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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第一章 最弱の行く道
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ポーカー

 第百六代魔王ラスク。

 『策略』の魔王と呼ばれ、主に魔界内での経済の利潤や、人間界との和平に奔走した、歴代魔王の中でも五本の指に入る穏健派である。

 また、ラスクの武勇として、魔王就任期間中は人間との戦争や、それに準ずるものが無かったことがあげられる。このことから『平和』の魔王と呼ばれることもある。

 あくまで表面上は、だが。

 上にあげた功績は全て臣下たちの努力の功績であり、ラスク自身はほとんど何もやっていない。魔王になることが出来たのも、不幸な事故により目ぼしい強者が全て消えたからで、このことは周知の事実になっていた。 

 また、性別や能力など自らのあらゆる情報を隠し、徹底的に引き籠ったこともあり、そのことから当時の魔族たちは彼女を揶揄してこう呼んだ。


 ――『最弱』の魔王と。


「で、そんなあんたが俺の修行をバトンタッチすると?」

「そうじゃよ。子孫のためにあたしゃも頑張るからよろしく頼むでよ」

「なんだかなあ。そういやアレクサンダーのおっさんも血は争えない、とか言ってたけど、こういう事だったのか。……婆さん、質問しても大丈夫か」

「ダメじゃ」


 否定の言葉に、アレンは訝しむ表情をした。「何で」と返し、ラスクの返事を待つ。


「お前にはこれから三つのカリキュラムをこなしてもらうが、それをクリアする度に一つだけ質問を許す」

「……つまり、三つに絞れと?」


 ラスクは笑って肯定した。ため息を一つ吐き、アレンは立ち上がった。


「それじゃあ、さっさと始めようぜ。まずは何をするんだ」

「うむ。そうじゃな」


 そう言うと、突然景色が一変した。周りを壁に覆われたコロシアムのような場所で、端っこの方に二個の台が設置されている。


「……な、何をやったんだ!?」

「ここはあたしゃの創った世界だからね。何もかも思いのままさ。余談じゃが、あたしゃを若いころの姿にすることもできる」 


 ラスクが怪しく笑うと、姿が変わり、そこには短めの黒髪がよく似合う絶世の美女がたたずんでいた。空いた口が塞がらない、といった感じで呆然とするアレンを前に、若いラスクは話しかけた。


「ちとルールは変えるが……ポーカーをしてもらおうかの」

「……ポーカー? トランプの?」


 何とか平静を取り戻したアレンの言葉に、ラスクは頷き、ルールの説明を始めた。


「基本的なルールは普通のポーカーと同じじゃ。但し、このポーカーは運ではなく実力で『二万枚』のコインを奪い合う。それぞれの組み合わせにはメリットとデメリットが付いており、普通のゲームに勝った方がメリットを、負けた方はデメリットを背負い……殺し合いをしてもらう」

「殺し合い?」

「うむ。先に相手を殺せば、カードの組み合わせ関係なく賭けたコインを奪うことが出来る。ちなみに相手は……こやつらじゃ」


 パチンと指を鳴らす。すると、奥の方にある扉が開かれ、無数の人が出てきた。思わず一瞬たじろいだアレンだが、よく観察すると全員が同じ格好、同じ容姿を持っているらしい。

 いやそんなことは些細な問題だ。よく見ると、もっととんでもない事がある。


「髪が白で肌がちょっと黒いだけで……俺と同じ顔じゃねえか。シュールすぎるだろ」

「あれの数は無限。強さは調節可能で、最高はあたしゃの強さと同じじゃ。ギブアップはありじゃがその場合、賭けたコインは全て向こうに渡るぞ。ちなみに、ジョーカーはありにしとくからの。とりあえず今日は一勝負だけにしとくから。ま、頑張れよアレン」


