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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第一章 最弱の行く道
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最高議会

「いい、アレン君。魔王なんて大層な役職に就こうって言うんなら、女性の扱い方ぐらい嗜んでおかないと。偉大なる魔王様に女の一人もいないなんて、尊厳にかかわるわ。力だけじゃあ、王は務まらないの。気品と知能、そしてリーダーシップが重要なのよ。それに……」

「はい……すいません。反省してます」


 かれこれ数十分は続いている説教に、正座で聞いているアレンはさらに縮こまった。唯一の助け舟であるセバスをちらりと見るが、優雅にティータイムに入っているようだし頼りにもならない。

 いったい、このお説教はいつまで続くのか。そもそも、なぜ彼女は一度も休憩せずに、こう長々と喋っていられるのか。そして、なぜ従えたはずなのに、自分はこうまで言われなければならない。


「……立場が逆だよなあ」

「何か仰いました? ご主人様?」

「いえ何でもございません!」


 表情こそ魅惑的なスマイルだが、発するオーラは殺すためのそれだ。恐怖に慄くアレンだが、知ってか知らずかメリウスはさらに続ける。


「大体、常識が欠けてる。いきなりレディーの首根っこを掴んで……その……が、合体する殿方が何処に居るってのよ!」

「恥ずかしそうに言ってんじゃねえよ! 別にやましい気が有ったって訳じゃあ」

「お黙り! 男が言い訳しない。貴方にどんな気があろうかなかろうか、関係ないの。尊重されるのは、いつだって被害者の心境よ」

「命が掛かった闘いしてるってのに、被害者も何もあるか!」


 アレンは立ち上がった。が、すぐによろけ膝をついた。無理もない。メリウスの力で傷は癒えたが、依然血は失ったままなのだ。むしろ、貧血状態で数十分も正座している方が異常だ。

 さすがにこれ以上ふざけるのはまずいか。そう思い立ったメリウスは、顔を近づけると話を締めはじめた。


「とにかく、今日はこれで帰るけど、あたしの力が必要になったら、右手に刻まれた魔法陣に血と魔力を流して、頭に思い浮かぶ呪文を唱えて。出来る限りの力を貸してあげるわ」

「……ああ。分かっ……」


 そこまで言って、アレンは気を失った。それと同時に、魔力供給が断たれたメリウスも姿をかき消した。セバスが気を配っているので、魔獣が襲いかかってくる、という事はないが些か不用心すぎる。

 やはり、まだまだ教えねばならないことが有り余っている。


「……しかし。まさか本当に契約を成してしまうとは。相変わらず末恐ろしい……」


 その口調とは裏腹に、彼の顔には笑みが浮かんでいた。











 場所は変わり、人間界最大の国――覇王国『トランザム』。そこにある王城のとある一室にて、人間界の最高権力者、詰まる所、五大国の王が集結していた。

 それなりに広く、殺風景な部屋にぽつんと存在している円卓を、囲むように五人が座っている。その中の一人、老化による白髪混じりの髪を持つ老人――武装国家『バーレン』が王、武王ゴルバストは口を開いた。


「さて、これで全員そろったわけだし、そろそろ話してもらおうかのう。わざわざ我らに強制召集の命を下してまで、しなければならん話題はなんじゃ?」


 玉座に深く腰掛け腕組みをしている青年――人間界の若きトップ、未だにほんのわずかなあどけなさを感じさせる、覇王カガリは、ゆっくりと瞑っていた鋭い眼を開き、答えた。


「今日、手前らに話しておくことは一つ。……『勇者』についてだ」

「勇者……でございますか? それはつまり、裏を返せば大きな戦が近づいている、ということでよろしいですか」

 

 すぐさま返したのは、浅黒い肌に坊主頭、という容貌の二十代後半の男。名をグスタフといい、宗教国家『ブリンド』を収める僧王だ。その柔らかな物腰から放たれる言葉は、国民の心を打ち、人を引き寄せるカリスマ性においてはこの場の五人の中でも随一であろう。

 カガリは返した。 


「そうとってもらっても構わない。はっきり言おう。これは非常事態だ。次代の魔王が決まる時期も近付いてる。……この先、六、七年の内になにかどでかいことが起きるのは明白だ。覚悟はしておけ」


