 そう言い、ラジニアは部屋を出て行った。携帯電話を手に取り、カガリの下へ繋ぐ。


『誰だ……』

「ラジニアだ。勇者の覚醒に成功した。これで、もう引き返せねえぞ」

『分かっている。だが、これで戦争は俺達の勝ちが決まったようなものだ』

「幼い少女一人を犠牲にしてな」


 少し間を置き、カガリが返す。


『戦地への投入にはどれぐらいかかる』

「二年ぐらいだろうな。そんだけありゃあお前を超えることも可能だ」

『了解だ。切るぞ』


 電話が切れ、ツーツーという音が聞こえる。ラジニアは右手をおろし、呟いた。


「俺が生きてるうちに、決着がつきそうだな。全く、世界は何を急いでいるのか」


 ――それとも、急いでいるのは『神』だったりするのか? だとすれば――


「科学者の立場から見て、非常に面白い」  

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