 そう言うと、ラスクは姿を元に戻し観客席へ瞬間移動した。アレンは考えた。この修行の目的を。第一は、戦闘経験を積ませることだろう。それも、自らと平衡した実力者との。

 何だかんだ、経験というものは最高の武器になる。知識や格下との戦闘だけでは、どうしても補えないものを習得することが出来るのだから。

 加えて、一日に何戦もするのなら、持久力を付ける修行にもなる。


「最弱の魔王とはいっても、ただの無能じゃねえってことか」


 言いながら、アレンは自分の台へ向かい歩き出した。相手は既にカードも引き終わっているので、アレンがカードを引くと同時にスタートだ。

 アレンは台を覗き込んだ。右上にトランプが置かれていて、残りの部分にはモニターが埋め込まれており、所持しているコインの枚数、勝負する意思を伝えるためのBATTLEの文字、ノーペアやフラッシュなどの組み合わせの一覧とメリットデメリットが映し出されている。


「さーて。ゲームスタートだ」


 アレンは五枚のカードを引いた。ハートの4,6,8とクローバーのA,10だ。さてどうしよう、と考える。ポーカーの戦略なんて知らないので完全に運に頼るしかないが、問題は何枚捨てるかだ。

 悩んだ末、スペードの二枚を破棄する。あわよくばストレートフラッシュかフラッシュを狙いたいと思ってのことだ。が、そうも上手くは行かない。出たのはクローバーとハートのジャックだった。

 ワンペア。勝ちの可能性は低いかもしれない。控えめに、一枚だけベット、BATTLEの文字をタッチし、勝負する。

 モニターが切り替わり互いのカードが並べられた。相手のカードはスペードとハートの二枚のキング、そしてダイヤとスペードの二枚のA.加えてジョーカーが一枚。

 フルハウス。アレンは思わず舌打ちした。メリットとデメリットは、組み合わせが強いほど強大になっていた。つまり、ワンペアな分デメリットも小さいが、向こうはかなり強力な恩恵を受けることになる。

 その時、アレンの体が重りを付けられたように重くなった。これがワンペアのデメリット、重力増加だ。


「っぐ……しゃあねえ。こうなりゃフル装備だ。七つ道具全部使うか」

 

 アレンは懐からすべての道具をばら撒いた。すかさずすべてと一体化し、トランスする。既に相手は待ち構えている。アレンも前に進み出た。


「行くぞっ!!」


 吠えて、走り出す。右手を振りかぶり、拳を繰り出す。この世で最も重いと言われる物質。人間界の極東、アカツキで産み出される伝説の金属――ヒヒイロカネと一体化した右腕から繰り出される攻撃は、岩をも容易く砕く。

 しかし、スピードが幾分足りない。偽アレンはひょいと避けると、お返しにボディブローを見舞ってきた。通常の状態なら躱すことが出来たであろうが、体が重くなっている今の状況では反応がどうしても遅れる。アレンはその攻撃を受けることになってしまった。


「チッ。フルハウス勝利時のメリット――攻撃力の三倍増加か。厄介な」 


 後方に吹き飛んだアレンはそう悪態をついた。自ら背後へ飛ぶことでダメージを僅かに軽減したが、それにしたって重すぎる一撃だ。恐らく、向こうは今の自分より僅かに強く設定されている。

 勝つためには、闘いの中で成長するしかない。

 暗にそう言っているのが分かる。まるで赤ちゃんの成長を見守る母親じゃないか。だからこそ、ギブアップはしたくないし、そんな選択肢はあり得ない。

 アレンは前を見据えた。偽物も同じように、こちらの動きをうかがっているようだ。ならば、先に仕掛けるまで。バネの力を宿した右足を、限界まで縮ませる。次いで、ナイフと化した左手を構える。準備は整った。

 一気に右足の力を解放し、すれ違いざまに左手を一閃。偽アレンは予想をはるかに超える速さで飛来したアレンに反応できず、首を刎ねられた。血は出ず、その体が倒れると共に何もなかったかのように消滅した。

 偽アレンが反応できなかった理由は単純明快。デメリットだった重力増加を逆手に取り、バネの弾みを増したことで偽物が避けれないスピードを出すことに成功したのだ。

 観客席のラスクへ向かって言う。


「終わったぜ、婆さん」

「うむ。今日はこれで終わりじゃが、明日からは毎日十試合してもらうからの。一日百枚稼ぐとしても、百日。空いた時間は魔法なんかの修行に当てるから、くれぐれも死なんようにな」

「……今のと同じようなのを一日十回? 飛んだスパルタだな……」


 この日より、アレンの地獄の修行生活が始まった。 

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