 その言葉に、室内の雰囲気が静まり返った。唯一人を除いて。


「ヒヒヒ……そんなことよりもだ。勇者に合うことは可能なのか? 覇王さんよ。ぜひとも研究させてもらいたいんだが」


 血走った眼、薄汚れた白衣、ぼさぼさの髪。おおよそこの場に相応しくない彼だが、その名目は科学国家『ニュート』の機械王ラジニア。

 キレさせたら厄介。全国民からそう思われるほどの問題児でもある。故に、彼の言葉を冗談とは受け取れない。一々釘を刺しておく必要がある。


「……やるなよ」

「ヒッハッ! そんな怖い眼で睨まないでくれよ。冗談だって。……今はな」


 グスタフがため息を吐き、カガリが舌打ちをした。


「ったく。後はだ……このガキをどうするか、だな」


 呟き、カガリは右を見た。そこには静かに、規則正しい寝息を立てる少女。机に伏して眠っており、水色の長い髪が広がっている。

 「起きろ」の言葉と共に鉄拳を落としてやる。が、事前に魔力のバリアーを張っているらしく、当たることはなかった。瞬間、プチッと、カガリの中で何かが切れた。

 

「このガキャあ……小癪な真似を」


 拳を構え、覇動を集中させる。強化魔導、《ブースト》を右腕のみに一点特化させる。


「さっさと……起きろこのバカが!!」


 怒号と共に振り落とす。途端にバリアーは砕け散り、少女の頭には大きなたんこぶが出来上がった。


「いっっっっったああぁぁい!! なになに? 地震? 雷? 火事? それともオヤジ?! ……あ、カガリじゃん!」

「……もう一発いっとくか?」

「なに怒ってんの? カルシウムが足りてないんじゃない。そうだきっとそうだ。だから背も小さいん……」


 カガリの追撃が加わった。あまりの苦痛に、少女が頭を加えてうずくまった。


「俺はチビじゃねえ……他の奴らが少し大きくなりすぎてるだけだ」

「う~。それを世間一般ではチビって言うの!」

「――手前みたいなチビに、チビって言われる筋合いはねえぞ!」


 一触即発といった状況で、待ったが入った。グスタフだ。二人の間に入り、持ち前の話術で言いくるめる。


「どちらもこれから成長期で大きくなります。それ以前に、大事な議会で寝るフウカも悪いし、直ぐに暴力で解決しようとするカガリもカガリです。早く謝りなさい」

「断る!」

「べーだ!」

 

 グスタフはふっと息を吐いた。そして、慈悲深い微笑みを作ると、その表情とは真逆の己の特異な能力を言葉に乗せ言った。


「……悪いことは言いませんから、早く謝れ」

「――っ! ……っち。悪かったよ」

「ご、ごめんなさい!」


 二人の謝罪は紛れもなくグスタフへ向けられていた。自分に言われても困るのだが、とは考えつつもグスタフはその場を離れた。自分の席に戻ると、すぐにラジニアの茶々が入った。


「すっかり教育係が板についたな。あの小さすぎる覇王と魔導王を叱ることが出来るのは、どこを探してもお前しかいないぞ」

「こんなこと、慣れたくもありません。それにしても、前魔導王は何故彼女のような子供に王位を継承したのでしょうか」

「ヒヒ、そりゃあ、あいつ以外の候補者を思い出せばわかるだろう」

「……まあ、確かに」


 グスタフは、魔導国家『ヘレン』の王族たちを思い浮かべた。魔導の才能が微塵もない長男、頭の悪すぎる次男、才能はあるが過激すぎる故に身を滅ぼしてしまった三男、男好きで何処かの魔族と恋に落ち行方をくらました長女。

 結果、ヘレンの重鎮たちが悩み抜いた末に選んだのが、当時まだ六歳だったフウカだったのだ。


「いくら魔導王と言ったって、まだ十歳です。カガリにしたって幼すぎる。つい先日にようやく元服を迎えたばかりだというのに」

「まあ、このご時世だ。贅沢は言ってられんさ。それに、ヒヒヒ……もう何年もすりゃあ、あの二人は俺等を軽く凌駕するほどの力を持つようになるだろうよ。なあ、武王のじいさん」

「……ああ。儂の七十年の記憶からしても、あの才能は異常じゃ。勇者の出現から考えて、魔界あちらにもとんでもない神童がいることは容易に想像できる……」


 ゴルバストは目を細め、今までの説明をし、されている二人を見つめた。

 やがて、フウカへの状況説明が終わったのか、席に着き気を取り直すように咳払いを一つして、カガリがまとめた。


「人間と魔族。近いうちに、白黒つくぞ。その時まで、各自力を付け、戦の準備を整えておくように。最後に、覇王の名のもとに命ず。必ずや魔族を滅ぼせ! 勝つのは我ら人間だ!」

 

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