歓声の都市
遠くからでもその街は分かった。
夜なのに明るい。
ネオンが点き、音楽が鳴り、人の声が重なっている。
「……生きてるな」
健人がぽつりと言った。
街の入口には巨大なゲートがあり、電光掲示板が回っていた。
――本日のメインマッチ 19:00開始
――新人ハンター初陣! 勝率予想 62%
「……マッチ?」
俺が呟くと、真白が眉をひそめた。
「嫌な予感しかしない」
中に入ると、そこは完全に“都市”だった。
屋台が並び、酒が売られ、笑い声が飛び交う。
壁の大型スクリーンには、アリーナの映像が映っていた。
中央には円形の巨大な建造物。
闘技場だ。
「いらっしゃい! 観戦? 参加?」
声をかけてきたのは派手な服の男だった。
「……観戦かな」
そう答えると男は笑顔で頷く。
「いいね! 今日はいいカード揃ってるよ」 「魔法使い対大型種! あれは盛り上がる」
軽い。
あまりにも軽い。
俺たちは観客席に案内された。
周囲は家族連れも、恋人もいる。
子どもがポップコーンを食べている。
試合は派手だった。
火花が散り、魔法が炸裂し、モンスターが吠える。
観客は歓声を上げ、賭けが動く。
「倒せ!」 「いけるぞ!」 「噛まれちまえ!」
命のやり取りが演出になっていた。
「……これ」
健人が歯を食いしばる。
「おかしいだろ」
だが、この都市ではそれが日常だった。
モンスターは管理され、出場者は登録制。
死は「リスク」として契約に明記されている。
「ここでは」
案内役の男が誇らしげに言う。
「モンスター討伐は、仕事であり、スポーツであり、エンタメなんです」
「モンスターは、人だった」
真白が静かに言った。
男は肩をすくめた。
「昔の話でしょ?」
スタジアムの通路で、一人の少年に会った。
まだ十代半ば。
装備は新品の輝きを放ち、手が震えている。
「初陣?」
俺が聞くと、少年は頷いた。
「はい……」 「勝てばスポンサーがつくって」
彼は“狩人”だった。
「怖くないの?」
真白が聞く。
「……怖いです」 「でも、家族を養うにはこれしかなくて」
アナウンスが響く。
――次は新人ハンター、エントリー番号47番!
少年は震えながら意気込んだ。
「行ってきます」
試合は惨憺たるものだった。
力の差は歴然。
少年は善戦したが、最後はモンスターの長い触手に足を取られた。
観客は盛り上がる。
「まだいける!」 「逆転あるぞ!」
俺は立ち上がっていた。
「……やめろ」
健人も、真白も同じだった。
だが、試合は止まらない。
銃声。
俺のじゃない。
観客席にいたベテランとおぼしき男が、規定違反を承知で介入したのだ。
モンスターを撃ち抜く。
歓声とブーイング。
「ルール違反だ!」
ベテランは連行され、少年は担架で運ばれた。
生きているかどうかは分からない。
街を出るとき、背後で花火が上がった。
「次の試合が始まるみたいだね」
真白が言う。
「ああ」
俺は答える。
「今日のメインイベントらしい」
命が、娯楽になる街。
「なあ」
健人が言った。
「俺たちが戦うのも結局は同じか?」
「……違う」
俺は言った。
「少なくとも拍手はいらない」
歓声は、街に残る。
俺たちは歩く。
静かな世界へ。




