狩場
油断していた。
都市部であんなに濃い霧が出るはずがない。
しかも、あんなふうに唐突に。
気づいたときには遅かった。
霧を抜けた先は行き止まり。
――袋のネズミ。
高架下。
壊れた道路。
フェンス。
逃げ道がないことだけは、一目で分かった。
狩場は管理されていた。
フェンスで囲われ、逃げ道は意図的に潰されている。
足場は悪く、遮蔽物は少ない。
遠距離と近接、どちらにも中途半端。
「……闘技場だな」
健人が吐き捨てる。
「人間用の、ね」
俺はライフルを構えたまま、周囲を見る。
フェンスの外には、武器を持った男たち。
数は十数人。得物から見るに、多くは戦士か狩人だろう。
「歓迎しよう」
中央に立つ男が両手を広げた。
「ここは狩場だ。選ばれた獲物だけが入れる」
「趣味が悪い」
俺が言うと、男は笑った。
「そうでもない。世界が終わってからは効率ってのが大事になってな」
男の背後。
瓦礫の影が動いた。
獣の見た目をしたモンスター。大型。筋肉質。人型をしていないモンスターには厄介なやつが多い。
血に飢えた目だ。すでに何度も人を殺しているのだろう。
「なるほど」
真白が静かに言う。
「このモンスターを、私たちにぶつけるんだ」
「その通り」
男は頷く。
「お前ら、見たところ悪くない。戦える。だから――価値がある」
「……何の価値だ」
健人が一歩前に出る。
「データと、素材だ」
男は即答した。
「俺たちが勝てば?」
「そのモンスターは不適格だったってことになる」
男は肩をすくめた。
「ここではそういう扱いだ。弱いモンスターは、残す意味がない」
「じゃあ」
真白の声が冷たくなる。
「私たちが負けたら?」
男は、少しだけ楽しそうに笑った。
「最大で、四体だな」
背筋が冷える。
「元からいるこいつが一体。それから――お前ら三人」
「……人は、モンスターに殺されるとモンスターになる」
俺が呟くと、男は満足そうに頷いた。
「そうだ。しかも、強い人間ほどいいモンスターになる」
「つまり」
健人が歯を食いしばる。
「俺たちは餌でもあり、試験官でもあるってことかよ」
「合理的だろ?」
男は言った。
「勝てば補充。負ければ選別。どっちでも無駄がない」
男の合図と同時にフェンスが開く。
モンスターが走った。
戦闘は苛烈だった。
俺は距離を取り、狙撃。
健人は正面から引きつける。
真白の魔法が足を凍らせる。
連携は、旅の中で磨かれていた。
だが、モンスターも強い。
爪が健人の腕を裂き、咆哮が空気を震わせる。
少しでも均衡が崩れればたちまち喰われるだろう。
「――今だ!」
俺の弾丸が、目を撃ち抜く。
真白の氷が動きを止める。
健人の一撃が頭を砕き、モンスターは崩れ落ちた。
沈黙。全員息も絶え絶えだ。今から周りを囲んでいる奴らを殺すのは無理かもしれない。
「……残念だったな」
俺はフェンスの外を睨みつけた。
「あぁ、残念。不適格だ」
男たちの空気が、一瞬変わる。
失望。
そして――苛立ち。
「だが」
中央の男がゆっくりと言う。
「お前らのことは、よく分かった」
「何がだ」
「強い」
ここは狩場だ。
だが、狩られているのはモンスターだけじゃない。
人間もだ。
「次は」
男は言った。
「もっといい獲物を用意しよう。あるいは――」
視線が俺たちに向く。
「お前らが、育つのを待つか」
男たちが去っても、俺はしばらくの間ライフルを下ろさなかった。
この世界では生き残ること自体が、
次の戦いへの参加資格なのだから。




