灯りがある場所
その場所には、夜でも灯りがあった。
山道を下りきった先、川沿いに並ぶいくつかの家屋。
小さな集落だったが、暗闇の中でぽつぽつと橙色の光が揺れている。
「……罠じゃないよな」
健人が警戒する。
「人の気配はあるけど、変な緊張はない」
俺はスコープを覗いたが、モンスターの反応はなかった。
近づくと、誰かが手を振ってきた。
「旅人さん? 今日は泊まっていくかい」
出てきたのは、年配の女性だった。
手にはランタン。背中には、薪の束。
「警戒しないんですか?」
真白が思わず聞く。
女性は笑った。
「まだ子供じゃあないか」
集落は十数人ほどの小さな共同体だった。
武器はある。
だが、誇示されていない。
壁に掛けられた斧や猟銃は、あくまで“道具”だった。
「私たちは、戦う人と戦わない人を分けてるんだよ」
夕食の席で、集落の代表だという男が説明した。
「戦える人は外を見張る」
「戦えない人は畑を耕す」
「職業で?」
健人が聞く。
「いや」
男は首を振る。
「できるかどうか、だ」
それだけ。
魔法使いだとか、戦士だとか、そんな言葉は出てこなかった。
夜、見張りに出ることになった。
俺と、集落の若い男が並ぶ。
「怖くないのか?」
俺が聞くと彼は肩をすくめた。
「怖いよ、でも誰かがやらないとね」
彼は“罠師”だった。
だが、それを誇らしげに語ることはなかった。
「ここでは、最初に決めたんだ」
「何を?」
「能力は使える道具の一つだって」
「使えなくなったら、別のことをすればいい」
風が、川面を揺らす。
遠くでモンスターの気配があったが、近づいては来なかった。
翌朝、集落を発つとき。
「これ、持っていきな」
年配の女性が干し肉を渡してくれた。
「また来ていいですか?」
真白が聞く。
「もちろん」
女性は頷いた。
「灯りは消さないから」
歩き出してしばらくしてから健人が言った。
「……ああいう場所が増えればいいのにな」
「増えないから」
俺は答える。
「貴重なんだ」
真白が、少し笑った。
「でも、なくならない気がする」
世界は終わった。
それでも、人は人をやめていない。
灯りのある場所は小さい。
けれど、確かに存在していた。
俺たちは歩く。
その灯りを覚えている限り。




